優秀な「AIエージェント」の育て方 ~「都度の指示出し」による負担を軽減し、定型業務をスムーズに流す「3つの型」のAIワークフロー設計~
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阿久津 勲(あくつ いさお)株式会社エクサウィザーズ 社長室直下 AIエクセレンス推進室
エクサウィザーズの「AIエクセレンス推進室」では、経営層から現場の実務担当者まで、全員でAIを活用する「AIドリブン経営」の実現を推進しています。本連載「AIドリブン経営の舞台裏」では、社内のリアルな実践知を発信しています。
第4回となる今回は、非エンジニアでも直感的に扱える社内ツール「AIフローデザイナー」を活用し、AIに仕事を正しく任せるための設計図(AIワークフロー)の作り方を紐解きます。鍵となるのは、業務を「拾う・見極める・整える」という3つの型に分解する考え方です。
※本記事は、2026年5月22日にエクサウィザーズ HR noteで公開した記事を再編集したものです。
1. はじめに
本連載では、これまでコーポレート担当者によるAIエージェントの市民開発(第1回)、COO自らが実践する経営レベルのAI活用(第2回)、非エンジニアによる会議分析の自動化(第3回)といった、社内のリアルな実践知を発信してきました。
こうした現場でのAI活用が広がるなかで、新たに実務者から聞こえてきたのが次のような声です。
- 「生成AIを業務で使ってはいるものの、毎回プロンプトを入力するのが面倒になってきた」
- 「長い文章を要約させても、結局手作業でコピー&ペーストを繰り返している」
日々の業務のなかで、ふとこのような徒労感を覚えることはないでしょうか。AIは確かに便利な道具です。ただ、チャット型AIに対してその都度「ああして、こうして」と指示を出している状態は、結局のところ「手作業の繰り返し」に他なりません。作業が発生するたびに人間の介入が求められるようでは、本当の意味での業務効率化には届かないのです。
私たちが目指すべきは、個人の頭の中にある「工夫」を「仕組み」に変え、現場を助けてくれる優秀なデジタル同僚(=AIエージェント)を育て上げることです。では、そのエージェントの「頭脳」はどうやって作ればいいのでしょうか。本記事では、その設計図(AIワークフロー)の作り方を紐解いていきます。
2. なぜ「自動化の第一歩」で足踏みしてしまうのか?
いざ「業務を自動化しよう」と旗を振っても、多くの現場担当者が最初の一歩で足踏みしてしまいます。そこには、実務者ならではの切実な戸惑いと、いくつかの誤解が潜んでいます。
日々の業務に追われるなかで、新しいツールの使い方を覚え、わざわざ「仕組み」を構築する時間を捻出するのは非常にハードルが高いものです。特に、臨機応変な対応が求められるバックオフィスや営業サポートの最前線にいる方ほど、「私の仕事はAIに任せられるような単純作業ではない」と感じるのも無理はありません。
しかし、現場が抱えるその「面倒くさい」「忙しくて手が回らない」という本音の裏側にこそ、毎日の業務を「劇的にラクにする」ヒントが隠されているのです。具体的に、現場の皆さんがどのような壁を感じて足踏みしてしまうのか、よくある3つの心理的なハードルを見てみましょう。
・「自分の仕事は定型化できない」という思い込み
日々の業務はマニュアルに落とし込めない「繊細な判断」の連続に思え、AIが介入する隙間などないと感じてしまうジレンマ。
・「どの業務が向いているのか」が不可視
毎日バラバラのタスクをこなしているように見えて、どこを切り出して「自動化のレシピ(手順)」にすべきか、解像度が上がらない状態。
・「チャットの方が早い」という目先の罠
わざわざ仕組みを構築するよりも、目の前の作業をチャットAIに投げて処理した方が手っ取り早い気がしてしまい、結果的に「その都度指示出し」のループから抜け出せない。
これらの壁は、決して皆さんのITスキルが不足しているから生じるわけではありません。「チャットAI」と「ワークフローAI」の境界線と、その使い分け方を知る機会がこれまでなかっただけなのです。
3. 境界線:チャットとワークフローの使い分け
「チャットの方が早い」と感じるのは、現場のリアルな感覚として非常に自然なことです。すべての業務を無理にワークフロー化(仕組み化)する必要はありません。ここに実務上の難しさがありますが、日々の業務のなかには「チャット型では限界を露呈する(=ワークフロー型に切り替えるべき)」領域が明確に存在します。
迷ったときの判断基準はただ一つ。AIと「相談」するのがチャット、AIを「全自動の加工機械」にするのがワークフローです。
❌ チャット向き(対話・一回きりの作業)
- アイデア出しや壁打ち:回答を見てから「やっぱりその視点も追加して」と、後出しで軌道修正が必要な流動的なタスク。
- 文脈に合わせた微調整:相手との関係性やその日の空気に合わせて、何度も文面の修正ラリーが必要な繊細な代筆。
- 今日だけ必要な単発処理:仕組みを作る労力より、チャット画面にテキストを貼り付けて指示した方が圧倒的に早いもの。
⭕ ワークフロー向き(段階的な仕上げ・同時作成)
- 手直しの手間を省く「段階的な仕上げ」:1回の指示で完璧を求めるのではなく、「不要な文字を掃除する」→「要点を抽出する」→「指定の枠に清書する」と工程を物理的に分割し、人間による手直し(編集)の手間を極限まで減らしたい場合。
- 手間を激減させる「同時作成」:1つの議事録メモから、「上司向けの報告書」「チーム共有用のテキスト」「システム登録用のCSVデータ」など、複数パターンの成果物を一気に生成したい場合。転記の手間を省き、媒体間の情報の食い違いを根絶します。
- 形式の完全固定:全角半角などの表記揺れをシステム的に排除し、業務システムへそのままインポートできるクリーンな構造化データを作りたい場合。
4. AIワークフローと相性の良い業務は「3つの型」に分解できる
では、ワークフローに向いている業務を、どのように「全自動の加工機械」にセットすればよいのでしょうか。業務全体を「大きな塊」として捉えていては、突破口は見えません。複雑に見えるデスクワークも、仕事を「材料」「手順」「お皿」に分解し、その手順を以下の「3つの型」に仕分けることで、驚くほどシンプルに構造化できます。
AIフローデザイナーは、これらの型をブロックのように繋ぎ合わせ、「データ入力→タスクの段階的処理→レポート出力」を一括で実行するツールです。「機械を作る」「ブロックを繋ぐ」といっても、プログラミングのような専門知識は一切不要。いつものチャット型生成AIを使うのと同じように、各ブロックに「日本語で指示(プロンプト)」を書くだけで独自のルールを容易に設定できます。
さらに現在では、「やりたいことを自然な日本語でチャットするだけで、AIが自動でワークフロー(ブロックの構成)を組み立ててくれる機能」も実装されています。ただし、この自動生成機能は最初から「100点満点の正解」を出す魔法の杖ではありません。AIが構築した「8割のドラフト(土台)」に対し、人間が「3つの型」の視点で検品・微調整し、残り2割の判断を加えて「仕上げる」ことで、初めて現場で使える実用的なレシピが完成します。だからこそ、この「3つの型」の知識が活きるのです。
3つの型の概念図
【型1:拾う】外部リサーチ
手元に情報がないときに、外の世界(Web)から必要な情報を調達する工程です。ネット検索はAIに委ね、人間は最後に提示された「証拠」を確認するだけの状態を作ります。
- 起こりがちな失敗:AIは「事実の確認」よりも「文章を完結させること」を優先する性質を持ちます。皮肉なことに、検索で情報が見つからなくても、もっともらしい嘘のURLを捏造してしまうリスクがあるのです。
- 防衛策:ワークフローに「情報の出典(URL)の併記」を必須ルールとして組み込むことに加え、「情報が見つからない場合は『該当なし』と出力させる」という例外ルールを徹底します。これにより捏造のリスクを大幅に減らし、人間が最後にリンク先を目視確認するプロセスを確実なものにします。
- 具体例:最新ニュースや法改正の追跡、官公庁のガイドラインや他社相場の調査、特定サイトからの企業情報の抽出など。
【型2:見極める】比較・評価
情報を読み込み、人間が設定した「物差し(判断基準)」に照らして評価や結論を出す工程。膨大な資料の「下読み」をAIに担わせ、人間は結論の妥当性を承認する役割に回ります。
- 起こりがちな失敗:実はこれが最も難易度の高い型です。AIは長文を読むと注意力が分散しやすく、さらに「人間に喜ばれる回答」をしようと忖度する傾向があります。結果として「概ね良好です」と甘い判定を下し、致命的なミスを見逃す危険性が生じ、プロセスのブラックボックス化を招きます。
- 防衛策:「あえて批判的な立場で粗探しをさせる(例:『あなたは厳格な監査役です。重箱の隅をつつくように欠陥を指摘してください』など)」と明確に指示し、AIの忖度を強制的に解除することが精度の要となります。
- 具体例:規定に基づく経費申請の違反判定、過去の契約書や雛形との差分抽出、アンケート結果からの不満要因の特定など。
【型3:整える】整形・作成
中身が確定した後の「清書作業」をAIに任せる工程です。情報を、目的に合った形式(メール文面、表形式、Markdownなど)へと変換します。
- 起こりがちな失敗:AIはシステム上の特性として、「情報を短く効率的にまとめる(圧縮する)」処理を得意とします。その反動で、重要ではないと独自に判断した数値や固有名詞を勝手に削ぎ落としてしまう弊害があります。
- 防衛策:「数値・固有名詞の変更や削除は厳禁」という強い制約を持たせ、理想の出力例(お手本)を渡して型にはめることが、品質を安定させる絶対条件です。
- 具体例:住所表記や全角半角の正規化、走り書きメモの所定フォーマットへの構造化、相手に合わせた敬語へのリライトなど。
5. Use Case(具体例):型を組み合わせた「コンボ」で業務を自動化する
実際に現場の担当者がAIフローデザイナーを使って「3つの型」を組み合わせ(コンボ)、どのように業務のボトルネックを解消しているのか。実際の動作画面とともに2つのユースケースを紹介します。
【事例1:営業部門】商談トピック生成エージェント(拾う + 見極める + 整える)
商談前の「企業リサーチ」と「過去の経緯の振り返り」を自動化し、次回の提案トピックを生成するワークフローです。
- Input:商談先の企業名、公開されている企業サイトのURLやニュースリリースのURL、過去の面談の文字起こし・議事録データ(テキストの貼り付け、またはWord・PDFファイルの読み込みを利用)。
- Process:
- 【拾う】 指定されたURLや企業名から、直近のニュースや業界トレンドをWeb検索で収集。
- 【見極める】 過去の議事録データを読み込み、前回面談からの「ネクストアクション」や課題を抽出。
- 【整える】 収集した外部情報と過去の経緯を統合し、次回の面談トピックとしてレポートに清書。
- Output:次回商談用の事前準備レポート(Wordファイルでダウンロード可能。※用途に応じてMarkdownやCSV形式での生成も可能です)。
- 成果:営業担当者は、散在する資料を自ら検索・熟読してまとめる時間を大幅に削減。出力されたレポートを起点に「お客様にどう提案するか」という、本来の戦略立案に思考を集中させることが可能になりました。
【事例2:法務部門】契約書レビュー支援エージェント(見極める + 整える)
時間のかかる契約書の「下読み」と「比較」を自動化し、担当者による検討・判断をサポートするワークフローです。
- Input:レビュー対象となる相手方から提示された契約書ファイル。
- Process:
- 【見極める】 対象の契約書と社内の雛形を比較して差異を特定。さらに社内チェックリストの基準に照らして「ひな形一致 / 差異あり / 要確認」などの照合結果を抽出。
- 【整える】 条項ごとに「雛形の文章」「対象の原文」「照合結果」を一覧化し、一目で確認できるフォーマットに出力。
- Output:検討用の比較・分析レポート(Wordファイルでダウンロード可能。※用途に応じてMarkdownやCSV形式での生成も可能です)。
- 成果:一言一句を見比べる「目の疲れる下読み作業」から解放され、法務担当者はAIが可視化した相違箇所や要確認事項に対する最終的なリスク判断のみにリソースを割けるようになりました。
💡 小さな一歩から始めましょう
ここで紹介した動画の事例は、複数の型を組み合わせた「理想の完成形」です。最初からこのように重厚なものを構築する必要はありません。まずは、たった1つの型を使ったシンプルな作業から試してみてください。
- 【型1:拾う】の小さな一歩:気になる競合企業の社名を入力し、最新ニュースのURLを3件リストアップさせるだけ。
- 【型2:見極める】の小さな一歩:普段使っているツールの「利用規約」が更新された際、新旧の規約テキストを読み込ませて「どこがどう変わったか(変更箇所の差分一覧)」だけを抽出させるだけ。
- 【型3:整える】の小さな一歩:社内研修用のマニュアルやスライドのテキストを読み込ませて、受講者向けの「理解度確認テスト(選択式・解答付き)」を自動作成させるだけ。
このような小さな成功体験の積み重ねが、やがて業務の属人化を防ぎ、現場の手間を大きく削減する強力なワークフロー(レシピ)へと育っていくのです。
6. After(展望):「自分のための『ラクする工夫』」が、結果的に会社を変える
いま、多くの企業が目指している「AIドリブン経営」と聞くと、何か壮大で難解な全社プロジェクトのように聞こえるかもしれません。しかし、私たちが考えるその出発点は「毎日の面倒なコピペ作業をなくして、少しでも早く帰りたい」「自分の仕事を減らしたい」という、現場の実務者としての素直な本音で良いのです。
「自分の作業をラクにするため」のワークフロー作り。その第一歩は、ご自身の業務を「拾う・見極める・整える」という3つの型に分解し、AIフローデザイナー上で繋ぎ合わせていくことです。最初のレシピ(仕組み)作りこそ少し試行錯誤が必要かもしれませんが、一度完成すれば、不在のときでも、あるいは来年入社してくる新入社員が使っても、同じ品質で業務を処理し続ける「共有資産」になります。
個人の「ラクをする工夫」をチームの標準業務として定着させることで属人化を防ぐ。こうして部門全体の時間が浮き、人間が本来やるべき判断や思考にエネルギーを注げるようになる。この小さな連鎖こそが、AIドリブン経営の正体に他なりません。
特別な技術は必要ありません。まずは明日、ご自身の業務の中に「拾う・見極める・整える」に分解できる面倒な作業がないか、見渡すところから始めてみてください。