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    〜ExawizardsCollaborationDay2023

ベネッセコーポレーション・菊井 顕治氏が語る、グローバル学習トレンドと日本のリスキリング具体事例
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株式会社ベネッセコーポレーション
社会人教育事業本部 副本部長
菊井 顕治 氏

ベネッセ_菊井様

前職ではベンチャー企業にてTV局の公式サイト運営やヘルスケア事業の立ち上げ経験から、事業開発・企画含め横断的に従事。2013年ベネッセに中途入社し、進研ゼミのデジタルマーケ部門へ配属。新規事業提案制度で米国Udemy社との業務提携を立案し、2015年より日本でサービスを開始。現在Udemyの一般・法人市場の戦略や販促責任を担う。

ベネッセコーポレーション菊井顕治氏の講演では、リスキリングの実態と課題感、グローバルのトレンド、そして取り組みの事例について語っていただきました。

リスキリングの実態と課題感

なぜ今、人材育成を取り巻く環境が変化し、リスキリングをはじめとするテーマが重要視されているのか。その背景として、コロナ前から重要視されていた働き方改革やデジタル化、そしてコロナ禍から現在にあたり、DX、GX(グリーントランスフォーメーション)、SX(サステナビリティトランスフォーメーション)といった多くの変革というのが社会全体に必要になってきています。

人材育成を取り巻く環境の変化

 

資料_株式会社ベネッセコーポレーション

 

リモートワークなど働き方が多様化していく中でより自律的にキャリアを形成し、働いていくことが重宝される自律型人材の育成。その必要性が高まってきたと、菊井氏は語ります。

「人的資本型経営やリスキリングなど、新たな人材育成戦略の策定というテーマが経営の重要テーマとなってきた背景があると思います」(菊井氏)

企業と個人の関係性の変化

 

資料_株式会社ベネッセコーポレーション

 

企業と個人の関係性の変化については、一般的に企業寿命は経年で短くなる一方で、個人の働く年数は定年延長など、長くなる傾向にあります。この変化において、終身雇用や年功序列といった単線型のキャリアから、転職やジョブ型雇用などを視野に入れた複線型キャリアの必要性が語られるようになってきました。

「加えて、就労意識も就社から就職へ。学びの価値基準も学歴から学習歴、社会人になって学び続けることが重要になってきたという変化が起きています」(菊井氏)

 

資料_株式会社ベネッセコーポレーション

 

このような社会の変化において、成長機会を提供しない企業は選ばれない。そして個人は自律型人材にならないと企業から選ばれない。

企業・個人双方において、いい意味での緊張感が生まれ、お互いが成長を求め合う。そのような社会に変わり始めていることが背景にあると、菊井氏は言います。

持続的な組織の成長につなげる視点

 

資料_株式会社ベネッセコーポレーション

 

さらに菊井氏は、DX育成文脈はそのリスキリングに含有されており、AをA´、そして+αを学び足すことにおいて、「DX領域を求められることが多い」と続けます。

「リスキリングの世の中的な認知は、調査結果からも飛躍的に高まっています。一方でその投資は、持続的な組織や事業の成長につながっているのかといった課題感を感じている企業も多いようです」(菊井氏)

グローバルトレンドからみるリスキリングの傾向

学習障壁1位は「時間がない」

菊井氏は受講生側の実態を掘り下げ、リスキリングにおけるグローバルトレンドからの考察を語りました。まず受講生の学習障壁となる理由については、「日本では時間がない」がトップにランクされているといいます。

「例えば、インドでは『受講環境の不足』が突出しており、メキシコでは「時間拘束といった学習の選択肢に柔軟性がない」といった理由が上位に挙がっています」(菊井氏)

日本においては概ね世界平均と差はなく、「時間がない」という理由についても、就業時間内に受講を許可するなどの対策をとっている企業もあります。時間捻出が一つのキーとなっているのです。

学習の動機

学習の動機における日本のユニークな特徴は、「多様化している」という点です。

例えば、インドやブラジル、インドネシアなどでは、「自分のキャリアのため」という理由が7割を超えるなど、日本比較で大きな差が見られました。

日本で挙げられた動機の内容は、「自分のキャリアのため」「人生の目標達成のため」「趣味領域のため」「ビジネスを立ち上げるため」「会社からの要請」「他者との差をつけるため」など、複数の項目で世界平均よりも少し高い傾向にあります。

「国別に見れば、突出した理由がある海外に比べて日本は多様化した傾向がうかがえます」(菊井氏)

日本の社会人学習者の概況

 

資料_株式会社ベネッセコーポレーション

 

続いては、18歳から64歳の社会人約3万5000人に、社会人になってからのこれまでの学習経験と今後の学習意向の2軸、4つのセグメントにおける調査結果が紹介されました。

 

資料_株式会社ベネッセコーポレーション

 

右上の「学んでいます」が34.5%(約2,300万人)と、学び続けている層が1/3を占める一方で、「なんで学ぶの」39.9%(約2,700万人)や「学ぶの疲れた」12.1%(約800万人)といった層が多く見られました。

「企業側から見れば、学んだ経験がなく、今後も学ぶ意向もない。これまで学んでいたけれども今後学ぶ意向がない層なども対象として、育成戦略や機会提供を実施していく必要があると考えています」(菊井氏)

 

資料_株式会社ベネッセコーポレーション

 

さらに学習意欲がなかなか持てない人に対して、「どのようなきっかけがあれば学習すると思いますか」という問いをしたところ、仕事・お金・時間という回答が上位を占めたといいます。

育成機会を提供する企業側からすれば、仕事での必要性や学習の目的、職場からの需要といった観点は、人事戦略や制度設計において参考になる部分もあるのではないでしょうか。

「受講生側の学習実態、グローバル比較での学習障壁、日本の多様化した学習動機を踏まえると、これまでの階層別研修のように画一的な対策だけではなく、実質的で多面的な対策が提供する企業側にも求められる状況にあると思います」(菊井氏)

学びの大三角形

 

資料_株式会社ベネッセコーポレーション

 

そんな状況において、リスキリングの実装に取り組み、持続的な組織や事業の成長に成功されている企業も数多くあります。そうした企業の取り組みにおいては、いくつかの共通項があると、菊井氏は指摘します。

優れたリーダーはどうやって行動を促すのか。上記はその共通項を、2009年にサイモンシネック氏が提唱したゴールデンサークル理論による「Why・How・What」をUdemy社のメリッサが学びに紐づけ、『学びの大三角形』として図式化したものです。

 

資料_株式会社ベネッセコーポレーション

 

具体的には目的・戦略・文化の観点において、状態・項目を明文化しています。Whyに当たる目的においてはビジョンがあり、解決したい課題が明文化され、現状と実態、目標とのギャップが把握できます。

それが社内で情報連携されていることで、Whatにあたる戦略においては目的に合った人材要件が定義され、成功指標が可視化されます。

「学習の機会や体制が構築されていること、Howにあたるカルチャーにおいては、目的と戦略を下支えする文化やコミュニティ、その支援や風土が用意されているといった項目となっています」(菊井氏)

取り組み事例

学びの大三角形要素を踏襲し、具体的な取り組みにつなげて成果を出している企業として、3社の事例も紹介されました。

三井物産株式会社の事例

 

資料_株式会社ベネッセコーポレーション

 

最初に紹介されたのは、三井物産の事例です。同社ではグローバルで多様なプロ人材の育成を掲げ、DX総合戦略を推進する人材を育てたい一方で、ビジネス人材と技術人材で知識スキル経験のギャップがあるという状況でした。

「ビジネスと技術、双方の視点を持った意思決定の場面に対応できる人材の育成が急務だったため、既存×デジタルの新しい価値創造、データドリブンによる事業経営の強化、それを支えるDXビジネス人財の育成戦略を掲げ、それを一手に担う組織を設立したのです」(菊井氏)

同社では育成するDX人材をa(ビジネス人材)、b(DXビジネス人材)、c(DX技術人材)と分類しています。

「その中でも最も注力して育成したいと考えたのが、bのDXビジネス人材。ビジネスとデジタルどちらにも精通し、ビジネスモデルやサービスの全体設計ができ、顧客ニーズを理解してアイデアを生み出せる人、その人材育成を急務としました」(菊井氏)

DXビジネス人材の認定には、基礎に加えて応用レベルの講座から30時間以上の視聴と、2つ以上のDX案件の実施が課せられています。短期的な成果として、本プログラム開始後3カ月で約数千人がこちらに取り組み、複数名が「DXビジネス人材」に認定。現在はさらにその規模感は増えている状況です。

社員同士で刺激を与え合い、自律的に学ぶ風土を作る。そういった風土構築の支援策も数多く手がけていく。まさに、目的・戦略・カルチャーの要素をカバーしている好例だと言えるでしょう。

不動産会社Nの事例

 

資料_株式会社ベネッセコーポレーション

 

続いて紹介されたのは、不動産会社N社の事例です。同社ではDX人材育成課題において、新しい事業を担う人材や生産性向上を目的に、関わる全ての社員の素養を底上げし、専門性を高めていくという課題を抱えていました。

そこで打ち出した戦略方針がレベル別に重点分野を設定し、実態と目標を可視化。「DX基礎・応用」レベルを300名、課題解消を担う「DX実践」レベルの人材を3年で100名育成するなど、具体的かつ定量的な目標を設けることで、社内への浸透を図りました。

 

資料_株式会社ベネッセコーポレーション

 

現状と目標の整理については、三井物産社と非常に近しい軸の形でした。少し異なる部分でいえば、必須のレベルだったといいます。

「対象者を明確にして、技術職を総合職の素養も身につけさせ、コンバートさせていく方針。このあたりは、各社課題感の実態に即して異なっている印象です」(菊井氏)

結果的に、実態を明らかにして方針を明確化。それに必要な学習環境も整え、それを全社を挙げて推進していくことで、短期的に成果を出すことができました。特に、3年で100名を目指した課題解消を担うDX実践レベルは8カ月で50名を超え、単年でプロジェクトにアサインして事業貢献につなげるなど、育成施策が事業貢献に繋がる好例といえるでしょう。

阪急阪神不動産の事例

 

資料_株式会社ベネッセコーポレーション

 

3社目は、阪急阪神不動産社の事例です。同社では、DX推進リーダーの育成、自律的な学習推進を課題として捉えつつも、スキルレベルの実態把握を課題としていました。

そのため、戦略方針の打ち手として実態を把握し、そのレベル感に応じた学習の推奨をエクサウィザーズのDIA(デジタルイノベーターアセスメント)とUdemyビジネスとの連携プログラムで用意し、継続的な学習環境を構築しました。

DIAとUdemyの連携プログラムは、8月に改定されたデジタルスキル標準に完全準拠したDIAアセスメントによる実態把握のための組織診断です。同社では、目標設定や個別最適化された育成コンテンツ、その定点観測をUdemyと連携することで、一気通貫で実現し、継続的な学習を推進しました。

短期的な成果として、1年間で9割近い受験者のスコアが向上し、スコア向上と学習の相関が見られたことから、さらに対象を広げる予定だといいます。

「学びの大三角形要素にある目的や戦略を明確化し、全社的な育成課題を解消し、事業貢献につなげた好例です」(菊井氏)

 

資料_株式会社ベネッセコーポレーション

 

最後に菊井氏は、学習の多様性と即時性を担保し、実務直結の講座を学べるUdemyをはじめ、オンライン型の集合研修エクサウィザーズ社のDIAアセスメント、ブートキャンプなど幅広く活用しながら、様々な企業の課題感に向けた解決策や育成プランを支援していると語り、セッションを締めました。

「学び続ける全ての大人を応援し、最終学歴以上に最新学習歴を誇れる社会、その実現を目指してベネッセならびにUdemy一同、これからも企業の課題解消に向けて支援していきたいと考えています」(菊井氏)