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金融データ活用推進協会が地銀のデータ活用・デジタル人材育成を推進する「地銀Meet up」を開催

2022年11月11日、一般社団法人金融データ活用推進協会(以下、FDUA)は「第1回 地銀Meet up」を開催。地方銀行の金融データ活用とデジタル人材育成の推進を目的とした講義や事例紹介などが行われました。

本記事では、イベントでは語り切れなかった、本イベントを開催するに至った思いをFDUAの代表理事を務める岡田拓郎氏と七十七銀行の瀬川隼也氏へインタビューし、その内容をまとめました。イベントの内容もレポートにまとめています。

なお、地銀Meet upはエクサウィザーズの小山が副ワーキンググループ長を務めています。

岡田氏、瀬川氏インタビュー~FDUA発足、地銀Meet up開催への思い~

地銀Meet up開催にあたりFDUAの代表理事である岡田氏と、七十七銀行の瀬川氏に「FDUA発足、地銀Meet up開催への思い」「発足の裏側」「今後取り組んでいきたいこと」についてインタビューを実施しました。

—FDUA発足、地銀Meet up開催への思いを教えてください。

岡田氏:FDUAは「金融業界を強くしたい」「金融の魅力を発信したい」「個人が活躍できる世界を作っていきたい」という思いで発足しました。:

そのために「銀行同士の横の繋がりの強化」、「スタートアップやベンチャーとの協業」、「個人が活躍できる環境の構築」といった活動に取り組んでいて、金融庁やデジタル庁も応援してくれています。

日本の成長力の源泉は地方であり、「地方が強くなれば金融業界が強くなる」、「金融業界が強くなれば日本が強くなる」と考えているため、特に地方銀行のデータ活用の推進は非常に重要だと考えています。

それに賛同いただき、この地銀Meet upにはJapan Digital Design 株式会社の河合CEOやみずほ第一フィナンシャルテクノロジーの安原社長、エクサウィザーズの小山さんを始めとする非常に多くの方にご支援いただくことになりました。

地方銀行の方でまだ本協会に入っていない方には是非入っていただいて、地方を、ひいては日本を一緒に強くしていきたいと考えています。

また、私個人としては別の観点での思いもあります。私も元々七十七銀行で働いていて感じたのですが、地方銀行にはそれぞれの地域の非常に優秀な人が集まっていると考えています。そのため、何かのきっかけがあれば爆発的に各地方をけん引する人材が増えるだろうと考えています。

そういった地方銀行の優秀な方々が協会に参画いただいて地方を引っ張っていくきっかけになって欲しいという気持ちがあり、この地銀Meet upを成功させたいと強く思っています。

また、七十七銀行の後に全国銀行協会という社団法人で働いていた時に感じたことが、地方銀行は地方銀行同士での横の情報共有が少ないということです。IT関連の情報は既に取引のある大手ベンダーとのやり取りが主で、他の銀行との連携が多くないと感じました。

しかし、地方銀行のビジネスモデルや扱っているデータの種類はほとんど同じなので、ベンダーと一から考えるよりも、他の地方銀行と課題や打ち手について1回情報共有する方が有益な情報が得られるケースも多いと思っています。そういう意味で地方銀行同士の成功事例を共有する機会は地方銀行を強くすることに繋がると考えています。

 

瀬川氏:地方銀行の皆様とデータ活用に関する悩み・課題を共有できる場にしたかったという想いがあります。

個人的な話になりますが、2019年12月に出向先であるJapan Digital Designから銀行に戻ってきてデータ活用の担当になった際、なかなか思うように進められず苦労していました。その中で思ったのが、データ活用が主語になってはいけないということです。当たり前ですが業務課題の明確化・解決のためにデータ活用があるということを改めて認識しました。

岡田さんも仰っていますが、業務課題やその解決策という点で銀行同士は似ているところが多いので、データ活用策の共有は非常に重要だと思っています。

また、地方銀行の良いところとしてテリトリーが被らないという点があります。そのため他の業界に比べて事例の共有がしやすいと考えていて、私もデータ活用が先行している銀行や金融機関から色々な進め方や考え方を学びたいという想いがありました。

—今後FDUAで取り組んでいきたいことを教えてください。

岡田氏:イベントでも説明した活動の3本柱「金融AIの教科書作り」「デジタル人材の育成」「あるべき組織の標準化」のいずれも2023年5月までに何かしらのアウトプットを出す予定です。

「金融AIの教科書作り」についてはSBIホールディングスの佐藤さんを委員長として2023年2月下旬に出版予定です。

「デジタル人材の育成」についてはJapan Digital Designの平山さんを委員長としてコンペティションを2023年1月~3月に開催中で、1000名以上の方に参加登録いただいております。

「金融データ活用組織の標準化」は三井住友カードの白石さんを委員長として2023年5月頃に公表予定です。アドバイザーとしてエクサウィザーズの小山さんにも入っていただいています。

—FDUAを立ち上げるにあたって、どのように関係者を巻き込んで進めていったのでしょうか?

岡田氏:フェーズが2つあり、1つは冒頭で紹介したミッションに共感してくださる金融機関の役員・部長級の方々に参画していただくフェーズ。2つ目は3つの柱の委員会の立ち上げや、Hub機能である各金融機関、金融庁/デジタル庁、スタートアップ/パートナー企業の方々に参画いただくフェーズです。

どちらのフェーズでもちゃんと思いとそれぞれのメリットを説明することで、金融業界に熱い思いを持っている方が多く集まっていただいたのでとても感謝しています。特にエクサウィザーズの小山さんは、最初に「やります!」と手を上げて協力してくださり助かりました(笑)

 

瀬川氏:ワーキンググループへの参加やワーキンググループ長を努めることについて私の上司からは、「繋がりをつくる場は大事」ということで、最初から肯定的な反応をいただいていました。元々、副ワーキンググループ長のエクサウィザーズの小山さんとは、「こじんまりと10人くらいでワーキンググループをやりましょうか」と話をしていたのですが、理事長の岡田さんが参加者の輪を広げていって、あれよあれよという間に50人~60人規模になりました(笑)

関係者が増えたことで参加人数やアジェンダの調整など大変でしたが、結果的には目的である色々な人との繋がりができたので、岡田さんに輪を広げていただいて感謝しています。

開催の準備に関しては、エクサウィザーズの小山さんをはじめ、ダイナトレックの佐伯さん、SBIの方々にも協力していただき、大変助かりました。皆さんがいらっしゃらなかったら開催できなかったのではと本当に思います。感謝しております。

—ありがとうございました。第2回の地銀Meet upも楽しみにしています。

 

続いて、イベントの内容をレポートとしてまとめました。

地銀Meet upイベントレポート~地方銀行から金融業界を盛り上げる~

金融機関の実務目線に立って、AI・データ活用を推進

開会の挨拶を行ったのは、FDUAの顧問である、みずほ第一フィナンシャルテクノロジー 代表取締役社長の安原貴彦氏。「地方銀行とともに、日本全国の金融データを活用し、金融界全体を盛り上げて世界に貢献していくことが大事」と述べました。

続いて、代表理事を務めるデジタル庁 プロジェクトマネージャーの岡田拓郎氏が登壇し、FDUAの概要や活動について発表しました。

「当協会では、『金融データで人と組織の可能性をアップデートしよう』をミッションに、金融機関の実務目線に立ってAI・データ活用を推進しています」(岡田氏)

FDUAでは、活動の3本柱として「金融AIの教科書作り」「デジタル人材の育成」「金融データ活用組織の標準化」を掲げ、①金融業界のHub、②官民(金融庁やデジタル庁と民間企業)のHub、③スタートアップとのHubを目指しており、2022年11月8日現在の会員は85社まで拡大しています。(2023年1月20日現在、108社まで拡大)

Hub機能としては、デジタル庁や金融庁の政務官の講演、金融機関の事例紹介など、会員向けの勉強会や交流の場を設けることで、「今後も金融業界の発展と社会貢献に取り組んでいきたい」と、岡田氏は語っています。

データコンペがもたらす地銀のデジタル人材発掘・育成

FDUAのデータコンペ委員会の副委員長、みずほ第一フィナンシャルテクノロジーの永山恒彦氏は、データコンペが地銀における人材育成や人材発掘にどのように活用できるかについて講演を行いました。

まず永山氏は、金融機関におけるデータ活用が急務であるにも関わらず、なかなか進まない理由として、以下の3つを挙げています。

  1. わからない:何にどう使えるのか、どこから手を付けるべきか
  2. 人がいない:社内デジタル人材の不足
  3. 組織がない:データ活用を推進するための体制がない

「FDUAでは、この3つのハードルを解決するために企画出版委員会、データコンペ委員会、標準化委員会という3つの体制で取り組んでいます」(永山氏)

また、永山氏はデジタル人材の確保についても言及しています。世の中的にも少ないデジタル人材を外部から登用するのは難しく、採用できたとしても銀行特有の環境や文化になじめず、退職してしまうケースが少なくないと指摘します。

そこで永山氏は、内部の人材を育成・発掘する可能性を提案。素養はあるがデジタル領域で仕事をする機会がなかった人材や、学習機会がなくまったくデジタルに触れてこなかった人材の育成を行うことで、デジタル人材の確保を図る選択肢を提示しました。

デジタル人材育成の手法として紹介されたのは、FDUAが開催する「データ分析コンペ」。永谷氏は、企業や行政などが抱えるデータ課題にオープンイノベーションで取り組んだ例の説明を行いました。

「ゲーム感覚・趣味・自己啓発の一貫で参加でき、賞金獲得や実力証明というインセンティブもあります」(永山氏)

コンペ活用が「なぜ使えるか?どう使えるか?」については、まず人材発掘と人材育成それぞれに対して、参加者と運営側のメリットが紹介されました(以下図参照)。

活用のポイントとなるのは、「集める」「盛り上げる」「活かす」です。「集める」に関しては、社内コンペや学習教材の準備、全社通達やメーリングリストなどを活用した社員の周知。

「盛り上げる」には、役員や人事を巻き込み、ドロップアウトさせないためのフォローアップイベントやネットワーキングなどのコミュニケーションの場を作るといった対策が挙げられました。

「活かす」については、デジタルやデータ領域に関心を持つ人やスキルを持つ人をリスト化し、適切な部門に配属することが重要だと述べられました。

「コンペについてはデジタル庁が後援し、FDUAが企画する『家計変調の予兆を捉える~住宅ローンの延滞予測~』が12月末からエントリー開始されますので、ぜひご活用ください」(永山氏)

Japan Digital DesignのCEOが語る「金融機関のデータ利用」

今回参加した地銀各行から、データ活用に向けたメッセージがそれぞれ述べられた後、「金融機関のデータ活用」をテーマに、FDUA理事であるJapan Digital Designの代表取締役CEO 河合祐子氏の講演が行われました。

Japan Digital Designは、三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)のデジタル系R&D機能を担う子会社です。従業員の半数は技術系人材で、MUFG各社向けにデータ分析や金融R&D機能を提供。MUFGや地域金融機関からの出向者の受け入れも行っています。

まず河合氏は、近年はクラウドやAIの進化によって、収集・分析できるデータの「種類」「質」「量」が変化していること、巨大で詳細なデータの収集や活用場面が拡大していることを言及。一方で、データ分析については「何をやりたいのか」をまず明確にすることが重要だと指摘します。

よくあるパターンとしては、「金融機関はデータをたくさん持っているはずだからこれを活用すべき」から始まり、情報管理が厳しいため「データが取り出せない」「データ分析の技術がない」ということに気づき、外部の企業に多額の費用を払って依頼してみたものの、結局何を分析したかったのかわからないまま終わってしまう失敗例です。

「そもそもデータを使って何をやりたいのかを考え、目的を決めた上で、まずは手作りでやってみることが必要です」(河合氏)

では実際にデータ分析チームをフルスペックで作るとしたら、どれだけ必要となるのか。河合氏はデータ分析の工程を説明した上で、データ集計や表やグラフなどに可視化する「データアナリシス」が担う分析業務が重要であると語ります。

明確な目的に対するデータ分析・可視化が十分に行われた上で、データサイエンスや機械学習によってモデルや課題解決が行われるという流れになるわけです。

「銀行や金融機関のデータ分析は、データアナリシスまでできれば8~9割の目的は達成しています」(河合氏)

金融データの利用例としては、大きく「顧客需要の理解・予測」「顧客に内在するリスクの理解」「マクロ環境の解釈」「業務検証」の4つであると、河合氏。具体的には、以下のようなオルタナティブデータへの活用が増えているといいます。

  • 企業業績・株価予測
  • 企業評価・ミクロレベルでのトレンド計測
  • セミマクロ・セクター単位のトレンド計測
  • マクロ指標・指数の先行指標計測

金融領域で取得できるオルタナティブデータには、音声・画像データ、位置情報データ、ニュース・記事データ、SNSデータなどの非構造化データや、Webトラフィックデータや消費者行動データ、金融口座データなどがあり、それらを売上予測や企業評価、企業業績予測などに活用できることを前提にした上で、河合氏はこう述べています。

「新しいデータに手を出す前に、まずは何をやりたいのか・知りたいのかを考えることが大事です。それを切り口に表やグラフでデータを分析することから始めることをおすすめします」(河合氏)

データ利用のための社内組織としては、4つのパターンがあると河合氏は言います。一番理想的なのは、全社からビジネス課題を吸い上げ、共通機能や予算調整などができる「全社横断型組織」です。次に、顧客特性や特定業務に特化した「業務部門組織」、データ分析の運用に特化した「部署内データオペレーション組織」など、業務や目的に合わせた組織を作るパターンもあると河合氏。

4つ目の一番やってはいけないパターンは、先述したデータサイエンティストを外部から採用し、経営戦略室に座らせることだと言います。まずは、何のためにデータ分析するかを明確にして、ロードマップを作ることを目指すことが重要だと繰り返し提言しました。

七十七銀行が紹介する「地銀の取り組み事例」

最後に登壇した七十七銀行 デジタル戦略部 デジタル戦略課 瀬川隼也氏は、七十七銀行における直近5年の取り組み事例の紹介を行いました。

七十七銀行では、2018年よりAIの業務適用を開始し、与信管理業務の効率化や高度化などに活用領域を拡大。2022年にはAuto-MLツール(機械学習モデルの設計と構築を自動化するツール)を導入、データ分析を推進・支援する組織も設立しています。

具体例として紹介された事例の1つは、ゼネリックソリューションと協業した「GS8による投資信託・消費者ローンの購入予測」。取引履歴などのデータを基に、投資信託や消費者ローンなどのタイミングを予測するモデル構築を行い、金融ビッグデータ分析ソフトを導入した取り組みです。

2つ目の事例は「法人事業性貸出先の業況変化検知」。取引先企業口座の入出金情報を分析することで状況変化を検知し、早期に知らせるシステムです。ビジネスAIツールを活用した「Auto-MLツールによるAI活用領域拡大」の取り組みや、東北大学とのデジタル人材育成の取り組みなども紹介されました。

また、業務効率化やリスク管理強化、営業推進強化に向けて、データ分析のチームを設置したことも語られました。「相談型分析」「提案型分析」「AI活用領域拡大」を枠組みに、今後もデータ活用の幅を拡大していきたいと語り、セッションをまとめました。

閉会挨拶を行ったのは、FDUA理事を務めるSBIホールディングス 社長室ビッグデータ担当次長の佐藤市雄氏。「今後も日本の金融機関を盛り上げていくためにも、金融データを活用した取り組みや勉強会を続けていきたい」と語り、「第1回 地銀Meet up」を締めくくりました。

当日のセミナーの様子はこちらのFDUA公式サイトからもご覧いただけます。