膨大な初期投資額と導入までの時間をコンパクトに。生成AIの社内活用を早期に実現
株式会社WOWOW
- 業種
- 情報・通信業
- 従業員数
- 312名(2024年3月31日現在)
- 用途
- 価値創造+業務効率化
事例概要
課題
・生成AIを使いこなすことにより、新たな視点での発想や既存業務の効率化を実現したい。
・自社スクラッチ開発ではコストと時間の負担が大きい。運用機能やセキュリティ/ガバナンス等の統制も必要。企業の利用に耐える適切なSaaSサービスを探していた。
効果
・exaBase生成AIを導入することで環境の整備にかかる時間を大幅に軽減でき、「どう使っていくか」に時間をかけることができた。
・アイデア出し、翻訳、プログラミング等々、短時間で示唆が得られるために生産性が向上した。
・データ連携機能(RAG) を使って、自社のデータ活用にも取り組めるようになった。
株式会社WOWOWは、衛星放送に加え、配信による映像視聴サービス、各種イベント、物販など、エンタメに関わるトータルな事業展開をしています。
2023年中頃から導入を検討し、2023年6月に生成AIの利用に向けた社内ガイドライン作成をスタート。同年8月に法人向け生成AI「exaBase 生成AI」を導入しました。
導入後は、アイデア出しや翻訳、プログラミング、議事録作成など、幅広い業務に活用して生産性を高めています。最近では、exaBase 生成AIのデータ連携機能(RAG技術)の活用にも着手。今回は、生成AI導入プロジェクトを推進しているデジタル戦略局 皆川 一郎 氏と遠藤 佑羽子 氏に、生成AIの導入時の課題や導入後の成果、今後の展望について、伺いました。
自前で開発すると、膨大な初期コストと本格的な導入に時間を要すると予想
Q:導入前にどんな課題がありましたか?
WOWOWが生成AI導入の検討をはじめたのは、今から約1年前の2023年5月。ChatGPTが日本語対応し、世間で話題になり始めた頃でした。大きな可能性を感じ、今後AIを適切に利用できる企業とそうでない企業の差は大きく開くと予想、早期の導入を決めました。
その頃は、生成AIサービスが始まったばかりだったので、企業向けのサービスの選択肢は今ほどなかったと思います。そのため、生成AIを自社で利用する場合は、OpenAI/Azureのサービスを使って、自社用の環境を開発しなければならないと考えていました。最終的には当時は噂レベルの製品であったMicrosoftのCopilotを導入し、全体を構成していく構想でした。しかし、自社環境の構築には初期費用と期間が膨大にかかり、スキルをもった人員も用意しなければならず、本格的な全社導入は、早くても2024年になるだろうと想像していました。
安心して利用できるセキュリティ、短期間での導入、低価格。この3つが要件に
Q:「exaBase 生成AI」を導入する際に課題となったことは何でしたか?
利用環境についての課題は3つありました。1つは「セキュリティ」。WOWOWが生成AIの導入を検討した時は、企業データがAIの学習に利用されて、個人情報や企業の機密情報などが漏洩するリスクがさまざまなところで取り沙汰されていました。そのためSaaSサービスを利用する上では、データをどのように扱い、利用者が不正利用していないかどうかを管理できる環境が整っているかなど、セキュリティ対策が大きな課題になっていました。
2つ目は、「スケジュール」です。自社でスクラッチ開発するよりも早期にサービスを導入できるかどうかという点は非常に重要でした。
3つ目は、「コスト」。全社員が継続的に利用できるようにするためには、できる限りコストを抑えることが必要不可欠でした。
アイデア出し、プログラミング、議事録などに活用するだけでなく、データ連携で社内規定など自社データの活用にも取り組む
Q:「exaBase 生成AI」を導入し、どのような成果を感じられていますか?
「exaBase 生成AI」を活用することで、「利用環境の整備(インフラ構築)」にかかる期間とコストを大幅に削減できました。さらに、「社内への周知」においても「exaBase生成AI」のサービスを紹介していくだけになり、人的負荷を軽減できたので、本質的な「生成AIを利用する」ことの説明や社内教育に時間をかけることができました。
社内への生成AIの導入は、当初第一弾は2023年9月あたりと考えていたのですが、「exaBase 生成AI」を活用することで同年6月には一部ユーザーへの提供を開始しました。その後、全社員への公開も同年11月と、非常に短期間でのサービス稼働を実現できました。
具体的な事例では、アイデア出し、プログラミングの相談、英語の翻訳、ミーティングの議事録作成など、幅広い業務に活用しています。標準装備されている「exaBase 生成AI」の可視化された利用集計データにおいても、生産性は毎月向上し、一定の成果が出ていると判断しています。
最近では、データ連携(RAG)を利用した自社のデータの活用にも取り組んでいます。
1つは「作業支援」での活用です。テスト段階ですが、ある公開資料をAIに読み込ませて、何ステップかのプロンプトのやり取りを経ることで、人が行うのと同等の結果を出すことができました。元の資料が複雑で難解なものであるため、人的には取り掛かることに対して心理的なハードルがあったりします。生成AIを使えば、その障壁を軽減でき、また一人でやらなくてはいけないという孤立感も抑えることができますので、効率的に作業が行えています。
もう1つは、「社内の規程集」の活用です。膨大にある社内規定を生成AIに取り込みました。検証として、3カ月ごとに行われるガバナンス関連の電子研修の問題の答えを聞いたところ、最適解を出力することができました。実用レベルの正確性が確認できたため、今後は、全社員にリリースして検索窓口として活用してもらう予定です。
AIが活用できる範囲を見極めることと、自社ならではのKPIを策定すること
Q:今後はどのようなことに取り組む予定ですか?
大きくは2つあります。1つは、「実業務への組み込み」です。単に、今の業務をAIに置き換える、つまり機械化による効率化、省力化のみで成果を上げようとは思っていません。AIだからこそできる範囲を見極め、それを活かせる方面に活用したいと思っています。
例えば、結果として示される選択肢が1つしかない業務があります。これは結果を得るのにたくさんの経験やスキル、時間が必要であることが原因で、今のやり方だと1つの結果しか得られないからです。本来はいろいろな結果からどれがよいか、よりお客様に利便性があるものはどれなのか、議論して選んでいける状態を作りたいのです。そこで、結果を作る過程に生成AIを組み込んで、スピーディに選択肢を増やしていきたいと考えています。具体的な業務は公開できませんが、かなりハードルは高いです。
もう1つは「定量評価」です。現在、一人あたりの毎月の生産性という目標はありますが、実は利用者数や流量(文字量)が増えても、生産性向上の数値に完全に連動するものではないことがわかってきています。現時点では、何を高めれば生産性が高まるのか、明確なKPIを設定できずにいます。さらなる生産性向上のためには、どのような条件で、どのような数字が影響するのか、それらの因果関係を探って明確にしていく必要があります。
「exaBase 生成AI」を導入して1年ほどが経ち、大量のデータが蓄積されてきたので、それらを解析して因果関係を解明し、WOWOWでの新たな定量指標(KPI)を策定していきたいと考えています。ただ「言うは易し、行うが難し」で、この課題は極めて難易度が高いと思っています。すぐに結果は出ないかもしれませんが、生成AIをより有効に活用していくためには、避けては通れないと考えており、ぜひ実現していきたいと考えています。