「習うより作れ」AI時代の学び方
生成AIは仕事のやり方だけでなく、学び方も変え始めている。
これまで新しいことを学ぶには、まず本や記事を読み、知識を身につけ、それから実際に作ってみるのが普通だった。AIを使えば、この順番を逆にできる。よく分からないままでも、まず作ってみることができるからだ。
「Building is the new reading(作ることが新しい読書になる)」
プロダクト開発者向けの米人気ポッドキャスト「Lenny’s Podcast」で、司会のLenny Rachitsky氏が最近紹介した言葉だ。
Rachitsky氏によると、米GoogleでLabs関連の仕事をしている人物が、この考えをテーマにした寄稿を準備しているという。同氏はその趣旨を「作ることで学ぶ。作ったものの大半を捨てても構わない。それでも作る力は鍛えられる」と説明した。
背景にあるのは、生成AIによって試しに作ってみるハードルが急速に下がったことだ。
まず作る。必要な知識は後から読む
これに近い考えを繰り返し発信しているのが、米Google LabsのProduct Director、Jaclyn Konzelmann氏だ。
同氏は2026年1月に公開したエッセイで、自身の行動原則の一つに「Build to Learn(学ぶために作る)」を挙げた。
休暇中には、数千枚の写真から一枚のモザイク写真を作る小さなアプリ「Mosaix」をAIを使って試作した。最初から完成形が見えていたわけではない。
作ってみると、静止画だけでは物足りないことに気づいた。そこで写真の細部から徐々に引き、全体像を見せる動画機能を加えた。さらにプレゼンテーションで扱いやすくするため、GIF出力も追加した。
作ったからこそ、次に何が必要かが見えてきた。
Konzelmann氏は、作ることは「どう作るか」だけでなく、「そもそも何を作るべきか」を発見する手段でもあると説明している。
出典:
https://blog.jaclynkonzelmann.com/p/looking-ahead-into-2026-my-guiding
別の投稿では、AIについてどうやって最新の知識を追っているのかと聞かれ、以前なら記事を読んだりイベントに参加したりすると答えていたが、今は考えが変わったと説明している。
「まずやってみれば、次に何を読むべきかが分かる。読むだけでは、さらに読むものが増えるだけだ」
実際に作れば、必ず分からないことにぶつかる。その疑問が、次に調べるべきことを教えてくれる。
「Building is the new reading」は、本を読まなくてよくなるという話ではない。
これまでは、
読む → 理解する → 作る
という順番だった。
これからは、
作る → 疑問が生まれる → 読む → また作る
という進め方がしやすくなる。
40年前からあった「作ることで学ぶ」
「作ることで学ぶ」という考え自体は、新しいものではない。
米MITのSeymour Papert氏は1980年代から、「constructionism(構築主義)」という教育の考え方を提唱してきた。
人から説明を受けて知識を覚えるだけでなく、プログラムや模型など、自分にとって意味のあるものを実際に作ることで理解が深まるという考えだ。
AIが進化したことで、プログラミングをほとんど知らなくてもアプリを作り始められる。映像編集を知らなくても動画を試作できる。データ分析の専門家でなくても、自分のデータを触りながら分析を進められる。分からないままでも、まず形にできるようになった。
出典:
https://ocw.mit.edu/courses/mas-962-the-nature-of-constructionist-learning-spring-2003/
もちろん、AIにすべて任せれば学べるわけではない。
AIが出したコードをそのままコピーするだけなら、仕組みを理解しないまま完成してしまうこともある。
重要なのは、作る途中で生まれる疑問だ。
なぜ動かないのか。なぜこの方法なのか。別の方法はないのか。
その疑問があれば、読むべきものが具体的になる。
AIによって変わりつつあるのは、知識そのものではない。知識にたどり着く順番である。
AIは、その新しい学び方を提供し始めているわけだ。