「日々の問い合わせ対応に追われて、本来やるべき企画業務に集中できない…」
「AIチャットボットを導入したいけど、開発の見積もりが高すぎて手が出ない…」
このような悩みを抱えるビジネスパーソンや企業担当者の方は、少なくないのではないでしょうか。
そんな中、大きな注目を集めているのが、AI開発プラットフォームの「Dify」です。一番の魅力は、プログラミングの知識がなくても、まるでブロックを組み合わせるような感覚で、自社の業務に合わせたAIアプリケーションを作れてしまうこと。
この記事では、「Difyって何ができるの?」「他のツールとどう違うの?」といった基本的な疑問から、具体的な使い方や料金プランまで、AI活用を検討する皆さんが本当に知りたい情報を、分かりやすく解説していきます。
Difyのキホン – まずはここだけ押さえよう
Difyって、そもそも何?
Difyは、米LangGenius社が開発した、誰でもAIアプリを開発できるオープンソースのプラットフォームです。その名前は「Define(定義する)」と「Modify(改良する)」を組み合わせた造語で、一度作って終わりではなく、使いながらどんどん賢くしていく、そんなコンセプトが込められています。Difyの読み方は「ディフィ」です。
簡単に言うと、「ノーコード」や「ローコード」と呼ばれる、専門知識がなくてもシステム開発ができるツールの一種です。これまで専門のエンジニアでなければ難しかった、ChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)を使ったアプリケーション開発を、現場の担当者が主導できるのが画期的な点です。
その注目度は非常に高く、関連書籍の発売やコミュニティの発生、YouTubeなどの動画やSNSでの情報発信は増えています。
基本機能は無料で利用でき、企業向けにセキュリティやサポートを強化した商用版も提供されています。日本では、2024年12月にリコー株式会社がLangGenius社との提携を発表し、本格的な企業導入のサポートを開始しました。
出典:リコー株式会社「生成AIアプリ開発プラットフォーム「Dify」開発元のLangGeniusとパートナー契約を締結」 2024年12月17日
AIワークフローツールとAIエージェントは何が違うの?
AIワークフローツールとAIエージェントは、どちらもAI技術を活用した自動化ソリューションですが、その動作原理と適用場面に違いがあります。
AIワークフローツールは、事前に定義された手順に従って処理を実行するシステムです。例えば「メールが届いたら内容を要約してSlackに通知する」といった、明確なトリガーと処理ステップが設定された自動化を得意とします。
一方、AIエージェントは目標を与えると、その達成方法を自ら考え、計画を立て、必要に応じて戦略を変更しながら自律的に行動するシステムです。「来月の売上を20%向上させる施策を検討して実行せよ」という抽象的な指示に対して、市場調査、競合分析、施策立案、実行まで一連のプロセスを自ら設計・実行できるものをさします。
他のAIワークフローツールと何が違うの?
Difyと他の代表的なAIワークフローツールn8nとZapierとの違いを、下の表で整理してみました。
項目 | Dify | n8n | Zapier |
---|---|---|---|
主要目的 | AI特化アプリ開発プラットフォーム | 汎用ワークフロー自動化ツール | ビジネス向け自動化サービス |
対象ユーザー | AI活用を検討する企業・非エンジニア | 技術者・エンジニア・中上級者 | ビジネスユーザー・非技術者 |
開発アプローチ | ノーコード(AI特化GUI) | ローコード(コード挿入可能) | ノーコード(設定ベース) |
AI機能 | ネイティブAI中心 ・RAG機能標準装備 ・複数LLM対応 ・AIエージェント構築 |
AI連携可能 ・外部AI API接続 ・カスタムAI処理 ・LLMルーティング |
基本的なAI連携 ・ChatGPT等主要AI対応 ・シンプルなAI自動化 ・テンプレート提供 |
ワークフロー複雑度 | 中〜高(AI判断含む) | 最高(無制限の柔軟性) | 中(条件分岐・マルチステップ) |
アプリ連携数 | 約500 | 1,000以上 | 7,000以上 |
カスタマイズ性 | 高(GUI制限内) | 最高(コード記述可能) | 中(設定範囲内) |
セルフホスト | ○(Enterprise版) | ○(完全対応) | ×(クラウドのみ) |
学習コスト | 低〜中 | 高 | 低 |
料金体系 | 無料〜$159/月 ・SANDBOX: 無料 ・PROFESSIONAL: $59/月 ・TEAM: $159/月 ・ENTERPRISE: 要相談 |
無料〜€50/月 ・セルフホスト: 無料 ・Starter: €20/月 ・Pro: €50/月 ・Enterprise: 要相談 |
$0〜$2,495/月 ・Free: $0(100タスク/月) ・Starter: $29.99/月 ・Professional: $73.50/月 ・Team: $103.50/月 ・Company: $2,495/月 |
課金方式 | メッセージ数ベース | 実行回数ベース | タスク数ベース |
エンタープライズ機能 | ○ 充実 ・SSO、監査ログ ・オンプレミス対応 ・企業向けサポート |
○ 対応 ・Git連携、SSO ・セルフホスト管理 ・DIY型セキュリティ |
○ 高度 ・完全マネージド ・企業向け管理機能 ・包括的サポート |
デバッグ機能 | ◎ 優秀 | ○ 基本的 | ○ 基本的 |
コミュニティ | 急成長中 | 活発 | 最大規模 |
この表からわかるように、DifyはAIアプリ開発に特化したツールです。n8nはコード記述が可能な分複雑で、Zapierはシンプルな分柔軟性にかけます。現状の目的と担当者のスキルも考慮してツールを選びましょう。
なぜ今、多くの企業がDifyを選ぶのか?4つの理由
Difyが注目される理由は、主に4つ考えられます。
非エンジニアでも扱える簡単な操作性
業務の流れを考えるのと同じように、画面上でブロックを繋いでいくだけでAIアプリを設計できます。これまでエンジニアに依頼していた開発プロセスを、業務を一番よく知る現場の担当者が自分で進められるようになります。
幅広い業務に応用できる柔軟性
簡単なチャットボットから、複数の業務を自動でこなす複雑なワークフローまで、作れるアプリの種類は様々です。特に「RAG(ラグ)」という機能を使えば、社内のマニュアルや過去の資料といった独自データをAIに学習させることができ、より精度の高い、業務に特化したAIシステムを構築できます。
大企業も安心のセキュリティ
企業のデータを扱う以上、セキュリティは絶対に無視できません。Difyは「SOC2 Type2」や「ISO27001」といった国際的なセキュリティ認証を取得しており、企業の厳しい要求に応えられるレベルです。データを外部に出したくない場合は、自社サーバー内で運用する「オンプレミス」という選択肢もあります。
日本語の情報が多く、学びやすい
新しいツールを導入する際、情報収集でつまずくケースは少なくありません。Difyは日本での導入事例が増えていることもあり、解説本やセミナー、YouTube動画などの学習コンテンツが充実してきています。困ったときに参考にできる情報が多いのは、心強いポイントです。
Difyで何ができる?具体的な機能と活用シーン
Difyでは、目的に応じて主に4つのタイプのAIアプリケーションを構築できます。自社のどんな課題を解決できそうか、想像しながら読んでみてください。
チャットボット
カスタマーサポートや社内のヘルプデスクで大活躍します。従来のものと違い、マニュアルにないような少しひねった質問にも、人間のように自然な対話で答えられます。社内規定や製品マニュアルを学習させれば、専門的な問い合わせにも的確に回答する「頼れるアシスタント」になってくれるでしょう。
定型業務の自動化
日々の定型業務を自動化するのに役立ちます。例えば、「お客様から注文メールを受信したら、内容を読み取って在庫を確認し、問題がなければ発注システムに自動で登録する」といった一連の流れを自動化できます。人がやると時間もかかるしミスも起きがちな作業を、AIが正確にこなしてくれます。
エージェント
これは少し高度な使い方で、AI自身が考えてタスクを実行する自律型のエージェントです。「来月の新製品キャンペーンの企画案を考えて」と指示すると、AIが市場調査、競合分析、ターゲット顧客の洗い出しなどを自律的に行い、企画書のアウトラインを作成してくれます。
テキスト生成
ブログ記事やメールマガジン、報告書といった文章作成を効率化します。会社のブランドイメージに合った文章のトーンなどを学習させることで、誰が使っても一貫性のある質の高いコンテンツをスピーディーに作成できます。
業界別活用事例
実際にDifyがどのように活用されているのか、具体的な事例を見ていきましょう。
東京都
東京都ではGovTech東京とデジタルサービス局が連携してDifyを核とした生成AIプラットフォームの整備を進めています。同プラットフォームでは、職員がノーコード環境で業務アプリを自ら構築・共有できる仕組みを採用し、セルフホステッド版のDify Enterpriseを活用して既存文書・台帳を知識として取り込むRAG機能、多様なAIモデル(GPT、Gemini、Claudeなど)の統合運用を実現しています。
既に37団体の区市町村への生成AI活用支援を展開し、文書校正・要約、議事録作成、ヘルプデスク支援といった短期効果の見えやすい領域から成果を積み上げながら、将来的には全国の自治体で再利用可能な「デジタル公共財」として共有する構想を描いています。
出典:「GovTech東京が描く行政AI活用の未来─全国の自治体で使える“デジタル公共財”」2025年9月10日
株式会社ヤマシタ
介護用品・福祉用具レンタル大手の株式会社ヤマシタは、営業担当者の業務改善を目的としてDifyを社内導入し、「ヤマシタAI段取りコーチ」を開発・運用開始しました。同社では従来から「業務改善のヒントは現場にある」という理念のもと、営業・事務・工場の第一線社員が自らローコード/ノーコードで業務アプリを内製する取り組みを推進しており、Difyの直感的なUIと設計の柔軟さ、社内サーバー環境への構築可能性、非IT社員との開発適合性を評価して「現場主導の生成AI開発基盤」として採用を決定しました。
導入第1号となる「ヤマシタAI段取りコーチ」は、営業社員の事前準備や訪問後の振り返りを支援するAIチャットボットで、従来の週3回の育成担当者面談を「週2回のAI対話+週1回の担当者面談」に変更することで業務効率を約60%改善し、社内好事例を学習データとすることで育成担当者のスキル差によるフィードバック品質のばらつき解消も実現しています。
出典:株式会社ヤマシタ「介護用品レンタルのヤマシタ、ノーコード生成 AI 開発基盤「Dify」を導入し現場主導の業務改善を推進~営業訪問の質を高める AI コーチを独自開発~」 2025年6月
精度のカギを握る「RAG」とは?
Difyを使いこなす上で非常に重要なのが「RAG(検索拡張生成)」という技術です。
これは、一言でいえば「AIに自社専用のカンニングペーパーを持たせる」ようなものです。一般的なChatGPTなどは、インターネット上の膨大な情報しか持っていませんが、RAGを使うことで、社内の機密情報や最新の業務マニュアルといった、外部にない情報を参照しながら回答を生成できるようになります。
PDFやWord、Excelなどのファイルをアップロードするだけで、簡単にAIの知識をアップデートできるため、専門的な知識がなくても、自社に最適化された高精度なAIを育てることが可能です。
AIを賢くする「育て方」のコツ
ただデータを投入するだけでは、AIは期待通りに賢くなってくれません。効果的なナレッジベース(AIの知識源)を作るには、いくつかコツがあります。
- 情報の整理整頓:見出しや段落をしっかりつけて、構造化された文書を読み込ませる。
- 適切なサイズに分割:長すぎる文章は、AIが理解しやすいように適切な単位で区切る。
- 情報の鮮度を保つ:定期的に古い情報を更新し、常に最新の状態を維持する。
- 継続的なフィードバック:AIの回答が適切だったか評価し、改善を繰り返すサイクルを回す。
AIは導入して終わりではなく、「育てる」という視点を持つことが、成功への近道です。
気になる料金プランの選び方
Difyには、利用規模や目的に合わせて選べる4つのプランが用意されています。それぞれの特徴を理解し、自社に合ったプランを選びましょう。
プラン名 | 月額料金 | 年額料金 | メッセージ数/月 | アプリ数上限 | 主な対象 |
---|---|---|---|---|---|
SANDBOX | 無料 | – | 200件 | 5個 | 検証・学習用 |
PROFESSIONAL | $59 | $590 | 5,000件 | 50個 | 部門単位の本格利用 |
TEAM | $159 | $1,590 | 10,000件 | 200個 | チーム規模での運用 |
ENTERPRISE | 要相談 | – | 無制限 | 無制限 | 全社規模・高度なガバナンス |
多くの企業が陥りがちなのが、最初から大規模なプランを契約してしまうことです。まず無料のSANDBOXプランで「そもそもDifyは自社の課題解決に使えそうか?」を検証しましょう。そこで効果を実感できてから、PROFESSIONALプランなどにステップアップしていくのが、無駄な投資を抑える賢い進め方です。
- スタートアップ・中小企業の方:まずはSANDBOXでスモールスタート。成果が出たらPROFESSIONALへ。
- 大企業の方:セキュリティや管理機能が重要な場合は、最初からENTERPRISE版を検討するのが良いでしょう。
見落としがちな「隠れコスト」にも注意!
Difyを運用する際には、プラン料金以外にもコストがかかることを知っておく必要があります。
一番大きいのが、LLMのAPI利用料金です。DifyはAIアプリを作るための「器」であり、実際に思考する「脳」の部分はOpenAIのGPTやGoogleのGeminiといった外部のLLMを利用します。この「脳」の利用料が、処理した文字数(トークン数)に応じて別途発生します。
また、自社でサーバーを立てて運用する「セルフホスト」の場合は、サーバー代や保守管理を行うための人件費も考慮に入れる必要があります。
Dify導入による業務削減効果と、これらの総所有コストを天秤にかけ、慎重に投資判断を行うことが重要です。
セキュリティは大丈夫?企業の厳しい目線でチェック
企業のデータを扱う上で、セキュリティは最重要項目です。Difyはその点、エンタープライズレベルの対策が施されています。
- 国際認証の取得:データ管理体制の信頼性を示す「SOC 2 Type 2」や、情報セキュリティの国際規格「ISO 27001」を取得済みです。
- データの暗号化:通信時も保存時もデータは強力に暗号化され、不正なアクセスから守られます。
- 細かな権限設定:「誰が」「どの情報に」「どこまでアクセスできるか」を役職や部署ごとに細かく設定でき、内部からの情報漏洩リスクを低減します。
- 監査ログ:すべての操作履歴が記録されるため、万が一問題が発生した際にも原因追跡が容易です。
特に、金融機関や官公庁など、特に厳しいセキュリティ基準が求められる組織でも、データを一切外部に出さないオンプレミス環境で構築可能な点は、大きな安心材料となるでしょう。
Dify導入・運用の実践ガイド
ここでは、実際にDifyを導入する際のステップや、運用を成功させるためのポイントを簡潔に解説します。
ステップ1:導入前の準備
- 目的を明確にする:「誰の」「どんな業務を」「どのように効率化したいか」を具体的に定義します。
- 小さなテーマから始める:いきなり全社的な課題に取り組むのではなく、まずは特定の部署の小さな課題(例:人事部のFAQ対応)から始めるのが成功のコツです。
- 既存システムとの連携を考える:社内の顧客データベースや商品マスターなど、どのデータと連携させるかを事前に設計しておきます。
ステップ2:環境構築
- クラウド版:公式サイトからアカウントを作成すれば、数分で利用開始できます。まずはここから試すのがおすすめです。
- セルフホスト版:Dockerなどの知識が少し必要になります。社内のIT部門と相談しながら進めましょう。
ステップ3:最初のアプリ構築
社内FAQチャットボットや、会議議事録の要約ツールなど、成果が見えやすく、失敗しても影響が少ないテーマで、まずは一つ作ってみましょう。ここで操作に慣れながら、Difyでできることの感覚を掴みます。
ステップ4:運用と改善
AIは作って終わりではありません。実際に使ってもらい、ユーザーからのフィードバックを元にナレッジベースを更新したり、対話の流れを改善したりと、継続的に「育てていく」ことが非常に重要です。
- パフォーマンス監視:利用状況やコストを定期的にチェックし、費用対効果を評価します。
- ナレッジの更新:AIが参照する情報は常に最新の状態に保ち、回答の精度を維持します。
- 社内への展開:小さな成功事例ができたら、それを社内に広く共有し、次の活用部署を募っていきましょう。
まとめ:まずは第一歩を踏み出してみませんか?
Difyは、これまで専門家のものであったAI開発のハードルを大きく下げ、ビジネスの現場にいる誰もが「自分たちの手で」業務を改善できる可能性を秘めたツールです。
完璧な計画を立てることも大切ですが、AI活用の成否は、実際に触ってみて試行錯誤する中で見えてくることも少なくありません。
この記事を読んで少しでも興味が湧いたなら、まずは無料のSANDBOXプランに登録し、その可能性の一端に触れてみてはいかがでしょうか。「この業務、Difyで自動化できるかも?」そんな小さな気づきが、あなたの会社の未来を大きく変える第一歩になるかもしれません。