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協和キリン・廣瀬 拓生氏が語る、デジタルイノベーションを牽引するデジタル人材の育成手法

協和キリン株式会社
ICTソリューション部長
廣瀬 拓生 氏

2018年10月、協和発酵キリン株式会社(現協和キリン株式会社)入社。2019年 4月より、 ICTソリューション部長 (現任)。

バイオ医薬品の研究開発型企業として、日本初のグローバルスペシャリティファーマを標榜する協和キリン株式会社。
同社は「ICTデジタルによって競争力のある事業基盤を確立し、デジタルイノベーティブなヘルスケアサービスを提供することで、変わりゆく社会の医療ニーズにこたえる」というデジタルビジョンを掲げており、デジタル戦略の柱として、DX推進基盤強化の取り組みを始めました。
その一環として、エクサウィザーズ社のDIAを取り入れたデジタル専門人材の育成プログラムを実施しています。
今回はこうした背景のもと、2024年1月17日に開催されたセミナー「協和キリンのデジタルイノベーションを牽引するデジタル人材の育成手法」の内容をお届けします。

協和キリン株式会社について

協和キリン株式会社は医薬事業を専業としており、2008年にキリンファーマと協和発酵工業が合併して誕生。2019年に現在の「協和キリン株式会社」に社名を変更されました。

「2018年頃にグローバル市場に製品の投入をしたことをきっかけに、協和キリンはグローバル化を一気に進めてきました。その結果、2013年〜2017年には30%台だった海外の売上高比率が、2022年末では60%を超えました。さらに2024年度は70%を見込んでいます」(廣瀬氏)

協和キリン株式会社では、企業ビジョンに沿って「Digital Vision2030」を策定。

「医薬品以外にも価値を提供する土台となるデータプラットフォームを作ること、および、データプラットフォームを活かしてデータを価値に転換できる人材の育成が重要であるという認識に至りました」(廣瀬氏)

このビジョンを実現するために、協和キリン株式会社ではデジタル戦略の3つの柱を設定しています。

 

出典:「協和キリンのデジタルイノベーションを牽引するデジタル人材の育成手法」セミナー資料

特に、「人とデータの基盤を作ること(Foundation for Digital)」を第1の取り組みとしてDX化が始まっています。

協和キリンの人材育成プログラム

協和キリンの人材育成プログラム体系は、「Digital専門教育」と「全社員リテラシー教育」という2本柱で構成されています。

求める専門人材像

DX活動を牽引し、成果を生みだせる専門人材像として、協和キリン株式会社は次の3つを定義しています。

 

出典:「協和キリンのデジタルイノベーションを牽引するデジタル人材の育成手法」セミナー資料

中でも特に優先度を上げて進めているのが「デジタルプロジェクトプランナー(DPP)」の育成です。

「製薬業界は業務の特性上、データで薬の安全性や有効性を検証しています。そのため、以前からデータを活用した業務が定着しています。一方で、専門性が高いからこそ従来のやり方に固執する傾向もあり、「新たな発想でデータやデジタルを価値につなげる」という発想力については、やや不足していると感じています。そこで、デジタルやデータを用いて良い着想やアイデア企画ができる人材の育成を最優先に置いているのです」(廣瀬氏)

全社でDXを進めていくという機運を醸成する

協和キリン株式会社では、デジタルに関連した情報や意見について自由に意見交換できる“Digital Park”というTeamsコミュニティを立ちあげています。このコミュニティの詳細や成果についても解説がありました。

「データを活用した業務が多いことから、データに明るい人が一定数いるであろうこと、また、アカデミックな業界であることから学習意欲の高い人が一定数いるであろうことを見越してコミュニティを立ち上げました。同コミュニティは、動画コンテンツの配信やセミナー情報を共有するチャンネル、悩みごとの相談チャンネルなど、さまざまなチャンネルで構成されています。Microsoft製品の活用方法や最近の生成AIに関する勉強会、トレンド教育などのチャンネルは、現在も当社のコミュニティのベースとなっています」(廣瀬氏)

コミュニティの参加は任意でしたが、立ちあげ当初から600名を超える方が参加。想定どおり、社員様のデジタル関心度がかなり高いことが証明されたとのことです。「2年半ほど経過した2024年1月現在ではメンバー数が2,600名を超え、当社のTeamsの中でも一番大きなコミュニティに発展している」と廣瀬氏は語ります。

「DPP育成プログラム」の立ち上げと、エクサウィザーズ社のサービスを導入した背景

デジタル人材育成を組織的に進めていくためには、育成状況を客観的に把握できる指標と、人材を継続的に育成するしくみの構築が欠かせません。そこで、協和キリン株式会社はエクサウィザーズ社ともに「DPP育成プログラム」を立ち上げました。

「DXの推進を始める前に、ICT部門と経営企画部門でエクサウィザーズ社のDIAというプログラムを受講しました。その際、DIA受検を通してスコアと実務での活躍の関連性に納得感があったこと、また、エクサウィザーズ社が人材育成計画の策定からプログラムの提供・実装の支援まで幅広い強みを持っていたことから、DPP育成においてDIAが有用であると判断しました」(廣瀬氏)

協和キリン株式会社では、デジタル技術活用のアイデア企画から実装・成果創出ができる人材をすぐにでも養成したいという要望がありました。

「DIAが仕組みとして確立していたこと、エクサウィザーズ社内に製薬業界に知見のある社員が複数いたことが、サービス導入の後押しとなりました」(廣瀬氏)

このような経緯から、エクサウィザーズ社が併走し、DIAをほとんどそのまま流用する形でDPP育成プログラムがスタートしました。

DPP育成ジャーニーにより、客観的な成長度の確認が可能に

「DPPの育成は、息の長い取り組みです。継続的にステップアップしていくために、初級から上級までのジャーニーを定義しています」と廣瀬氏は語ります。

 

 

出典:「協和キリンのデジタルイノベーションを牽引するデジタル人材の育成手法」セミナー資料

また、今日では、「DPP(Digital Project Planner)ブートキャンプ」を策定。DPPブートキャンプは、アセスメントやオンライン講座などを通してスキルアップし、初級DPP認定を目指すためのプログラムです。

「まずはマインド変革を図ることが最も重要です。そこで、デジタル感度を上げることから企画立案まで集中的に取り組むことを意図した「DPP(Digital Project Planner)ブートキャンプ」を作りました」(廣瀬氏)

 

出典:「協和キリンのデジタルイノベーションを牽引するデジタル人材の育成手法」セミナー資料

5ヶ月を一つのサイクルとして設定し、受講者は課題に取り組みます。企画策定の結果は所属する組織の長に向けて発表し、企画を進めて良いか評価を受けるというプロセスです。

「カリキュラムで意識しているのは2点。プログラムを通して成長を感じてもらえること、取り組み課題はなるべく実務に繋げた課題解決になることです。所定の基準をクリアすることでスキル認定される仕組みですが、成果だけで評価するということはしません。アイデア企画のプロセスを通して必要なスキルを得られたのか、成果物の作成や理解が進んだのかを主眼に置いて進めています」(廣瀬氏)

最後にDIAを受験することによって、どの程度スキル強化が図れたのか、どの程度成長できているかを受講者自らが認識できるしくみになっています。

「これは、客観的に育成状況を把握するためにも有効です。さらに、中級・上級へとステップアップする道のりも示しました」(廣瀬氏)

DPP育成における3つの課題と対策

育成プログラムを開始した当初は、主に次のような3つの課題があったといいます。それぞれの課題と対策について、廣瀬氏はこのように語ります。

 

出典:「協和キリンのデジタルイノベーションを牽引するデジタル人材の育成手法」セミナー資料

①部門側における当事者意識が希薄であった

「当初は参加部門が本プログラムの意義に懐疑的な面もありました。しかし「組織のトップに対して成果発表を行い、所定の評価を得る」という条件を組み込むことで、普段なかなか直接対話ができないメンバーと上長とのコミュニケーションを実現。これにより、受講者と上長の双方に当事者意識を持ってもらうことができました」(廣瀬氏)

②目指す目標に沿ったアイデアが不足していた

「受講者自身が自ら考えることに主眼を置きすぎて、組織の目線や目指すものと全く関係のないものが出てくることもありました。そこで対策として、課題設定の初期段階で組織の上長や事務側と目線合わせを行うことに。実効性を担保しつつ、企画倒れや教育のためだけのものにならず組織のベクトルとも合った演習になるように工夫しています」(廣瀬氏)

③企画倒れに終わるアイデアが散見された

「立案過程のITメンバーによるアドバイスやプログラム終了後の進捗確認・成果発表会の開催のほか、PoC移行する際に障壁となっている要素を特定してサポートを行っています」(廣瀬氏)

導入後は、組織におけるポジティブスパイラルが実現

プログラム導入後はどのような結果が得られたのでしょうか。

「アイデア全体の約7割が部門内でのプロジェクト移行意思を持ち、約2割がPoC移行の行程に進んでいます。受講者の所属組織の上層部との密接なコミュニケーションが実現していることが、課題解決の大きな要因であると考えています」(廣瀬氏)

 

出典:「協和キリンのデジタルイノベーションを牽引するデジタル人材の育成手法」セミナー資料

当初は受講者がなかなか集まらなかったため、ブートキャンプの内容や目標人数について、各組織の幹部たちと何度も認識合わせをくり返したと言います。 こうした動きもあって、部門側で計画しているプロジェクトのアサイン前に、部門の上層部から本プログラムの受講推薦を受ける参加者が増加したとのこと。

「受講者の意識向上だけでなく、上層部も評価しなければならない場となっており、本プログラムが評価する側の意識醸成にも寄与していると感じています。 また、受講者に対しては公募選考プロセスを採用していますが、本プロセスを通じて意外なところからデジタル素養が高い人材が発掘されたり、プログラムの受講をきっかけにIT関連資格の取得を目指す人が現れたりといった効果も出ています。 受講者個人の成長から組織的な取り組みへの理解、そして次の専門人材発掘への好循環が生まれ始めています」(廣瀬氏)

 

出典:「協和キリンのデジタルイノベーションを牽引するデジタル人材の育成手法」セミナー資料

さらに今後の展望についてはどのように考えているのか、解説が行われました。

「これまでの教育は、個人の教育・成長に主眼をおいて進めてきました。今後はそれに加えて、組織全体が成長するしくみに発展させていきたいと考えています」(廣瀬氏)

「そのためには、大きく2つのポイントがあります。 一つ目が、成果を全体に拡散させるしくみの確立です。全社の成果発表会や表彰、経営層の審査によるアイデアコンテストなどを通じて、組織の全ての部門が啓発されるような成果の拡散を図っていきたいと考えています。 二つ目は、受講者参加型の育成モデルによって運営力を上げることです。これまで教育を受けてきた受講者・認定者が人材育成プログラムの運営企画や推進に関われるしくみを作っていきたいと考えています」(廣瀬氏)

現在はプログラムを用意するのがDX人材育成推進側で、各部門から受講者にプログラムを提供・支援するというしくみになっており、成長と拡散のスピードが加速しないという課題を抱えているそうです。

対策として、受講者の方々にプログラムの改善企画にも携わっていただくことを考えているとのこと。

「中級・上級クラスの条件に「初級人材のサポーター・伴走者としての企画支援」という要素を組み込むことで、受講者に経験を伝承する役割を担ってほしいと考えています。このようなプログラム受講生同士のネットワーク作りによって、永続的に自律型改善が回るしくみに発展させたいという意向があります」と廣瀬氏は語りました。

エクサウィザーズ社に期待すること

本プログラムの基本的な骨子は、エクサウィザーズ社のノウハウをベースに進めてこられたと言います。廣瀬氏は最後に、エクサウィザーズ社に期待することについてお話くださいました。

「エクサウィザーズ社には、弊社の企業カルチャー・人の特性なども把握した上でデジタル企画のノウハウを指導いただくなど、社内のカスタムメイドなサポートをしてもらっています。これからも我々のカルチャーを踏まえた企画実装力向上についての提案をいただきつつ、私たちが自立的に運営できるように伴走していただきたいと考えています」(廣瀬氏)

エクサウィザーズ社には、AIデジタルだけでなく製薬業界のエキスパートも在籍しています。

業界特化型のデジタルAI活用のポイントをアドバイスいただき、より尖った成果の種が生み出されるようなプログラムへの支援をいただけるよう期待しています」というご意見もいただきました。

廣瀬氏は最後に、「今回の人材育成の取り組みにより、DXは企業全体のマインドセットや文化を変えていく活動でもあると実感できました」として、セミナーを閉めくくりました。