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【AI経営セミナーレポート|後編】導入して終わりにしないAI戦略。豊田合成とアイホンの事例に学ぶ、現場にAIを根付かせる仕掛けの作り方

【AI経営セミナーレポート|後編】導入して終わりにしないAI戦略。豊田合成とアイホンの事例に学ぶ、現場にAIを根付かせる仕掛けの作り方

2026年2月13日、名古屋のイノベーション拠点「STATION Ai」にて、「AI経営セミナー in 名古屋 ~AI実践企業が語る経営戦略とAI人材育成~」が開催されました。

前編はこちら

前編のレポートでは、エクサウィザーズ 代表 春田のAI経営論をご紹介しましたが、続く第2部では、AIをいかにして現場の実務レベルへ落とし込み、全社的な活用へと繋げたのか。東海エリアを代表する製造業、豊田合成株式会社とアイホン株式会社の事例を深掘りします。

4,600名の事務職全員にアカウントを即時配布した豊田合成と、リスク管理のガイドラインから着実に入ったアイホン。手法は違えど、両社が直面した現場の無関心やリテラシーの個人差という壁をどう乗り越えたのか。テンプレートによる徹底した実務支援や、ベテラン層を巻き込んだ意識改革など、今日から自社でも取り組める組織を動かす具体策を紐解きます。


【パネルディスカッション】第2部:AI導入の戦略と実践 ~地元企業のAIを浸透させた事例から学ぶ「AIリテラシーの高め方」~

⚫︎ モデレーター:
稲次 俊明(株式会社エクサウィザーズ)

⚫︎ パネリスト:
若林 一磨 氏(アイホン株式会社 情報システム部 課長)
日比野 康 氏(豊田合成株式会社  ITデジタルプラットフォーム部 室長)

※各社のご紹介は本記事後半に記載

左からエクサウィザーズ 稲次、豊田合成 日比野氏、アイホン 若林氏

テーマ1:導入当初、現場の反応はどうだったのか?

稲次:最初のテーマは、導入の壁となる「導入当初、現場の反応はどうだったのか」です。まずは若林さんからお願いします。

若林氏(アイホン): 我々はまず、企業と社員を守るための「生成AI利用ガイドライン」を策定しました。これはリスクを抑えるためのガードレール(安全策)です。当初はこのガイドラインを遵守することを条件に200人を対象に試験導入を行いました。安全面を過度に考慮したことで、利用者からは「個人で使っているツールのほうがいい」「実務では使えない」といったネガティブな意見が相次ぎました。過度な制限が、現場の期待とツールの必要性の間に大きな乖離を生んでしまったと考えます。

日比野氏(豊田合成): 弊社は昨年の5月、思い切って全社一気に、4,600名の事務職全員にexaBase生成AIのアカウントを配りました。伝統的な製造業で「紙と鉛筆」のような現場なので本当に大丈夫かと思いましたが、意外にも皆さん好意的に受け入れていただきました。これは数年前から、RPAなどのITツールで現場を改善していく「市民開発」の文化を少しずつ作ってきた、その後押しもあったのかなと感じています。

豊田合成 日比野氏 登壇資料より

テーマ2:使われるための仕掛け作り

稲次:続いて、具体的な仕掛け作り、研修などの工夫について伺います。

若林氏(アイホン): 単なる座学ではなく、使いたくなる環境を作りました。また、社長からの生成AI活用は重要施策である、というトップダウンメッセージが、現場が安心して挑戦できる土壌を整えたことは大きいです。さらに情報システム部内に5名の専門チームを組織し、現場からの具体的な課題に対して直接解決に取り組む伴走体制を敷いています。

アイホン 若林氏 登壇資料より

日比野氏(豊田合成): 自分からプロンプトを打つのはハードルが高いので、必要事項を入力するだけで議事録や翻訳ができる「テンプレート」を積極的に展開しました。まずはワンクリックでできる便利さを知ってもらう。これを使っていくうちに、もっと良くしたいと、皆さん自然と自分でプロンプトを打ち始めるようになります。また経営層にも現状を理解してもらうことで、現場が実務に結びつけやすい環境を作っています。

テーマ3:リテラシー格差をどう埋めていくのか

稲次:社内におけるリテラシー格差の問題には、どう向き合っていますか。

若林氏(アイホン): 全てのユーザーの使用量を可視化して層別にしました。活用が進んでいる層の知恵を横展開する一方で、活用の進んでいないノンアクティブ層に対しては、ただ放置するのではなく個別にヒアリングを実施しました。「なぜ使えないのか」という阻害要因を突き止めることで、サポート体制の改善に繋げています。また、意欲のある層へ積極的にアカウントを再配布するなど、リソースの最適化を図っています。

日比野氏(豊田合成): 正直、使わない層は一定います。でも、使わなくていいわけではないので、業務の中に自然とAIを使うように組み込んでいくしかないと思ってます。AIを使った変革を推進する上でも、システムの一部としてAIを組み込み、知らないうちにAIを使っている、という風にしたいなと。例えば、チャット形式にこだわらず、業務プロセスそのものにAIを埋め込んで「実はAIの恩恵を受け取っていますよ」という形にしていこうと考えています。自然とAIを活用し、理解を深めていけると、次の策もまた打ちやすくなるのではないかと考えています。

左:豊田合成 日比野氏 / 右:アイホン 若林氏

テーマ4:成果の兆しとなった具体的なエピソード

稲次:導入から1年を経て、どのような変化や兆しが見えてきましたか。

若林氏(アイホン): AI導入の成果が目に見える形となって現れた背景には、世代ごとの特性を活かし、社員の力を味方につけるという戦略がありました。導入当初、利用するのはITリテラシーの高い技術系社員や、20代30代の社員が中心で、50代60代のベテラン層への浸透には高い壁があると思われていました。

しかし大きな転換点は、役員や部門長経験者といったベテラン層が実際に使い、「思考整理の壁打ちに有用だ」「議事録作成といったノンコア業務をAIに任せることで、部下を本来のクリエイティブな業務に復帰させられる」と、実務を伴う評価を発信し始めたことです。人脈も発信力もある彼らがAIの価値を認めたことが、組織をポジティブに変える決定的な要因となりました。 また、事例紹介で「彼がこんなことやってるんだよ」と実名を挙げて称賛したことで、若手からも自発的に「こんな風に使ってます」という報告がどんどん届くようになりました。活用レベルを底上げする理想的なサイクルが、今まさに生まれつつあるのかなと考えております。

日比野氏(豊田合成): 現場のQC活動やグループ改善活動の中で、「これはで解決できるのではないか?」と、解決策の1つとしてAIの名前が出始めてきたことです。事務局が行ってきた教育とは関係なく、現場が「自分たちの部署で何ができるか」を自然と考え始めた。我々が思っていないところで話が上がってくるようになったのは、非常に良い兆しだと思っています。 

ただ、少し課題も見えてきました。現場で真剣に議論を重ねるなかで、壁にぶつかると「これはAIで解決できるはずだ」と期待が先行しすぎて、本来大切にすべき現地現物の視点が少し脇に置かれてしまうような場面もたまに見受けられます。もちろん、そこは改めて向き合い方を考え直していく必要はありますが、我々事務局としては、それも現場の「AIで何とかしたい」という期待の裏返しだと捉えています。ですので、そんなの無理だと簡単に切り捨ててしまうのではなく、現場の熱意に寄り添いながら、一緒に解決策を探っていく姿勢を大切にしたいと考えています。

左からエクサウィザーズ 稲次、豊田合成 日比野氏、アイホン 若林氏
​​パネルディスカッションは終始和やかに、両者の本音が語られた

テーマ5:現場発で描くこれからの組織とAIの付き合い方

稲次:これからAIをどのように組織に定着させていくのか、展望をお聞かせください。

若林氏(アイホン): 活用を個人の趣味から組織の力へ引き上げるフェーズです。当社にはデミング賞*1を受賞したTQM(総合品質管理)という改善文化が根付いています。これを活かし、既存のQCサークルや事例研究テーマのプロセスにAI活用を融合させた取り組みを評価対象に加えたらどうか?といったアドバイスが社長から出されました。

アイホンの改善活動は、成果を出せば表彰や報奨金などインセンティブに直結します。AI活用を「業務改善」として明確に位置づけ、正当に評価し恩恵を還元することで、組織として成果を出し続ける仕組みが構築されると考えます。

日比野氏(豊田合成): 今のAIチャットだけでは「1日5分楽になる」という個人の積み重ねで終わってしまい、組織には響きません。今後はRAG(社内データ連携)などで自社専用のAIを作り込み、いかに業務のインプット・アウトプットの間に組み込むかが重要です。 また、事務局としては、浮いた工数をどう使うかを各部門と議論していきたい。浮いて身軽になって終わりではなく、その時間を部門内のAI推進役として担っていただく。そうやって現場に推進者が育つことで、改善がさらに進化していくいい循環を作っていきたいと考えています。

左からエクサウィザーズ 稲次、豊田合成 日比野氏、アイホン 若林氏
投影資料は豊田合成の取り組み

*1:デミング賞(Deming Prize)は、1951年に創設されたTQM(総合的品質管理)に関する世界最高ランクの表彰制度

アイホン株式会社

名古屋に本社を置く、国内トップクラスのインターホン専門メーカー。住宅用インターホンで国内シェア61%を誇り、ナースコールやオフィス用システムなど、国内外で広く事業を展開する(連結従業員数 約2,000名)。 登壇した若林氏は、営業・技術部門の管理職を経て、現在は情報システム部でDX推進を牽引。同社の生成AI利活用の取り組みは、2025年12月にエクサウィザーズのMAUトップ企業に贈られる「利用促進大賞・Enterprise Division(1000名以上)」を受賞するなど、社外からも高く評価されている。

豊田合成株式会社

トヨタグループの主要企業として、ゴム・樹脂の技術を核にエアバッグやハンドルなどの自動車部品を世界中に供給するグローバルサプライヤー。  登壇した日比野氏は、SIerでの豊富な技術経験を背景に、同社のIT推進を主導。1年前の生成AI導入以来、全社展開の旗振り役を担う。エアバッグの端材を活用したエコバッグの企画など、技術の新しい価値創出にも意欲的に取り組んでいる。

 

おわりに|AIとともに「変化」を付加価値に変える

今回のセミナーを通じて浮き彫りになったのは、AI活用における「経営層の覚悟や心構え」と「現場の試行錯誤」がいかに重要かということです。

AIは単なる業務効率化ツールではありません。分断されていたビジネスプロセスやデータ、さらには企業間の繋がりをシームレスに結びつけることで、既存の延長線上にはない新しい付加価値を生み出すための共通基盤となります。これは製造業に限らず、あらゆる産業において非連続な成長を実現するための鍵となります。

経営層がまずは否定せずにAIを受け入れ、使いながら変化させていく、という柔軟な姿勢を見せること。そして、失敗を許容し、現場の試行錯誤を称賛する文化をセットで構築すること。この両輪が揃って初めて、組織全体の変革スピードは最大化されます。

「まずは使い、使いながら自らを変え、組織も変えていく」
この変化を前提とした向き合い方こそが、次世代の競争力を生む源泉となります。


ご案内|エクサウィザーズについて

貴社のパートナーとして、企業変革に伴走します

エクサウィザーズは、東証グロース市場に上場し、累計2,000社以上のAI導入・開発・人材育成をご支援してきました。

戦略のロードマップ策定から、独自の特許技術を用いた現場でのプロダクト実装、そして組織全体のリテラシーを底上げする人材育成まで、私たちは「AIを経営の武器に変える」ための全プロセスを強力にバックアップします。

「自社のプロセスをどう結びつけるべきか」「自社の課題にどうAIを掛け合わせるべきか」といった検討段階からのご相談も承っております。AIを経営の力に変え、新たな付加価値を共創していくパートナーとして、ぜひお気軽にご相談ください。

本セミナーで事例として紹介された「exaBase 生成AI」や、AI人材育成支援にご関心のある方は、ぜひお問い合わせください。

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