「AIがAIを作る」の次は「AIがデータセンターを作る」 RSIは物理世界へ
「自己複製するデータセンターについては、ほとんど語られていない」。OpenAIの最高経営責任者(CEO)、Sam Altman氏は10月29日に公開された対談で、こう語った。
AIが自らを改良するだけでなく、自らを動かすためのデータセンターまで作る。Altman氏はそんな未来が「手の届くところにある」と考えている。
AIが次世代AIの研究開発に参加し、その成果を使ってさらに高性能なAIを生み出す。これがRSI(Recursive Self-Improvement、再帰的自己改善)と呼ばれる仕組みだ。これまでの議論は、主にAIモデルが次世代のAIモデルをいかに賢くするかに集中してきた。ところが今、その自己改善の循環を、半導体やデータセンターといった物理世界にまで広げようという構想が浮上している。
ロボットでデータセンターを作る
Altman氏によると、OpenAIは独自の半導体を開発している。また、ロボットを使ってデータセンターを大量に建設する計画もあるという。
同氏が描くのは、単にロボットを建設現場に投入するだけではない。AIがロボットや機械を設計・制御し、工場を動かして半導体や発電設備を製造する。さらに、そうした設備を使って新しいデータセンターを建設する。新しいデータセンターの増設によって増えた計算資源を使って、より高性能なAIを開発する。そのAIがさらに優れたロボットや半導体を生み出し、データセンターの建設能力を高めていく。こうしてAIの進化と計算資源の生産が互いを加速させる循環が生まれるという構想だ。
同氏は、AIがAI研究を行うRSIについては盛んに議論される一方、計算資源を生産する仕組みそのものをAIで作り出す可能性には、十分な関心が向けられていないと指摘している。
AIの進化を阻む半導体と電力の制約
AIがAIの研究開発を自動化できるようになれば、AIの進化は際限なく加速するのだろうか。
AIモデルの第三者評価を手がける米Vals AIの共同創業者兼CEO、Rayan Krishnan氏は10月26日の対談で、RSIによってモデルの進化が数カ月単位から毎週のような速さに変わるのかと問われ、「半導体やエネルギーについては、依然として大きな資源上の制約がある」と答えている。たとえAIがどれほど優れた研究能力を身につけても、計算に必要な半導体や電力が不足すれば、進化の速度は制約を受けるというわけだ。
Altman氏が描く「自己複製するデータセンター」は、まさにこの制約を克服しようとする構想と言える。AIが自らの計算資源を増やせるようになれば、研究能力が向上するほど計算資源の生産能力も高まり、AIの進化をさらに加速させる可能性があるわけだ。
RSIの評価対象もハードウェアへ
AIの自己改善をモデルの研究開発だけで捉えるのではなく、周辺技術にまで広げようという動きは、RSIの評価にも現れている。
Vals AIのKrishnan氏は10月26日の対談で、同社が開発する「RSI Index」について説明した。
この指数は、AIが次世代AIの研究開発をどこまで自動化できるかを測るものだ。現在は、モデルの事前学習、事後学習に加え、AIに外部ツールを使わせたり、複数の作業を実行させたりする仕組みを開発する「ハーネスエンジニアリング」も評価対象にしている。
Krishnan氏は、その対象をさらに広げる考えを明らかにした。カーネルエンジニアリングやハードウェアエンジニアリングなど、現在は対象外の領域も、今後評価していくという。カーネルエンジニアリングとは、GPUなどの半導体で計算処理を効率よく実行するためのプログラムを開発・改善する仕事だ。ハードウェアエンジニアリングには、半導体などの機器を設計する仕事が含まれる。
つまり、AIがモデルの学習方法を改良できるかだけでなく、計算を効率化するソフトウェアや、計算を実行するハードウェアの開発まで担えるかを測ろうとしている。
Krishnan氏が示したのは、研究開発能力の評価範囲を広げる計画だ。Altman氏が語ったようなデータセンターの自己複製を直接測るものではない。それでも、AIの自己改善をモデルの内部だけで捉えるのではなく、モデルを取り巻く技術全体で捉えようとしている点では、両者の発想は重なる。
これまでAI開発の競争では、優れたモデルを作る研究能力と、必要な計算資源を確保する資金力が重要だった。AIが計算資源を作り出す仕事にも参加するようになれば、半導体設計、電力設備、産業ロボット、データセンター建設までが、AIの進化を加速させるための技術開発の対象になる。
RSIをめぐる競争は、AIモデルの開発企業だけでなく、物理世界のものづくりを担う企業をも巻き込む、新しい段階に向かおうとしている。