「エネルギー業界を変革するAX戦略」出版記念セミナー イベントレポート〜 東京ガス、関西電力送配電のCDOが語る、AIを前提とした組織実装の取り組み〜
AI技術の急速な進化がビジネスに与える影響が大きくなる中、DXのさらに先にあるAX(AI Transformation)への注目が高まっています。
株式会社エクサウィザーズ(以下、エクサウィザーズ)は、2025年12月16日(火)に都内で、「エネルギー業界を変革するAX戦略」の出版を記念し、出版記念セミナーを開催しました。

本イベントのテーマは、『AX(AI Transformation)』です。
DXが「デジタルを前提に業務を再設計する取り組み」だとすれば、AXは「AIを前提に、戦略・業務・組織そのものを再構築する変革」です。
生成AIの進化により、AIはもはや一部の専門家のものではなく、全社員が日常的に使う前提の技術となりつつあります。こうした環境変化の中で、エネルギー業界はAIをどのように捉え、どこまで踏み込もうとしているのか。
エネルギー業界の第一線でDX・AI活用を推進する東京ガス株式会社、関西電力送配電株式会社のCDOをパネリストとして迎え、その最前線となる取り組みや苦労が語られ、現場の視点から深く掘り下げた議論が交わされました。
「AX」はDXの次の段階
冒頭では、本書の著者の一人であり、エクサウィザーズ 常務取締役の大植択真が登壇し、AXという概念の背景と、同社がこれまでエネルギー業界で伴走してきた取り組みについて紹介しました。
エクサウィザーズは、AI戦略策定から業務実装、AI開発、プロダクト提供、人材育成までを一気通貫で支援するAI専門企業です。これまで約2,000社とAI活用に取り組み、電力・ガス・石油といったエネルギー各社とも多数の実績を積み重ねてきました。
大植は「AIはあくまで手段です。重要なのは“X”、つまり変革そのもの」と強調し、その上で「外部環境が急激に変わる中で、企業が変わり続けるための強力なドライバーとして、AIがある」と説明しました。エネルギー業界を代表する各社とのAI活用取り組み事例も紹介され、エネルギー業界においても、AXが単なる概念ではなく、実装フェーズに入っていることを強調しました。

エクサウィザーズ 常務取締役 大植択真
書籍『エネルギー業界を変革するAX戦略』が描く未来
続いて登壇した共著者であるエクサウィザーズ山岡義史から、本書の構成と狙いを解説しました。
本書は全5章構成で、特に第2章から第4章が中核となっています。第2章ではAI技術の進化と業務活用とのギャップが整理され、第3章では国内エネルギー企業へのインタビューを通じた実践事例が紹介されています。第4章では、アメリカやヨーロッパを中心とした約60の海外先進事例が取り上げられています。
山岡は、AIの能力が急速に進化する一方で、現場での活用が「一部の業務効率化」にとどまっている現状に課題意識を示します。今後は「実務はAIが担い、人はそれをチェック・判断する『AIファースト』な世界観へと移行していく」と説明しました。また、「さらに将来は、AIが業務プロセスを自律的に運用し、人は意思決定と新たな価値創造に集中する世界に向かっていく」といった点を強調しました。
本書では、人の役割は「目標設定」「コミット」「人を動かす力」に集約されていくという視点が提示されており、AI時代における組織・人材像まで踏み込んで論じています。

株式会社エクサウィザーズ エネルギーセクター責任者 山岡義史
特別コメント:山際大志郎 衆議院議員
山際大志郎 衆議院議員(自民党 総合エネルギー戦略調査会 幹事長)からは、ビデオメッセージが寄せられました。
山際代議士は、エネルギー分野が日本の社会・経済を支える基盤であることに触れつつ、「AIによる効率化にとどまらず、その先で新たな価値やイノベーションをいかに創出していくかが、今後のエネルギー政策や産業競争力において重要になる」と述べ、DXの先にあるAXの重要性を強調しました。
さらに、官民が連携し、AI活用を前提とした産業構造へ移行していく必要性にも言及し、エネルギー業界におけるAXの取り組みが社会全体に与える影響の大きさが改めて示されました。

総合エネルギー戦略調査会 幹事長 山際大志郎氏
パネルディスカッション:東京ガス、関西電力送配電2社による、現場の視点から語られるAX戦略と実装
セッション後半では、エクサウィザーズ常務取締役の大植がファシリテーターを務め、東京ガス株式会社 常務執行役員 CDO 清水氏、関西電力送配電株式会社 常務執行役員 CDO 松浦氏を迎え、『AIの技術的成熟度が高まる中で、いかに戦略を再定義し、現場に実装するか』という論点を中心に、両CDOによる意見交換が行われました。

左からエクサウィザーズ 大植、東京ガス 清水氏、関西電力送配電 松浦氏
1.戦略的背景:AI技術の進化が「経営計画の前提」をどう変えたか
大植からの「AIの急速な進化を経営戦略の中でどう捉え直しているか」という問いに対し、清水氏は生成AIの登場が中期経営計画に与えた衝撃を鉄砲の伝来に例えて語りました。
東京ガス・清水氏:技術は「戦略」を規定する武器である
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「2023年3月に中期経営計画を発表しましたが、そのわずか6ヶ月後にChatGPTが登場し、計画の前提を狂わせるような破壊力に驚愕しました。これはつまり、我々が中期計画でいろいろと立てていた計画の前提を狂わせるような、テクノロジーの変革だったということです。 相当慌てましたが、技術は単なる『道具』である以上に、それ自体が戦略や戦い方を規定するケースがあるのだと痛感しました」 |
この衝撃をきっかけに、清水氏はAXを事業計画の最優先事項に据え、技術と変革を同時並行で進める重要性を説きました。
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「歴史を振り返れば、鉄砲が導入されたことで戦略や戦術が根本から変わったのと同じです。我々としてはやはり、このAIやLLMというものが、そのような技術であると認識しました。 トランスフォーメーション、すなわち技術の進化と我々の業務変革をパラレルに捉え、並行的に進めていかなければならない。これこそがAXあるいはDXを、我々の事業計画や戦略の『一丁目一番地』に位置付けた背景です」 |
関西電力送配電・松浦氏:一箇所の変化が全体を変える「連鎖」の重要性
一方、松浦氏は業界特有の保守的な文化からの「巻き直し」と、変革の本質について言及しました。
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「電力会社は役所以上に役所的な企業と言われてまして、数年前まで紙が溢れていました。判子を押してあっち行ってこっち行ってという仕事をやっていて、こんなことが続くはずがない、なんとかしないと感じていました。 DX戦略なるものを作ったのですが、作って満足して結果何にも進まないという時期がありました。そこから巻き直しをやって、弊社のDX推進者とともに社長や組織へ粘り強く働きかけ、ようやく形になってきました。」 |
変革の本質を伝えるために、松浦氏は個人体験として「身近なDX」の例を挙げ、一箇所のデジタル化が組織全体に波及する仕組みを解説しました。
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「ファミレスに食事に行ってタブレットで注文するというのを初めて経験した時に、なるほどと思いました。人も来ないし、注文を間違えることもないし、データも取れる。これ1つでこんなに変わるんだなと。あれを1ついれると、バックオフィス側も、フロントホールスタッフの動きも、厨房も、ごっそり変わる。そういうものを自分たちの中に取り込んで実現できたらいいと思っていました。 大規模なシステム開発でも、全員が少しでも変えるんだという『X』のマインドを持ち続けることが重要です」 |
2.現場への実装:データ活用の難所と「内製化」で見えた知見
次に、議論は「AIをいかに現場の実務へ落とし込み、成果を出すか」という実装フェーズへ移りました。松浦氏は、スマートメーターから得られるデータの活用実態について述べました。
関西電力送配電・松浦氏:データ活用の目的意識と変革マインドの継続
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「スマートメーターのデータを扱って得た最大の気づきは、『意外と使えないな』ということでした。 結局、そのデータだけではどうしようもなくて、他の何かと組み合わせるか、明確な目的を持って必要なものを自分たちで集めて紐付ける必要がある。意外とデータだけを眺めていても、何も見えないなというのが私の実感です」 |
松浦氏は、データに基づく意思決定の難しさを「やってみて分かった」と語り、その壁を突破するために定義した「3つのレイヤー構造」の現在地について次のように言及しました。
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「どのデータをどう見たら何の意思決定ができるのか。分かっているようで分かっていないということが、やっていく中で見えてきました。もっと試行錯誤して失敗を積み上げないと、なかなか答えは出てこない。 」 「弊社では物理、データ、取引という3つのレイヤーでエネルギープラットフォーマーを定義しています。一番下の物理(電柱や鉄塔)はすでに存在していますが、その上のデータプラットフォーム層が今申し上げた通り非常に難しく、なかなか進まない。さらに上の取引レイヤーは、プラットフォームレベルではまだまだハードルが高いのが現状です」 |

2050年に向けたありたい姿 〜関西電力送配電グループビジョン〜
東京ガス・清水氏:外部協力か内部開発か。バーチカル領域の試行錯誤で見えた苦労と手応え
一方、清水氏は「稼ぐAI」を自社で生み出すための戦略として、バーチカル領域における内製化の重要性に言及しました。
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「我々は一部AIを取り込んだものを、すでにお客様にサービスとして提供するフェーズに移っています。 大手ベンダーのように大量のエンジニアがいるわけではない中で、どうスイートスポットを見極めるかは非常に苦労した部分でした。」 |

東京ガスの「熱源機器 最適制御AI」詳細資料
そうした試行錯誤の中で、清水氏は、外部パートナーとの連携から社内メンバー主導へとアプローチを切り替えたことで、性能が逆転したエピソードを明かしました。
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「当初は外部パートナーとともに強化学習的に省エネを追求していましたが、ビジネスにする上でもう一押し欲しかった。そこで、設備周りや省エネのポイントを分かっている研究所のメンバーがAIという武器を使い、最適化モデルを解く形にアプローチを変えてみました。 すると、外部の協力のみで進めていたときよりも良い結果が出てしまうケースがあったのです。ビジネスを分かっている人が開発するからこそ、早いスピードでスケールする形で新規事業を作っていける。熱源機器 最適制御AIはそれを実感する良いケースでした。」 |
また、内製化の判断基準についても次のように述べました。
| 「汎用度と企業独自度で見ています。我々ならではのことをやる時は、内製エンジニアを増やしたい。特に、試行錯誤を繰り返すPoCの段階では、内部でやる方が圧倒的にスピードが速いです。」 |
3.今後の展望、AI活用や新規事業創出について
最後のテーマでは両社の今後の展望について語られました。
清水氏は、デジタル化を推進する上で見落としがちな「フィジカルな制約」について指摘しました。
東京ガス・清水氏:「3%の特殊データ」がAXの鍵。AIマーケティングで挑むトップライン向上
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「ビジネスプロセスがフィジカルな領域に依存していると、そこがボトルネックになって高速にPDCAが回せなくなります。エンドツーエンドのビジネスプロセスのデジタル化の比率を高めつつ、マーケティング施策のAIによる高度化でトップラインを上げていくことにチャレンジしたい。 そして、企業の優劣、競争力を分ける大きな境目は、公開データではなく、3%の特殊データだと言われています。我々独特の、東京ガスならではというデータをどう集めていくかを意識して、AXを取り込んでいきたいと思っています」 |
松浦氏も、人口減少という構造的課題に対し、変革への意志を述べました。
関西電力送配電・松浦氏:人口減少への対応と「人の役割」の見極め
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「最大の課題は人口減少です。10年後20年後に今の7割8割の人間で仕事を回さないといけない。だからこそ、バックオフィス業務を徹底的にAIで効率化し、少ない人数でも同じ事業ミッションを果たせるようにしていく必要があります。 AIに向き合いながら、人がどのような価値を発揮すべきか、その『役割』を見極めていくことが今後の重要なポイントになります」 |
参加者やDX/AXを推進するリーダーへの力強いエール
パネルディスカッションの最後には、参加者や推進するリーダーへ向けて魂の籠もったエールが送られました。
東京ガス・清水氏:ハルシネーション以上に「使わないリスク」を直視せよ
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「新しい技術に自ら触れ、驚き、焦ることが変革の第一歩です。私自身、最新AIの圧倒的なスピードと視野を目の当たりにし、その実力を痛感しました。 AIにはハルシネーションなどのリスクもありますが、それ以上に『使わないことのリスク』を意識すべきです。人間がやりたくないこと、できないことを機械に任せてきたのが人類の歴史。 ブルドーザーと力比べをする必要はありません。自社にしかない『3%の特殊データ』を核に、AIを戦略的に取り込んでいきましょう」 |
関西電力送配電・松浦氏:不確実だからこそ「ベクトルを揃えた一歩」を
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「将来像は不確実です。5年前には誰も生成AIを想像できなかったように、だからこそ、将来像はいつでも書き換えられる柔軟さが必要です。我々は『エネルギープラットフォーマー』という将来像を掲げていますが、具体的な描写は『自分で考えてくれ』と社内に伝えています。 具体的すぎる描写ではなく、将来に向けてベクトルが大体揃っていること。そして、『今の一歩が確実に理想へ向かっている』というコンセンサスを組織内で持てているかが何より重要だと考えています」 |

まとめ:AXは“未来の話”ではなく、すでに始まっている
これまで多くの企業が、DXとして、デジタル技術を活用した業務効率化や業務改革に取り組んできました。一方で、生成AIの急速な進化により、単なるデジタル化にとどまらず、AIを前提に戦略・業務・組織そのものを再構築する「AX(AI Transformation)」は、企業変革の前提条件となりつつあります。
本イベントを通じて、AXはもはや将来構想ではなく、現場で試行錯誤を重ねながら成果が生まれ始めている取り組みであることが明らかになりました。AIを前提とした業務・組織設計が、今後の競争力を左右する重要なテーマであることが、各社の実践から示されました。
セミナーで交わされた先駆的な知見と、エクサウィザーズがこれまで多くの企業支援を通じて培ってきたAXの理論や実践知は、書籍『エネルギー業界を変革するAX戦略』に体系的に整理されています。
▶︎「エネルギー業界を変革するAX戦略」の詳しい内容についてはこちら
https://www.denkishoin.co.jp/products/view/2213 (電気書院)
※Amazon、全国各書店などで購入可能

本書では、国内外の事例を交えながら、AIを単なる効率化の手段にとどめず、事業・業務・人材をどのように再設計していくべきかが詳述されています。
エネルギー業界に限らず、AI時代の企業変革に向き合うすべての方にとって、本イベントおよび本書が、AXを自社で推進するための具体的なヒントとなれば幸いです。