DXコラム > 経営層インタビュー > データ活用企業になるには、常に“問い”を意識し、データ部門が全社断的に機能すべき

データ活用企業になるには、常に“問い”を意識し、データ部門が全社断的に機能すべき

株式会社エクサウィザーズ
エグゼクティブサポーター
アロン・ハレヴィ 氏

日本企業の多くがデータ活用にうまく取り組めていないと悩んでいる。データ活用の専門人材がいなかったり、組織の縦割りによるサイロ化によって全社のデータ活用がうまくいっていないケースもある。こうした状況に日本企業はいかに対処すべきか。エクサウィザーズのエグゼクティブサポーターであり、米Googleでデータマネジメントの研究責任者などを歴任したアロン・ハレヴィ氏に、こうした状況をどのように打破すればいいのか聞いた。

Q.多くの日本企業も社内に業務のデータを保有していますが、データをどのように活用すればいいのか分からないというのが現状です。ビジネスで成功するために、どのように取り組めばいいと思いますか?

「データが豊富にある」というだけではビジネスで何も達成できません。問いが重要です。質問から始める必要があるのです。そのデータに基づいてどのような質問をして、どのような答えを出したいのかを考える必要があります。

ではどのような質問をするべきでしょうか? それはその企業がビジネスにおいて、一番興味を持っているところを取り上げるべきです。これらの質問に答えることができれば、何らかの形でビジネスを改善できるのです。例えば、「来週売れる環境訴求力が高い商品は何?」というのが質問となります。

こうした質問から始めれば、持っているデータが適切なものかどうかを判断できます。必要なのは、「何を質問するのか?」「何が課題なのか」ということです。明白な場合もありますが、想像力を働かせる必要がある場合もあるでしょう。

あなたが多くのデータを集めていたとしても、そこには必要な情報が含まれていないかもしれません。

簡単な例として、あなたが検索エンジンのサービスを運営しているとしましょう。ユーザーが検索エンジンにやってきますが、入力した単語に対していい答えが見つからない場合があります。

それはどういう場合でしょうか。その質問に答えるコンテンツがWeb上にないのかもしれないし、対応言語が想定と違うのかもしれません。

レストランや旅行をレコメンデーションする場合もあるでしょう。それらの結果が気に入らないものだった場合、よりよくするにはどうすべきでしょうか。データにこだわっているテクノロジー企業は、それぞれの質問に対して常に改善を続けています。

Q.今からおよそ10年前、多くの日本企業にはデータ部門がありませんでした。一方で最近はDXに関連して、データを活用する部門を作る動きが増えています。どのようにすればうまく機能するでしょうか。

組織全体でデータの観点から考え、データ部門を活用して目標達成に貢献することが重要です。

自分がビジネス部門を運営しているならば、ビジネス上の質問が頭の中にあるはずです。そしてデータ部門の成功は、ビジネス部門だけでなく、製品の企画・開発、データなどの部門が一緒になって目標を達成することにあります。

つまり、その質問に答えるのです。ここでデータ部門が取り組むゴールは、ビジネス部門のゴールと一致していることが非常に重要です。両方が成功するか、両方が失敗するか、のどちらかですね。データ部門が孤立して、ビジネスに役立たないようでは成果は期待できません。

アロン・ハレヴィ氏

Q.最近は生成AIが注目されていますが、データ活用の観点から留意すべき点はありますか?

企業は細心の注意を払う必要があると思っています。これらのテクノロジーは大きな可能性を秘めていますが、現時点では大きな欠点もあります。

というのも、生成AIの出力は非常に使いやすく構造化されたテキストデータであり、それれが素晴らしいものだと考えがちです。しかし、それらを鵜呑みにしたくなるような場合には特に、内容が事実かどうか細心の注意を払って確認する必要があります。加えて、企業固有のデータやユーザーデータを生成AIに取り込むことは、依然として課題となっています。

一方で生成AIのテクノロジーをポジティブに捉えると、特定の問題について解決する方法を、従来と大きく変える可能性を秘めていると見ることもできます。

Q.多くの企業にとってデータ部門を構成する主要な役割であるデータサイエンティストの不足が深刻です。外部から雇用してくれるにしても、給与体系がフィットしないといった問題もあります。

そういった話をよく聞きますが、本当にそうでしょうか。社内にいる人材をちゃんと把握しているのでしょうか。

例えば、既にソフトウェアエンジニアを多く抱えているような会社であれば、その中からデータ分析ができる人を見出すのはそう難しいことではないはずです。私が会社の中で最初のデータサイエンティストだとしたら、可能性がありそうなソフトウェアエンジニアとランチをしますね。

Q.有望なソフトウェアエンジニアが全くいない場合もあります。

その場合はデータサイエンスに最も近いチームや担当者から、データサイエンスのチームを育てていけばいいです。今やデータサイエンスの講座も多くあります。

この取り組みを進める際にも重要なのは、やはり問いにあります。興味深く重要な質問を伝えれば、それに答えたいと思う意欲やインスピレーションをもった人々が見つかるかもしれません。そして、それに応じてどのようなデータサイエンスの内容を学べばいいのかの方向性も見えてくるはずです。やる気さえあれば、それほど難しいことではありません。

そして、こうした重要な質問ができるということは、その会社は既に重要なデータを持っている可能性が高いのではないでしょうか。

Q.データをビジネスで活用するには、部門間の壁を壊してデータのサイロをなくす必要もあるかと思います。そうしないと不十分なデータで判断をすることになる。日本企業は縦割り文化が根強く残っています。

データ活用を前提としている企業の多くは、組織横断のクロスファンクショナルチームでプロジェクトを進めています。例えば、製品開発チームは、プロジェクトに取り組む際、エンジニアや研究者と会話する必要があります。データサイエンティストや事業部門、法務担当と話をすることもあるでしょう。

単にクロスファンクショナルチームを作ればいいというものではありません。最初にそのプロジェクトが半年間などの一定期間で何をすべきか、そして「成功したかどうかを何で測定するのか?」を決める必要があります。

まさに冒頭に述べた「質問が大事」ということに通じます。プロジェクトを進めながら、正しい方向に向かっているのかを判断できます。そして、法務担当とは最初に「使ってはいけないデータを使っていないか?」という点を議論しておくべきでしょう。プロセスの最初でさまざまな立場の人が議論することで、実現可能性を高めることができます。

このようにクロスファンクショナルチームによるプロジェクトがうまく働く仕組みを持つことが、縦割り文化を打破し真にデータを活用する組織につながっていきます。

株式会社エクサウィザーズ
エグゼクティブサポーター
アロン・ハレヴィ 氏
1993年にスタンフォード大学コンピュータサイエンス学科博士号取得後、ワシントン大学のコンピュータサイエンス学科の教授を務め、同大学にデータベースリサーチグループを創設。また、起業家としてNimble Technology Inc.とTransformic Inc.の2社を創業。Transformic Inc.をGoogleに売却した後、2005年よりGoogle本社のシニア・スタッフ・リサーチ・サイエンティストとしてデータマネジメント分野の研究を担当。ACM(米国コンピュータ学会)のフェローも務め、2006年にはVLDB 10-year best paper awardを受賞。2015年から2018年までRecruit Institute of Technology(Megagon Labs)のヘッドを務めた後2019年にFacebook AIに参画。現在は米メタ・プラットフォームズの担当ディレクター。