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AIを導入したのに、なぜ従業員は使わないのか。浸透を阻む「実行意図」の欠如

公開日
2026.09.17
AIを導入したのに、なぜ従業員は使わないのか。浸透を阻む「実行意図」の欠如

日本のエンタープライズ企業でも生成AIを活用している企業が当たり前になってきました。そのいっぽうで、生成AIを導入はしたもののあまり使われていない、もしくは、利用していても成果につなげることができていないという声も聞くことがあります。海外や国内の先行事例を参考に、生成AIが職場で当たり前に活用されるようになり、成果につなげていくことができる方法について解説していきます。

日本のエンタープライズ企業では生成AIの導入は進んでいるが、浸透までは至っていない

生成AIに関するニュースを目にしない日はないほどですが、日本の大企業ではどの程度生成AIが業務で活用されているのでしょうか。

PwC Japanグループが2026年6月に公開した売上高は500億円以上企業の課長以上を対象とする6か国比較調査によると、日本企業において生成AIの活用・推進度は87%という数字が出ており、中国の91%、米国の90%と比較しても、日本企業の生成AI導入についてはグローバルに追いついてきていると見ることができそうです。

その一方で、「期待を大きく上回る効果を創出している」と答えた企業や「財務的な還元に繋げている」と答えた企業の割合は6か国中最も低く、「成果に還元していない」と答えた割合については中国1%・米国2%に対して日本は19%という非常に高い数字になっているなど、導入に対して効果に繋げられていないという実態が見えてきます。

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)のDX動向2026でも、AI導入の効果において「売上や利益が向上した」と回答した割合は3.9%となっていることから、PwCの調査と同様に売上・利益向上にまで繋げられている企業は限定的であると見ることができるでしょう。

本記事では、このような状況に対して海外や国内で浸透に成功している企業の事例などを参考に、生成AI活用を浸透させ、売上・利益向上につなげるためのアプローチについて解説をしていきます。

ギャップが生まれる原因を掘り下げる

従業員が生成AIを活用して成果につなげるためには、様々な学習プロセスの先行研究が示す通り、「①導入する」「②利用する」「③業務に組み込まれる」「④成果を出すために効果的に利用する」というプロセスを経ていくと考えられます。

先述した調査結果を見てみると、日本企業でも導入に関してはクリアしていると見ることができるため、導入以降のプロセスを課題としてとらえるべきでしょう。

このことを裏付けるようにデロイト トーマツの2025年調査でも「ほとんどの社員が利用している」と回答した企業は18.5%にとどまっており、「②利用する」段階に一定の課題があると見ることができます。

なぜ従業員は生成AIを活用しないのか

従業員が求めている行動を実行するかという観点には、目標意図(Goal Intention)と実行意図(Implementation Intention)が参考になります。

目標意図とは「AIを使いたい」「AIを使うべきだ」という目標へのコミットメントを示しており、実行意図は「もしXという状況になったら、Yという行動をする」という行動が意図されているかという概念です。目標意図があり、その上で実行意図が設定されることによって行動への影響が大きく高まることが実証されています。

図1:目標意図と実行意図の強さと行動への影響

目標意図と実行意図の強さと行動への影響

出典:Paschal Sheeran, Thomas L. Webb, & Peter M. Gollwitzer(2005)より筆者作成

メディアでこれだけ生成AIの重要性が語られ、AIを使えなければ職を追われるかもしれないという危機感が示されているなかで、会社からもAIを活用するように求められているはずです。若手から中高年まで「AIを使わなければならない」という目標意図は多かれ少なかれ、多くの従業員の間で共有できていると考えてよいでしょう。そのように考えると、「いつ、どのようなシーンで、どうやって使えばいいかわからない」という実行意図を与えることができれば、従業員の行動を促進できるのではないかという仮説が立ちます。

実行意図を提供した先行事例

実際に、AI活用の浸透に成功している企業をリサーチしてみると、生成AIの研修にとどまらず実行意図を提供しようとしている先行事例を見つけることができます。

Microsoftが社内でCopilotを浸透させるために行った事例では、社内のリーダーから何か仕事を始める際に必ずAIを使えないか考えるように求めるところから始めました。たとえば、「会議が終わったらCopilotに自分のアクションアイテムを確認する」という実行意図を設定していたと説明しています。このような具体的な状況(いつ)と行動(なに)を結びつけることで「AI活用習慣」を職場に浸透させていきました。

その後、Microsoftではさらに一歩踏み込んで、職種別のヒーローシナリオを作成しています。1職種ごとに3つのヒーローシナリオをつくり、それぞれについて6つの業務ステップと6つのCopilotプロンプトをセットにして従業員に展開しました。これによって、自分の役割ではどんなときにどうやってCopilotを活用すれば成果を上げられるのかという具体的なシーンを提供しています。

国内でも同様に実行意図を提供している事例については、NTTドコモの取り組みで確認することができます。会議では「議論・意思決定は人間、議事録・要点整理はCopilot」、資料のレビューについては「上司に提出する前に、まずCopilotが一次レビューを行う」といったAIの活用を「推奨」ではなく、業務フローの中に組み込むようにすることで従業員が迷わずに安心して利用できる状態を作り上げています。

これらの事例については組織が利用シーンを定義し、「いつなにをするか」を具体的に業務フローに組み込んだ形です。少し異なったアプローチとしては、サイバーエージェントの事例が参考になります。プロンプトや成功事例のナレッジ共有などで利用シーンを共有しつつ、一定期間AIが活用されていない場合にはSlackでヒアリングし、ライトなフォローアップで使い方をレクチャーしています。ワークショップやハンズオン、ハッカソンといった場を用意し、「AIを使った最初の成功体験」を作り上げることに集中することで、月間アクティブユーザー率93%という状況を実現させています。

このような先行事例を参考にすると、実行意図を提供することによって初期フェーズの浸透によい影響を与えることができるはずです。

残る論点は、浸透から成果へ

実行意図を与えることに成功し、組織にAI活用を浸透させることができたとしても、それが成果につながるとは限りません。

DeNAが発表したプレゼンテーションでも、AIで業務を効率化することには成功したが、空いた時間に後回しにしていたタスクを詰め込んでしまい、会社が向き合ってほしかった成果とは別の方向に向かってしまったという事例が共有されていました。

また、生成AIを活用することで経験の浅い人でも熟練者のような成果物を短時間で作り上げることができますが、それは本人の能力とは乖離した「見せかけの熟達」です。生成AIには「Jagged Frontier」という人間が考える難易度とは乖離した「得意な領域」と「苦手な領域」があり、人間からすると一見簡単なタスクでもAIが苦手な領域は間違ってしまうことがあります。

経験の浅い人は生成AIの成果物が妥当なものなのかを判断することができない状況でありながら、その一方で、あっという間に大量の成果物を作成することができるようになります。玉石混合の成果物を自らは判断できないまま提出をして、上司が大量のレビューに追われてしまうという本末転倒な事態も起きています。

このような状況を乗り越え、浸透から成果への転換をしていく方法について、次回以降は解説をしていきたいと思います。

出典

著者

エクサウィザーズが誇るAIエンジニアや、DXコンサルタントを始めとするプロフェッショナルの監修の元、マーケティンググループが監修・執筆しています。

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