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AI時代の2強OpenAIとAnthropicの戦略が分岐し始めた

AI時代の2強OpenAIとAnthropicの戦略が分岐し始めた

AI時代の2強、米OpenAIと米Anthropicの戦略が分岐し始めた。

これまで両社は、同じ方向を目指す競争相手に見えた。より高性能なAIモデルを開発し、APIを通じて企業に提供する一方、ChatGPTやClaudeといった自社製品も展開する。安全性を重視しながら、AIエージェントを企業の仕事に組み込もうとしている点も共通している。

しかし最近の経営陣の発言と製品展開を見ると、モデルの上にある事業を誰が担うのかについて、両社は異なる答えを出し始めた。

OpenAIの最高経営責任者(CEO)Sam Altman氏は、2026年7月28日に公開されたポッドキャストで、「あらゆる業界向けのアプリを自分たちで作り、すべてのスタートアップや企業の事業を奪うことには興味がない」と語った。OpenAIが目指すのは、世界中の企業や個人が製品を作るためのプラットフォームを提供することだという。

これに対し、Anthropicの共同創業者兼CEO、Dario Amodei氏は、「Anthropic自身が提供する製品を、今後まったく作らないと約束はしていない」と明言している。同社は、モデルを提供するだけでなく、Claude CodeやClaude Cowork、Claude Tagなど、Claudeを実際に働かせる製品を次々に投入している。

OpenAIは高性能な「知能」を共通部品として提供し、その上に作る製品を外部企業に委ねようとしている。一方、Anthropicは、モデルと、モデルを働かせる仕組みを一体化し、自ら完成品に近いところまで作ろうとしている。

「モジュール戦略」のOpenAIと、「統合戦略」のAnthropic。AI時代の2強は、異なる産業構造を作ろうとしている。

OpenAIは「知能を売る」事業へ集中

Altman氏はこの1年間のOpenAIについて、「あまりにも多くのことをやり、焦点を失っていた」と振り返った。

背景には、OpenAIが契約した膨大な計算資源を本当に使い切れるのかという懸念があった。2025年初めの時点では、AIモデルへの需要が想定ほど早く伸びなかった場合に備え、消費者向けアプリやメディアなど、別の方法で計算資源を収益化することも検討していたという。

ところが、モデルの能力と利用需要は予想以上の速さで伸びた。高性能なAIには明確な経済価値があり、計算資源を使う顧客も十分にいることが分かった。そこでOpenAIは、事業の焦点を「最高で、最も豊富で、最も費用対効果の高い知能」の提供へ戻した。

Altman氏によると、OpenAIの仕事は、高性能なモデルを作ることだけではない。そのモデルを大量かつ低コストで動かすため、半導体や計算システムの開発に関与し、土地、電力、データセンターも確保する。将来はロボットを使って設備の建設や供給網を自動化し、知能を生産するコストをさらに下げる構想も持つ。同社は米半導体大手Broadcomと、10ギガワット規模の独自AI半導体とシステムを共同展開する計画も発表している。

一方、そのAIを使って法律、金融、医療、製造業などの個別業務に対応するアプリを作る仕事は、外部企業に広く任せようとしている。

OpenAIは、知能を電気のように経済全体へ行き渡らせたいと考えている。電力会社が電気を使うすべての製品を自ら製造しないように、OpenAIもAIを使うすべての業務製品を作るつもりはない。自社の知能を利用して多数の企業が事業を作り、その企業が価値の大部分を得る構造を目指している。

もちろんOpenAIが自社製品をやめるわけではない。ChatGPTに加え、ソフトウェア開発を担うCodexなども強化している。Altman氏が否定したのは、自社製品そのものではなく、あらゆる業界のアプリを自社で作り、顧客企業と片端から競争する戦略である。

モデルと計算基盤に経営資源を集中し、個別の業務アプリを外部企業が構築する余地を広く残す。モデルは、顧客企業が構築するシステム全体の中のモジュールの1つに過ぎず、顧客企業はそれをデータやツール、制御・管理システムなどのモジュールと好きに組み合わせることができる。これがOpenAIの「モジュール戦略」である。

Anthropicはモデルとハーネスの統合を製品化

Anthropicも、自社をプラットフォーム企業と位置づけている。しかし、モデルの上にある製品へ踏み込む姿勢は、OpenAIよりも積極的に見える。

Amodei氏は、Claudeに簡単な画面や指示文を加えただけの製品では、事業を守れないと指摘する。同じ機能をAnthropic自身や競合企業が容易に提供できるからだ。そのうえで、Anthropicがそうした自社製品を作らないとは約束できないと明言している。

その代表例がClaude Codeだ。Anthropicは2025年2月に研究プレビューとして公開し、5月に正式提供を始めた。年間換算売上高は同年11月に10億ドル、2026年2月には25億ドルを超えた。

その後、AnthropicはClaude Code単体の売上高を公表していない。ただ、米AI業界分析ニュースレターData Gravityは、成長速度やAnthropic全体の売上高などから、2026年半ばには年間換算で80億~90億ドルに達したと推計している。米ベンチャー投資会社Value Add VCも、5月時点で約80億ドルと推計する。同時点のAnthropic全体の年間換算売上高は470億ドルだったため、Claude Codeだけで約17%、ほぼ6分の1を占めていた計算になる。

推計値ではあるが、公開から約1年の製品が、Anthropic全体の売上高のかなりの部分を占める主力事業に育ったことを示している。

Claude Codeの成功でAnthropicが示したのは、モデルだけでなく、モデルを実際に働かせる仕組み、つまりハーネスも大きな事業になるということだった。

同社はその後、知識労働向けのClaude Cowork、Slack上で仕事を依頼できるClaude Tag、長時間の作業を実行するClaude Managed Agentsなどを相次いでハーネス統合製品を投入している。

さらに同社は、この手法を他業種にも拡大し始めた。金融分野では、金融情報会社のデータをClaudeに接続し、企業分析や投資銀行業務、決算、企業価値評価などを支援する製品やエージェントを提供している。医療分野では、医学論文や医療制度のデータを組み込み、保険審査や診療記録の処理を支援する。生命科学でも、研究データ、分析環境、科学論文をClaudeにつなぎ、研究から規制申請までを支援する製品を展開している。

モデルとそのハーネスを統合することで、AIの能力を最大限に引き出す。これがAnthropicの「統合戦略」だ。

同じプラットフォーム、異なる境界線

OpenAIとAnthropicは、どちらもプラットフォームを目指している。違うのは、そのプラットフォームに何を含めるかだ。

OpenAIが中心商品としているのは「知能」である。高性能なモデルと、それを大量かつ低価格で提供する計算基盤を整え、どのようなデータやツール、業務システムと組み合わせるかは顧客企業に委ねる。モデルは、企業が構築するシステムを構成する部品の一つという位置づけだ。

一方、Anthropicは、モデルと業務別のハーネスを一体化した「知能を働かせる仕組み」を自社製品として提供しようとしている。外部企業の専門知識やデータを取り込みながら、ツールの接続、作業手順、実行環境、利用画面までをまとめて提供する。

モジュール型は、部品を自由に選び、自社のノウハウを管理しやすい。システムの一部を交換しやすく、特定企業への依存も抑えやすい。

統合型は自由度が下がる一方、モデルとハーネスを一体で最適化できる。Claude Codeが示したように、特定の業務では、モデル単体よりも高い実用性能を引き出せることがある。OpenAIもコーディング分野では、モデルと専用のハーネスを統合したCodexを提供している。

モジュール型か統合型か。企業にとっては、部品を自由に選べる柔軟性を取るのか、それとも自由度をある程度手放しても、特定業務に最適化された完成度の高い製品を選ぶのか、という選択になる。

現時点で、どちらが正解かは分からない。業務によって最適な形も異なるだろう。ただ、AIの競争がモデル単体の性能だけで決まる時代は終わりつつある。モデルをどのような仕組みと組み合わせ、実際の仕事に変えるのか。OpenAIとAnthropicの戦略の分岐は、AI業界の次の競争がすでに始まっていることを示している。

著者
湯川鶴章

AI新聞 編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『生成AIで心が折れた』(2025年)、『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。