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米国AI業界で「オープンモデルを活用すべし」の大合唱=中国排除論に異議

米国AI業界で「オープンモデルを活用すべし」の大合唱=中国排除論に異議

「Googleも加わった。これで全面支持が完成した」。米Box(企業向けクラウドストレージ企業)のCEO、Aaron Levie氏は、AIのオープンモデルへの支持拡大をこう表現した。オープンモデル擁護の政策提言の共同書簡に、NVIDIAやMicrosoft、Meta、OpenAIなど主要企業が相次いで署名したのだ。表向きはオープンモデルの擁護だが、その実態は中国のAIモデル排除論に異議を唱える形になっている。

Kimi K3が突きつけた中国AIの脅威

この議論を一段と先鋭化させたのが、中国のAIスタートアップMoonshot AIが7月16日に発表した「Kimi K3」だ。米国の最先端モデルと肩を並べたという評価が一部である上、7月27日までに、モデル本体に当たるウェイトを無償公開する予定だ。(AI新聞の関連記事

米国で警戒されているのは、中国が性能で追いついたことだけではない。高性能なモデルを低価格、あるいは無料で世界に広め、巨額の開発費を投じる米国企業の収益基盤を崩す可能性があることだ。

New York University Stern School of Business教授のScott Galloway氏は、中国企業による一連のオープンウェイト戦略を「AIダンピングだ」と表現した。中国は米国より優れたモデルを作る必要はなく、十分に高性能なモデルを安価に供給し続ければ、米国企業のAIを経済的に成り立たなくできるとの見方だ。

ワシントンでも、中国モデルを政府調達から排除したり、米国内での利用に制約を設けたりする議論が再燃している。


米国AI業界で始まった「オープンモデル」の大合唱

中国モデルへの警戒論を押し返すように、米国のAI業界は一斉にオープンウェイトモデルへの支持を表明した。

中心になったのは、米NVIDIAや米Microsoft、米Metaなどが7月24日に公表した共同書簡「Open Weights and American AI Leadership」だ。発表時には25社・団体だった署名者は、その後、米Google、米OpenAI、米AMD、米Cisco、米Cloudflare、米GitHubなどを加え、さらに拡大が続いている。半導体、AIモデル、クラウド、セキュリティー、企業向けソフト、ベンチャーキャピタルまで、AI産業の幅広い企業が名を連ねている。(AI新聞の関連記事

書簡は、米国のAI分野での主導権は「一つの最先端モデル」ではなく、AIがあらゆる産業に広がる開かれたエコシステムを築けるかどうかで決まると主張した。企業が用途に合ったモデルを適正な費用で選び、自社の設備で動かし、データや蓄積した知識を管理できる環境が必要だとしている。

安全保障を理由に、オープンモデルを一律に危険視する考えにも反論した。クローズドモデルだけに依存すれば、少数の企業やモデルが攻撃を受けた際に影響が集中する。オープンモデルなら、研究者や技術者が外部から検証し、弱点を発見して安全対策を改良できるという。

各社の経営者も相次いで支持を表明した。NVIDIA創業者兼CEOのJensen Huang氏は、自身初のX投稿にこの書簡を選んだ。Microsoft会長兼CEOのSatya Nadella氏は、オープンウェイトモデルを「健全なAIエコシステムに不可欠」と表現。Google兼Alphabet CEOのSundar Pichai氏も署名に加わり、強固で安全なオープンエコシステムは世界にとって重要だと訴えた。

このほか米有力ベンチャーキャピタルAndreessen Horowitzの共同創業者のBen Horowitz氏、SpaceXAIのElon Musk氏、米Replit CEOのAmjad Masad氏らも支持を表明している。

今の米国のAI業界は、OpenAIとAnthropicの2強時代と言われる。この2社以外は、業界をこのAIモデルメーカー2社に牛耳られるより、より多くのAIモデルが登場し健全な競争を続ける方がいいと考えているのかもしれない。そうなることで価格は下がり、性能は向上する。その結果、AIを搭載するアプリやサービスが多数生まれ、産業界が大きく発展する。そう考えているようだ。

この産業界の発展というお題目の前に、OpenAIとしても反対するわけには行かない。Sam Altman氏は「米国には、オープン、クローズドの両方で勝ってもらいたい。(この書簡が出て)嬉しい」とXに投稿。7/24に社として書簡に署名している。Anthropicは、この原稿執筆時点で共同書簡に署名しておらず、所管への公の賛同も表明していない。(Anthropicの立場の違いについては、AI新聞のこの記事で解説)

オープンモデルの利用を守るという主張は、実際には中国モデルの利用も認めるという意味を持つ。

そのことを象徴するのが、米Dell Technologies創業者兼CEOのMichael Dell氏の投稿だ。同氏は、中国Z.aiの7530億パラメータモデル「GLM-5.2」をDell製のコンピューター上で動かし、「データセンターなし、APIなし、クラウドなし」で利用するユーザー企業の投稿に「注目すべき成果だ」と評している。米国の大手ハードウェア企業のトップが、中国モデルを自社製品上で動かす様子を紹介したわけだ。

Galloway氏の「AIダンピング」論に対し、米ベンチャー投資家のChamath Palihapitiya氏は「馬鹿げた比喩を信じるな」と一蹴した。安価な中国モデルの登場を、米国AI産業を守るための規制理由とみるのか、それとも米国企業が活用できる新たな技術基盤とみるのか。米国のAI業界は、後者へ大きく傾いた格好だ。

日本企業もすでに中国モデルを活用

中国製AIへの警戒が目立つ日本でも、企業の現場ではすでに中国モデルが使われ始めている。

みずほフィナンシャルグループは、中国Alibabaが開発した「Qwen3-32B」を土台に金融特化LLMを開発した。預金や融資、外国為替などを対象にした銀行実務テストでは、「推論なし、コンテキスト付与あり」という同じ条件下で、米OpenAIのGPT-5.2と同じ正答率89.0%を記録。平均回答時間も1秒未満で、外部にデータを送らず、銀行内の閉じた環境で動かせるとしている。(みずほフィナンシャルグループ)

製造業でも採用は進む。リコーはQwen3.6を基に、図表を含む日本語文書を読み取る独自モデルを開発し、企業が自社内で動かせる製品に搭載すると発表した。国内のAI開発力強化を目的とする政府の「GENIAC」事業の取り組みの一環でもある。(リコー)

日本語AIを開発するELYZAも、Qwenを追加学習した「ELYZA-Thinking-1.0-Qwen-32B」などを商用利用可能な形で公開している。

中国企業のクラウドサービスに機密情報を送るのではなく、公開されたウェイトを自社の設備に置き、日本語や専門業務向けに作り替える。日本企業はすでに、中国モデルを排除するのではなく、自社の管理下で活用する段階に入っている。

焦点は7月27日だ。Kimi K3のウェイトが予定通り公開されれば、モデルは開発元の管理を離れ、世界中の企業や開発者が自社環境に取り込めるようになる。中国モデルを排除するのか、それとも活用するのか。米国AI業界と日本企業の動きを見る限り、競争の現場はすでに後者へ傾き始めている。

著者
湯川鶴章

AI新聞 編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『生成AIで心が折れた』(2025年)、『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。