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管理職こそ、AIを使い倒す〜自らの「分身AI」で営業組織を底上げする、プレイングマネージャーの実践〜

  • 中川 皓貴(なかがわ ひろき)
    株式会社Exa Enterprise AI(グループ会社)AIプロダクト事業部 営業部長
管理職こそ、AIを使い倒す〜自らの「分身AI」で営業組織を底上げする、プレイングマネージャーの実践〜

生成AIやAIエージェントの進化が、企業経営のあり方を大きく変えようとしている今、私たちエクサウィザーズは、自らが最前線の「実験場」となり、AIドリブン経営を日々実践しています。この「AIドリブンデイズ」のコーナーでは、自社を実験場としたエクサウィザーズ社内のAI活用事例を発信しています。

今回の舞台は、営業の現場です。自分の思考をプロンプト化してチームに配り、フィードバック会議を廃止。空いた時間で提案の質×量を引き上げ、商談記録のAI抽出で現場感もキープ。グループ会社であるExa Enterprise AIのAIプロダクト事業部で約70名の営業組織を率いる私、中川皓貴が、自らの思考をAIに移した「営業マネージャーAI(分身)」の実践についてご紹介します。

※本記事は、2026年2月5日にエクサウィザーズ HR noteで公開した記事を再編集したものです。

「カタログ営業」では、もう戦えない

 現在、企業の大小を問わず「生成AIで業務効率化をしたい」という声をいただかない日はありません。しかし現場で多くのお客様と対峙する中で感じるのは、生成AI市場が「視界不良のレッドオーシャン」に突入しているという危機感です。AIの機能を説明するだけの「カタログ営業」で売れるフェーズは終わりました。お客様自身も「AIで何ができるか」は分かっていても、「自社の業務のどこに、どう実装すれば成果が出るのか」という解像度が不足しているケースがほとんどだからです。

 ここで求められるのが、お客様自身も気づいていない課題を掘り起こし、あるべき姿への道筋を描く「インサイト営業」です。ただ、このスタイルは極めて属人化しやすく、組織に浸透させるのは容易ではありません。

 加えて私自身、「自分の数字を追いながら、メンバーの育成も行う」というプレイングマネージャーの二律背反するミッションを抱えていました。月100件近い商談を自らこなしつつ、組織のマネジメントも担う。この物理的な限界を超えるために行き着いたのが、自分の思考プロセスを学習させた「営業マネージャーAI」という分身を作ることでした。

自分の思考をAIに移す――「営業マネージャーAI」ができるまで

 もともと私の手元には、商談や社内ミーティングの録画書き起こし、Slackの投稿、フィードバックのデータなど、自分の発言や考え方のデータが大量にありました。これをもとに、自分の思考パターンを再現するAIエージェントを作ったのが出発点です。その裏側は驚くほどアナログで、地道な作業の連続でした。完成までのプロセスは、大きく5つのステップに分けられます。

  • Step1:圧倒的な一次情報の獲得 — 自ら月100件の商談に立ち、顧客の反応を直接肌で感じる。リーダー自身が「売れる理屈」を体感値として持っていなければ、AIに何を教えるべきか判断できないため。
  • Step2・3:勝ちパターンの言語化・標準化 — 自分の商談録画や資料をAIに読み込ませ、「なぜこの提案が刺さったのか」を客観的に分析。暗黙知を形式知化し、チームが使えるトークスクリプトや資料へ落とし込む。
  • Step4:徹底したフィードバックのデータ化 — 半年以上、毎週全員と案件相談を行い、「このフェーズではこのアクションが必要」「その反応なら次はこう打つべき」という思考回路をすべてログとして蓄積。
  • Step5:AIへのインストール(エージェント化) — 蓄積されたフィードバックログを教師データとして学習させ、自分の思考をトレースしたAIエージェントを構築。

 最も重要だったのは、Step4のフィードバックのデータ化です。意識したのは、フィードバックを個別案件・個別事象で終わらせないこと。具体でイメージを持った上で抽象度の高い学びに昇華させ、「こういう状況になったときは、まずここから考え、ここをチェックし、こう動く」という判断軸をチームの共通認識にしていきました。現在、メンバーがSlackでこのエージェントに相談すると、「このままだと受注できない。決裁者のこの観点が抜けているからだ」といった、私に近い視点での鋭い指摘が即座に返ってきます。

「管理職のジレンマ」を3つの仕組みで解消する

 この分身AIによって、私が抱えていた「管理職のジレンマ」は次の3つの仕組みで解消できました。

  • AIペルソナの配布:自分の思考回路をAIエージェント化してメンバーに配布 → 週2.5時間のフィードバック会議を廃止
  • 提案の複数パターン化:空いた時間で提案ストーリーをAIでチューニング → 提案の成功率と件数を同時に向上
  • 商談記録のAI抽出:全商談のテキスト・動画からパターンを自動抽出 → 管理職でも現場の解像度をキープ

 もともとメンバーの商談準備やフィードバックは私が直接行っており、毎週1人あたり30分、合計で週2.5時間を費やしていました。分身AIの配布でこの会議を廃止し、メンバーは「中川さんならこう言うだろう」というフィードバックをAIから受けられるようになりました。浮いた時間は提案のチューニングに再投資しています。以前は1つのストーリーを作り込むのが精一杯でしたが、今は切り口を変えた複数の提案をお客様に合わせて出し分け、スライド用のビジュアルは画像生成AIで作成する。確度の高い提案を量産できるようになりました。

 また、管理職は見る範囲が広がるほど一つひとつの解像度が落ちるリスクがあります。そこで商談の同席録画・議事録をAIですべて抽出し、「今日の全員の商談から、お客様の反応が良かったトークを抽出して」と投げると、反応のパターンが見えてきます。移動中は動画で温度感を聞き、全件はテキストで一気に目を通し、「今日見るべき商談はどれか」をAIに聞いて優先順位をつける。現場から離れるリスクを、仕組みで担保できるようになりました。

 この前提にあるのが、会議をほぼ全件録画し、社内に情報をオープンにするエクサウィザーズのデータ文化です。AIに読み込ませるデータが日常的に蓄積されている環境こそが、AI活用の土台になっています。

マネージャーは「建築家」へ、現場は「表現者」へ

 この実践を通じて感じているのは、AI時代のマネージャー像の変化です。マネージャーは、進捗管理の工数をAIで圧縮し、市場に合わせて「勝ちパターン」を定義し直し、それを再びAIや仕組みに落とし込む「建築家」へ。一方、現場のメンバーは「表現者」へ。AIがネクストアクションを支援することで、若手が迷う時間は最小化され、上司の様子をうかがうことなく即座に壁打ちできます。最近は「営業マネージャーAIに壁打ちして考えたんですが、この方向性でどうですか?」と提案を持ってくるメンバーが増えました。議論の中心は「何を伝えるか」から「どう伝えるか」に変わり、顧客の感情に訴える提案や、AIでは代替できない信頼関係の構築に全力を注げるようになっています。論理はAIが支え、情熱は人間が運ぶ。この分担こそが、最強の実行力を生むと考えています。

効率化より「楽しい」が人を動かす

 お客様の管理職にAI活用を広めるとき実感するのは、「5分が1分になります」という効率化の話だけでは響かない、ということです。それよりも、心理的に楽になる、楽しくなるという体験のほうが、はるかに人を動かします。たとえばバイブコーディング――プログラミングの知識がなくても「こんな感じのものが欲しい」とAIに伝えるだけでツールやアプリを作る手法です。私自身、スプレッドシートのデータから5分でダッシュボードを作りましたが、これを展開するだけで「すごい!」となる。Excelで関数を組んでも誰も見ませんが、ビジュアルで見せると一気に価値が伝わります。

中川が自身で作成したダッシュボード(データは架空のサンプルデータ)

 なお、AIが特に活きるのは、周囲とのコミュニケーションが多い人です。現場の意見を拾いつつ経営への報告もする、そうしたコミュニケーションの中心にいる人ほど、リアルタイムですべてをさばかなくてよい幅が増えます。部長クラスやプロダクトマネージャーなど、扱うテーマがめまぐるしく変わる人ほど効果が出ると考えています。

提供するのは「ツール」ではなく「変革」

 この取り組みをお話しすると、「どうやっているんですか」「自分もやりたい」という反応を必ずいただきます。一方で、議事録を取っていない、社内チャットで情報を流す文化がないなど、AIに読み込ませるデータ自体がないというネックも見えてきました。それでもゼロから始められます。たとえば30分、自分がフィードバックで考えている観点を喋って録音するだけでも、AIはそれなりのアウトプットを返してくれます。

 エクサウィザーズの営業活動は、単に便利なツールを売ることではありません。私たちの本質は、経営層を説得し、現場の抵抗を解きほぐし、活用を定着させる、お客様の組織そのものを変える「チェンジマネジメント(変革の伴走)」にあります。このプロセスは極めて泥臭いものですが、この泥臭い実装こそが、これからの営業の醍醐味だと私は信じています。AIという最先端の武器を使いこなしながら、組織変革という最も人間臭い課題に挑む。自らを実験場とした私たちの実践が、皆様の組織の変革のヒントになれば幸いです。