AI先駆企業の経営者が明かす!収益向上に役立つChatGPTの使い方
このセミナーはAI先駆企業に所属している2人が、収益向上のためにChatGPTをどのように活用しているか、ChatGPTをどのように業務に取り入れているか、活用成功企業は活用促進のためにどんな取り組みをしているかを解説する。エクサウィザーズが実施した2回のアンケート調査結果より、日本の大企業ではかなり速いスピードで生成AIの活用が進んでいる実態を紹介し、さらに自社データを読み込ませ企業収益を向上させる生成AIの使い方を説明する。
POSTS 代表
梶谷 健人 氏
生成AIやXRなどの先端テクノロジーとプロダクト戦略を横断させる専門家。
複数テック企業の戦略顧問に従事。株式会社VASILYにて国内最大級のファッションSNS「iQON」のグロースや広告事業を担当。「いちばんやさしいグロースハックの教本」を出版。フリーランスとして、日本、インド、アメリカそれぞれで大手ブランドやスタートアップの新規事業立ち上げとサービスグロースハックを支援している。 2017年にXR/メタバース領域のスタートアップMESONを創業。大手通信キャリア4社やアパレルブランドなどと共通でのサービス開発や、独自のXRフレームワークの開発などの事業を展開。現職。WIRED、Forbes、日経クロストレンドにてAIやXRをテーマに連載中。
株式会社エクサウィザーズ 常務取締役
大植 択真
京都大学工学部卒業。京都大学工学研究科修了(都市計画、AI・データサイエンス)。2013年、ボストンコンサルティンググループに入社。事業成長戦略、事業変革、DX推進、新規事業立ち上げなどの多数のプロジェクトに従事した後に2018年、エクサウィザーズ入社。2019年4月より、AI事業管掌執行役員として年間数百件のAI導入・DX実現を担当。企業の経営層や管理職向けDX研修の講師実績が多数ある。2020年6月に取締役就任。兵庫県立大学客員准教授。兵庫県ChatGPT等生成AI活用検討プロジェクトチーム アドバイザー。著書に「Web3時代のAI戦略」(日経BP、2022年)、「次世代AI戦略2025 激変する20分野 変革シナリオ128」(日経BP、2021年)。
X:https://twitter.com/exa_ouetakuma
大企業の中でも生成AIの活用が進んでいる
セミナーのはじめに大植氏が日本の企業、特に大企業の中で生成AIがどのように使われているのかが分かるリサーチ結果を紹介した。
このリサーチは、今年8月末に日本経済団体連合会(経団連)後援で開催されたセミナーに大植氏が登壇し、約300社の約500人から回答を集めたアンケート調査だ。エクサウィザーズは同じアンケートを4月末にも実施しており、大植氏は2回の結果を比較して説明した。
「生成AIをどれくらい仕事の中で使っていますか」を尋ねた質問で「生成AI 活用レベル」を5段階に分けて回答を集めた。レベル5が「日常的に業務で使っている」、レベル4が「時々、例えば週に2、3回使っている」、レベル3が「試しに使ってみたが、業務ではなかなか使えていない」、レベル2が「関心はある、レベル1は「関心なし」の5段階だ。
回答は「レベル5 日常的に使用」が4月末時点は1割弱、8月末は2倍の2割に増えている。この結果のポイントの1つは「生成AIを自分で使って効果を体感して、『これは本当に生産性が上がる』『効果がある』ことを体感して、日常使いする人が増えている」(大植氏)ということだ。
もう1つのポイントは、「日本企業、特に日本の大手企業の中でも生成AIの活用が進んできている」(大植氏)と考えられる結果が出ていることだ。その根拠は、回答のボリュームゾーンが4月末の段階では「レベル3 試しに利用」だったが、8月末の段階では「レベル4 時々使用」に変わっていること。さらに「なんと『レベル5 日常的に使用』と『レベル4 時々使用』を合わせると半数を超えています」(大植氏)。
生成AIを日常使いしている人はより高度な使い方へ
「今後、生成AI技術を活用して取り組みたいと考えている分野や課題は何ですか」との質問では汎用的な分野に回答が多く集まった。1番目は「①データ分析・予測およびそのレポート作成」のようにデータ分析やレポートを生成する領域、2番目に「②全社員の生産性向上と生成AIの活用人材の育成」の生産性向上の領域だ。
「やはり①や②のような『日ごろの業務の中で生成AIを使って生産性を上げていきたい』との用途が上位を占めている」(大植氏)ことが分かる。
回答を生成AIの活用レベル別に分類すると、「①データ分析・予測およびそのレポート作成」と「②全社員の生産性向上と生成AIの活用人材の育成」「③社内各部署からの問合せ対応業務の効率化」という汎用的な用途は、活用レベルが上がってもそれほど活用意向は変わらないという結果だった。
一方、「生成AIを日常使いしている人の利用意向が高いのは、より高度な使い方」(大植氏)であることがアンケート結果から分かった。高度な使い方は、例えば「自社のビジネスの中で生成AIを使いたい」(「④新規事業の創出」)、「クリエーティブに使いたい」(「⑥マーケティングや広告戦略立案およびクリエイティブ作成」)、さらに⑦の「プログラムコード生成に使いたい」(「⑦プログラムコードの生成による開発コストの削減」)などだ。
検索的な使い方から「アイデア出し」や「要約」へ
「生成AIを既に導入している場合、どのような用途で利用されていますか」を尋ねると、回答が一番多いのはライティングの「文書生成」で、次いで「アイデア出し」「調査」「要約」が続く。
この図に示した結果は「生成AIの活用のレベルが上がれば上がるほど、自分の中の生成AIを使う引き出しが増える」(大植氏)ということだ。
「一人当たりの活用用途数」(図左)を活用レベル別に比べると、「レベル5 日常的に使用」の回答者は「一人当たりの活用用途数」が平均「2.85」だ。ライティングでも要約でも使い、さらにリサーチでも使うというイメージだ。「やはり日常使いしている人の方が使えるユースケースが増えている」(大植氏)ことが分かる。
「活用レベル別の用途」(図右)から分かることは、「レベル3:試しに使用」で一番多いのは「文書生成」、次いで「調査」だ。いわゆる検索的な使い方が上位を占めている。これに対して、生成AIを日常的に使うことで「これは生産性が上がる」と気付いている「レベル5:日常的に使用」との人は「アイデア出し」や「要約」が回答の上位に挙がっている。
生成AIの利用状況をアンケート結果から3点指摘
大植氏が説明したアンケート調査の結果を受けて梶谷氏は次の3点を指摘した。
1点目は、今までこのような新しいテクノロジーで、「わずか4カ月で、なおかつ大企業レベルで活用が進む技術はこれまでなかった」(梶谷氏)こと。
2点目は、生成AIの普及のスピード感が「私の肌感でも速いと感じていましたが、それがデータで裏付けられた」(梶谷氏)こと。大企業でもかなりのスピード感で生成AIを取り入れている現実があるので、大企業が陥りやすい「『新しいAI技術の導入を急がなくてもよいだろう』との考えは、生成AIに関しては取り残されてしまう」(梶谷氏)。
3点目は、「使えば使うほど生成AIの効果を実感できて、『より使おう』と前のめりになる正のループに入る。逆に使わないと用途が思いつかなくなり、『ChatGPTは全然使えない』とさらに使わなくなる負のループに入ってしまう」(梶谷氏)こと。
生成AIで普段の業務の効率を上げる「相性がよい領域」は6つ
「AIを扱う企業の経営者である2人は、ChatGPTをどう業務に取り入れているのか」について谷氏が普段の生成AIの使い方を説明した。
生成AIを使って普段の業務の効率を上げることを考えた場合、梶谷氏は「相性がよい領域」として次の6つを挙げた。
- リサーチ
- ライティング
- コミュニケーション
- アイデア企画
- サービス設計
- コーティング
「1.リサーチ」は「ChatGPTは苦手ですが、プラグインを使えば得意な領域なので、ここに挙げました」(梶谷氏)。梶谷氏はリサーチをしていると「PDFの資料を読む機会が多い」と言う。例えばChatGPTも、PDFを読み込めるプラグインを使うと、PDFを通して最新の情報を知った上で回答してくれる。「本来であれば理解するのに5分くらいかかるところが、30秒くらいで理解できるようになります」(梶谷氏)。
梶谷氏は6つの「相性がよい領域」の中から「4.アイデア企画」を例に取り上げ、梶谷氏自身が生成AIを使って業務を効率化しているポイントを説明した。「私が考えるときはいくつかのテクニックを組み合わせて」(梶谷氏)、アイデアのたたきをChatGPTに作ってもらっているという。
基本は、必要な情報をきちんと生成AIに渡すこと。イベントのプレゼン資料を考えるのであれば、イベントタイトルやイベントの概要などの情報だ。
次のポイントは、ChatGPTにアイデアを繰り返しブラッシュアップさせること。ChatGPTが自分で作ったアウトプットを、プロンプトで指示した採点基準に基づいてよりよいアウトプットになるように、自己採点しながら5回改善を繰り返すという指示を出す。「何回かブラッシュアップすることでよいアウトプットになっていきます」(梶谷氏)。「ChatGPTはかなりストイック」(梶谷氏)なので、「ここはいいですが、ここがまだ足りていません」と自己反省をプロンプトで指示した回数だけ繰り返し、最終的に求めていたアウトプットを出してくる。
プロンプトはそのときだけの使い捨てではない。テーマのタスクと変数をコピペと抜き差しすれば同様のアイデア企画で繰り返し使える。
部下に業務を依頼するのと同じようにプロンプトで指示を出す
次に梶谷氏は日常的に生成AIを使っている立場から、初心者向けにプロンプトの使い方を解説した。梶谷氏によると「プロンプトエンジニアリングは突き詰めると図に挙げた6つのテクニックに集約」され、さらにこれを押さえると「どのようなプロンプトでも書けるようになる」と言う。
6つのテクニックは「部下に業務を依頼するときに出す指示とまったく同じ」(梶谷氏)。業務を進める上でのロール(役割)を部下に説明するように、生成AIへの指示の冒頭でロールを定義すると回答の精度が上がる。
必要な情報を「#変数」としてマシンが読み取りやすい形で入力する。この際に、「これをやってもらいたいので、それを考えるに当たって必要な情報を私に尋ねてほしい」と指示すると、返ってきた回答から必要な情報として入力する変数が分かる。
出力フォーマットを「このような形式で出力してほしい」「箇条書きで出してほしい」と指定する。これも、例えば部下にプレゼン資料の作成を依頼するとき、完成形をイメージして自分で描いたポンチ絵を部下に渡すことと同じだ。
先ほどの説明にもあったように、「アウトプットを繰り返し自己改善させる」と「良いアウトプットの基準を提示する」ことも重要だ。採点基準を「#採点基準」としてプラスマイナスの箇条書きで提示する。
梶谷氏は「図に挙げたプロンプトを使うスキルを使いこなし、さらに先ほど大植さんの話に出てきた『用途による引き出し』(用途別の生成AIの使い方)が頭の中にどれくらいあるかが、生成AI活用のスキル、レベルの分かれ目になる」との感触を持っているという。
海外の調査結果によると組織全体の収益を改善できる
次に梶谷氏は「生成AIが頭脳労働にどのような影響を及ぼすか」を調査した論文を紹介した。その調査はボストン コンサルティング グループ(BCG)とハーバードビジネススクール(HBS)が共同で行ったもので、調査対象はBCGの約750人。かなり大規模な調査だ。
結論は、生成AIを使用したコンサルタントは生成AIを使わなかったコンサルタントと比べて、平均で12%多くのタスクを完了し、25%早くタスクを完了し、しかも質が40%高かったというもの。「これを見ただけでも、ビジネスインパクトは甚大です」(梶谷氏)。さらに「経営者の観点でうれしいと思った」(梶谷氏)ことは、右側の縦棒グラフにあるように、GPT-4を使ったグループではローパフォーマーの能力が底上げされたとの結果が示されていることだ。ローパフォーマーでもハイパフォーマーに近い生産性が発揮できるようになるので、組織全体の収益性を改善できる。その意味で「生成AIを使うことは、ビジネスインパクトが特に大企業では大きい」(梶谷氏)。
生成AIに自社データを読み込ませて企業収益を向上させる
次に大植氏が話題に挙げたのは、企業の収益向上にさらにつながる生成AIの使い方だ。今は生成AIを汎用的に使うことに注目が集まっている。次のステージとして、自社のデータや特定のデータを読ませた使い方が法人の「ユースケースとして大きい」(大植氏)。
生成AIにPDF資料を読み取って内容を要約させることができる。エクサウィザーズは法人向けのChatGPTのサービス「exaBase 生成AI」に自社データの取り込み機能を提供している。先ほどの梶谷氏の説明にあったリサーチのPDF資料を要約するのと似たような使い方だ。「社内の情報検索はかなり有用な生成AIの使い方だと思っています」(大植氏)。
このように生成AIを法人の中で使うことで、「例えば社内の商品に関するマニュアルの膨大な量のPDFを読み込ませておいて、カスタマーサポートの人がデイワンから商品に詳しい状態で顧客とコミュニケーションできる」(梶谷氏)ので、かなりユースケースが広がる。
セキュリティー面の機能を1段高いレベルで設定
法人が社内情報を生成AIで使うときに検討課題として挙がるのがセキュリティー問題だ。社内規定や商品ドキュメントなどは、どの企業にとってもセキュリティーにセンシティブな情報。生成AIにデータ読み込み機能が加わると、「セキュリティ面でどうなのか」「秘密情報が漏洩するのではないか」と考える企業は多い。
大植氏によるとエクサウィザーズが法人向けに提供しているサービスは、「セキュリティー面の機能は他社のサービスと比べて1段高いレベルで設定している」と言う。具体的には、クラウド環境は日本リージョンで、マイクロソフトと連携して日本リージョンで開発している。サービスの利用企業が入力した情報は、例えばOpenAI社のAIに再学習されない形でオプトアウトしている。
生成AIの社内浸透に成功している企業の共通点は3つ
セミナーの最後に、梶谷氏は次のように総括した。
梶谷氏によると、同氏の顧問先でも周りの企業でも、「生成AIの社内浸透で成功している企業の共通点は3つある」と言う。
1つ目が経営陣や部門長のある種のコミット、2つ目が部門横断、特定の部門に閉じていないということ、3つ目が生成AIを利用する知見をシェアする頻度だ。
今後生成AIの社内浸透を進めたい企業はこれらを参考にするべきだとして、対談を締め括った。