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経済産業省・内田 了司氏が語る、デジタルスキル標準を活用したDX推進人材の育成
〜ExawizardsCollaborationDay2023

経済産業省商務情報政策局情報技術利用促進課長
内田 了司 氏

内田 了司 氏

1998年通商産業省(現経済産業省)入省。知的財産政策室、大臣官房グローバル経済室、通商機構部参事官室等を経て、2015年内閣官房まちひとしごと創生本部事務局ビッグデータ室長(RESAS開発)、2016年在アメリカ合衆国日本国大使館参事官、2019年デジタル通商交渉官兼デジタル通商ルール室長(WTO電子商取引交渉、日EUEPA見直し、日英EPAにおける国際的なデータ流通ルールの立案及び交渉並びに有志国間連携の推進)、2021年国際経済課長(G7・G20)に従事。2022年7月より現職。

DX人材の状況

まず語られたのは、人材育成ニーズが高まっている大もとであるDXの状況についてです。

デジタル投資は成長に欠かせないものとなっていますが、実際にこのデジタル投資がどのように行われているのかを示したのが以下のグラフです。

「日本のIT予算は守りが76.7%と、大宗が守りの投資、すなわち、現状のビジネスの維持・運営に投資されている状況です」(内田氏)

日本の大半が「守りの投資」

 

右側のレーダーチャートを見ると、日本の投資(赤線)は業務プロセスのIT化、効率化、コスト削減、働き方改革など、コスト削減や改革・改善に費やしています。

対してアメリカ企業のIT予算(青線)は、ビジネスモデルの構築や新しい製品サービスの開発強化、あるいは市場や顧客行動の分析に投じられています。

「これはまさに、日本はまだまだDXに投資をする余地があるということを示しています」(内田氏)

担い手不足の課題

 

内田氏はDXを遅らせているもう一つの原因として、人材不足を挙げています。情報処理推進機構(IPA)の「DX白書2023」によれば、人材が大幅に不足していると回答する企業が質・量ともに圧倒的に増えています。

「DXの進展がこの状況を招いていると考えられます。人材ニーズの高まりに供給が追いついておらず、DXがなかなか進まない状況となっています。これはマクロで見たデータですが、都市・地方で比較すると地方は特に人材の不足が顕著だと聞きます」(内田氏)

デジタル田園都市構想

そうした中で政府全体の政策方針として、2026年度末までにデジタル人材を230万人育成するという大きな目標を掲げています。

「この230万人を育成する上で『デジタル田園都市国家構想の総合戦略』の中でデジタルスキル標準を活用していくことを述べています」(内田氏)

 

デジタルスキル標準を活用しながら、今後も関係省庁との協力を通じてデジタル人材の育成を加速していきたいと、内田氏は語ります。

「デジタル推進人材として、デジタルスキル標準に定義する人材を5年間で230万人育成することを目指しています。文部科学省、経済産業省、厚生労働省の3省庁が中心となり、さまざまな人材育成の取り組みをしています」(内田氏)

 

デジタルスキル標準(DSS)とは?

続いては、今回のテーマでもある「デジタルスキル標準」に関する詳細が説明されました。

「DXは、企業におけるITシステムだけの問題ではなく、将来を見据えたビジネスのあり方や企業文化・風土の変革にも対応していく大きな課題です」(内田氏)

したがってDXは外部に丸投げするのではなく、経営層から社員全体で取り組むもの。つまり、会社全体で事業に知見のある人がしっかりとコミットすることが不可欠だと、内田氏は強調します。

 

DXを進めるための知識・スキルを身につける一つの目安として、この「デジタルスキル標準「デジタルスキル標準DSS」が、昨年12月に公表されました。

「企業や組織の構成員全員がDXの推進を自分事として捉え、企業全体として変革への受容性を高めていく必要がある。変革を受け入れることを心構えとして持っていく。そのためにデジタルスキル標準を役立てていただきたいと考えています」(内田氏)

このデジタルスキル標準は、DXリテラシー標準(左)とDX推進スキル標準(右)に分かれています。

DXリテラシー標準については、全てのビジネスパーソン、経営者を含む組織全体が身につけるべきスキルです。その上で、DXを推進して組織を変革していく専門性を持つ人材像として、DX推進人材が定義されています。

DXリテラシー標準

まず、DXリテラシー標準について解説が行われました。

 

DXがなぜ必要なのか(Why)、何を活用してDXをするのか(What)、どのようにDXを実現するのか(How)。この3つの要素とともに、DXを進める上で従業員全員が備えておくべきマインド・スタンスで構成されています。

DX推進スキル標準

続いて、DX推進スキル標準について解説が行われました。

こちらは従来のITスキルとは異なり、分業というより連携しながらスキルを生かしていくことを想定していると内田氏は言います。

「ビジネスアーキテクト、データサイエンティスト、サイバーセキュリティ、ソフトエンジニア、デザイナー。この5つの人材類型が連携しながらDXを実現していくことを想定しています」(内田氏)

もちろん企業によってDXの進め方は異なるため、全ての人材を揃えなくてはいけないということではなく、「企業のDXに必要と考える人材を重点的に育成していく上で活用していただくことを目的としたものである」と、内田氏は補足しました。

 

 

DX推進スキル標準は、5分野の人材像を示しています。そもそもDXを進める上で、社内にどのような人材が必要なのか、そうした人材が社内にいるのかを把握することができていないとのことでした。

「その課題を乗り越えるために、まずは自社のDXを実現するために必要な人材像を具体化するための参考資料として活用していただきたいと思います」(内田氏)

 

5分類はさらに細分化しており、それぞれ2から4つのロールに分けられています。

共通スキル

 

DX推進スキル標準の大きな特徴としては、この5分類全てに共通するスキルがあります。ベースとなるスキルはビジネス変革、データ活用、テクノロジー、セキュリティ、パーソナルスキルです。

 

図:データサイエンティストのロールの例

例えばデータサイエンスプロフェッショナルであれば、AI、データサイエンス、データ活用、プライバシーの保護、デザインスキルなど、特に重視されるスキル項目はa~dの中で上位の重み付けがされています。つまり、データサイエンティストだからといって、セキュリティのことを全く知らなくてもいいというわけではない、と内田氏は言います。

「全てのスキルについて一定程度のスキルを持った上で、特にデータ、例えばデータサイエンスプロフェッショナルであれば、それに相応しい重点分野があるとして、この重み付けをしています。スキルごとに重み付けをしながら人材像やロールを定義しているところがDX推進スキル標準の特徴です」(内田氏)

デジタルスキル標準作成のねらい

デジタルスキル標準の活用・普及に向けた取り組み

内田氏はデジタルスキル標準を作成した狙いについて、「企業内のDXを進める人材を育成、確保する上での指標にしてほしい」と語り、この人材育成の方針が定めた上で、次に何を学ぶべきかが明確になると訴えます。

「DSS(デジタルスキル標準)を公開してまだ半年ですが、人材育成やコンテンツを提供している多くの企業がデジタルスキル標準の準拠に速やかに対応されていると感じています。実際、そうした企業の方々から、お客様から人材育成にDSSをどう使ったらいいのかという相談が増えている、という話を聞いています」(内田氏)

 

内田氏は、企業もDSSを見て、自社に足りない人材が明確になってきたという効果を感じているようだと言います。

「次のステップをどうしたらいいかといった相談が増えています。リスキリング市場の拡大に向けて、このデジタルスキル標準がお役に立てればと思います」(内田氏)

 

デジタルスキル標準のアップデート内容

2022年末に公表してから約半年経ったところで、生成AIが非常に大きな話題になっています。特に2023年前半は、国内でもChatGPTが大きな話題になりました。多くの人がChatGPTを使い始め、企業でも実装が始まっているところも多いのではないでしょうか。

この新しいAIが、人材育成やスキルに大きな影響を及ぼすことは不可避であると、内田氏は推測します。

「DX推進において、この生成AIの登場を追い風にしてほしいと考えています。そのためデジタルスキル標準でも、生成AI対応を中心にアップデートしました」(内田氏)

想定される人材スキルに与える影響が大きいと考え、この6月から8月にかけて短期間に様々な有識者の方々と意見交換をしながら考え方をまとめ、公表したと言います。

その概要については、報告書「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方」から読むことができます。有識者による示唆深い、洞察のあるコメントが記載されています。

「生成AI技術は日々進展しています。様々なアプリケーションの発展や、人材開発に与える影響も常に進展しています。そうした中で、現時点で取るべき対応をアジャイルに取りまとめました。この議論は今後も続けていきたいと思います」(内田氏)

生成AIがもたらすインパクト

生成AIがもたらすインパクトについては、まず使いやすいということが重要になります。ホワイトカラーの業務を中心に、生産性の向上や付加価値の向上に寄与していくということ。これをうまく活用することで、大きなビジネス機会を引き出す可能性を秘めています。

「企業目線では、生成AIを活用してDXの推進を強く期待しています。この生成AIの登場を一つのきっかけに、DXの足踏み状態を打破していただきたい。そのためには、経営者のコミットメントが何より重要となります。その上で生成AIを活用するための社内体制の整備、社内教育が必要になってくると思います」(内田氏)

人材育成やスキルに及ぼす影響

人材スキル面に与える影響の示唆として、生成AIなどの技術変化のスピードが人材育成のスピードと全く合っていないと、内田氏は指摘します。

「これまでの情報教育は、非常に長い時間がかかることを前提に行われてきました。一方で、生成AIは月単位、週単位で進歩しています。人材育成と技術変化のスピードがミスマッチしていることを前提に、まずは主体的に学び続けることが必要です」(内田氏)

例えば、生成AIが生み出すアウトプットをしっかりと吟味して、それをビジネスに使うかどうか決断するスキルが大事になる。その意味で、従来から重視されている批判的思考、創造性といった考え方についてはより重視されるようになるだろうと語ります。

生成AIによる業務効率化が進むことで、人の役割は定型業務よりも創造性の高い業務、クリエイティブな業務、それからデザインやビジネスなどのスキルがより重視されると考えられます。

「社会人がこれまで経験を通じて身につけてきたスキルやプロセスが、今後なくなる可能性もある。そうした経験を別の機会でどのように身につけていくかということも大事になってくるでしょう」(内田氏)

経済産業省における政策対応

経済産業省における政策対応として、まずはデジタルスキル標準をアップデートしたことが挙げられます。具体的には、DXリテラシー標準の内容を生成AI対応にアップデート。DXを推進するより高度な専門人材のスキルについては、もう少し時間をかけて検討し、必要な見直しをしていきたいと紹介しました。

また、最近企業でも活用が進んでいるITパスポート試験についても、シラバスを改訂し、来年度から生成AIの問題を出題する準備をしているそうです。

「企業のDXを進めるための人材育成のニーズは非常に高まっていますが、これまで教育コンテンツの提供、人材のアセスメントなどの努力がばらばらに行われていたところがあったと思います。デジタルスキル標準の活用がそれらの取組をつなげ、企業の人材育成が動き出し、それがDXの推進につながることを強く期待しています」(内田氏)

 

 

参考資料