
月間約360時間の業務時間を削減
高精度なRAGで、データ分析や書類の評価・審査などを効率化
静岡県
- 業種
- 自治体
- 職員数
- 7,050名 (2023年4月1日現在)
- 用途
- 交付金要綱やガイドラインへの適合性チェック、提出資料の評価・審査、問合せに対する回答作成、議会答弁の下書き作成、データ分析、文書要約 など
事例概要
課題・背景
・業務の6割はデジタルツールで効率化や削減が可能と分析し、生成AIでそれをさらに加速させたいと考えた
・以前利用していたサービスは、RAG(独自データを取り込み、データを基にした回答を生成する技術)を使えず、限定的な活用にとどまっていた
・LGWAN対応やRAGの活用など、より自治体利用の実態に合わせた生成AIを求めていた
『exaBase 生成AI for 自治体』を評価したポイント
・業務削減時間が可視化できること
・LGWANに対応していること
・RAGを搭載しており、フォルダ生成が無制限であること
効果
・月間延べ21,630分(約360時間)の業務時間を削減できた
・試験導入では、23もの好事例を生み出し、静岡県の本庁内の職員5700名に展開できた
・RAGの精度が高く、様々な業務において活用することができ、効率化を実現できた
・全庁掲示板での周知やひとり一改革運動、研修の実施などを通じて、口コミで職員の利用が広がった
静岡県庁は2024年12月、本庁内の全職員を対象に「exaBase 生成AI for 自治体」の利用を開始しました。事前の試験導入には、16の「モデル所属(部署)」が自ら手を挙げて参加。RAG (各種計画やマニュアルなどの独自データを取り込み、データを基にした回答を生成する技術)なども積極的に活用し、23もの好事例を生み出しました。また、試験導入を実施した2024年10月の業務削減時間は延べ21,630分(約360時間)にも及んだといいます。この成功の秘訣を、デジタル戦略局デジタル戦略課の曽根 英明氏と西山 響氏に伺いました。
業務削減時間の可視化が決め手となり、「exaBase 生成AI for 自治体」を導入
生成AIを導入しようと考えたきっかけは何だったのでしょうか。
曽根氏:県庁内の業務の6割弱ぐらいは、様々なデジタルツールを使うことで効率化や削減できるのではないかと分析していました。また、人口減少が進む中で、将来的には職員の確保が難しくなる可能性もあるでしょう。そうした状況を踏まえ、生成AIを活用すれば、より業務の効率化が実現できるのではないかと考えたのです。2022年11月にOpenAIのChatGPTが発表になった後、23年度が明けてすぐくらいから、導入の検討を始めました。
2024年7月に「exaBase 生成AI for 自治体」をご導入いただきました。どのような点を評価いただいたのでしょうか。
西山氏:プロポーザルの仕様書には、LGWANで利用できること、RAGフォルダを無制限に作れることなどを盛り込ませてもらい、そこに対応できていたことは非常に重要でした。ただ、他社にない機能で決め手となったのは、業務削減時間を可視化できたことです。
曽根氏:デジタルツールを導入する際、行政においては、その費用対効果はかなりシビアに求められます。予算要求でも、業務削減時間がダイレクトに数字で示せるのは、非常に魅力的でした。
業務ごとの業務削減時間を自動で集計、可視化(ご利用イメージ)
「exaBase 生成AI for 自治体」の導入後、3ヶ月間の検証作業を実施し、2024年10月以降に試験導入を開始します。この経緯を教えてください。
西山氏:副知事と部長や部長代理級の幹部らが集まるデジタル推進本部会議で、生成AIのデモを行ったところ、副知事より各部局で利用を進めて好事例を出していこうという話が出ました。そこで全庁に向けて、生成AIの検証作業をする「モデル所属(部署)」を募集したところ、16の所属から応募をいただきました。
その後、10月上旬から下旬にかけてモデル所属において活用を進めてもらったのですが、この短い期間にも関わらず、23もの好事例を出してくれたのです。
RAGを活用し、提出資料の評価・審査、ガイドラインの適合性チェック、データ分析など多岐にわたる業務を効率化
その好事例の中でも、どのようなものが印象に残りましたか。
西山氏:どの事例も想定していなかったような便利な使い方が多かったのですが、例えば、電子県庁課の「提出資料の評価・審査」は非常に面白かったですね。各部局から上がってくるシステム開発の要望の必要性や妥当性の評価、査定に生成AIのRAGを活用した事例になります。申請には、多種多様な資料が提出される上に、評価項目が35個もあり、これまでは有識者も交えるなどしてかなりの時間をかけて評価していました。
これを、RAGを活用して各所属から提供された資料や技術標準(システム企画の手順書)、評価項目のファイルを取り込むことで、最初にその妥当性をある程度分析してくれるので、業務効率がかなり上がったとのことです。
出典:静岡県庁
出典:静岡県庁
曽根氏:私が興味深かったのは、がんセンター局の「SNSにおける各種ガイドラインへの適合性チェック」です。医療広告に関する規制やガイドラインが膨大にある中で、これまでは、SNSでの表現が適合しているかのチェックにかなりの労力がかかっていました。
ここにRAGを活用して、各種ガイドラインを取り込むことで、生成AIがそれらの資料と突合し、規制に抵触する可能性を指摘してくれるので、職員の最終確認までの負担がかなり軽減されたといいます。これも、我々の想定外の利用方法でした。
出典:静岡県庁
出典:静岡県庁
西山氏:また、デジタル戦略課が実施した「well-being指標における”主観データ”と”客観データ”の関係性の分析」は、生成AIによるデータ分析の好事例だと思います。
デジタル庁は、国民のアンケートデータ(主観データ)と都道府県の各データ(客観データ)で構成される「well-being指標」を公開しています。ただ、この両データは項目が異なるため、その関係性は不明瞭のままです。
そこで、RAGで主観データと客観データを取り込み、客観データの何を改善すれば、主観データが上がるのかといった関係性を生成AIに分析してもらいました。例えば、健康に関することで、行政がどのような施策をすれば、県民の満足度が上がるのかなどといったことです。生成AIが導き出した提案は、我々がすでに取り組んでいるものもあり、方向性は間違っていないという複数ある根拠の一つになると感じました。
出典:静岡県庁
出典:静岡県庁
月間約360時間の業務時間を削減。
交付金要綱との適合性チェックや問合せ対応、議会答弁書の作成にもRAGを活用
実際に、どのくらいの時間削減が実現できたのでしょうか。
西山氏:10月の試験導入時の数字になりますが、一人当たり5分の業務時間の削減ができたという結果が出ています。利用者数は220人で、20営業日として計算すると、月間延べ21,630分(約360時間)の削減効果が得られたことになります。業務ごとに削減効果を見ることができるのですが、議事録の音声の文字起こしデータを要約するというような「文章要約」の利用が一番多かったですね。
2024年12月の全庁導入以降は、どのように活用されていますか。業務効率化の効果が高かった事例を教えてください。
西山氏:今、私は交付金の担当をしており、 RAGを活用して制度の概要や想定質問、他県の事例などを生成AIに取り込んでいます。ある交付金に対して、この事業は適合するのかどうかという質問がよく来るのですが、生成AIに質問すると、ある一定レベルまでの回答を出してくれるのです。これまでは30分くらいかけて調べていたものが、5分程度になったと感じています。
また、当県には電子申請システムがあるのですが、職員から来る質問への回答にも使っています。複雑なシステムのため、マニュアルは1000ページ以上に及びます。これまではマニュアルをいちいち確認する必要があり、大きな手間がかかっていましたが、これらを全てRAGに読み込ませたところ、生成AIが瞬時に回答を出してくれるようになりました。どのページを参照しているのかを教えてくれるだけでも、非常に効果的ですね。
曽根氏:私は、議会答弁の作成に活用しています。ある質問に対する資料や過去の答弁をRAGに入れると、ある程度の構成を整えた答弁を作成してくれます。そこからはもちろん人間の作業が必要ですが、まったくのゼロから作成していた頃と比べて、30分から1時間は時間が削減できていると感じています。
西山氏:また、今後の使い方として、年度またぎによる引き継ぎ作業で、RAGを活用してみたいという声も聞いています。各部署で、これまで積み重なってきたマニュアルや専門集などをRAGに読み込ませ、引き継ぎ後に分からないことがあれば、生成AIに聞けば答えてくれるようになるでしょう。これはすべての部署に発生することなので、非常に面白い使い方だと期待しています。
全庁掲示板やひとり一改革運動など、口コミで利用が広がる
全庁展開後、職員の皆様に多く活用されています。利用促進に向けて、どのような取り組みをされていますか。
西山氏:職員全員が見られる「全庁掲示板」があるのですが、そこで生成AIに関する情報を発信しています。便利なプロンプト集を投稿したり、研修の周知をしたりしていますね。
曽根氏:「exaBase 生成AI for 自治体」の利便性の高さやRAGの精度の高さも活用が進んでいる理由の1つだと考えています。実は2023年には、別の生成AIを導入し利用を促してはいたのですが、行政独自の情報を扱えないため、限定的な活用にとどまってしまっていました。「exaBase 生成AI for 自治体」は、LGWANにも対応し、RAGの回答精度も高いので、実際に利用した職員が効果を感じ、口コミで周囲へ広め、それがさらなる利用拡大につながる良いサイクルが生まれていると感じています。
西山氏:さらに、庁内には「ひとり一改革運動」という、職員それぞれが取り組んだ業務改善施策などを周知するデータベースがあります。その担当部署と話をして、生成AIで特集を組んでもらいました。そこで、多くの職員が生成AIを活用して自分の業務を効率化しようと取り組んでくれたことも大きかったと思います。
研修に関しても、当社の担当者が協力させていただいています。職員の皆さんからはどのような声がありますでしょうか。
西山氏:12月に実施した研修には、80名ほどの参加があり非常に好評でした。基礎的な知識をしっかりと学ぶことができ、職員の満足度は高かった印象です。終了後に実施したアンケートでは、RAGを実際に操作しながら学びたいという要望も上がっており、今後はそうした声を踏まえた研修内容を検討していきたいと考えています。
今後、生成AIをどのように使っていきたいなどの展望はありますか。
曽根氏:冒頭でも触れたように、県庁内の業務の6割はデジタルツールによって効率化や削減が可能だと見込んでいます。残り4割が人間にしかできない業務ですが、そこにも生成AIや他のデジタルツールを上手く活用することで、業務の質を高めながら、より良い行政サービスの提供へとつなげていきたいです。
最後に生成AIの導入を検討している自治体様へのメッセージをお願いいたします。
西山氏:「exaBase 生成AI for 自治体」は、RAGの精度の高さに加えて、業務削減時間が数値化して見られることが大きな強みだと感じています。今後、予算要求するにあたっては、おそらく必須になるでしょうし、他の自治体様でも喉から手が出るほど欲しい機能なのではないでしょうか。ぜひ、一度使ってみて欲しいと思います。
曽根氏:生成AIに限らずデジタルツールというものは、実際に使って体験してみてみないとその良さは分からないものです。自治体として、新しいツールを導入するには大変な部分もあるかと思いますが、まずは使ってみるというところから始めてみるといいのではないでしょうか。