
DX人財はこう育てる──デンカが2年で成果を出した超実践的DX人財育成モデル
デンカ株式会社
業種 | 総合化学メーカー |
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従業員数 | 4,369人(単体) |
用途 | DX人材のスキル・素養の可視化/DX推進人材の育成/全社的なDX推進体制の構築 |


【デンカ株式会社(以下、デンカ)の経営計画の達成に向けたデジタル人財育成プログラムの背景】
110年の歴史を持ち、多様な事業を展開するデンカでは、経営計画「Mission 2030」の達成に向け、デジタルを活用した業務変革を推進するため、DX人財の育成に注力しています。この取り組みの中心にあるのが、全社を挙げた社内のデジタル活用・DX推進を先導するDP(デジタルパイロット)の育成プログラムで、現在2年目にして途中目標を前倒しで達成する成果を上げています。
参考:デンカ経営計画「Mission 2030」内のDX戦略における人財育成目標と2024年度実績
その鍵となったのが、エクサウィザーズが提供する「exaBase DX アセスメント & ラーニング」の活用です。この取り組みは、2024年9月に開催された「ExaWizards Collaboration Day」で講演され、その取り組み内容がIPA DXスクエアなどでも取り上げられるなど、大きな反響を呼びました。
本記事では、制度設計・DIA(アセスメント)の活用・現場の巻き込みといった観点から、同社の先進的なDX人財育成の全貌を紐解きます。お話を伺ったのは、デジタル戦略部長の盛岡 実氏、および同部門で主に教育・各部門との連携などを担当されている高嶋 良憲氏です。
Overview
課題
- 効果測定が難しく、育成投資に見合う成果が出ているか不明瞭
- 全社的なDX人財育成プログラムを開始するにあたり、まず現業の理解と目線合わせが不可欠だった
- 座学中心の教育だけでは、知識は増えても実際のビジネス課題を解決する「実践力」が伸び悩むという壁に直面
- DX人財の挑戦意欲と上長の理解を両立させる運用設計を重視していた
exaBase DXアセスメント&ラーニングを選んだ決め手
- 社員のDXスキルやポテンシャルを客観的かつ定量的に可視化、かつ効果測定できるアセスメントの信頼性
- 単なるスキル測定に留まらず、DIAの受検結果から最適な育成戦略の立案に活用できる
- エクサウィザーズの伴走支援により、自社の状況に合わせた効果的な分析や打ち手の示唆を得られたこと
exaBase DXアセスメント&ラーニングを受検・受講した効果や感想
- 2026年度「DP150名」の目標に対し、2024年度の実績で78名のDPを排出し、2025年度の2期生候補が約130名おり前倒しでスピード達成。社内育成の指標にも。
- DIAを活用した教育効果の可視化により、当初プログラムに抱かれていた抵抗感や費用対効果への疑念が解消され、社内の雰囲気が好転
- 知識定着後に実務研修へつなげることで、業務変革をリードできる人財増加
- 「やらされ感」ではなく、社員自らが自主的に挑戦する文化が広がっている
目標を前倒し達成。なぜ社員の主体性が芽生え、短期間で多くのDX人財を増やせたのか?
盛岡氏: 私と高嶋が所属するデジタル戦略部は、もともとITインフラ整備・運用を主としていたIT部門がその前身です。従来の役割からDX推進の要へと変革するにあたり、事業部門や経営層、各コーポレート部門との連携強化し、相互理解を深めることが喫緊の課題でした。デジタル戦略部はこの状況を変えるべく、全社的な活動を牽引するために、各部門との対話を重ね、共通の目標に向かう協働体制の構築に尽力しました。
高嶋氏: プログラム開始当初は挑戦の連続でした。工場の各部門の協力を得るために事前説明会を開催し、現場になぜこの教育が必要なのかを共有し、経営層を含めた皆さんの声を聞きながら、地道に活動を続けました。その結果、今では多くの方々にその価値を理解していただけるようになり、認識も大きく変わりました。

盛岡氏: 2026年度までに150名という目標に対し、初年度の2024年度実績で78名のDPが誕生し、本年度(2025年度)は約130名のDP候補生がDPにチャレンジします。初年度のDP認定の割合が90%であることを鑑みれば、2025年中の目標達成が確実な状況です。今後は2030年目標の200名を超え、最終的に300名規模に拡大する可能性もあります。全従業員のうち5%と設定したDP(デジタルパイロット)比率も、このままいけば上回る見込みです。
高嶋氏: DX人財育成プログラムにあるDIAの受検や各教育は、本人希望に加え、上長承認の手上げ方式で教育プロセスを回しています。そしてDIAの受検結果のスコアや教育に取り組む姿勢、実務研修の成果をDP認定基準として判断する仕組みを設けています。
参考:デンカ広報誌「The Denka Way」(2024 Spring号)で紹介された社内デジタル人財育成ロードマップ
盛岡氏:
最大の要因は、社員一人ひとりに主体的な意欲が芽生えたことです。当該プログラムは、本人の希望と上長の許可を前提とする選抜制にしており、「見送り」を認める方針も功を奏しました。受講者が責任感を持って参加するため、学習意欲が高く、途中離脱も少ない傾向が見られます。強制参加にしていた場合、モチベーションの維持は困難だったと考えています。
主体性のある第1期生の活躍を見たことで、「自分も挑戦したい」という意欲の火が社内に広がり、第2期生への応募が一気に増えました。
高嶋氏: また、高校の授業で『情報科』が必修化されるなど社会の変化を例に、社内プレゼンをしたことも、危機感を高める契機となりインパクトが大きかったと思います。
盛岡氏:
またDP認定に伴うインセンティブ制度の導入も効果的でした。ポイントは、DP認定されただけでは適用とせず、DPになり目標をたて、その成果に応じて賞与を付与すると定めたことです。
この新たな制度を導入するという経営層の決断が、「会社が本気で取り組んでいる」という強いメッセージとなり、社員の意欲をさらに引き出した要因だと考えています。
教育効果を可視化し、「座学だけだと実践力にはつながらない」と気づいたことで変わった人財育成
盛岡氏: エクサウィザーズの「DIA(アセスメント)」は単なる能力測定にとどまらず、人財育成プログラム全体を見直す契機となりました。初期段階で、スキルアップ教育を実施した結果を、DIAで可視化された社員スキルの分布図で確認すると、デジタルの素養は着実に伸びた一方で、変革の素養は停滞傾向で、中には低下した人も見受けられました。要因を探ったところ、当時人員異動による環境の変化や、会社の業績変動による職場の雰囲気の変化などが生じており、それがマインドスタンスやモチベーションに影響を及ぼしていたことに気づいたんです。

この分析から、学習によって伸ばしやすい領域と、実践を通じて鍛える必要のある領域が明確化され、「知っている」と「できる」の壁の正体を見極める転換点となりました。特にマインドスタンスやコンセプチュアルスキルといった領域は、知識だけでは補えないとわかったので、知識を教えるティーチングに加えて、実践を通じてマインドや実践力を鍛えるコーチングも足しこむ教育方針に転換しました。
盛岡氏:
我々が設計した実務研修は「道場」と呼び、 新たなツール・システムを用いずに、既存のICT資産を活用したDX企画の立案を個人課題としました。本当に腕がないとできない、真の実践力を試す狙いがありました。この研修ではグループワークを中心に、デジタル戦略部の部課長と社外コンサルタントの双方の目で審査を重ね、企画のブラッシュアップを徹底的に支援しました。
成果としては、84名が参加し120件の企画が提出され、その中から10件を選抜してブラッシュアップしました。10件のグループワークの中から、上位2件を最優秀賞と優秀賞として社長表彰も実施し、最終的に78名がDP認定を取得しています。選ばれなかった企画も学びを活かして最終企画を仕上げて再提出してもらうなど、単なる学習で終わらない仕組みにしました。
盛岡氏: 注目すべきは企画スコアの変化です。研修前は平均点が40点未満で、もともとDXの素養が高かった優秀層でもそれを大きく超えることは困難でした。しかし、研修後は最低点が以前の平均点を上回るだけでなく、平均点自体が過去最高点へ迫る水準となりました。DIAによる課題の可視化と、それを踏まえた実践的な研修の設計が、企画力を飛躍的に伸ばした結果だと考えています。

DIAで人財の変革要素を見極め、「勝利の方程式」によってDX人財育成時間を圧縮した
盛岡氏: DIAの分析結果からは、当社におけるDX人財育成の「勝利の方程式」を発見することにつながりました。それは、「マインドスタンス(Xの素養)の高い人にデジタルスキル(Dの素養)を学ばせると、あっという間にDX人財になる。逆にデジタルスキルの高い人に変革の素養(X)を学ばせても、DX人財を育てるのは難しい」ということです。これがわかったのは、DIAの本当にすごいところだと思っています。

盛岡氏: 「マインドスタンスの高い人財」は、マルチタスクへの対応力に優れ、事前に合意された業務範囲を超えても自発的に関与しようとする姿勢を持っています。特にIT分野では、会社と握り合った業務以外の仕事をお願いすると、消極的な姿勢や態度を示す人財も少なくありませんが、変革型の人財は枠にとらわれず、主体的に行動します。チームワークを重視し、周囲を巻き込みながら物事を推進する点でも、組織にとって非常に価値の高い存在です。
盛岡氏:
DIAのスコア分析により、マインドスタンスが高い人財の中にも、外部環境に影響を受けやすいタイプ(乗せられ型)と、安定して高いマインドを維持するタイプ(雑草型)の2パターンがあることがわかりました。たとえば、業績悪化や人事異動といった変化によりスコアが一時的に低下するケースもあれば、常に安定したスコアを保つ人財も確認されています。
私自身もマインドスタンスが高いタイプに該当しており、半年間の基礎教育を通じて、デジタル素養のスコアが3.5から5.0へと大きく向上しました。本来であれば独学や実務を通じて数年かかる水準に、当時57歳の私でさえ、短期間で到達できたことからも、時間対効果の高い育成手法であると実感しています。
盛岡氏:
2024年度にDXロードマップを策定しました。全社の全部門に、「理想の姿の明確化→実現に必要な仕組みの検討→必要なシステムの設計」という段階的なアプローチで、経営計画を達成するための手段としてのDX戦略立案を求め、全社から118件の施策テーマが集まりました。
この数の同時進行は難しいため、内容を精査・分類し、AI業務・BIデータドリブン・CRMの3領域に整理し、「プロジェクトABC」として体系化することで、全体の約3分の2を効率的に推進できる体制が整いました。DP認定者もプロジェクトに参画し中核を担って業務変革に深く関与することで、全社一丸での推進を可能にしています。

盛岡氏: ABCプロジェクトに関連する予算はデジタル戦略部が一元管理し、デジタル戦略部内にDX支援課も新設したことで、各部門に対して金銭的・人的支援を明示したことで、かつては「何もしてくれない」と見られていた部門が、「実行力のあるパートナー」へと認識が変化。連携に対する信頼が高まり、全社的な推進体制の構築につながりました。
エクサウィザーズは企業変革を伴走するパートナー
盛岡氏: はい、採用の場面でもDIAでDXや変革の素養といった見えづらい資質を定量的に把握できることが役立つと考えています。たとえば、最終候補者2名から1名に絞るような選考においても、履歴書や面接だけでは見抜けない候補者の変革に対する適応力の高さを客観的に比較できますし、客観的なデータは非常に有効な判断材料になるはずです。人財を見極める上でも、信頼できる「共通言語」となり、当社が重視する特性と合致する人財を選定できると確信しています。
高嶋氏: 我々デジタル戦略部ではIPAが掲げるDX推進スキル標準のビジネスアーキテクトにスコープを当てましたが、今後は他部署と連携して、横展開していきたいと考えています。

高嶋氏: 例えば、DIAでは人財要件設定機能があるため、ロール別のスキル傾向の可視化から個別の育成目標の明確化にも役立ち、データサイエンティストやサイバーセキュリティ人財発掘にも一助になるのではないかと考えています。
盛岡氏:
一言で言えば「人財を育てる時間を買ったようなもの」だと思っています。本来、日常業務を通じてのDX人財の育成には長い時間と労力がかかるものですが、短期間で目覚ましい成果を出すことができました。この結果は経営層や事業所長会にも報告しており、DX人財育成に対する理解と支援の獲得にもつながりました。
また、DIAの客観的な可視化データと分析結果によって教育効果が見えることで、2つの成果を実感しています。一つは、受検者たち自身が育成効果を感じ取れることが、本人たちのモチベーションにもつながっていること、もう一つは、社内各所へのアピール材料になったことです。社内には多種多様な教育プログラムが同時並行で動いているが、そのほとんどは教育の効果測定ができていないことが多いため、成果をわかる形で周囲に提示できたことは大きかったと思います。
これは、DIAがただのアセスメントだけにとどまらないということだと思うんですよね。エクサウィザーズの手厚いサポートも受けながら、分析結果からインサイトを見つけ出し、次のアプローチにつなげていける。素晴らしいと思います。
高嶋氏:
育成プログラムを通じて部門横断のコミュニティも生まれ、自発的なナレッジ共有や相談が行われるなどの副次的な効果も生まれましたね。
今後もDIAをハブとしてDX人財の発掘や人財育成に役立てていきたいと考えています。
