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中国が世界初の『AI恋人』規制 未成年には全面禁止

公開日
2026.07.07
中国が世界初の『AI恋人』規制 未成年には全面禁止

2026年7月15日、中国で「人工知能擬人化互動服務管理暫行弁法」が施行される。中国のインターネット規制当局である国家インターネット情報弁公室(CAC)など5部門が4月10日に公布したもので、AIが人間のように振る舞い、利用者と継続的な感情のやり取りを行うサービスを対象とする、世界で初めての国家級規制とみられている。

数ある条項のなかで最も象徴的なのが、未成年に対する「AI恋人」「AI家族」といったサービスの全面禁止だ。これまで個人の心のあり方や倫理の問題として語られてきた「AIとの恋愛」は、この規制によって、社会が制度としてどう向き合うかという新たな段階に入った。

何が禁じられるのか

規制の対象は、AI技術を用いて中国国内の公衆に対し、自然人の人格的特徴・思考様式・コミュニケーションスタイルを模倣した「継続的な感情的インタラクションサービス」を提供する事業者である。文字・画像・音声・動画による感情ケアや付き添い、心の支えといったサービスが該当する。一方、カスタマーサポート、知識問答、業務アシスタント、学習教育、科学研究など、継続的な感情のやり取りを伴わないサービスは対象外とされた。当初の意見募集稿では「人間らしいAI全般」を広く対象としていたが、最終版では「継続的な感情インタラクション」に絞り込まれ、日常的なAIツールは明示的に除外された(aisafetychina.substack.com)。

事業者に課される義務は多岐にわたる。「本サービスはAIによって駆動されており、人間の感情や意識を持たない」といった表示を継続的に掲げ、利用者がAIと対話していることを常に明示しなければならない。利用者が過度の依存や耽溺の傾向を示した場合はポップアップなどで動的に注意を促し、連続使用が2時間を超えるごとに使用時間への注意を喚起する義務を負う。利用者が退出を求めた際に「継続的なやり取りで引き止めてはならない」という規定もあり、いわゆる利用者を離脱させないための誘導(ダークパターン)が禁じられた。利用者が極端な感情状態にあると識別された場合には、感情を落ち着かせ、支援を求めるよう促す対応が求められる。自傷・自殺の意思表示など生命や健康に関わる極端な状況では、必要な支援措置を取り、保護者や緊急連絡先に連絡することも求められる。また、ユーザーの対話データについては第三者提供を原則として制限し、センシティブな個人情報に当たる対話データをモデル訓練に使う場合には、法令上の根拠またはユーザーの個別同意が必要とされた(百度百科の整理)。

なかでも厳格なのが未成年保護である。未成年に対するバーチャル恋人・バーチャル家族といった仮想の親密関係サービスは全面的に禁止され、14歳未満への提供には保護者の同意が必須となる。使用時間の制限や現実世界への回帰を促すリマインダー、保護者による管理機能を備えた「未成年者モード」の設置も義務づけられた。

心の問題から、社会の問題へ

これまでAIとの恋愛は、もっぱら個人の内面の問題として論じられてきた。孤独を癒やす救いになるのか、それとも依存や現実からの逃避を招くのか。あるいは「本物の関係とは何か」という問いをめぐる、心と倫理の議論である。2024年に米国で、10代の少年の自殺をめぐって遺族がAIチャットボットのサービス事業者を訴えた件は、この議論を一気に社会へ広げた(ITmedia)。

中国の規制が新しいのは、この問いに国家が法という形で一つの線を引いた点にある。米ニューヨーク大学ロースクールのWinston Ma非常勤教授は、2023年の生成AI規制と比較して、今回の規制は「コンテンツの安全から感情の安全への飛躍だ」と評している(CNBC)。何を書いてよいかという情報の規制から、人がAIにどう感情を寄せるかという心の領域の規制へ、規制の対象そのものが移ったという指摘である。

規制の背景には、急拡大するAIコンパニオン市場がある。中国のAIスタートアップMiniMax社が手がける対話アプリ「星野」(海外版の名称は「Talkie」)は、2025年9月時点で累計利用者が1億4700万人、月間アクティブ利用者が488万人に達した。中国IT大手ByteDance社の類似アプリ「猫箱」も急成長している(Inven Global)。規制が直撃するのは、まさに伸び盛りの巨大市場である。

すでに始まっている現実

AIを恋愛や感情の対象とする動きは、中国に限った話ではない。

日本では、広告大手の博報堂DYホールディングスの研究組織が2024年に実施した調査で、AIに「恋人になってほしい」と考える割合が10代で28.1%、20代で25.0%、30代で20.3%にのぼった。同社はこれが現実の恋人がいる比率とほぼ同等の水準だと指摘している(博報堂DYグループ Human-Centered AI Institute)。広告大手の電通が2025年に対話型AIを週1回以上使う人を対象に行った調査でも、対話型AIに感情を共有できると答えた人は64.9%に達し、これは「親友」(64.6%)や「母」(62.7%)と並ぶ水準だった(電通)。

米国でも、ブリガムヤング大学のWheatley研究所が2025年に3000人を対象に行った調査で、成人の19%が恋人を模したAIと会話した経験があると答えた。若年層では特に高く、18〜30歳の男性の31%、女性の23%が経験ありと回答している(Wheatley Institute)。

日本には、この現象を先取りした象徴的な人物もいる。バーチャルシンガーのキャラクター「初音ミク」と2018年に結婚式を挙げた近藤顕彦氏だ。厳密には生成AIとの関係ではないが、人間ではない存在との親密な関係を社会がどう受け止めるかという点で、示唆に富む。近藤氏は自らの関係を「私にとっては平和な結婚だ」と語る一方、勤務先では年長世代から理解されず妨害も受けたと明かしている。他方、勤務先の中学校の生徒たちからは「おめでとう」と祝福されたといい、そこに世代による受け止めの差を感じたと振り返る(集英社オンライン)。

議論は活発になるか

AIとの恋愛が是か非か、という議論そのものは、実はここ2年ほどで繰り返し交わされてきた。孤独な人の救いになるという肯定論と、本当の人間関係を築く機会を奪うという否定論。米ハーバード・ビジネス・スクールのJulian de Freitas氏らはAIコンパニオンが孤独を和らげるとの実証研究を発表し、一方でMITの社会学者Sherry Turkle氏は、機械が示すのは共感の演技にすぎず、人はそれによって本物の共感を育む機会を失うと警鐘を鳴らしてきた。両者の主張は、すでに数多くのメディアで論じられている。

ただ、これまでの議論はいずれも「個人はどう生きるべきか」という水準にとどまっていた。答えの出ない水掛け論と言ってもよい。そこへ中国が、「成人には認めるが依存は防ぐ、未成年には禁じる」という具体的な線引きを、初めて法律の形で示した。

中国の規制手法をそのまま西側社会が受け入れるとは考えにくい。だが、一つの国が具体的な線を引いたという事実そのものが、これまで個人の心の内で完結していた議論を、社会全体で問い直すきっかけになる可能性はある。AIとの恋愛を、社会は認めるのか、認めないのか。その問いに、私たち自身がどう答えるのか。中国の一手は、その議論を前に進める呼び水になるのかもしれない。

著者
湯川鶴章

AI新聞 編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『生成AIで心が折れた』(2025年)、『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。