DXコラム > 経営層インタビュー > コネクテッドで新たな価値を生み出す ヤマハ発動機の「Y-DX3」

コネクテッドで新たな価値を生み出す ヤマハ発動機の「Y-DX3」

ヤマハ発動機株式会社
IT本部 フェロー
三宅 貴浩 氏

「感動創造企業」をめざし、ランドモビリティ事業やマリン事業を中心に、世界180ヶ国以上で多種多様な事業を展開するヤマハ発動機。
同社では、「Yamaha Motor to the Next Stage」というスローガンを元に、「Y-DX1:経営基盤改革」、「Y-DX2:今を強くする」、「Y-DX3:未来を創る」という3つのDXの取り組みを同時並行かつリンクさせながら進めています。
本記事では、Y-DX2とY-DX3の先導役であるIT本部 フェロー 三宅 貴浩氏に、データから新しい価値を創出するための取り組みや要諦、その大元となるデータを利活用するための仕組み作りなどについて伺いました。

ヤマハ発動機での取り組みにも通ずる、時代を先取りした研究開発

Q.これまでのキャリアについてお教えください。

新卒では、ソニーに研究者として入社しました。当時、いわゆる仮想社会の中で、人間がどのようなコミュニケーションをとるかに非常に興味があって、ブラウザ上に3Dの仮想空間を作ったり、その中にコミュニティやバーチャルショップを作るということをやっていました。今でいう“メタバース”のようなものですね。

三宅 貴浩氏

携帯電話の普及が急拡大する1990年代後半には、ソニー・エリクソンに移りました。そこでは、今でいう“SNS”のようなクローズドなコミュニケーションができる場所作りや、携帯電話を使った家電の“リモートコントロール”の仕組み作り、ソニーモバイルの端末に載せるアプリケーション開発や、アプリの利用データからユーザーのインサイトを見つけ出すデータプラットフォームの戦略立案と開発運用を行っていました。

その後は、2017年に日産自動車に入社しました。従来のハードウェアの塊としての自動車から、インターネットに接続する「コネクテッドカー」への転換が求められていた時期です。そこで、チームの立ち上げから、コネクテッドプラットフォームやアプリの開発、機能拡張、開発の内製化などを行なっていました。

ヤマハ発動機には、2022年4月に入社し、コネクテッドの領域やデータやデジタルを活用した新しいビジネス開発などを通したデジタルトランスフォーメーション推進を担当しています。

Q.時代を何年も先取りした研究開発を多く手掛けていらっしゃいますね。こういったことは今のヤマハ発動機での取り組みに通ずる部分もありますか。

ヤマハ発動機の中に、ITに由来する新しい技術の活用について調査しているIT R&Dというチームを立ち上げているのですが、そこでの活動はまさに通ずる部分があるなと思っています。

あくまで「ビジネスファースト」で、最新IT技術を導入することが目的ではないのですが、私たちのビジネスや目指す未来にとって意味のある技術が近い将来出てくるのか、実際にそれは適用可能なのかなどを調査しています。

データを活用した新しい価値の提供、共創へと進化していく

Q.多くの企業がデータを活用した新しい価値の創出を目指しつつも、苦労している現状があるかと思います。三宅様が担当されている、「Y-DX3:未来を創る」はどのようなことを目指されていて、具体的にどのような取り組みをされているのですか?

Y-DX3では、従来にはないチャネルや異業種などとのコラボレーションによって、新たなお客様とデジタルのタッチポイントで繋がっていきます。そして、そこから上がってくるデータから気づきやシナジーを得て、お客様と共に新たな価値を創っていくことを目指しています。

Y-DX3の取り組み(出典:ヤマハ発動機)

Y-DX3の取り組み(出典:ヤマハ発動機)

この新しい価値の創出に向けては、ヤマハ発動機の強みである、ものづくりや販売網をデータやデジタル技術を活用して強化する「Y-DX2:今を強くする」の取り組みが肝になってきます。Y-DX2では、⑴デジタルマーケティング、⑵コネクテッド、⑶スマートオペレーション、そしてそれを支える⑷データ分析という、4つの領域を中心とした取り組みを行っています。

Y-DX2の取り組み(出典:ヤマハ発動機)

Y-DX2の取り組み(出典:ヤマハ発動機)

中でも、コネクテッドに関しては、2030年までにバイクをはじめとする全製品をコネクテッド対応する戦略を掲げています。バイクのEV化が加速している現状は、コネクテッドとも相性が良く、ヤマハ発動機の持つ膨大なデータを活用することで、お客様から強い価値を感じていただけるサービスを作っていけると思っています。

Q.バイクがコネクトすることで、お客様にどのような新しい価値を提供できるとお考えですか?

実は、現段階でも「Y-Connect」というアプリがあり、車両とスマートフォンの連携により、車両のメーターに着信を通知したり、スマホ上で燃費管理やメンテナンスタイミングをレコメンドするサービスなどを提供しています。

しかし、これからはそういった情報提供だけではなく、リモートコントロールなどを活用した新しい価値を提供できると考えています。一例を挙げると、盗難防止や、複数の車両を管理されている事業者に向けて、リモートで一度に車両のコンフィグレーションを行うといったサービスの提供が挙げられます。

三宅 貴浩氏

Q.新しい価値を提供するY-DX3の取り組みを推進する上で、課題に感じられていることはありますか?

ヤマハ発動機では、2016年からデータ経営に取り組んでおり、データを活用するための仕組みはかなり整ってきています。実際、生産プロセスの改善など効率化を目的としたデータ活用は進んでいる方だと思います。

一方で、データから、お客様や経営にとって意味のあるインサイトを見出して、それを次の価値に変換していく部分はこれから強化が必要な部分だと考えています。具体的には、アプリやサービスなどのソフトウェアの開発力強化の必要性を強く感じています。

ヤマハ発動機においても、先ほどご紹介した「Y-Connect」のように製品に紐づいたアプリはあるものの、世の中の一般的なアプリのように、それ自体がプロダクトであるという思想ではないため、UXを含めたソフトウェアを作る考え方や能力、体制はまだ不十分だと思っています。

特に、我々のようなお客様の生活に密着した製品を提供する事業者がサービスを作っていくとなると、極めて高いアカウンタビリティやオーナーシップを持って、サービスを育てていく必要があります。

そうすると、必然的に、お客様や事業をよく知る現場のメンバーと、プロダクトオーナーやUI/UXデザイナー、エンジニアなどが一体化したワンチームの組織を作り、アジャイルな業務運営ができる環境を作っていくことが必要になります。今後はそういったことのできる体制を強化していきたいと考えています。

現場駆動型のDXに向けた「データ分析の社内民主化」

Q.データ活用に向けた仕組みづくりは整ってきていると伺いました。データサイエンティスト育成のお取り組みについてお教えください。

ヤマハ発動機におけるデータは、主に製造の現場・コネクテッドの端末・お客様から上がってくるデータの3つであり、これらを統合して活用するための汎用性のある共通基盤を構築しています。また、製品ごとにサービスを作る場合には、共通基盤を活用し、足りない部分はモジュール化して作り連携させるという戦略をとっています。

私のいるIT本部の中に、AIヒーロー(AI活用をビジネス成果に繋げる仕組み作りを得意とするメンバー)を含むデータサイエンティストが所属するデジタル戦略部があり、この組織が中心となって、データ分析手法やAI・機械学習などを使った様々な課題解決や改善、予測モデルの作成などを行っています。

同時に、現場が主体的にデータを活用できるようにするための「データ分析の社内民主化」に向けた活動も進めています。

Q.「データ分析の社内民主化」とは、どのような活動ですか。

まず1つは、ピラミッド型のレベル別の教育プログラムを提供しています。データ活用の基礎を習得するための入門編から、実務でデータを活用するためのPythonやSQL、分析ツールを使いこなすための演習、実務でデータを活用して課題を解決するためのOJT研修など、幅広いプログラムを提供しています。

最終的には、教育プログラムの最上位課程を修了した“棟梁”と呼んでいるデータサイエンティストを中心に、各拠点やビジネスユニットで、データを活用しながらDXを自律的に推進できる状態を目指しています。

教育プログラムの他にも、データ分析カンファレンスを社内で開催し、外部の方にデータ活用事例をご紹介いただくなど、データ活用によりどのようなことが出来るのかを広める活動もしています。

Q.教育プログラムの提供などによって、どのような効果が出ていますか。

受講者が増えるにつれて、データ分析ツールの使用者が目に見える勢いで増えていき、今では数千を超えるプロジェクトが登録されています。

事業部でのデータ活用の取り組みの一例で言うと、工場の鋳造工程を担当する従業員達で、部品が良品となる条件と不良品となる要因などを踏まえて、データを分析・可視化し、判別に役立つダッシュボードを作り上げたという事例があります。

こういった事例は、成功事例として社内で発表の場を設けてシェアしてもらっています。こういった「自分でも出来る」という感覚を醸成することと、それをサポートする教育プログラムの両方があることは非常に重要なことだと思っています。

三宅 貴浩氏

Q.最後に、データ活用に関する今後の展望をお聞かせください。

製品のコネクテッド対応が進むことによって、そこから上がってくるデータを元に、お客様一人ひとりへの理解が進み、アプリなどのデジタルの顧客接点も持てるようになってきました。これにより、以前は介入が難しかった購入後の顧客満足度を上げていく活動を実施できる環境が整ってきたといえます。今後は、よりアトラクティブにお客様に価値を感じていただけるサービスの提供を通じて、お客様と感動を共創することを目指していきたいと考えています。

三宅 貴浩氏

ヤマハ発動機株式会社
IT本部 フェロー
三宅 貴浩 氏
1998年4月にソニー株式会社に研究者として入社。その後、ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ株式会社、日産自動車株式会社を経て、2022年4月にヤマハ発動機株式会社に入社。IT本部 フェローに就任し、全社のDX、ビジネスモデル変革を推進している。