LMS(学習管理システム)とは、主にeラーニングを実施するためのプラットフォームです。活用することにより、コンテンツの提供から受講状況の管理が容易になり、学習効果の向上が見込めます。
人手不足が深刻化するなか、人材を確保し定着させるには個々の従業員の成長機会を提供し、効果的な学習によりモチベーションを向上させることが欠かせません。この記事ではLMSの概要と、導入のメリット・ステップ、LMS選定時のポイントを解説します。
LMS(学習管理システム)とは
LMSは「Learning Management System(ラーニング・マネジメント・システム)」の略で、日本語にすると「学習管理システム」となります。従業員にeラーニングのコンテンツを提供する際のベースとなるプラットフォームであり、個別の従業員の受講状況を管理できる仕組みです。
多くはインターネットブラウザ上で作動するWebサービスとして提供され、従業員は手持ちのデバイスからサービスにアクセスすることで、コンテンツを受講できます。管理者はシステム上でコンテンツの受講状況や成績を管理したり、コンテンツのメンテナンスなどをおこなえます。
LMSは「学習管理システム」という名の通り、学習者の管理に主眼を置いているように思われがちです。しかし、本来は学習者の利便性やモチベーション向上が、運用目的の第一義であるべきです。LMSは、学習効果を高め、学びに対する意識を向上させるものでなくてはなりません。
LMSが注目される背景
各企業が人材育成の取り組みとしてeラーニング教材の受講環境を整えるなか、LMSに対する関心が高まっています。昨今、人材確保や定着化の難しさから、人材育成に対する取り組みが、企業価値を内外にアピールする要素となっていることも一因です。
ここでは、以下にLMSが注目されている背景について解説します。
- eラーニングの高度化が求められるようになった
- キャリアサポートの重要性が増した
- 人的資本への取り組みが求められるようになった
eラーニングの高度化が求められるようになった
かつて、インターネットが普及する以前は、学習教材をCD-ROMやDVD等で配布し、受講者に視聴を促すという手法が主流でした。これでは、個々の受講対象者の受講状況を把握できず、一方通行な学習環境しか提供できません。
しかし、インターネットの発達により、教材をWeb上で提供できる環境が整備されることで、コンテンツの配布が容易にできるようになりました。管理のための仕組みが必要になり、LMSのようなプラットフォームの必要性が生じたのです。
Web上でコンテンツを提供する際には閲覧権限の設定や、セキュリティー面の整備が必要です。また、市場環境の変化スピードに対応するためには、コンテンツの頻繁なメンテナンスが欠かせません。
受講者の学習に対するモチベーションを維持するためにも、eラーニングの高度化が求められ、LMSのような仕組みが必要になったのです。
キャリアサポートの重要性が増した
働き方に対する意識が多様化するなか、従業員に成長できる環境が提供できるか否かは、人材確保や定着化において重要な要素となっています。企業として個々の従業員に対する、キャリアサポートの重要性が増しているのです。
昨今は従業員個々の適性や希望に沿って、キャリア形成を会社がサポートするという考え方が一般化しています。転職に対する抵抗感が薄れた今、自身が望むキャリアが実現できないと判断すれば、離職されてしまう可能性が高まるためです。
LMSを活用することにより、従業員一人ひとりのキャリア観に応じた学習の提供が容易になります。自発的な学習を促し、キャリア形成を支援する体制を構築することは、人材定着化に必要な施策となったのです。
人的資本への取り組みが求められるようになった
2023年3月期の決算から、有価証券報告書を発行する大手企業4000社を対象に、人的資本の開示が義務付けられました。これにより「人的資本経営」への関心が高まります。人的資本経営とは、人材を「資本」と位置づけ、その価値を高めることにより企業成長につなげるという概念です。
企業が成長するためには人材の成長が不可欠であり、人材に対する取り組み度合が、内外のステークホルダーの企業価値を測る視点となったのです。義務化された開示項目「7分野19項目」の最初に「人材育成」が掲げられていることからも、人的資本経営において人材育成が重視されていることがわかります。
こうした流れを経て各企業は、従業員の自発的な学習を促し、キャリア支援に対する取り組みを強化しました。LMSは人的資本経営に必要な教育施策の実施に効果を発揮するだけでなく、開示に必要なデータの集計も可能になるため、導入を検討する企業が増加したのです。
LMS(学習管理システム)により実現できること
LMSに搭載された機能により、以下に挙げるさまざまな施策が実現可能です。
- 学習コンテンツの配信
- 受講者ごとの学習進捗管理
- 学習履歴の蓄積・管理
- モバイルデバイスを用いた学習
LMSの活用により人材育成の効率化が図られ、受講者の学習意欲も向上するでしょう。
学習コンテンツの配信
LMSを導入することで、学習コンテンツの配信が容易になり、受講者に閲覧してもらいやすい環境が構築できます。受講者のニーズに沿ったコンテンツをプラットフォーム上にアップし、受講者は所持しているデバイスから気軽に視聴することができます。
また、LMSで配信することにより、理解しやすい順番でコンテンツの視聴を誘導するなど、細かい設定も可能です。理解度チェックテストの実施や採点、レポートの配布・収集といった作業もLMS上でできるため、管理者の負荷が軽減でき、受講者にとってもスムーズな学習が可能になります。
受講者ごとの学習進捗管理
LMSによるeラーニングの受講環境を整備することにより、個々の従業員の学習進捗管理ができるようになります。どの従業員がどのコンテンツを受講したか、またテストの成績はどうであったかなど、データとして一元管理が可能です。
受講状況を可視化することにより、意欲的に取り組む姿勢が見られない従業員や部署に対し、個別のアプローチができます。このように受講状況の進捗を管理することで、取りこぼしのない人材育成が可能になるのです。
学習履歴の蓄積・管理
個別の受講者の学習履歴が人事資料として蓄積されるため、さまざまな用途に用いることができます。
たとえば、あるポストに抜擢したい人材を探す際に、研修受講履歴やテストの成績から絞り込むことも可能です。あるいは、テストの成績をもとに、人事評価や昇進・昇給の参考資料とするケースも想定できます。
また、コンテンツの受講率を一目瞭然で把握できるため、学習コンテンツの改廃やブラッシュアップの判断も容易になるでしょう。
モバイルデバイスを用いた学習
LMSを用いてWeb上でコンテンツを提供することにより、学習者はモバイルデバイスでコンテンツを視聴できるようになります。手持ちのスマートフォンやタブレットから気軽に視聴できる環境が整うことで、学習に対する心理的なハードルが下がるのです。
インターネット環境さえあれば、隙間時間を活用し場所と時間を選ばず視聴できます。まとまった時間がとりにくい、現代のビジネスパーソンに適した学習環境が提供できるのです。
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LMS(学習管理システム)を導入するメリット
LMSを導入することにより教育効果を高めつつ、人材育成担当者の負荷軽減が実現します。ここでは以下、LMSを導入するメリットについて解説します。
- 教育効果の向上が見込める
- 高度な人材活用が実現する
- 教育部門の負担が軽減される
教育効果の向上が見込める
集合研修をメインとした人材育成の場合、実施頻度を高めることが難しい点がデメリットです。また、担当講師の力量により、学習効果にばらつきが出てしまう恐れもあります。
その点、LMSによるeラーニングのコンテンツ配信では、均質化された教材をすべての受講者に提供できます。また集合研修とは違い何度も視聴できるので、反復学習により知識やスキルの定着化も図りやすくなるでしょう。
そのほか、特定のコンテンツで事前学習を促し、後日集合研修を実施するなどのアレンジも可能です。こうした工夫により大幅な学習効果の向上が期待できます。
高度な人材活用が実現する
ストックされた学習履歴や成績を資料として、従業員のスキルや適性が把握しやすくなるため、人材活用の高度化が図れます。適材適所の人員配置が可能になることで、個々の人材の力がより発揮されやすくなるでしょう。
また、蓄積されたデータから、本人も気がつかない適性が発見されることも考えられます。こうしたスキルを伸ばせるよう、特別な学習内容をアサインしスペシャリストに育成するなど、人材活用の高度化が実現するのです。
教育部門の負担が軽減される
LMSの導入により、これまで手作業でおこなっていた管理のほとんどが自動化されるため、教育部門の負担は大幅に軽減されます。集合研修を実施する場合でも、受講者へのアナウンスやリマインド、テストの実施や採点、レポートの配布や提出など煩雑な作業をLMS上で完結できます。
また、学習内容によっては集合研修を実施せずとも、eラーニングで完結できるものもあるはずです。あるいは、コンテンツ化して反復学習したほうが、効果が上がる内容もあるでしょう。
こうした整理を進めることにより、集合研修の頻度を下げつつも学習効果を維持、または相乗効果により向上させることも可能です。
LMS(学習管理システム)導入のステップ
ここからは、LMS導入のステップについて解説します。LMS導入にあたっては、以下6つのステップを踏むことでスムーズに進みます。
- 導入の目的を明確化する
- コスト面の検証をおこなう
- 導入形態を決定する
- 運用体制の整備
- 試験導入を経て本導入
- 効果の検証と改善をおこなう
導入の目的を明確化する
まず、LMSの導入目的を明確化することが必要です。そのためには、解決したい自社の人材育成の課題を把握することです。
- 若手マネージャーのマネジメントスキルが不足している
- 特定の業務においてスキル習得に時間がかかっている
- 全社的な営業力強化のため、成績優秀者の営業スキルを標準化したい
こうした課題を明確化し、目指す効果を目標として設定します。目標は数値化し、達成までの期限を決めることも重要です。
導入するサービスを選定する
導入の目的が明確になれば、LMSの選定に移ります。掲げた目的を実現するためには、既成のサービスで可能なのか、自社開発が必要なのかを判断します。
完全に自社の目的に合致するサービスはなくてもカスタマイズが可能であったり、妥協できるレベルであれば既成のサービスを活用したほうがコスト的にも実現しやすいでしょう。
既成のサービスを導入する場合は、受講者の特性や受講環境を考慮し導入形態を「オンプレミス(自社サーバー内設置)」か「クラウド(外部サーバーのプラットフォーム利用)」に決め候補を絞り込みます。
コスト面の検証をおこなう
導入するLMSの候補が絞りこめたら、コスト面を比較・検討します。コストを検証する際には、イニシャルコストだけではなく、ランニングコストも十分に着目してください。LMSのサービスは、受講者1人につきアカウント発行し、アカウントの口数で金額が決まるものが大半です。
イニシャルコストが安くても、月額利用料が高ければ総額コストは高くなります。ボリュームディスカウントが提供される場合もあるため、最終的に想定される受講者数から、もっともバランスのよいサービスを選べばよいでしょう。
DX人材育成の投資効果を最大化するには?
DX投資、人材育成は目的や投資対効果の考え方が異なります。それぞれの目的や費用対効果を整理したうえで、ROIと向き合う必要があります。
本資料は、DX推進担当者向けに、DX人材育成を推進する上で重要な考え方を3つお伝えします。
DX人材育成の育成計画や目標を策定する際の参考としてお役立ていただけますと幸いです。
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運用体制の整備
LMS導入時は人事部門だけでなく、システム部門をはじめ社内外の関係者と調整を図りながら進める必要があります。スムーズに導入を進めるためには、各自の役割を明確化したうえで、スケジュールの共有が必要です。
合わせて導入後の運用体制の整備も、同時進行で進めていく必要があります。メインとなる管理者の人選や、トラブル時のシステム部門との連携などを細かく決めていきます。また、受講対象となる部門から担当者を選任してもらえば、育成課題の共有やコンテンツの改廃も進めやすくなるでしょう。
試験導入を経て本導入
本導入の前に、必ず試験導入を実施することが大切です。いきなり対象者全員が使い始めた場合、なんらかの不具合が生じ滞ると、高まった学習意欲を低下させ、改善後も利用率が低迷する恐れがあります。
特定の部署などに限定し、スモールスタートで不具合が生じないか検証することが必須です。入念な試験運用ののち、課題があれば洗い出し改善し、不具合が生じないことを確認したうえで本導入に踏み切りましょう。
効果の検証と改善をおこなう
本導入後は定期的に受講状況を確認し、効果の検証と改善を繰り返します。受講者に不人気なコンテンツがあれば、原因を特定しブラッシュアップを図りましょう。
また、研修レポートや受講者の感想、アンケートなどから学習効果を分析し、改善に役立てることも必要です。効果を最大化するためには継続的にPDCAサイクルを回し、こまやかなメンテナンスを実施することが欠かせません。
LMS(学習管理システム)選定時の注意点
ここからはLMSを選定する際の注意点を解説します。
- モバイルデバイスでの視聴に耐えられるか
- 自社作成のコンテンツを活用できるか
- 教材コンテンツの互換性や学習履歴の引継ぎが可能か
- 人事システムとの連携が可能か
- 導入目的の実現に必要な機能は網羅されているか
- サポート体制は充実しているか
モバイルデバイスでの視聴に耐えられるか
多くのLMSはモバイルデバイスを使用した受講環境を想定しており、スマーフォンやタブレットでの視聴は可能と考えて差支えないでしょう。ただ、社用のデバイスを従業員に貸与している場合は、対応するOSなどデバイス側のスペックや通信環境が、視聴に耐えられるかの確認は必要です。
LMSを導入したものの、デバイスや通信環境の問題で視聴にストレスを感じるようであれば、利用が進まず導入失敗に至る恐れがあります。
自社作成のコンテンツを活用できるか
LMSサービスに搭載されたeラーニング教材だけでなく、自社で作成したコンテンツの配信が可能かも確認します。ビジネスマナーなど汎用的な学習内容であれば、既成の教材でも十分に活用できるでしょう。
しかし、個別の業務に関するスキルのレクチャーなどは、自社で独自に作成する必要があります。コンテンツの作成機能と、配信機能が搭載されているサービスを選択できればベストです。
教材コンテンツの互換性や学習履歴の引継ぎが可能か
将来的にLMSを乗り換えることを想定し、教材コンテンツの互換性や学習履歴の引継ぎが可能であるかを確認しましょう。市販のeラーニング教材やLMSには「SCORM規格」という共通規格があります。
SCORMに準拠したLMSであれば、将来他社のLMSに乗り換える必要が生じても、これまでの教材を使用できます。また、一つのLMS上で異なる会社のコンテンツを配信できるなど、学習内容の幅を広げることもできるでしょう。
人事システムとの連携が可能か
勤怠や異動履歴などを管理する人事システムとの連携が可能かも確認が必要です。具体的には人事システムからダウンロードした人事データを、LMSに取り込めるかという点です。
人事異動や、組織再編により受講者の所属が、大幅に変更になることが考えられます。こうした人事異動が発生するたびに、LMSも同様に更新しなくてはなりません。
LMS側の更新が同時進行で実施できなければ、異動後の新しい部署で必要な導入研修の受講もままならないでしょう。
導入目的の実現に必要な機能は網羅されているか
導入検討時に掲げたLMSの導入目的の実現に、必要な機能が網羅されているかも重要な確認ポイントです。個々の従業員のスキルや特性を可視化し、人材発掘や人事異動に活用したいのであれば、タレントマネジメント機能を搭載したLMSの活用が効果的です。
キャリア支援に重きを置きたいのであれば、個々の従業員のキャリアプラン策定を支援するキャリアマップ機能を搭載したLMSもあります。自社の実現したい目的に合致したLMSであるか十分に検証し確認しましょう。
サポート体制は充実しているか
アフターフォローの充実度も重要な確認ポイントです。前述のとおりLMSの不具合により、コンテンツの視聴が困難な状態が生じると、利用率の低下を招きかねません。
専任の担当者を設けてくれるサービスであれば安心です。また、休日や夜間の対応についても確認します。24時間・365日対応可能なヘルプデスクを設置していることが望ましいでしょう。
なお、LMSを十分に活用し、理想的な形でDXを進めていくには、DXの推進役となるDX人材の育成が欠かせません。
エクサウィザーズが提供する、DX人材育成サービス「exaBase DXアセスメント&ラーニング」は、実務で活躍するDX人材の効果的な育成をサポートします。
「exaBase DXアセスメント&ラーニング」は、DX推進のための人材育成を支援するサービスです。企業のDX課題を解決するため、現状の可視化や育成計画の策定、最適化された学習プログラムの提供を行います。主な特徴は以下の3点です。
- DIA3.0アセスメント:デジタルスキル標準に基づき、組織のDXリテラシーやスキルを測定し、育成計画を立案。
- 人材要件の定義と計画策定:企業の目標に応じた人材要件を定め、必要な育成内容を具体化。
- パーソナライズ育成プログラム:eラーニングやUdemy Businessを活用し、個々のニーズに応じた学習機会を提供。
効率的にDX人材を育成するには、個々の受講者の学習進捗の管理と、それぞれに適した学習内容のレコメンドが欠かせません。「exaBase DXアセスメント&ラーニング」は、LMS・LXPとしての機能を有しており、高い学習効果が期待できます。
これにより、全社的なDXリテラシー向上と専門人材の早期育成が可能となります。
まとめ
自発的な学びを促進するには、企業側がコストをかけ工夫を凝らすことにより、効果的な学習が可能な環境を構築しなくてはなりません。そのためには、従来の集合研修だけでは十分な対応は不可能です。人材育成の分野においても、DXによる効率化や、新たな価値提供が進んでいます。その一つがLMSです。
人材育成に対する取り組みが企業価値の判断基準として、内外のステークホルダーの関心事となるなか、LMSの導入は優先的に検討しなくてはならない課題といえるでしょう。