【CDO・CIO向け】ChatGPTの社内環境構築をどうすべきか~SaaS導入vs自社開発~
株式会社エクサウィザーズ
常務取締役 兼
株式会社Exa Enterprise AI
代表取締役
大植 択真
京都大学工学部卒業。京都大学工学研究科修了(都市計画、AI・データサイエンス)。2013年、ボストンコンサルティンググループに入社。事業成長戦略、事業変革、DX推進、新規事業立ち上げなどの多数のプロジェクトに従事した後に2018年、エクサウィザーズ入社。2019年4月より、AI事業管掌執行役員として年間数百件のAI導入・DX実現を担当。企業の経営層や管理職向けDX研修の講師実績が多数ある。2020年6月に取締役就任。2023年6月に常務取締役就任。兵庫県立大学客員准教授。兵庫県ChatGPT等生成AI活用検討プロジェクトチーム アドバイザー。著書に「Web3時代のAI戦略」(日経BP、2022年)、「次世代AI戦略2025 激変する20分野 変革シナリオ128」(日経BP、2021年)。
ChatGPTの活用によって大幅な業務効率化を目指せる一方で、セキュリティや活用促進等の課題が表面化しており、ChatGPTの活用環境の構築に関心が向けられています。
構築手段としては、自社でChatGPT環境を開発する、もしくは高機密な環境でChatGPTを活用できるSaaSを導入する、この2点で検討をされる企業が多い状況だといえます。
1月に開催されたセミナー「【CDO・CIO向け】ChatGPTの社内環境構築をどうすべきか~SaaS導入vs自社開発~」では、ChatGPT環境の自社開発とSaaS導入のそれぞれのメリット・デメリットについて、年間350件以上のAI・DX支援を手掛けるエクサウィザーズ常務取締役 兼 Exa Enterprise AI代表取締役の大植 択真が解説しました。
アンケートから見る、生成AIの利用状況
まずは現在、法人で生成AIがどの程度利用されているでしょうか。
エクサウィザーズでは2023年4月下旬から4カ月おきに定点観測をしていますが、データを見ると、生成AIが業務で使われる頻度やレベルが大きく向上していることが分かります。
4月下旬の時点では、生成AIを「日常的に使う」「時々使う」と回答された方が3割超でしたが、12月の段階では、7割を超えるまで拡大しています。
出典:エクサウィザーズ「ChatGPTの社内環境構築をどうすべきか~SaaS導入vs自社開発~」講義資料より
さらに「日常的に使う」と回答した方のうち、1日に複数回使う方が7割を超えていました。
出典:エクサウィザーズ「ChatGPTの社内環境構築をどうすべきか~SaaS導入vs自社開発~」講義資料より
用途として最も多かったのが「文書生成」です。次いで「要約」「アイデア出し」「調査」などが続きます。このように、文書生成や要約、アイデア出しといったさまざまな用途で生成AIを使っている方の多くは、1日のうちに複数回生成AIを使って生産性を上げていることも分かっています。
使い方に関しても傾向があり、レベル3(試しに利用)以下のユーザーは「調査」「要約」などの利用が多かったのに対し、業務で使用するレベル4以上では「要約」「アイデア出し」「壁打ち相手」として生成AIを利用する頻度が増えていました。
つまり、活用レベル4以上になると、「検索」から「生成」にシフトしていることが見えてきたのです。
出典:エクサウィザーズ「ChatGPTの社内環境構築をどうすべきか~SaaS導入vs自社開発~」講義資料より
SaaSか、オンプレミスか?
生成AIの導入にあたっては、大きく3つの形態があります。
まずは、①OpenAIが提供している個人向けのChatGPT等を使う形態です。これはOpenAIのような会社が提供しているサービスをそのまま使うことなどを指します。
続いては、②法人ニーズに合わせたインターフェースを使う形態です。MicrosoftのAzure OpenAI Serviceを使いつつフロントエンドで独自で構築したり、SaaS型で提供されているサービスを使うなどがあります。
三つ目は、③独自モデルを開発/ファインチューニングする形態です。AIモデル自身を自社で作る/既に学習を終えたモデルに新たなデータを追加で学習させるなどの方法です。
さて、一般的に企業が生成AIを導入する場合、①〜③のうちどの形態が適しているでしょうか。
①については、個人向けサービスなのでセキュリティーやアカウントの管理などが法人向けとしては難しい点、ChatGPTは現在、個人向けで月額20ドル、チーム用で月額30ドルの費用がかかるため、大人数で使うのはなかなか難しいという点が懸念点です。
また③については、工数や予算も大きくかかるため、生成AIを事業化している会社に限定されやすいと言えます。
従って、②の「法人ニーズに応じたSaaS利用、もしくはインターフェース自社構築」が最適と言えます。
ただ、日本はアメリカに比べて極端にSaaSの利用が少なく、後進国ですらない、いわゆる「抵抗国」と位置づけられているのが現状です。
出典:エクサウィザーズ「ChatGPTの社内環境構築をどうすべきか~SaaS導入vs自社開発~」講義資料より
その背景には、エンジニアの8割がテクノロジー企業にいるという日本の市場特性が挙げられます。米国はエンジニアの8割が事業会社にいるため、コアの領域は内製で開発がしやすいのです。一方、日本では、「コア・ノンコア限らず、どんどん外注で作る」という発想になりやすく、お客様からの要望に応えたり、現場に合わせてお客様が定義する要件を実現するのにもSIerに外注する流れが一般的です。その結果、価格モデルは人月単価型(コストベース)になります。
とはいえ、日本でもSaaSの利用は増えています。生成AIの導入形態として、オンプレミスと法人向けソリューションをSaaS型で活用する形態を比べると、①の導入形態が減少し、SaaSが増加しています。
出典:エクサウィザーズ「ChatGPTの社内環境構築をどうすべきか~SaaS導入vs自社開発~」講義資料より
生成AI導入でSaaSを選択すべき5つの理由
SaaSは利用料を払ってサービスを継続して利用するという形態です。一方オンプレミスは、自社にカスタマイズして開発をしたサービスを利用するという形態です。
オンプレミスとSaaSという二つの導入形態において、当社としておすすめするのがSaaSです。その理由については大きく5つあります。
理由1 変化が激しい生成AIマーケットにおいて、SaaSは特に投資リスクが低い
SaaSを選ぶべき理由の1つ目は、投資リスクの低さです。
ChatGPTが登場してから、考えられないほど異次元のスピードで世の中の変化が進んでいます。生成AIのマーケットでは、1日に新しい論文が何十本も出ています。また、新しいサービスも続々と登場しています。
生成AIのマーケットの変化が非常に速いことを考えると、オンプレミスは投資リスクが高いと言えます。オンプレミスにしてしまうと、新しくリリースされるサービスに対応するのに追加のコストや時間がかかる可能性があるからです。
生成AIの世界市場は年率53%で成長し、2030年には2,110億ドル(30.6兆円)に達する見込みとなっています。兆円規模の市場で、成長率が年間50%以上というのは極めてまれな市場です。
中でもアプリケーションが伸びると言われていて、ChatGPTやGeminiなどのさまざまなサービスが登場していますが、その上にアプリケーションが入ってくることで、さらに市場が拡大しています。
このような背景がある中、現段階でどれかに固定して自社で開発すると、大きな変化があったときに機動性が期待できないというリスクがあります。
そこで、SaaS型でかつOpenAIやMicrosoftだけでなく、さまざまなAPIが乗ってくるような形態を選んでおくというのが有効ではないでしょうか。
理由2 基本機能が充足しており開発コストがオンされない
SaaSを選ぶべき理由の2つ目は、基本機能がすでに充足している点です。
生成AIサービスを導入する際に重視するポイントについて伺ってみると、6割ぐらいの方が「安心安全に使えるセキュリティ」「自社データを取り込むなどの機能が使えるのかどうか」の2点を挙げています。
IT事業者と同規格の管理機能等をオンプレミスで個別開発するメリットはあまりありません。IT事業者が開発している機能を導入し、そのまま使っていただくほうが、コストメリットも高いと言えます。
ちなみに、当社が提供しているSaaS型サービス「exaBase 生成AI」でも、法人向けの管理機能やセキュリティを構築しています。
【exaBase 生成AIの特徴】 ①マイクロソフトが提供するクラウドサービス「Azure OpenAI Service」の東日本リージョンを利用 |
この他、exaBase 生成AI では最高レベルのセキュリティー水準を実現しています。一例を紹介します。
|
理由3 技術進化がスピーディに反映される
SaaSを選ぶべき理由の3つ目が、技術進化の反映スピードです。
一般的なオンプレミスのメリットとしては、初期投資はかかるものの、将来的に効果額が投資額を上回る点です。ただ生成AIのマーケットは非常に技術進化が速いため、開発が一度終わったらそこで終わりというわけにはいきません。新しい技術が登場すれば、追加で開発をする必要がでてきます。
社内にAI業界に長けたエンジニアがいれば、オンプレミスでも時代に合わせて自社で開発することが可能かもしれません。しかし外注が主体の場合には、再開発にコストがかかってしまいます。
出典:エクサウィザーズ「ChatGPTの社内環境構築をどうすべきか~SaaS導入vs自社開発~」講義資料より
その点、SaaSであれば追加の企画・開発の負担はIT事業者側が担います。事業会社にとっては再開発のコストを抑えることができるのもSaaSの利点です。
また、SaaSは利用料が安いため、生成AIの費用を回収するハードルが極めて低い点も無視できません。
例えばexaBase 生成AIの場合は、月額1人あたり1000円程度で生成AIを利用できます。
SaaS利用料を、上場企業の社員1人にかかる人件費と比較してみます。
上場企業の平均給与は638万円、年間の法定労働時間は2,085時間とします。ここから算出してみると、時間あたりの人件費は約3,000円。1カ月で20分の業務効率化ができれば費用対効果がプラスになるという計算になり、非常に費用対効果を得やすいサービスと言えます。
出典:エクサウィザーズ「ChatGPTの社内環境構築をどうすべきか~SaaS導入vs自社開発~」講義資料より
また、SaaSは技術進化に合わせて新しい機能を追加しています。exaBase 生成AIの場合、6月にリリースしてからこれまでに、大小含めて150件もの改善を行いました。今も改善や修正を行っています。
これをオンプレミスで行おうとすると、非常に大変です。無視できない世界の大きな動きに対して機動的に改善活動を続けていける点はSaaSの大きな強みですし、SaaSを活用することによって、最新技術をいち早く実行できるわけです。
理由4 活用の促進を支援してくれる
SaaSを選ぶべき理由の4つ目が、導入による活用促進が得られることです。
生成AIを導入したからといって、社内で活発に活用されるとは限りません。全社導入した場合でも、利用率は3割程度に留まっています。
出典:エクサウィザーズ「ChatGPTの社内環境構築をどうすべきか~SaaS導入vs自社開発~」講義資料より
生成AIを開発したりツールを入れたりすることがゴールではなく、ユーザーが実際に使って効果が出ること、つまり、いかに活用を促進して費用対効果を最大化するかが生成AIを導入するゴールであるはずです。しかし、利用促進を自社だけで行うのは相当ハードルが高いものです。
SaaSの場合、サービスを受益する事業会社側と提供者側という構造になっているため、利害関係が一致します。開発提供者はサービスを利用してもらうことで利益が発生するため、活用促進支援を進んで行うことにメリットがあるのです。
ちなみに当社のアンケートでは、「生成AIを全社導入すると利用率が上がる」という面白い結果が出ました。全社的に導入すると経営者の意思やメッセージが明確になるため、他部署に横展開しやすいというメリットがあります。また、導入して得られた事例を横展開していくことで他部署にも普及していきやすく、ユーザーに使われる可能性も高まるのです。
ここで、当社の顧客で成果が出始めている、活用促進の例として「チャンピオン・アプローチ」を紹介します。
チャンピオン・アプローチでは、経理や人事など、さまざまな部門から生成AIチャンピオン候補となる社員を選出してチームを組成します。
次に、使えるプロンプトや有効な活用方法などを生成AIチャンピオン候補に渡したり、ハンズオントレーニングやOJTなどを行ったりすることによって生成AIチャンピオンを育成します。
こうしてスキルや知見を得た生成AIチャンピオン候補が、自身が所属している各部署に戻り、他の社員に得たスキルや知見を教えていくのです。
出典:エクサウィザーズ「ChatGPTの社内環境構築をどうすべきか~SaaS導入vs自社開発~」講義資料より
オンプレミスの場合、こうした施策を自社で考えたり導入したりするためにはリソースを割く必要があります。一方SaaSなら提供者となるIT事業者にノウハウが蓄積されているため、自社に適した促進策を相談しながら導入を進めることが可能です。
エクサウィザーズでも、先進事例を含めたコンサルティングサービスを提供しており、多くの企業様にご利用いただいています。
こちらは昨年12月に実施した生成AIの利用実地調査レポートなのですが、図にあるように、活用促進策を実施している企業は63.9%となっています。
出典:エクサウィザーズ「ChatGPTの社内環境構築をどうすべきか~SaaS導入vs自社開発~」講義資料より
活用促進策を見える化して効果を計測することも重要ですが、こういった機能を自社で開発して自動化するのは大変です。ここでも、機能が実装されているSaaSのサービスが有利と言えます。
理由5 SaaSは組織的スキルを上げる
SaaSを選ぶべき5つ目の理由として、組織的スキルの向上があります。
生成AIの徹底活用には、組織的なスキルの習熟と深化が必要です。良いものを実装したサービスを使いこなすことにより、組織的なスキルが得られ、より内製化しやすい組織になっていきます。
今は人がメインで行っている業務でも、生成AIが導入されることによって大きく変化することが予想されます。想定される変化として、自動化していく業務・AIと人間が連携しながら付加価値を出していく業務・人間が行う本質的業務という3つの業務に分かれていくことが考えられます。
出典:エクサウィザーズ「ChatGPTの社内環境構築をどうすべきか~SaaS導入vs自社開発~」講義資料より
このように、生成AIを導入することによって、社員が生成AIを使うだけでなく、組織や業務も大きく変わっていきます。組織変革には時間がかかりますから、できれば生成AIの導入はスムーズに行いたいもの。SaaSはすぐにサービスを使い始めることができるため、組織変革をいち早くスタートすることが可能なのです。
出典:エクサウィザーズ「ChatGPTの社内環境構築をどうすべきか~SaaS導入vs自社開発~」講義資料より
オンプレミスとSaaSの両立は有効か?
さて、ここまでオンプレミスとSaaSを比較してきましたが、必ずしもどちらかを選択しなければならないわけではありません。
コア業務をオンプレミス型で自社開発しながらノンコア業務にSaaSを併用することによって、新しい技術や最新サービスを取り入れつつスキルを上げていくという考え方もあります。「オンプレミスかSaaSか」ではなく「オンプレミスもSaaSも」という考え方も有効だといえるでしょう。実際に当社のお客様でも、オンプレミスとSaaSを併用されている方は多数いらっしゃいます。
社内環境構築はSaaS型で推進すべき
今回は、オンプレミスとSaaSの比較を行いつつ、生成AIを導入するにあたってSaaSが適している理由について解説いたしました。
エクサウィザーズでは、SaaS型として「exaBase 生成AI」を提供しています。すでに導入いただいている多くの企業様において、大幅な業務時間の削減に成功したり、新人営業社員が戦力化したりといった大きな効果が出ています。
これからの時代において、生成AIの導入は必須といっても過言ではありません。この機会にぜひ導入を検討されてみてはいかがでしょうか。