Cybercabサービス開始 Teslaが挑む「安く作るクルマ」
Teslaの自動運転タクシー専用車「Cybercab」は、金色の二人乗りEVだ。運転席もハンドルも、アクセルやブレーキのペダルもない。
2026年9月3日、Teslaは米テキサス州オースティンで乗車サービスを始めた。報道によると、同州で登録されたTeslaの自動運転車420台のうち45台がCybercabだ。
Cybercabの特徴は、自動運転AIそのものよりも、「人間は運転しない」という前提から車両と工場を設計し直した点にある。
まず、ハンドルやペダルをなくした。これにより、ハンドルと車輪をつなぐ部品、ペダル機構、運転席用メーター、操作レバーなどを省ける。
操舵には、電気信号で車輪の向きを変える「ステア・バイ・ワイヤ」を採用した。ブレーキも、各車輪に付けた電動装置を直接動かす方式だと報じられている。従来のブレーキ液や油圧配管が不要になり、製造や整備の負担を減らせる可能性がある。
外板には、材料に顔料を混ぜて成形する樹脂パネルを使う。一般的な自動車のように、金属パネルへ何層も塗装する工程を省く狙いだ。
塗装工場は、広い場所と大型設備を必要とする。エネルギーを使い、換気や排気の処理も欠かせない。車体色を金色に絞ることで、この大がかりな工程をなくそうとしている。
組み立て方も変えた。
従来の自動車工場では、車体が一本の生産ラインを進み、配線や内装、足回りを順番に取り付ける。Cybercabの「Unboxed Process」では、車体前部、後部、床、座席などを別々の場所で並行して組み立て、最後に結合する。
Teslaは、この方式によって製造ラインの面積を従来より約50%減らしながら、生産能力を高められるとしている。車体前部などには、大型部品をまとめて鋳造する「ギガキャスティング」も使い、部品数を減らす。
モーターでも調達コストと供給リスクを抑えようとしている。
Teslaは2023年の投資家向け説明会で、次世代の永久磁石モーターからレアアースをなくす方針を示した。当時の公式資料にも、使用量をゼロにする計画が記されている。
2026年9月のCybercab公開時には、この設計を量産車の駆動装置で実現したと説明した。
IEAの分析によると、2024年の磁石用レアアースでは、中国が採掘の約60%、精製の91%、焼結永久磁石の94%を占めた。レアアース磁石を使わなければ、供給が一部の国に偏るリスクを一つ減らせる。
つまりTeslaがCybercabで削ろうとしているのは、単なる部品代ではない。塗装工場の設備費、生産ラインの面積、組み立て時間、整備の手間、原材料の調達リスクまで含む。
ただし、この原価構造が実際に成立したかは、まだ判断できない。
Teslaの2026年第2四半期資料で生産開始は確認できるものの、本格的な増産には4680型電池などの課題が残る。Unboxed Processも、何十万台規模で品質と生産効率を保てるかは検証途上だ。
安全規制も条件になる。サービス開始翌日の2026年9月4日、米道路交通安全局(NHTSA)は、Cybercabが連邦自動車安全基準に適合しているとするTeslaの自己認証について調査を始めた。
NHTSAの発表によると、ハンドル、ペダル、ミラーを持たない車両が、適用対象となるすべての基準を満たすかを調べる。
部品を省いた車両を作れても、安全性を満たした状態で大量運行できなければ、低コスト化は完成しない。Cybercabが投げかけているのは「自動運転が可能か」だけではない。「運転手のいないクルマを、既存車より安く作り続けられるか」という製造業の問いである。
その答えが出れば、競争の基準は自動運転AIの性能だけでなく、車両を一台、そして一キロ当たりいくらで安全に運用できるかへ移る。