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米中RSI競争、AIの急速進化を先に実現するのは誰か

米中RSI競争、AIの急速進化を先に実現するのは誰か

「中国が米国より先にRSIを実現しそうな兆候を見せれば、私たちにはどうにも制御できない形で、中国が一気に先行してしまう可能性がある」。AIモデルの性能を第三者として評価する米Vals AIの共同創業者兼CEO、Rayan Krishnan氏は、10月26日公開のインタビューでこう警告した。

RSI(再帰的自己改善)とは、AIが次のAIの開発に参加し、その成果で生まれた高性能なAIが、さらに次のAIを開発する循環を指す。この循環が実現すれば、AIの進化が急速に加速する可能性がある。

Krishnan氏は、AI研究能力を測る独自の評価指標から、米Anthropicが2027年7〜8月に「完全なRSI」に到達すると予測している。一方、中国でもAIが研究開発を自動化し、別のAIを改良する取り組みが進んでいる。中国の新興企業は10月末、「RSIモデル」と称する新しいAIまで発表した。

現在のAIモデルの性能では米国が先行している。しかし、AIが次のAIを開発する競争でも米国が先にゴールへ到達するとは限らない。米中の研究開発はどこまで進んでいるのか。

AIが次のAIをつくる能力、米国が先行

Vals AIが公開する「RSI Index」は、AIが次世代のAIを開発するための研究作業を、どこまで自律的に進められるかを測る指標だ。

対象となるのは、データ圧縮、言語モデルの学習方法の改善、AIを評価する仕組みの開発、既存モデルの追加学習という4種類の作業だ。AIに一定の時間と計算資源を与え、実際に研究や実験を進めさせ、その成果を採点する。

10月15日更新の公式ランキングでは、AnthropicのClaude Opus 5.5が0.37ポイントで首位に立った。2位と3位もClaudeの別モデルで、GoogleのGemini 4 Argonが0.31で4位、OpenAIのGPT-6 Solが0.28で続く。

中国モデルも評価対象に含まれている。Z.aiのGLM 5.3は0.23、AlibabaのQwen 3.8 Maxは0.22、Moonshot AIのKimi K3は0.21だった。米国の上位モデルとの差はあるものの、中国モデルもAI研究の課題を自律的に解く能力を示している。

課題別の成績を見ると、米中の差は一様ではない。言語モデルの学習方法を改善する課題では、Claude Opus 5.5の0.53に対し、GLM 5.3は0.41、Kimi K3は0.40だった。一方、追加学習の課題ではClaudeが0.35を記録したのに対し、中国の主要3モデルはすべて0.00だった。これは今回の評価基準では改善が認められなかったということだ。

モデルによって利用するエージェントの実行環境が異なるため、数字はモデル単体の能力だけを比較したものではない。それでも、米中のAIが同じ研究課題に取り組んだ結果を比較できる点に、この指標の価値がある。

出遅れていると思われていたGoogleが最先端モデルの先頭集団に返り咲いた背景にも、RSI能力の急速な向上があると考えられる。AI新聞は10月31日の記事「Google復活の背景に『AIでAIを作る力』の急伸」で、その可能性を詳しく取り上げた。

一方、Anthropicでは、AIを研究開発に活用する取り組みがすでに大規模に進んでいる。同社が10月26日に提出した上場申請書類によると、9月には社内のコードベースに追加されたコードの9割超をClaudeが生成していた。Claudeは次世代モデルの研究、学習、実験、評価などにも使われているという。

また技術者1人当たりが1日に追加するコード量は、2026年7〜9月に2024年平均の45倍超となったとしている。コード量がそのまま研究成果の増加を意味するわけではないが、AIが開発作業を担う範囲は大きく広がっているようだ。

出典:Anthropic上場申請書類(S-1)

中国でも始まった「AIがAIを改良する」研究

中国でも、AIが次世代AIの開発に参加する取り組みが具体的な成果を生み始めている。

中国のAI開発企業Z.ai(智譜AI)は9月17日、GLM-5.3を使ったAIエージェントが、自社の別モデル「GLM-5.3-Flash」を動かすシステムの構築と改善に大きく貢献したと発表した。

同社によると、AIエージェントはプログラムを書くだけでなく、システムの動作を調べ、処理が遅くなる原因を突き止め、改善方法を考え、実験で効果を確かめる作業を担った。

例えば、複数の処理を同時に進める仕組みに問題があることを発見し、プログラムを修正した。その結果、特定の試験条件で20%を超えていた処理時間の差を1%未満に縮めたという。

こうした改善を重ね、GLM-5.3-Flashを本番環境で動かせるようにするまでの期間を2週間以内に短縮。処理能力も当初の構成に比べて約3倍に向上したと説明している。

重要なのは、AIが改善したシステムによって、別のAIをより効率よく動かせるようになったことだ。次世代モデルの学習や運用に必要な計算資源を節約できれば、AI開発の速度を高めることにもつながる。

もっともAIが全て自分だけで動いているわけではなく、人間のエンジニアが目標や制約を設定し、重要な判断を担っているという。Z.ai自身も公式発表で「もちろん、私たちはまだ再帰的自己改善を実現していない」と明言している。

さらに踏み込んだ取り組みを発表したのが、中国のAI新興企業Apex Intelligence(超衍智能)だ。

同社は10月28日、研究開発を自動化するシステムを利用して開発した「Apex-35B-V1.0」を発表した。同社はこれをRSIモデルと位置づけている。

Apexの取り組みで注目されるのは、AIが別のAIモデルを実際に改善する実験を行ったことだ。

公開された実験では、Apex-35B-V1.0が小型の言語モデル「Qwen2.5-3B-Instruct」を追加学習させ、倉庫番パズル「Sokoban」を解く能力の向上に取り組んだ。

AIは学習方法を考え、プログラムを実装し、実験結果を分析した。思うような結果が得られなければ、問題の難易度や学習時の報酬の与え方を見直し、次の実験を進めた。

同社によると、探索と再学習に合計16時間の予算を与えた実験で、AIは207回のコマンド実行やコード編集を行った。最終的に、学習時には使っていない512問のパズルで24.4%の正答率を記録したという。

別の実験では、画像生成モデルStable Diffusion 1.5の追加学習にも取り組み、同社の評価指標で約23%の改善を報告している。

これは、AIが単にプログラムを書いたり、既存のシステムを高速化したりする段階から、別のAIモデルの学習方法を考え、性能を改善する段階へ進んでいることを示す事例と言える。

ただし、実験の成果は開発元が公表したものであり、独立した第三者による再現は確認できていない。また、改善されたAIが次に研究者として働き、さらに高性能な後継AIを開発したわけではない。RSI(再帰型自己改善)の再帰とは、AIが次の世代のAIを開発し、そのAIがさらに次の世代のAIを開発する循環のこと。この循環が実現したと言えるわけではない。

中国の電子商取引・クラウド大手Alibabaも、RSI研究を進めている。同社CEOのEddie Wu氏は9月22日の講演で、QwenチームがRSIを研究し、「意味のある進展」を遂げていると語った。

同氏は、AIが自分の弱点を発見し、実験を設計し、学習用データを生成し、結果を評価することで、自己改善を続ける技術的な道筋が見えてきたと説明した。ただし、具体的な改善幅や自動化の範囲を示すデータは公表していない。

米国の第三者評価では依然として米国モデルが先行しているが、中国でもAIによる研究開発の自動化が進み、別のAIモデルを改善する実験が公表されるようになってきているようだ。

完全なRSIまで、あと何が足りないのか

では、こうした取り組みが進めば、AIは間もなく人間の手を借りずに次のAIを開発できるようになるのだろうか。

ここで重要なのは、与えられた研究課題を解く能力と、研究そのものを自律的に進める能力の違いだ。

例えば、人間が「このモデルの学習効率を高めてほしい」と指示し、AIが実験を繰り返して成果を出すことは、研究開発の自動化に当たる。

一方、完全なRSIでは、AI自身がどの研究課題に取り組むべきかを判断し、実験を計画し、成果を検証し、より優れた後継AIを開発する。その後継AIがさらに次のAIを生み出せることも必要になる。

米国でも、この段階にはまだ到達していない。

Anthropicが公表した研究開発自動化の調査によると、2026年8月時点で、調査対象の研究開発作業の90%超ではAIが人間と協働する水準以上に達し、26%ではAIが作業を主導する水準に達していた。しかし、人間の関与なしに完全自律で遂行できる水準に達した作業は確認されなかった。

研究の実験を進める能力は高まっていても、何を研究する価値があるのかを判断し、新しい着想を生み出す能力には、まだ課題が残っている。

Anthropicの共同創業者Jack Clark氏は10月12日のニュースレターで、完全なRSIが2027年に可能になる公算が大きいとの見方を示した。以前は2028年を有力視していたが、AIが実験結果を読み取り、次に何を試すべきかを判断する能力を高めていることなどから、予測を前倒ししたわけだ。

しかし、AIが短時間で検証できる研究課題をうまく解けるようになったとしても、長期にわたる研究計画や、大規模なモデルの開発まで同じように自動化できるとは限らない。

Vals AIのKrishnan氏による2027年7〜8月という予測も、現在の研究能力の向上が今後も続くことを前提とした見通しだ。同社のRSI Indexは研究開発能力を測る有用な指標だが、完全なRSIの実現時期を確定できるものではない。

そもそも、現在のAI研究には、実験結果が本当に正しいかを確かめる作業が欠かせない。AIが誤った結果をもとに次の研究を進めれば、改善どころか性能が低下する可能性もある。

研究テーマの選択、実験結果の検証、長期的な計画の管理。こうした仕事までAIに任せられるかが、完全なRSIに向けた次の焦点になっている。

米中のどちらが先にAI進化を加速させるか

RSI競争では、現在のAIモデルの性能だけでなく、研究開発に投入できる計算資源も重要になる。

最先端モデルを学習させるには、大量の高性能半導体と電力が必要だ。米国企業はこうした計算資源へのアクセスで優位に立っていると言われる。一方、中国企業は米国の半導体輸出規制を受けながら、限られた計算資源を効率よく使う技術を磨いていると見られている。

Z.aiが発表した推論基盤の高速化は、その一例だ。AI自身がシステムの改善に参加すれば、人間のエンジニアだけで開発する場合よりも、短期間で多くの改良を試せる可能性がある。

ただし、推論処理を3倍高速化できたからといって、最先端モデルの学習に必要な計算資源を3分の1に減らせるわけではない。AIによる効率改善が、米中の計算資源の格差をどこまで埋められるかは、まだ分からない。

また、完全なRSIが実現した後も、半導体や電力、実験に必要な時間といった物理的な制約は残る。AIが次のAIを開発できるようになったからといって、知能が無制限に、あるいは必ず指数関数的に向上するとは限らない。

それでも、AIが研究開発の多くを担うようになれば、次世代モデルを開発する速度は競争力を左右する重要な要素になる。

現在のAI競争では、どの企業が最も高性能なモデルを持っているかに注目が集まっている。しかし、AIが次のAIを開発する時代には、現在の性能で先行する企業が、その後も先頭に立ち続けるとは限らない。

Krishnan氏が中国のRSI到達を警戒する理由も、そこにある。先にAIによる研究開発の循環を確立した国や企業が、次世代モデルを生み出す速度でも優位に立ち、その差を広げる可能性があるからだ。

米国は現在の研究能力で先行し、中国も研究開発の自動化を進めている。まだどちらも完全なRSIを実証していないが、競争の焦点は変わり始めている。


現在のAI競争は、どちらがより賢いモデルを持っているかで測られている。しかし、AIが次のAIを開発する時代には、より重要になるのは、どちらが次の世代を速く生み出せるかだ。米中の競争は、その新しい段階に入り始めている。

著者
湯川鶴章

AI新聞 編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『生成AIで心が折れた』(2025年)、『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。