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トランプ氏、AI減速論を一蹴 「AIを制した者が勝つ」

トランプ氏、AI減速論を一蹴 「AIを制した者が勝つ」

トランプ米大統領は9月13日、AI開発の速度を落とすべきだとする業界首脳らの呼びかけを事実上退けた。訪問先のアイルランド西部Doonbegにある自身のゴルフ場で記者団に語った。

「われわれはAIで中国をリードしている。世界で最も進んだ国だ。率直に言って、この状態を保ちたい。AIを制した者が勝つからだ」

規制そのものを否定したわけではない。「ガードレールを設けることはできるし、あれこれ手は打てる」と述べたうえで、警告を発する側をこう切り捨てた。「持ち出すべきでないことを持ち出す否定的な勢力が数多くいる。起きもしないことを言い立てている」。何を指すのかは説明しなかった。

発端は前日12日、AI開発大手の米AnthropicのDario Amodei最高経営責任者(CEO)が個人サイトに公開した論考「We Must Pace the Frontier(フロンティアの速度を調整せよ)」である。Amodei氏は「AIモデルの能力を向上させる速度を緩めなければならない」と明言した。

理由は二つ。一つは、この夏以降、AIが次世代のAIを開発する「再帰的自己改善」が業界全体で始まり、進歩が急加速していること。「放置すれば、システムを理解し制御する能力を追い越しかねない」。もう一つが、OpenAIとAI開発基盤の米Hugging Faceをめぐる事案だ。AIエージェントの群れが、指示されていない無関係の標的にサイバー攻撃を仕掛け、自分たちの成績を採点する仕組みにまで侵入を試みた。

Amodei氏はこの事案を軽視すべきでないとして警告する。能力がもう少し高い群れが同じように制御を外れていれば、破滅的な被害が出ていた。「半年から1年後には、こうした群れが持続的なボットネットでインターネット全体を乗っ取る能力を持ちかねない」。被害額は数千億ドル規模に達しうるとした。

提案は3段階である。第1に、AI評価団体の米METRのような第三者チームを社内に常駐させ、社員並みの権限で安全対策の順守を検証させる。Anthropicは単独で実施すると表明した。第2に、民主主義国の開発企業が共通の安全基準と進歩速度の上限を設ける。第3に、中国を含む世界規模の協調を目指す。

この呼びかけにはxAI創業者のElon Musk氏とOpenAIのSam Altman CEOも賛同した。Altman氏は米Fortune誌のインタビューで、安全性への懸念からOpenAIの株式公開を2027年以降に先送りする考えを示し、社内でテストの一時停止も議論したと明かしている。

政権側の反応は冷ややかだ。大統領科学技術諮問委員会(PCAST)共同議長のDavid Sacks氏はXで「どうぞご自由に」と応じた。「私は君たちが研究所で見ているものを見ていない。未公開モデルが減速すべきだと思うほど恐ろしいなら、責任ある判断として支持する」。そのうえで「誰かの許可が要るふりはやめろ」「減速の動機が純粋に利他的だというふりもやめろ。本当に深刻なサイバー攻撃を製品が可能にすれば、巨額の製造物責任を負うのだから」と突き放した。

下院議長のMike Johnson氏も同日のCNN番組で開発停止に反対した。「議会が慌てて緊急会期を開いてAIを規制すれば、中国との競争に負ける。それは全米国民への脅威だ」。安全確保は企業側の責任だとして、プラットフォーム各社の首脳と会う考えを示した。

産業界の足並みはそろっていない。米MicrosoftのSatya Nadella CEOはXで、速度調整や評価者の常駐という考え方を歓迎すると表明。ただし条件をつけた。「企業にとって、自社固有の暗黙知を完全に管理下に置き続けることは不可欠だ」

11月の中間選挙をにらみ、AI規制は政治争点に浮上している。ペンシルベニア州のJosh Shapiro知事は業界首脳の警告を「赤い警告灯が激しく点滅している」と評し、医薬品や航空機と同様の規制を求めた。Barack Obama前大統領も先週、民主党幹部にAI規制を党の看板政策に据えるよう促したという。共和党側でも、ミシガン州の上院選に出馬するMike Rogers元下院情報特別委員長が減速支持を表明した。

ホワイトハウスは今週、サイバーセキュリティ担当の高官らと会合を開く見通し。国家経済会議(NEC)のKevin Hassett委員長がCNNで「次の一手を考える」と述べた。トランプ氏は今月下旬に中国の習近平国家主席と会談する予定で、Altman氏は米中でAIの試験基準に合意するよう促している。5月の北京での首脳会談では、AIに関する合意はなかった。

参照ソース

  • NPR「Trump warns against slowing down AI but he is not against some guardrails」 https://www.npr.org/2026/09/13/nx-s1-5968078/trump-mike-johnson-ai-slowdown
  • Dario Amodei「We Must Pace the Frontier」 https://darioamodei.com/post/we-must-pace-the-frontier
  • Washington Post「Trump rejects calls to slow AI development, citing Chinese competition」 https://www.washingtonpost.com/politics/2026/09/13/trump-rejects-calls-so-slow-ai-development-citing-chinese-competition/
  • Al Jazeera「Trump dismisses calls for AI slowdown from leading tech CEOs」 https://www.aljazeera.com/news/2026/9/13/trump-dismisses-calls-for-ai-slowdown-from-leading-tech-ceos
  • 時事通信「AI開発減速に反論 対中主導権の維持強調」 https://www.jiji.com/jc/article?k=2026091400172&g=int
  • METR(OpenAI-Hugging Face事案の調査報告) https://metr.org/blog/2026-08-26-openai-hugging-face-incident-investigation/
  • Fortune(Altman氏インタビュー) https://fortune.com/2026/09/12/sam-altman-interview-ai-doomsday-safety-models-control-ipo-2027
著者
湯川鶴章

AI新聞 編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『生成AIで心が折れた』(2025年)、『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。