阪急阪神不動産・向原 孝樹氏が語る、DXアセスメントを起点とした人材育成の全体像
〜ExawizardsCollaborationDay2023
阪急阪神不動産株式会社
DX推進部兼人事部課長
向原 孝樹 氏
神戸大学経営学部卒業。2003年4月、阪神電気鉄道入社(現:阪急阪神ホールディングス在籍)。人事労務、レジャー施設運営等を経て、2019年より阪急阪神不動産人事部にて勤務。2022年に新設されたDX推進部の立ち上げメンバーとして同部へ異動。全社DX推進体制の構築、DX人材育成等を担当。その他、社内活性化PJ等、様々なプロジェクトにも従事。「みんなが、それぞれの立場からDXを語れる職場」を目指して日々奮闘中。
続いては、DX人材の育成に取り組む企業のキーパーソンが登壇しました。最初に「DXアセスメントを活用したスキル・素養の可視化と人材育成に与える影響」をテーマに講演を行ったのは、阪急阪神不動産のDX推進部 兼 人事部 課長、向原孝樹氏。同社にDX推進部が設立されたのは2022年。約1年半におけるDX人材育成について、その取り組み内容が語られました。
DX推進までの経緯
まずは、阪急阪神不動産がDX推進するに至った経緯が紹介されました。
事業共創推進プロジェクトの開始
同社のDX推進部ができる前身として、2019年から「事業共創推進プロジェクト」がスタートしました。
この事業共創推進プロジェクトの主な取り組みとして、コーポレートベンチャーキャピタルファンド(CVC)の設立、ピッチイベントの実施、アクセラレーションプログラムへの参画が紹介されました。
「現在は、これらの取り組みはDX推進部に運営が移管しています。1つ目のCVC(コーポレートベンチャーキャピタルファンド)立ち上げについては、これまで4社に出資をしています。2つ目のピッチイベントに関しては、JSSA日本スタートアップ支援協会と共催で阪急阪神事業共創AWARDを3回開催。さらに3つ目として、アクセラレーションプログラムに参画をしているところです」(向原氏)
全社DX推進のための取り組み
阪急阪神不動産では、他のDXプロジェクトも2022年4月に新設したDX推進部に移行。部の新設に合わせて、社長・経営陣をメンバーとするDX推進委員会を設置して、月に一度の頻度で、全社横断でDXに関する情報共有や意見交換を行っています。
「各事業本部に本部推進担当と各部にDX担当を任命しました。本部推進担当は、各本部に所属してDX推進部を兼務しています。DX推進部で事業部門兼務者が別におりまして、このDX推進部と各本部の担当者で本部の事業に関する情報連携を行っています」(向原氏)
DX人材教育においても、各部からのメンバー選抜など、メンバー間で相互に話し合って決定しています。各部のDX担当は2023年4月から約70名を任命し、月に一回、実務レベルでの情報交換を行っているといいます。
「DX推進の取り組みに関しては、各本部のDX担当に従業員が相談できる体制にし、その各本部の担当者をDX推進部がサポートする体制を作っています」(向原氏)
DX推進戦略の策定
2022年度は主にDX推進戦略の策定に取り組んでいたという同社は、2023年4月には全社員にDX推進戦略の全体像を公表しました。
その中にはトップメッセージとして『DXの主役は皆さんであり、DXは手段であって目的ではない。その目的は、社員の皆さんの仕事や組織に内在している』といったコメントを伝えていると言います。
DX推進戦略の全体像
阪急阪神不動産ではDX実現に向けたステップ・役割・連携を考慮し、DX推進戦略を「業務DX」「事業DX」「価値DX」という3つの類型に分けています。
「DX推進部が立ち上がった時に、部内でもそもそも『DXとは何か』という考え方や定義が人によって異なっている状況でした。議論の末に、この3つに分けて定義しました。現在では社内共通の共通語となっています」(向原氏)
DX推進部と事業部門で役割を分け、各本部は主に「業務DX」「事業DX」、「価値DX」はDX推進部が牽引するという役割分担になっているそうです。
「いきなりこの価値DXに至るのは、組織のリテラシーとしては難しいと考えました。まずは生産性の向上や、お客様のCS向上といった業務DX事業DXを全社で実現させながら、組織のデジタルリテラシーを上げていく。その先として価値DXや事業DXのビジョンを実現することを目指しています」(向原氏)
DXの取り組みとして「既存事業の領域」「新規事業の領域」「DX人材の育成」の大きく3つを推進しており、今回の講演ではDX人材の育成について、説明が行われました。
DX人材育成の8つの取り組み
2022年7月に策定されたDX人材育成の取り組みについて、人材育成についてモデルを示したものが以下の図です。
「DX推進において、社内で量的に必要なのはビジネスデジタル人材だと思っています。事業部門の人材は教育や研修やOJTを推進し、デジタル人材・IT人材との協業によって、知識移転・共有を受けて、今までデジタルに親しみのなかった事業部門の人がビジネスデジタル人材になるという絵を描いております」(向原氏)
右上のコアデジタル人材はいわゆるスペシャリストを示しています。同社では人材不足のため、当面は外部から人材確保の上、ノウハウの移転を図っていくと向原氏は語ります。
「デジタルIT人材においても、ビジネスの知識を身につけていただくという概念を描いています」(向原氏)
続いて向原氏はDX教育・研修の全体像を示し、今回は
- DIA(アセスメント)
- DXリテラシー教育
- Udemy連携パーソナライズラーニング(新名称:DXパーソナライズドプログラム with UdemyBusiness)
- DX選抜研修
- データ分析演習
- アイディア創出プログラム
- アイディア実証(PoC)ワークショップ
- 外部講師による講演・勉強会
の合計8つについて、説明が行われました。
DIA(アセスメント)
まず、エクサウィザーズが提供しているデジタルイノベーターアセスメント(通称DIA)というサービスをもとに、2021年度には選抜で100名ほど、2022年度には全社員に実施しています。
「2023年度以降は新卒社員や経験者採用の方を中心に実施をしていきたいと思っています。研修への選抜や経験者採用の選考などの参考情報にも使っています」(向原氏)
DXリテラシー教育(eラーニング)
動画教育のeラーニングは、2022年度一気に全員に展開。2023年度は受けてない方に実施を進めていくとのことです。2022年度の受講者について、「今後どう継続して教育を受けていただくかが課題」と、向原氏は語っています。
その課題を解決すべく、同社ではエクサウィザーズ提供によるUdemy連携パーソナライズラーニング(現DXパーソナライズドラーニング with Udemy Business)を実施しています。
※DXパーソナライズドラーニング with Udemy Businessとは、ベネッセコーポレーションが提供するUdemy Businessと連携し、Udemy Businessが保有する豊富な動画コンテンツの中から、DIAの受検結果に基づいて個人に最適な動画コンテンツがレコメンドされる機能です。
Udemy連携パーソナライズラーニング
eラーニング受講後、DX推進メンバーの次の学びの場として、2022年度は意図して提供したと向原氏は言います。
「DX推進部以外にも範囲を広げています。レコメンドされたものを受けるのもいいですし、Udemy BusinessにはChatGPT関係の講座や資格取得の講座もいろいろありますので、活用しているメンバーも多いですね」(向原氏)
DX選抜研修
2023年度以降に始めた施策が、主に事業部の方を対象にした「DX選抜研修」。ITの基礎知識や要求定義、プロジェクトマネジメントなど、DX推進者として必要となるスキルセットを短期間で身につけていただく研修です。
「大体業務時間の3割ぐらいを研修に充てるという非常にハードなものでしたが、この人選に当たってはまさにDIAを活用しました」(向原氏)
スキルではなく、素養の点数が高い順に並べた表を各本部に配布し、DX推進部とコミュニケーションしながら人選をしたとのこと。スキル研修自体はもちろん、さらにDXのマインドを持った若手社員の一体化につながりができたことが、研修の効果としては大きかったと向原氏は強調します。
データ分析演習
DX推進戦略の策定においてデータ活用は必須であるため、データ分析演習についても109名の方に実施しています。各部のデータ活用実務を担う人材の推薦とともに、受講を希望する人を公募で募ったところ、60名ほどの応募があったそうです。
ただし、Excelスキルの有無によって、受講した時の満足度・理解度の差があったようだといいます。
「研修自体は非常にいいものでした。一方で、この研修をリテラシー教育なのか、得意分野を伸ばす選抜教育なのかを、きちんと定義しないといけないという反省もありました」(向原氏)
アイデア創出プログラム
同社では、DX推進戦略に関する理解の浸透を図るとともに、社内のさまざまな部門からアイデアの種を集めるという趣旨により、アイデア創出プログラムも実施しています。データやデジタルを活用して何ができるのかを考える研修です。
応募フォームは難易度が高いもので、1カ月間の募集期間で3割ほどの応募を期待していたところ、結果的には社員の約5割から応募がありました。
「要因としては、応募開始前にエクサウィザーズの大植取締役にChatGPTを活用したアイデアの創出方法について講演をいただきまして、ChatGPTに壁打ちしながらアイデアを考えましょうといった案内をしたところ、それで勇気を出して応募した社員も多くいました」(向原氏)
ChatGPTの使い方の体験になり、応募につながる一因にもなったと、向原氏は満足そうに語りました。
アイデア実証ワークショップ
アイデア実証ワークショップは、アイデア創出プログラムで出てきたアイデアの種を、PoC、いわゆる概念実証の案まで持っていくための手法を学ぶ研修です。5つの企画案が出され、現在も実現に向けて検証中です。
外部講師による講演・勉強会
外部講師による講演・勉強会では、役員を含む全社員がDXについて学び、考える機会の提供、気運醸成を目的に実施しています。
「社内講師によるITスキルアップ講座、若手企画の勉強会など、こういった取り組みが非常に重要だと思っています。地道ですが、大切にしていきたい取り組みとして続けていきたいと考えています」(向原氏)
今後のDX人材育成について
生成AI活用の取り組み
今後の生成AIの取り組みについても紹介がありました。同社はエクサウィザーズのChatGPTプロダクトであるexaBase 生成AI powered by GPT-4をテスト導入し、DX推進部→全社→グループ会社の順で導入規模を拡大しており、今後は自社データを用いた開発も検討していると言います。
向原氏は、人材育成の観点から良かった点として、業務効率化への寄与に加えて、従業員から「自社はDXに積極的な会社だ」と認識してもらえたことを挙げています。
「今後もこうした新技術の導入を積極的に行っていきたいと思っています」(向原氏)
不得意な人に向けても、リテラシー教育を強化する
最後に向原氏は、今回実施した研修の受講者とアセスメント結果の関係についての集計データをもとに、今後のDX人材育成について説明を行いました。
研修への参加回数と研修受講前のデジタルスキルの関係について調べたところ、スコアの高い人ほど会社が提供する研修に参加する(参加意欲が旺盛)という結果が出たといいます。
「挙手制の研修を続けると、得意な人とそうでない人の差がどんどん開いていくでしょう。挙手制の研修などの得意スキルを伸ばす施策も重要ですが、そうでない人についても、継続的にきちんとリテラシー教育をしていくことも重要だと考えています」(向原氏)
今後の検討事項としても、知見が得られたと向原氏は振り返ります。
デジタルスキル標準の対応に向けたアセスメントDIAへの今後の期待
最後に向原氏は、デジタルスキル標準の対応に向けたDIAの今後の期待について語りました。デジタル人材の育成モデルについては、デジタルスキル標準の人材類型に当てはめて考えていきたいと言います。
「まずは、デジタルスキル標準に準じた能力の見える化。次のDIA3.0では、個人ごとの能力を細かく見られるようになります。人材類型や共通スキルリストに基づく社内・部内の能力目標の設定、それに応じた教育メニュー、個別の検討や提供、関係資格の取得のサポートができるようになるでしょう」(向原氏)
そして、ゆくゆくは人材育成・人材配置にも活用していきたいと語り、セッションを締めました。