パーソルテンプスタッフ・原田 耕太郎氏が語る、「DX人材育成プログラム」を立ち上げた理由と実践の要諦
〜ExawizardsCollaborationDay2023
パーソルテンプスタッフ株式会社
CIO / テクノロジー本部・本部長
原田 耕太郎 氏
Sier、ITコンサルタントなどを経て2012年パーソルキャリアへ入社。
事業現場にて、IT、事業企画、人事、法務などミドルバック部門を広く担当。
2016年よりパーソルテンプスタッフへ異動、派遣事業領域のIT部門長に着任。
生成AIなど新技術の導入やビジネスモデルの変革が進み、企業はDXの推進によって課題を乗り越えていこうとしている。DX人材育成の最前線を伝えるイベント「ExaWizards Collaboration Day」の基調講演におけるパーソルテンプスタッフ原田耕太郎氏の講演では、DX人材育成プログラムを立ち上げた背景や具体的な取り組みについて語られました。
抱えていた課題
同社がDX人材育成に取り組んでいる主目的は、全社員のIT・DXのリテラシーを高めること。また、それ以上に広義でいうITを使いこなさなければ、オフィスワーカーとして業務をこなすことが難しくなっていくことを課題として捉えていたからだと、原田氏は語ります。
広義のIT人材育成が必要だった
これまでは従来型の中央集権型のIT部門が巨大な基幹システムを作り、全国画一的な業務を普遍的、かつ画一的に自動化できる部分だけを拾って生産性を上げてきました。そうした仕事がITの役割だったと、原田氏は言います。
「現在起こり始めてる現象としては、基幹システムでは拾っていない業務の末端部分、業務プロセスでいうとラストワンマイルといった部分に関して、自らITを工夫して使いこなして生産性を上げていく必要性が出てきました」(原田氏)
原田氏は、個別最適を許容しなくてはいけない時代に突入している中、中央集権型のITに頼っていては全然進まないと指摘します。
「そこにメスを入れるには、地方分権型のITに散っていかなくてはいけない。それを実現するためには、IT人材・DX人材をどう広め、どう増やしていくのかを課題として捉え、活動をスタートしています」(原田氏)
IT人材の中途採用の課題
パーソルテンプスタッフ社は人材サービスを提供している企業であることから、採用力は高いという自負を持ちながらキャリア採用を進めているものの、IT人材採用はそう簡単ではないと、原田氏は語ります。
「ヒートアップしているIT人材の中途採用マーケットに対して、待遇だけを上げていくといった対応では全体のバランスがおかしくなってしまいます。そこに課題を感じながら、対策を検討しています」(原田氏)
全社員向けITスキル研修の限界
同社では採用活動に並行して、ITスキルに関する研修についても注力しています。例えば、原田氏が直接本部長・役員レイヤーにface-to-faceで講義する時間を設けたり、様々な学習コンテンツを用意したりなど、いろいろな学びの場を創出する支援を行ってきました。
しかし、研修の時間が終わった瞬間に業務のことに意識が戻ってしまい、DXに関する知識がなかなか知識装着させることが難しかったと、原田氏は振り返ります。
「DXの活動として成し遂げたいことと知識装着させることの関連性が、当社の中では見出せなかった。結果的に、事業としてやりたいDXとしての活動を進めることと、うまくシンクロできませんでした」(原田氏)
DX人材育成のために意識したこと
異動によりリスキリングを推進
この課題を解決すべく、同社では社員のリスキリングに取り組みました。
「当社では研修ではなく、フロント部門からITやDXを進めている中央集権側の部門に異動してもらいました。異動後に実践で学んでもらい、その育成を組織ぐるみでバックアップしています」(原田氏)
DX推進領域において実際に活躍してもらい、「あ、俺にもできる」「私にもできる」という循環を生むという施策を開始し、今年でちょうど2年目を迎えるそうです。
異動:新卒:中途の人材バランスを意識
IT/DX部門の中で、どのような人材ポートフォリオにするかを考えたときに、やはり営業部門だけではなく、最新テクノロジーを理解している人材も必要となります。そこで同社では、新卒・キャリア採用による人員拡大、異動・育成強化を進めているといいます。
部門の活性化のために、営業異動・新卒・中途採用を3分の1ずつでバランスを組んだと、原田氏はその方向性を説明します。
「営業現場がわかっているビジネス感覚に加え、ITやDXを理解している人材も必要です。かつ、新卒の若い感覚で、DXやイノベーティブな思想をどう活かすか。このミックスが大事なんじゃないかと考えました。さらに、DX部門の総人数を2倍ぐらいに増やすことを目標に掲げて進めています」(原田氏)
営業間とのローテーションをめざす
その後、異動させながらどのようなステップを目指すのかを描いたのが、上記スライドです。第1歩目(As-Is)としては、フロント部門からミドル系の部門、本社コーポレート系機能などのITの部門に人材を異動させ、フロント以外のITリテラシーを向上させます。
Step2としては、ITを理解している人材がミドル部門の中でさらに広がっていくために、コーポレート系部門とDX部門で人材交流をする。最終的には、営業部門に人材が戻っていくという還流を動かすことによって、事業全体のDXを推進していこうという狙いです。
「狙いの1つは、事業や業務のラストワンマイルにDXを浸透させるには、DXを理解している人材が営業現場の近いところにいることが重要だと考えたからです。もう1つは、誰を異動させるのかを考えたときに、時間はかかっても営業部門を良くすることでモチベーションを持ってもらうことです」(原田氏)
苦労したポイント
現場からの反対に粘り強く交渉
原田氏は、一番苦労したのは「どうやって、誰を、どのぐらいのボリュームで異動させるのかという具体の話になった時に、あらゆる関門につき当たったこと。時間を費やし、かなり丁寧に対応を行ったと言います。
「まず人事を巻き込んで異動させるために、会社ぐるみで合意するプロセスに約1年かかりました。最初にやったことは、ITのキャリア採用の業務を人事から引き取り、私の部門に人と仕事ごと持ってきて、直接自分でやりますと宣言したことです」(原田氏)
さらに原田氏は、人事やITの部門を管掌している取締役に、採用に対する状況を克明に報告する場を月一回設けました。
その最大の狙いは、ITのキャリア採用がいかに難しいかを取締役に理解してもらうことでした。転職マーケットがヒートアップしている中に飛び込んでいくことが、会社にとって非常に困難であることを実感してもらうことがねらいです。採用のプロである同社が1年間取り組んでも、なかなか採用がうまくいかない。その状況をかなりの高い次元で合意形成することが、社内異動という施策に対して納得してもらうことに繋がったといいます。
「下地を作るところにかなり時間はかかったのですが、そこからは必ず毎年実施することが当たり前のこととなりました。社内異動というプロセスを通じて、営業部門側もDXに投資する人材を含め、一番貴重な人材を含めて投資することの重要性を理解してもらうことができた。
会社とって大事なテーマなんだという、強烈なインプレッションを与えることができました。継続すればするほど、IT・DX部門に優秀な人が集めることが大事だということが、副産物として認識されるという、いい現象も起こせたのかなと思っています」(原田氏)
メンタルケアを重視
異動するメンバーは事前にポテンシャルがある人を見抜くというプロセスなどなく、育成したわけでもありません。同社の本施策を決めたのが8月。年度変わりとなる翌年4月に15~6人規模で対象者をピックアップする調整を一気に進めたため、異動後の課題として挙がってきたのは、メンタルケアの重要性でした。
「組織側からすると、初心者・素人に一から教えなくてはいけないという現象が起こり、異動した社員に関しては、今まで営業としてバリバリやってたのに『なんで?』ということが起こるわけです」(原田氏)
その「なんで?」に対して、組織はどうやってサポートすべきか。学習コンテンツも事前に準備はしていたものの、このプログラムを動かすときに最も意思を込めて対応したのは、メンタルケアだったと原田氏は強調します。
「メンバーはみんな不安になるし、自信なくしてしまう。それに対してどう対処するかがポイントだと見越して、いろいろと準備を進めていきました」(原田氏)
「学びのコーチ」を活用
異動対象者に対して同社が実施したのは、パーソルイノベーションが提供する学びのDXプラットフォーム「学びのコーチ」です。
「学びのコーチのコーチングサポートを担当しているチームとタッグを組みました。直接ライン上の関係者に対して、『絶対機密を守るので、言いにくいことは好きに話していいですよ』といったように、相手の心理状況を想像して対応できるプロのコーチがクローズドで悩みを聞くという施策を取りました」(原田氏)
そこで話した内容や定期的に実施したサーベイを通じて、本人の自己効力感などの感覚的なコンディションを定期的に把握するようにしたと、原田氏は説明します。
この施策によって、コンディションが落ち込んでる人をキャッチして、すぐに上長や同僚にエスカレーションを上げて、コミュニケーションを取ってもらうように体制を整えました。
「この活動を維持うまくできているポイントの1つだと思っています」(原田氏)
取り組み成果
DIAによりスコアの伸びを可視化
エクサウィザーズが提供する「DIA」の活用でも異動者を育て、ケアするというプログラムを伴走しました。
「どのようなコンテンツを学ぶことが、実務に対して直線的に立ち上がるのかというコンテンツ設計と、その立ち上がりスピードを可視化するためにDIAを活用。この2軸をエクサウィザーズ社と協業して組み立てています」(原田氏)
同社の狙いとしては、2022年度1年間の実績としてFY22離脱者0を達成すること。結果的に離脱者0を達成し、DIAによって狙った通りにスコアが伸びたのかどうかも可視化することができました。
「さらに、どのような異動者がスコアが伸びやすい・伸びにくいという傾向を経年で貯めることもできました」(原田氏)
傾向値のデータを蓄積することで、今後の異動者選定や異動者本人に対して動機づけを行うことに繋がっていると原田氏は語ります。
「異動者がなぜ自分が選ばれたのか説明がなされていなかったことに、実は一番不安を感じる局面が多かったのです。そこに対して、外部のデータを示して気づきを与えることで勇気につながっていく。そういうコミュニケーションツールとしても、DIAのように客観的にそのスコアリングできるような仕組みは非常に有効だと思っています」(原田氏)
こうした取り組みが功を奏し、結果として当初の想定よりも早く、DXの現場で一人立ちできているメンバーが出てきました。15名程度の異動者のうち、80~90%の方は、もうほぼほぼ自分でそれなりに業務の担当と呼べるテリトリーを持って、自分自身の業務・タスクをこなし、DXを推進するレベルまで来ていると、原田氏は言います。
「いろいろ苦労はありましたが、やっぱり実戦に勝る育成スピードはないということが証明できているところです。今後ももがきながら前に進んでいきたいと考えています」(原田氏)
そう原田氏は力強く語り、セッションをまとめました。