人型ロボットの介護は「数十年先」? 先に役立つ専用ロボットという道
人型ロボットが家庭で高齢者の介護を担うには、「少なくとも数十年」かかる。スタンフォード大学の機械工学教授、アリソン・オカムラ氏が、こうした見通しを示した。日本時間11月1日に公開された番組「MTS」での発言だ。人型などの汎用ロボットが、介護に必要な性能と安全性に達するまでの時間について、同氏自身の予測を語った。動画の該当箇所
ただ、同氏は家庭で役立つロボットの開発全体に悲観しているわけではない。着替えや、ベッドから車いすへの移動など、特定の作業を助けるロボットには、もっと早く生活を変える可能性があるとみている。何でもこなせる一台の完成を待つ間にも、介護の負担を減らすためにできることはある。
身体を預ける介護には、安全性の壁がある
介護を担う汎用ロボットの大きな課題は、安全性だ。オカムラ氏は、言語を扱うAIの誤りが、ロボットでは身体の動きとして現れる点を指摘する。動いた結果、人を傷つけたり事故を起こしたりすれば、その行動を取り消すことはできない。AIにさまざまな行動を判断させるほど、何が起きるかを見通し、安全を保証することが難しくなるという。動画の該当箇所
大学が公開した別のインタビューでも、同氏は入浴介助を例に、この問題を説明している。AIが文章の下書きで間違える場合と、人を浴槽から出すロボットに指示を出して間違える場合では、結果の重さが違う。身体を支える柔らかさと十分な力を両立させる技術に加え、AIが予想外の誤りを起こしたときの備えも必要になるとしている。スタンフォード大学のインタビュー
着替えや移動を、一つずつ助ける
そこで同氏の研究室が探っているのが、作業に合わせてロボットの形を考える道だ。
一つの例が、着替えを助ける「ロボットファスナー」である。腕を袖に通すことが難しい人にとって、着衣は負担の大きい作業になる。研究チームは、衣服を複数の部分に分け、身体の上でファスナーを動かして組み合わせる仕組みを研究している。ロボットだけを改良するのではなく、ロボットと衣服の両方を検討し直そうという試みだ。動画の説明
もう一つ、オカムラ氏が動画で挙げたのが、身体の下にシートを入れる作業への応用だ。ベッドから車いすへ人を移す際には、持ち上げるためのシートを身体の下に敷く方法がある。同氏が説明する手順では、身体を左右に動かしながらシートを差し込み、その間、介助者が身体を安定させる。
もう一つの研究は、寝たきりの患者をベッドから車椅子へ移す作業を助けるロボットだ。通常は患者の身体を持ち上げて、その下に移動用のシートを敷く必要がある。Okamura教授らは、柔らかい素材を先端から少しずつ伸ばし、患者の身体の下に滑り込ませる仕組みを研究している。患者を持ち上げる負担を減らし、これまで2人がかりだった介助を1人でもできるようにすることを目指している。動画の該当箇所
これらは研究として紹介された例であり、家庭向け製品としての普及が実証されたものではない。それでも、どの作業をどう助けるかが具体的なため、実用化に向けて確かめるべき効果や課題を絞りやすい。
家庭向け製品は、どこまで自律的に働くのか
一方、米1Xは家庭用ヒューマノイド「NEO」の予約注文を受け付けており、2026年中に米国で配送を始める計画だ。すでに工場での量産は始まっているが、11月2日時点で一般顧客への配送が始まったことは確認できない。1Xの公式説明
1Xが家庭にロボットを届けたとしても、それで高齢者の介護ができるようになるわけではない。NEOは複雑な作業を人間が遠隔操作で支援する仕組みを採用しており、何でも自律的にこなせるわけではない。まして、人間の身体を支えたり、抱き上げたりする介護には、高い安全性が求められる。家庭用ロボットの販売が始まることと、介護を安心して任せられるようになることは別なのだ。
介護の一工程を変えることにも価値がある
介護現場で注目すべきは、ロボットによって一つの作業でどれだけ負担を軽減できるかだ。介助に必要な人数や時間だけでなく、機器の準備や片づけ、設置場所、費用、介護を受ける本人の使いやすさまで含めて考える必要がある。動作のデモが成功することと、毎日の生活で使い続けられることの間にも、検証すべき課題は残る。
先進国はどこも高齢化が進み、人型ロボットへの期待が高まっている。しかしオカムラ氏は、専用型と汎用型の二つの道を並行して探るべきだと語る。高齢者の生活を支えるには、さまざまな方法から取り組む必要があるというわけだ。動画の該当箇所
何でもできる人型ロボットの研究を続けながら、着替えや移動で困っている人を助ける技術を育てる。介護ロボットの進歩は、万能な一台が現れる日だけで測る必要はない。今日まで二人がかりだった一工程を、一人でも無理なく行えるようにすることにも、大きな価値があるのだ。