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大鵬薬品工業・今岡 忠氏が語る、DXアセスメントの全社員受検で得られた示唆とDX人財育成戦略への活用
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大鵬薬品工業株式会社
デジタル・IT統括部 ビジネスデザイン課係長
今岡 忠 氏

2015年に農学生命科学研究科 博士後期課程を修了後、新卒で大鵬薬品に入社。メディシナルケミストとしてがん領域における創薬研究に従事。2020年に経営企画部門に在籍し、DXビジョン策定、DX社内協業を行った。2023年にDX組織がデジタル・IT統括部に集約され、現所属にて全社員を対象としたDXスキルアセスメントの実施による人財ポートフォリオの分析、希望者約1600人を対象としたDX e-learningを運営。人財育成を起点とした組織変革に取り組んでいる。

大鵬薬品におけるDXG人財の定義

大鵬薬品工業株式会社(以下「大鵬薬品」)では、2023年1月に代表取締役社長の小林将之氏からDXへの取り組みを強化するために積極的にDX人財を育成するという方向性が示されたことを受け、DXG人財の発掘と育成に着手しました。

DXG人財とは

 

資料_大鵬薬品工業株式会社

 

同社ではデジタルとイノベーティブ双方の能力を持ち合わせたDX人財を筆頭に、デジタルを活用したビジネスを社内に導入するD人財、社内改革を先導するX人財、デジタルを使いこなすゼネラリストG人財と、それぞれ定義しています。

「G人財については、特にDXのマインドやコアリテラシーといった領域に対して注力しています」(今岡氏)

 

資料_大鵬薬品工業株式会社

 

DXの人財育成推進においては、エクサウィザーズが提供するDX人材育成プラットフォーム「exaBase DXアセスメント&ラーニング」より、DXに必要なスキルと素養を可視化するデジタルイノベーターアセスメント(通称DIA ※読み方「ダイア」)というサービスと、DXについて学べるeラーニングを活用。全社員に対してDIAを受検してもらい、現状の分析を実施しました。

DIAはバージョン2.0を活用し、デジタルとイノベーティブの2軸でスキルと素養の可視化を行いました。その後、eラーニングを希望する社員に提供しています。

「1600名の社員から手が挙がり、自発的な学習が現在行われています。こうした取り組みを通じたリテラシーの向上によって、弊社の人財はより進化し、DX推進が加速すると考えています」(今岡氏)

DXG人財育成の指標

 

資料_大鵬薬品工業株式会社

 

同社では、社内人財のトランスフォーメーションとして、2023年からDXG人財育成の指標を定義しました。

「今年度からは、全社員をDXG人財育成にシフトしていくことを目指しています」(今岡氏)

DIAの受検結果から得られた示唆

続いて、同社全社員のDIAの受検結果から得られた示唆について、説明が行われました。

全社員のDIAの結果分析

以下のスライドは、同社の全社員が受検したDIAの受検結果の散布図です。X軸がデジタルスキルの点数、Y軸がイノベーティブスキルの点数となっています。

 

資料_大鵬薬品工業株式会社

 

各スキルの点数は、0点~4点がレベル0、4点~7点がレベル1、7点~8.5点がレベル2、8.5点以上がレベル3というように、それぞれレベルのボーダーを引いています。同社においては、DスキルとXスキルの両方がレベル3の人財をDX人財と定義。そこには届かなかったものの、DないしXがレベル3(赤い部分)をD人財またはX人財と定義しています。

そして、DスキルまたはXスキルのいずれかがレベル2の領域に入っている人財(青い部分)は、G人財と定義。このDXG分類における人数分布をカウントしたものが、右側の図です。

「およそ2割の社員がDXGのいずれかに該当していることが、全社のDIAの受検結果から分かりました」(今岡氏)

デジタルスキルの分析

デジタルスキルの分析については、以下のヒストグラムで紹介されました。人数の分布が対称のようでいて、実は非対称となっています。

 

資料_大鵬薬品工業株式会社

 

左側のグラフにおいて茶色い点線・破線で囲まれた部分、Dスキル7.5点以上の部分が極端に少ないことから、デジタルスキルが高い人財は希少価値が高いと、今岡氏は語ります。

また、右側のグラフでは、デジタルの点数に応じて、得点階級に応じた年齢別の割合を分析しており、50代以上(赤色部分)は、年齢と点数は反比例するという厳しい結果となったといいます。

「しかし、若い世代(濃い青の部分)が必ずしも高得点ではないことから、若ければいいというわけでもないことがわかります。デジタルのビジネス活用においては、ある程度の若さとビジネス経験が組み合わさった30代から40代のスコアが高いことも考慮していきたいと考えています」(今岡氏)。

イノベーティブスキルの分析

続いては、イノベーティブスキルについても同様の分析を行ったところ、Dスキルの結果とは異なり、対称的な分布をしていることが紹介されました。

 

資料_大鵬薬品工業株式会社

 

イノベーティブスキルに関しては年齢による解析は困難であったため、役職に応じた解析を実施した結果が右の図です。

「濃い青や黄色といった役職の割合が点数に比例していることから、マネジメントに携わる人は仕事・業務の幅が広がっていく中で、イノベーティブのスキルが培われていくと、私たちは考えています」(今岡氏)

将来的にDXをリードする人財領域に期待

このDIAの受検結果の中からDX人財(右上の領域)に注目した見解についても説明が行われました。

 

資料_大鵬薬品工業株式会社

 

この領域に入っている社員の人数は非常に少ないものの、それぞれの所属において、DXをリードしている人財であるということが明らかになっていると、今岡氏は言います。

「濃い赤の領域(DXに近い領域)におきまして今後の育成や業務の割り当てを行い、将来的に組織のDXをリードする人財になっていくことを期待しています」(今岡氏)

全社員DIA受検から得られた知見

今岡氏は前半部分を総括し、社長によるDXの発信が非常に重要だったと語ります。

「経営層の強いリーダーシップ発信が全社員の受検につながり、1600名の社員が自発的にDXについて学んでいこうといった行動の変化に結びついているのではないかと考えています。デジタルスキルが高い人財は希少価値が高いことから、積極的に人財育成を行っていくことが重要であると考えています」(今岡氏)

 

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半年後のDIA受検結果から得られた知見

半年後に実施された、2回目のDIA受検から得られた知見についても紹介がありました。

eラーニング受講者の成長

eラーニング受講者のうち、2回目のDIAを受けた人の進捗状況が以下となります。

 

資料_大鵬薬品工業株式会社

 

このeラーニングの進捗は、4月の時点で17%、5月の時点で21%。およそ4~5カ月が進んだ段階で20%と、あまり芳しくない状況でした。

しかし、5月上旬に2回目のDIAを実施するアナウンスをしたところ、一気に受講率が上がりました。2回目のDIA受検終了時には、受講率が44%も増加する結果となりました。

「きちんとアナウンスを行うことで、2回目のDIA受検に向け、eラーニングの受講を進める行動が見えてきました」(今岡氏)

2回目のDIAの受検結果の散布図

その2回目のDIAの受検結果の散布図が以下となります。

 

資料_大鵬薬品工業株式会社

 

今回はDIAを1回目と2回目の両方を受検した約1000名のデータに限定。散布図の青い点がeラーニング参加者の1回目の結果、黄色の点が2回目の結果です。

左下の方に青い点、右上の方に黄色い点が散布していることから、このeラーニング、DIA受検の取り組みによって、従業員の成長が一目でわかるようになっています。

「DXG人財の類型・分類に応じた人数をカウントしたところ、2回受検した約1000名の内、1回目のDIAの受検結果でDXGに入った人は271名でしたが、2回目のDIAの受検結果では507人に増えており、236名増加したという結果を出すことができました」(今岡氏)

スキル・素養での成長値

スキル・素養、それぞれの成長についても紹介がありました。左側がデジタルスキルの素養、右側がイノベーティブスキルの素養の成長値を示しています。全てのスキル・素養において正の値を示しており、向上していることがわかります。

 

資料_大鵬薬品工業株式会社

 

しかし、赤枠で囲まれたデータサイエンス・AIが、デジタルスキルの中でも成長の度合いが低い結果となりました。この領域に関しては、DXにおいて最も根幹となるスキルセットの一つであることから、人財育成の必要性があると今岡氏は強調します。

「このデータサイエンスやAIについては、一朝一夕で伸ばすことは難しく、体系立った学習制度が必要です。今後さらに注力し、人財育成を行っていく必要があると考えています」(今岡氏)

「伸びやすい人」の共通点を探る

続いて、「成長する集団はどのような人財が伸びるのか」というところにフォーカスを当て、デジタルスキルの部分に注力して分析を行った結果が紹介されました。

 

資料_大鵬薬品工業株式会社

 

左側の箱ひげ図は、1回目のスキルDIAのレベルが0から3、それぞれの方の1回目と2回目のデジタルスキルの成長値とを箱ひげ図としてプロットしています。

デジタルスキルレベルの0や1の集団においては、平均値は正の値で、第一四分位も0周辺、またはそれ以上となっており、明らかな成長が見られます。レベル2やレベル3の方は1回目の点数が高く、成長の余白が少なく見えてしまいます。

同社では、人数が多く、分布も広がっているレベル1の集団に注目し、どのような人が伸びているのかを分析しました。

デジタルスキルの目標値を低・中・高(1点~5点、6点から10点、11点以上)の3つに分類しました。それぞれのデジタルスキルの成長値の平均を取ったところ,目標値が高い人(11点以上の目標値を設定した人)の成長が著しいことが分かったといいます。

「デジタルスキルレベルが1以下で、目標値が高い人ほど、今回のDIA受検とeラーニングで成長する傾向があることが明らかとなりました。」(今岡氏)

2回目のDIAの受検結果から得られた知見

2回目のDIAの受検結果から得られた知見を、今岡氏は以下のようにまとめています。

 

資料_大鵬薬品工業株式会社

 

今回の学習によって2回目のDIAの結果は向上し、DXG分類の人数が236名増加しました。一方、データサイエンスやAIのような部分の成長は鈍いといった課題もあります。

「今後も積極的に人財育成をしていく必要があると考えています。また、高い目標を持っている人がしっかりと成長していく傾向が見えたことから、そこに対するケアも考えていく必要があると思っています」(今岡氏)

他指標との分析

今岡氏は、他の指標との分析についても説明を行いました。

資格や業務に関するアンケートとの相関

同社では資格や業務に関するアンケートを実施しており、その分析結果が紹介されました。

「資格なし・業務経験なし」「資格なし・業務経験あり」「資格あり・業務経験なし」「資格・業務経験双方あり」といったグループに分けて、1回目のDIA受検時のデジタルスキルのレベル分布を調べたのが以下図です。

 

資料_大鵬薬品工業株式会社

 

「資格なし・業務経験あり」「資格あり・業務経験なし」のグループは、中央値、平均値が近似しています。一方、「資格・業務経験双方あり」の人は、かなり高いスコアを出していることがわかります。

「資格のための学習と業務経験の両方が、デジタルスキルを伸ばす上で、非常に重要なのではないかと私たちは判断しました」(今岡氏)

データリテラシーテストとの相関

さらに、他社が提供するデータリテラシーテストと組み合わせた分析結果も紹介されました。

 

資料_大鵬薬品工業株式会社

 

データリテラシーテストとは、データの読解スキルやデータの処理スキルを分析するテストを指します。

「このデータリテラシーテストについては、読解の能力と処理の能力は正の相関が見られることが上記左の散布図からわかります」(今岡氏)

一方、X軸にDIAのデジタルスキルの点数を配置し、Y軸にデータ処理スキル、またはデータ読解スキルをそれぞれ配置すると、DIAのDスキルの高得点者は、データ読解スキルやデータ処理スキルも高いということが見えてきます。

「DIAのデジタルスキルの点数が5点以下の人には、データ処理において困難を抱えているケースが多いことから、しっかりとサポートする必要があると考えています」(今岡氏)

DX人財育成戦略への活用

続いて、大鵬薬品におけるDX人財育成戦略への活用について語られました。

DXG人財育成方針

同社では、資格と業務経験に関する分析からDXG人財、eラーニングなどの学習を通じて成長した人と実務を組み合わせることで、社員の成長や企業の成果につないでいきたいと、今岡氏は語ります。

「私たちの会社では、X人財としてビジネスデザイナー、ビジネスアーキテクト、D人財としてデータサイエンティスト、ソリューションアーキテクトといった役職・ロールを考えています」(今岡氏)

 

資料_大鵬薬品工業株式会社

 

さらに、「DXG人財を育成するために育成方針を示し、具体的な目標を掲げてDX推進を進めていこうと考えている」と、今岡氏は言います。

 

資料_大鵬薬品工業株式会社

 

具体的な内容についてはスライドで示しながら、今岡氏は以下のように語りました。

「X人財、D人財、G人財それぞれがともに協力をしながら、業務を進めていくそして、DXを推進していくことで、私たちの会社のDXとは“実現するものである”といったことを示した図です」(今岡氏)

DXG人財への発展的な研修

 

資料_大鵬薬品工業株式会社

 

同社では、今後もアセスメント、eラーニングを活用した、DXG人財への発展的な研修を考えているといいます。

具体的には、アイデアの創出実践プログラム、業務へのアサイン、社内や大塚グループ内の勉強会の活用などが挙げられました。

「データ・AI領域の強化については、データサイエンス研修の実施を考えています」(今岡氏)

アセスメントを起点とした、DX人財育成の4ステップ

 

資料_大鵬薬品工業株式会社

 

最後に、アセスメントを起点とする4ステップのDX人財育成のサマリーが紹介されました。

「Step1ではエクサウィザーズのDIAで『スキルの可視化』を実施しました。さらに、自社特有の業務や資格のアンケート、他社のデータリテラシーテストを組み合わせて、自社の人財分析を行っています」(今岡氏)

Step2の「学習プログラムの提供」については、エクサウィザーズのeラーニングを1600名希望する全員に配布。また、経済産業省が主催するデジタル推進人材育成プログラム「マナビDX Quest」への参加も推進しています。

「現在、約50名がエントリーして、DXのスキルを高めるべく学んでいます」(今岡氏)

Step3の「学習への伴走」については、社内での勉強会を実施。「このような取り組みを通じて、学習を業務の中にしっかりと定着させていくことを狙っている」と、今岡氏は強調します。

そして、最後のStep4「スキルの実践」では、各部門における取り組みを現在進めていると言います。

「今回ご紹介した施策を中心に、今後も社内人財の育成を通じてDXG人財を厚くしていきたいと思います」(今岡氏)