多くの企業がDXに取り組み、業務プロセスの変革や新規事業へのシフトを加速させています。そうしたなか、生成AIをはじめとしたAI技術は飛躍的に進歩し、ビジネスへの活用が浸透してきました。DXは新たなフェーズに入ったといっても過言ではありません。
しかしながら、AIのビジネスへ活用度合いは、企業によってばらつきがあり、日本全体においても諸外国に後れをとっている現状があります。AI活用が思うように進まない大きな要因が、AI人材の不足です。
AI人材の育成は早急に取り組むべき課題であり、将来における競争力を担保するうえで欠かせない施策となっています。この記事ではAI人材の育成方法を解説し、なかでも組織階層に応じた教育施策の重要性を紐解いていきます。
AI人材とは
AI人材とは、人工知能に関する高度な知識と実践的なスキルを持ち、AI技術の開発や導入、運用、そしてビジネスへの活用を担う人を指します。AI人材の活躍分野は、機械学習やディープラーニング、自然言語処理などが挙げられ、これらを理解し実務に活用するスキルが求められます。
企業に求められるAI人材には、学術的なAI理論よりも、ビジネスの視点でAIに関わることが必要とされます。たとえば、目の前の業務課題をAIで解決することや、AIを核に据えた新規事業を創出し、新しい価値を生み出すことを求められるのです。
また、昨今では生成AIの発展により、日常業務レベルの活用も増加しています。こうしたなか、リスク管理の観点から全社的なAIリテラシーの醸成は急務であり、こういった取り組みもAI人材の役割となりつつあります。
AIを軸に事業変革をもたらし、企業として健全なAI活用を推進できる人材こそ、今後ますます求められる「AI人材」といえるでしょう。
AI人材の育成は急務
これからのビジネスにおいて、生成AIをはじめとしたAIの活用は、企業の存亡を左右するといっても過言ではありません。しかし、AI活用推進の担い手となる、AI人材の不足は深刻であり、早急な育成が求められています。
ここでは、国内のAI人材の現状を見ていきましょう。
AI人材の充足度
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の調査「DX動向2025」には、国内のAI人材の現状とアメリカ・ドイツを比較した資料が掲載されています。
【AI人材の充足状況(人材層・国別)2024年調査結果】
| 人材層 | 国 | ・十分にいる ・まあいる を足した割合 |
|---|---|---|
| AIに理解がある経営・マネジメント層 | 日本 | 33.7% |
| アメリカ | 78.4% | |
| ドイツ | 69.8% | |
| AIを活用した製品・サービスを企画できるAI事業企画 | 日本 | 11.5% |
| アメリカ | 72.3% | |
| ドイツ | 59.8% | |
| 現場の知見と基礎的なAIの知識を持ち、自社へのAI導入を推進できる従業員 | 日本 | 10.2% |
| アメリカ | 68.7% | |
| ドイツ | 61.3% | |
| AIツールでデータ分析をおこない、自社の事業に活かせる従業員 | 日本 | 11.4% |
| アメリカ | 68.9% | |
| ドイツ | 61.4% |
参考:『DX動向2025』独立行政法人情報処理推進機構(IPA)P37図表2-8
経営層や事業企画、一般従業員層まで、アメリカ・ドイツを比較して大幅にAI人材が不足している現状が明らかになっています。
生成AIの活用は拡大している
日本国内におけるAI人材の不足が顕著ななか、生成AIの業務活用は拡大しています。同じく「DX動向2025」から、国内企業の生成AI活用状況を、前年度と比較してみます。
【生成AIの活用状況(日本)】
| 導入済み | 試験運用中 | 合計 | |
|---|---|---|---|
| 2024年 | 22.6% | 16.7% | 39.3% |
| 2023年 | 15.6% | 19.8% | 35.4% |
参考:『DX動向2025』独立行政法人情報処理推進機構(IPA)P38図表2-9
アメリカ(58.5%)、ドイツ(46.9%)には及ばないものの、日本企業においても着実に生成AIの業務活用が進んでいることが分かります。昨今の生成AI技術の急速な発展に鑑みれば、この傾向は2025年以降、急加速することが容易に想像できるでしょう。
AI人材の育成が不可欠な理由
AIの活用において諸外国に後れをとっている現状があるなか、AI人材の育成は急務であるといえます。AIを用いた業務の自動化やデータ分析による、生産性向上やコスト削減が競争力の源泉となるからです。また、AIを中心に据えた新たなビジネスモデルの展開は、将来における事業拡大のキーポイントとなります。
また昨今、AIはデジタルトランスフォーメーション(DX)を支える中核技術となりました。これまでDXはデジタル技術中心の業務変革を推し進めてきましたが、近年ではAIの活用にその軸足を移しつつあります。DXは、AIを中心に据えた、さらなる業務変革と新たな価値創造に移行し「AX」という新たなフェーズに突入したのです。
こうした潮流に乗り、競争力を強化することが企業存続のキーポイントとなることは間違いありません。そのためにも、戦略的投資をもって最新の知識を持つAI人材を育てることが不可欠なのです。
AI人材の3類型
ここでは、AI人材の類型について整理しておきます。AI人材の類型は、「学術的な研究者」「実用的なAIシステムの開発者」「事業活動へのAI活用推進者」の3フェーズに分類されます。
企業における育成対象となるのは3番目の「事業活動へのAI活用推進者」です。
AI技術の研究者
人工知能の理論やアルゴリズムの発展に取り組むのが「AI研究者」の役割です。AI研究者は、既存技術の枠を超え、新しいモデルや手法を生み出すことでAIの可能性を広げることを目的に活動しています。
主な活動の場は大学や公的研究機関であり、研究成果を論文や学会発表を通じて共有しますが、昨今では企業内研究員としてAI開発に携わるケースも少なくありません。研究者の知見や成果は、次世代のAI技術を支える重要な要素であり、AI人材育成の根幹をなすものです。
AIの開発者
AIの開発者は、研究による理論や技術を、実際の製品やサービスに応用する役割を担います。いわゆる「ベンダー」と呼ばれる存在で、ソフトウェアエンジニアやデータサイエンティストとして、AIモデルの設計からトレーニング、テスト、最適化までを一貫しておこないます。
顧客の課題やニーズに基づいてAIソリューションを開発したり、既存システムにAIを組み込んで性能を向上させたりなど、業務領域は多岐にわたります。いわば各企業の要望に応じたAIの実装を担う開発者は、AI活用推進における中心的な存在です。研究成果を企業の現場に反映させる橋渡し役と捉えればよいでしょう。
事業活動へのAI活用推進者
AI活用推進者は、AI技術をどのように事業へ取り入れ、企業価値を高めていくかを立案・実行する人材です。プロダクトマネージャーや事業企画担当として、AI導入による収益拡大や競争力強化を推進します。具体的な活動としては、自社の競争力強化に寄与するAIを活用した新サービスや製品の企画や、顧客対応などの既存業務の効率化を推進することが挙げられます。
実際の活動現場では、プロジェクトの管理者として現場の意見を反映させつつ、開発者と協働するといった橋渡し的な役割を担うことが多くなります。そのため自社ビジネスの理念から実務レベルまで精通し、かつAIの専門知識も高度に備えておくことを求められるのです。
AI人材育成の方法
企業内におけるAI人材の育成が難しい原因は、AIそのものが新しい技術であり教育手法が確立していないことや、高度専門的な知見が必要なことが挙げられます。加えて技術進歩のスピードが極めて早いため、教育内容がすぐに陳腐化してしまうことも問題です。
現状においては内製化は難しく、政府の取り組みや外部機関の教育カリキュラムに頼ることが、現実的な選択肢になるでしょう。
政府の取り組みを社内で導入する
企業がAI人材育成を進めるうえで、まず何を皮切りに進めていけばよいのか、初動に悩むことが多いでしょう。その際は、政府や自治体が提供するプログラムを活用することが有効です。具体的には経済産業省主催の「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」が挙げられます。
「将来成長が見込まれるIT・データ分野」において、社会人が高度な専門性・実践力を身につけるための認定制度であり、一定の要件を満たせば受講費用の一部を補助する仕組みがあります。こうした制度を活用することにより、コストを抑えつつAI人材の育成に着手できるでしょう。
自己学習の環境を整える
AI人材育成を効果的に進めるためには、社員が自ら学び続けられる環境を提供することが有効です。eラーニングやオンライン講座を導入し、費用を会社が負担あるいは補助するなどして、社員に受講を促すことで、多くの社員が時間や場所にとらわれず知識を深められます。
ただ、講座を導入して終わりでは、思うような学習成果を期待できません。学習者同士で成果を共有できる社内コミュニティを整備するなど、従業員同士で切磋琢磨できる場を作ることにも取り組む必要があります。そうすることで、モチベーションが維持され、学びが定着します。会社が積極的に、継続的な学習機会と環境を提供することで、企業全体のAIリテラシーを底上げし、組織としての競争力強化を実現できるのです。
外部研修を受講する
eラーニング等、独学の環境を提供することは、全社的なAIリテラシーの向上には有効です。しかし社内のAI活用を主導する推進人材に対しては、もっと専門的かつ高度な教育を施す必要があります。その際に有効なのが、外部機関による専門研修の活用です。大学や専門機関が主催する研修では、最新のAI技術や実際の事例をもとにした実践的なカリキュラムが用意されています。
こうした研修に社員を参加させることにより、短期間で現場に活用できるスキルを身につけることが可能です。また他企業の受講者との交流機会が設けられることにより、新たな発想や知見を社内に持ち帰ることも期待できます。外部の専門機関を積極的に活用することで、より高度で実践的なAI人材育成を実現できるでしょう。
階層別AI人材育成のポイント
AI人材を育成するにあたり、学習すべき内容は広範かつ膨大であり、特定の人材が網羅的に習得することは現実的ではありません。そこで、必要になるのが組織内の役割や立場において、学ぶべき内容、身につけるべきスキルを細分化することです。
当たり前のことですが、取締役と一般社員では組織内の役割や仕事内容はまったく違います。そのため、それぞれの役割や業務内容に応じたカリキュラムが必要です。つまり、AI人材の育成は、階層別・役割別に分類して学習内容を構築し、それぞれの目標を設定し進めていくことが求められるのです。
- 経営層
- 中堅社員層
- 一般社員層
少なくとも上記3階層に分けたカリキュラムは必要になるでしょう。
経営層向け
経営層の役割は会社運営の方向性を定め、それを経営戦略に落とし込み、事業活動をリードすることにあります。AIの活用についても同様で、自社や業界にAIがもたらす影響を把握したうえで、企業成長をもたらす戦略を立案することが主な役割になります。
経営層が身につけるべきスキルは、具体的なAI技術や知識ではありません。「AI活用により解決する経営課題の選別」や「AIを用いてどのように競争優位性を確保するか」といった視点を身につける必要があります。経営層に対する育成は、このマインドを醸成することが主な内容となります。
中堅社員層向け
管理職をはじめとした中堅社員が担うのは、AIを活用した業務効率化や新規ビジネスの推進役としてのポジションです。そのため中堅社員には、AIの基本的な仕組みを理解し、自社業務への応用を判断できる能力が求められます。
そのためには、AIアナリティクスの技術面に精通していることはもちろん、業務へのAI導入をリードするプロジェクトマネジメントスキルも必要です。こうしたスキルを持つ中堅社員が増えれば、組織的なAI導入が効果的に進み、全社レベルの効率化や新たな価値創造が見込めます。
一般社員層向け
実務の担い手である一般社員に向けた教育は、まず、各個人のAIリテラシー向上が欠かせません。必ずしもAI技術の専門的な知識を身につける必要はありませんが、AIやデータ活用の基本的な考え方は理解して、実務に活かせるだけのスキルは求められます。
一般社員層がAIの基礎知識を身につけ、日常的に業務にAIを活用するようになれば、日々こなしているルーティンワークにも、新たな効率化や改善のヒントを見いだせるようになります。こうした素養を持つ一般社員が増えることで、現場レベルの活用が進み全社的な変革を支えていくようになるでしょう。
AI人材育成の注意点
AI人材育成を進めるにあたっては、いくつか注意すべき点があります。
- 経営陣の積極的な関与を促す
- 現場への周知を徹底する
- 外部機関のノウハウを活用する
それぞれ見ていきましょう。
経営層の積極的な関与を引き出す
まずは、経営層の積極的な関与を引き出すことが重要です。AIの活用、AI人材の育成が近い将来の企業競争力の源泉になることを理解してもらい、取り組みが遅れることに対する危機感を共有する必要があります。
経営層がAI活用の重要性を理解することにより、AI人材の育成が「自社の将来を左右する重要な投資である」という意識が生まれます。こうした認識を折に触れ、経営層が社内外に明確に発信することによって、社内全体に浸透しAI人材育成の気運が高まるでしょう。
現場への周知を徹底する
経営層の発信に呼応し、現場を預かる管理職が、それぞれの職場でAIの活用とAI人材育成の重要性を周知することも必要です。単なる方針として落とすだけでなく、AI活用により得られる業務効率化のメリットを説き、一般社員のAIに対する関心の底上げを図ります。
一般社員がAIの活用により、業務がどのように変わるのか。AIスキルを身につけることでどのようなキャリアアップが実現するのか。具体的にイメージできれば学習に対するモチベーションが高まります。このように、組織全体でAI人材育成に取り組むことにより、AI技術による競争力強化が現実のものとなるのです。
外部機関のノウハウを活用する
AI人材の育成においては、経営層・中堅社員・一般社員に対し、それぞれ違ったアプローチが必要です。こうした育成施策を社内で構築するのは困難を極めるでしょう。特に経営層の意識改革や、中堅社員に対する具体的なAI技術面の教育は、高度な専門知識やノウハウが必要です。
そのため、AI人材育成の各施策は、外部機関と協働することが現実的な選択肢となるでしょう。自社の目指すAI人材育成における「あるべき姿」を共有し、より具体的な形で実現に向け協働できるパートナーを見つけることが、AI人材育成においてはもっとも重要なことかもしれません。
エクサウィザーズが提供するAX人材育成ソリューション
株式会社エクサウィザーズは、AIエージェントを活用した企業変革を支援する、「AX人材ソリューション」を提供しています。AX(AIトランスフォーメーション)とは、AIを中核に据えた抜本的な企業変革を指し、DXの次フェーズをなすものです。
企業がAXを推進するには、AI変革リーダーの育成や全社員のリテラシー向上が欠かせません。エクサウィザーズでは、これらの育成施策を進め、業務改革・組織変革を実現するための包括的な研修プログラムを提供します。
当社のAX人材ソリューションの特徴は、経営層から新入社員まですべての人材を対象にしている点にあります。単なる知識やスキルの伝授にとどまらず、経営層から現場社員まですべてを巻き込み、AI活用文化の醸成を進め、持続的な事業変革を後押しします。
【階層別研修の概要】
エクサウィザーズのAX人材育成ソリューションでは、所属する人材を以下の3階層に分け、それぞれに応じたカリキュラムを提供します。
| 経営層向けAX研修 |
|
|---|---|
| 中核リーダー向け研修 |
|
| 全社員向けAXリテラシー研修 |
|
【AX人材育成ソリューションにより期待される効果】
AX人材育成ソリューションを導入することにより、以下の効果が期待できます。
- 全社員のAIリテラシー底上げ
- AX推進リーダーの育成
- プロトタイプの開発を通じた業務改善のアイデア創出
- AIエージェントを活用した業務変革の実現
- デジタル人的資本経営への対応とDX企画・推進力の向上
経営層から一般社員まで、すべての人材に対しアプローチすることにより、こうした複合的な効果を生むことができます。全社一丸となりAI人材育成に取り組むことにより、AXは加速度的に推進し、ゆるぎない競争力の源泉となるでしょう。
まとめ
AI人材育成を成功させるには、経営層・中堅社員・一般社員という階層ごとに異なる教育施策を設計することが不可欠です。
経営層にはAIが事業にもたらすインパクトを理解したうえで、戦略的に活用を推進する視座が求められます。中堅社員層には、AIを活用して業務効率化や新規ビジネス創出をリードする実践力が必要です。そして一般社員層には、AIリテラシーを高め、日常業務での活用を通じて現場レベルの変革を支える力が重要となります。
こうした階層別のアプローチにより、AI活用が事業成長のキーポイントであることの共通認識として定着するのです。AI人材育成は単なるスキル教育ではなく、企業の競争力を左右する経営戦略の一部として、全社的に取り組むべきテーマといえるでしょう。