及川 卓也
執筆者
及川 卓也
Tably株式会社 代表取締役 Technology Enabler
外資系IT企業3社にて、ソフトウェアエンジニア、プロダクトマネージャー、エンジニアリングマネージャーとして勤務する。その後、スタートアップを経て、独立。2019年1月、テクノロジーにより企業や社会の変革を支援するTably株式会社を設立。著書『ソフトウェア・ファースト~あらゆるビジネスを一変させる最強戦略~』(日経BP)、『プロダクトマネジメントのすべて』(翔泳社)

プロダクト事業をリードするプロダクトマネージャーに必要なスキルと育成方法とは?

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近年、市場や顧客のニーズがますます複雑化しており、製品・サービスの開発・提供が今まで以上に重要になっています。そこで様々な部署・ステークホルダーと連携しながら事業価値と顧客価値の両方を最大化するプロダクトマネージャーという職種に注目が集まっています。しかし、プロダクトマネージャーの採用は難しく、社内人材をプロダクトマネージャーに育成していくことが求められています。

本記事では社内人材をプロダクトマネージャーへ育成したい方、もしくは自身がプロダクトマネージャーとして成長したい方向けに、プロダクトマネージャーの育成・評価、身に付けるべきスキルやその習得方法などについて広くご紹介します。

前編ではプロダクトマネージャーが身につけるべきスキルを中心に、後編では具体的な育成方法についてご紹介させていただきます。

本記事はプロダクトマネージャーのスキルを可視化する「DIA for PM」の共同開発・監修者であり、プロダクトマネジメントに関するアドバイザリの第一人者の及川卓也氏が監修しています。

この記事を読めばプロダクト事業を牽引するプロダクトマネージャーを様々な観点から育成できるようになるでしょう。

日本におけるプロダクトマネージャー人材の現状

海外においては古くから、プロダクトマネージャーはプロダクト事業に欠かせない人材として認知されてきました。プロダクトを生み出し、そして育てるためにプロダクトマネージャーを配置することは、IT業界がまだコンピューター業界と呼ばれていた1980年代には一般化していました。当初は売り切り型のプロダクトが主流で、要件を固め、それを確実に世に出すことがプロダクトマネージャーの役割だと考えられていました。しかし、インターネットの普及とともにリカーリング型のプロダクトのマネジメントに軸が移ると、それとともにプロダクトマネージャーの重要性はより一層高まっていきました。

日本においてもスタートアップやネット系企業を中心に、プロダクトマネージャーはプロダクト事業において欠かせない職種となっています。最近では、一般の事業会社がプロダクト事業を推進する人材として、プロダクトマネージャーをリーダーに据えるケースも増えています。

企業のプロダクトマネージャーの人事施策

そんな中、企業はプロダクトマネジメントの導入、そして、プロダクトマネージャーの採用や増員を進めています。しかし、プロダクトマネージャーの認知が急激に高まった日本においては、圧倒的にプロダクトマネージャー人材が不足しています。
ウォンテッドリーが2021年8月30日に公開した「デジタル人材に関する調査結果」では「どんな職種のデジタル人材を必要としているか」という問いに対し2番目に多い53%の企業が「プロダクトマネージャー」と回答しています。

そこで多くの企業は、人材争奪戦を制しての即戦力人材、またはポテンシャル人材として他職種の人材を採用し、社内で育成することを目指します。前者が奏功すれば良いのですが、高まるプロダクトマネージャー需要に対し、プロダクトマネージャー人材の供給は追いつかず、しばらくはいたちごっこの状態が続くことが予想されます。DX人材全般の不足や人件費の高騰などもこの状況に拍車をかけています。

そのため、企業はポテンシャル採用や社員の異動による登用を考えます。ここで重要となってくるのが、社内でのプロダクトマネージャーの育成です。また、その育成結果を見極めるための評価も合わせて整備する必要が出てきます。

人材の採用と育成と評価

人材の採用、育成、評価の3つに共通して必要なのは、求める人材の要件をきちんと定義することです。昨今、日本においてもジョブ型雇用の重要性が謳われ、政府や産業界も従来のメンバーシップ型雇用からの移行を提言しています。ジョブ型雇用とは、職種ごとの職務内容とそれを遂行するための要件としてのジョブディスクリプション(職務記述書)を明確に定義した上で企業が従業員と雇用契約を結ぶものです。

長い間、メンバーシップ型雇用を続けてきた大企業の場合、このジョブ型雇用への移行はそう簡単にはいきません。ジョブ型雇用を採用したと大々的にアナウンスした企業でも、内情はメンバーシップ型雇用に毛が生えただけということも少なくありません。しかし、企業としてジョブ型雇用を採用するかどうかの如何に関わらず、人材の採用と育成、評価においてはこのジョブ型雇用でのジョブディスクリプション相当のものを用意し、それを基準として採用判断を行い、育成とその結果の評価を行うことが重要となります。その理由は、百社百様のプロダクト事業があるように、プロダクトマネージャーの具体的な役割も企業によって異なるためです。ジョブディスクリプションのような形で役割を明確に決めない限り、採用も育成もうまくいくはずがありません。

例えば、2017年のマッキンゼーの記事 Product managers for the digital world では、シリコンバレーという同質性が高いと思われる地域におけるプロダクトマネージャーにおいても、3つのタイプがあると解説されています。もちろん、他地域や業種によってはさらに異なる役割となっていることも多くあります。すなわち、プロダクトマネージャーの採用や育成、評価を行うには、自社のプロダクトマネージャー要件を定義する必要があるのです。

出典:マッキンゼー『Product managers for the digital world』を参考にエクサウィザーズで作成

定義された人材要件は、採用時には求人の募集要項となり、採用可否を決める際の判断基準となります。育成と評価は表裏一体です。育成は企業が期待する人材要件と個々の社員の現状との差分を埋めるためのものであり、差分を可視化し、本人にフィードバックするのが評価です。育成や評価を正しく機能させるには、、職位(ジョブレベルもしくはジョブグレード)ごとに人材要件を用意する必要があります。ある職位で採用された人材がその職位で求められる要件を満たしているか、さらには一つ上に達しているかを判断するのが評価であり、この評価結果を本人にフィードバックし、組織として本人の成長を支えるのが育成です。

プロダクトマネージャーに必要とされるスキル

プロダクトマネージャーの要件は企業によって異なるとは言いましたが、それでも共通して求められる知識とスキルは多々あります。ここでは戦略立案力、顧客理解力、仮説検証力、実現力、発想力、チーム構築力という6つのスキルについて説明してみましょう。

スキル 内容
戦略立案力 自社/競合の強み・弱みを理解し、ビジネスモデル・戦略の構築を行うスキル
顧客理解力 顧客のペイン・ゲインを理解し、ユーザー体験を設計するスキル
発想力 MVP (Minimum Viable Product) を実施し、そのデータを正しく読み取り改善を進めるスキル
実現力 計画を立て、プロダクトを開発し、マーケットへの導入を実現するスキル
チーム構築力 価値ある発想を生むように、チームでのアイディエーションを進めるスキル
仮説検証力 全員がプロダクトを自分ごととして捉えるチームを構築し、ステークホルダーをまとめるスキル

そして、これらスキルを活用する前段階として、次の4つの知識が必要と考えられます。

一般的に、プロダクトマネージャーの必要な知識やスキルは、ビジネス、技術、UXのトライアングルで語られますが、それに加えて、チーム構築・運用するための知識も必要です。良いプロダクトは良いプロダクトチームから作られ、良いプロダクトチームとは成功するプロダクトを生み出すチームなのです。

また、プロダクトマネージャーに共通して求められる知識やスキルを身につけるためには、素養や基礎力が必要になります。(例:データ分析の知識を身につけるためには、数学の基礎が必要になります)
2階建ての1階と2階のような関係となり、図で示すと下記のようになります。

出典:エクサウィザーズ
出典:エクサウィザーズ

チーム構築力やチーム知識、さらには技術知識にも関係するものとしてプロジェクトマネジメントがあります。誤解される方も多いので、ここでプロダクトマネジメントとプロジェクトマネジメントの違いについて説明しましょう。

プロダクトマネジメントとプロジェクトマネジメントの関係

プロダクトマネジメントはプロダクトを成功させることを目的とします。プロダクトはプロダクトライフサイクルと呼ばれる長い時間をかけて成長します。導入期、成長期、成熟期、飽和期、衰退期という5つのステージにより構成されるこのプロダクトライフサイクルは、一般的なプロダクトの変遷を表すものですが、最初からどの時期にどの期に入るかを予想することはできません。むしろプロダクトが飽和期や衰退期に入るのは避けたいと思っていることがほとんどでしょう。つまり、プロダクトの終わりの時期は決められていないのです。一方、プロジェクトには明確に始まりと終わりがあります。プロジェクトマネジメントとは、決められた期間と予算の中で、期待される品質のものを作り上げることです。

プロダクトマネジメントとプロジェクトマネジメントはどちらも重要です。プロダクトマネジメントは、顧客を理解し、顧客の抱える課題を解決したり、顧客の求める価値を提供することが重要です。つまり、何を作るのかを決めるところから始まります。一方、プロジェクトマネジメントは決められた目的、プロダクト開発のプロジェクトの場合は何を作るかが決まった後に、その明確な目的に対して、スケジュールと予算と品質を管理することです。従って、プロダクトマネジメントとプロジェクトマネジメントは表裏一体のような関係です。プロダクトライフサイクルという長い一生において、何度も何度もプロジェクトを行って、プロダクトを成長させていくことになります。

企業によっては、プロダクトマネージャーとプロジェクトマネージャーを分離していることもありますが、そうでない場合はプロダクトマネージャーがプロジェクトマネジメントを行うことになりますし、プロジェクトマネージャーが別に存在している場合でも、プロダクトマネージャーはプロジェクトマネジメントの要諦は理解しておく必要があります。

前編では、日本におけるプロダクトマネージャーの現状や、企業における育成の必要性、また、プロダクトマネージャーに共通して必要となるスキルや知識についてご紹介させていただきました。

後編では、プロダクトマネージャーの具体的な育成方法についてご紹介させていただきます。
「プロダクトマネージャー育成の鍵: スキル習得からローテーション、メンタリングまでの全体像」はこちら

最後に、プロダクトマネージャーに必要なスキルや素養を測定できるアセスメント「DIA for PM」では、プロダクトマネージャーに共通して必要な6つのスキル・13の中スキル、4つの知識、プロダクトフェーズ毎のスキル、リーダーシップスタイル、6つの素養を測定し可視化することができます。2名まで無料トライアル受検が可能ですので、ご興味のある方は下記よりお願いします。

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