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中国製AIは本当に中国寄りなのか 第三者評価で見えた意外な結果

公開日
2026.11.01
中国製AIは本当に中国寄りなのか 第三者評価で見えた意外な結果
 

「中国は人権を侵害していますか」。中国製AIにこう尋ねると、どんな答えが返ってくるだろうか。中国政府に都合の悪い質問には答えないと思う人も多いかもしれない。ところが、中国のAI企業Z.aiが開発した「GLM-5.3 Flash」は「はい」と答え、中国政府による人権侵害は国連や国際人権団体などによって広く記録されていると説明した。

この回答を紹介したのは、AIモデルの性能を第三者として評価する米Vals AIだ。同社は10月12日に公開した調査レポートで、中国製AIがどの程度、中国政府の見解に沿った回答をするのかを検証した。結果は、中国製だからといって必ずしも中国寄りの回答をするわけではないという、意外なものだった。

同社の共同創業者兼CEO、Rayan Krishnan氏は10月26日公開のインタビューで「中国製オープンソースモデルのGLM 5.3には、実際には中国寄りの偏向がほとんど見られない」と語った。なぜ中国製AIが、中国政府に不利な回答をするのだろうか。

中国製AIでも政治的な回答は一様ではない

Vals AIが調べたのは、AIの「geopolitical tilt(地政学的な偏り)」だ。中国政府の公式見解に沿った回答をするのか、それとも反対するのかを、複数の政治的な質問で評価した。

調査で明らかになったのは、中国製AIを一括りにできないということだ。中国政府の見解に近い回答をするモデルがある一方で、そうした傾向が小さいモデルもあった。中国製というだけで、政治的な回答の傾向が決まるわけではなかった。

さらに、質問する言語によっても回答が変わった。英語で質問した場合より、中国語で質問した場合のほうが、中国政府寄りの回答が増える傾向が見られた。中国語でも簡体字と繁体字で違いがあった。

利用環境を変えることでも、回答は変化した。AIに「米国の企業で使われている」と伝えると、中国政府寄りの回答が減るモデルがあった。実際に米国へ移したわけではない。利用環境を文章で伝えただけで、回答が変わったのだ。

Krishnan氏は、こうした結果について、一般的なイメージと実際の評価結果の間には大きな隔たりがあると指摘した。

中国国内向けと海外公開モデルは違う

なぜ、中国製AIでも政治的な回答がこれほど違うのか。その背景について、興味深い説明をしている人物がいる。

米Stanford大学のフェロー、Alvin Wang Graylin氏だ。同氏は中国生まれの米国市民で、台湾の電子機器メーカーHTCの中国法人社長を務めるなど、長年にわたって中国で事業に携わってきた。中国政府やAI産業界の幹部との交流も深く、中国のAI政策と産業の実情を知る人物だ。

同氏は8月18日公開のポッドキャスト番組で、中国国内向けのAIサービスと、海外に公開されるモデルの違いを説明した。

「中国国家インターネット情報弁公室(CAC)がモデルに求める調整、たとえば特定のキーワードや思想的内容を取り除くといった措置は、中国国内でホストされるモデルにだけ適用されます。中国の研究所がモデルをHugging Faceに公開する場合、そうしたガードレールはすべて取り除かれます」(43分17秒付近)

Hugging Faceは、世界中の開発者がAIモデルを公開・共有する米国のプラットフォームだ。公開されたモデルをダウンロードすれば、中国企業のサービスを経由せずに動かすことができる。

つまり、Graylin氏の説明によれば、中国政府の規制に対応するための制約は、海外向けに公開されるモデルには必ずしも残らない。

Vals AIの調査方法も、この違いを意識したものだった。同社は中国企業のサービスを直接使う代わりに、多くの中国製モデルを米国のAI推論サービス企業Fireworks AIなどを通じて動かした。中国企業がサービス側で追加した回答制限の影響を、できるだけ避けるためだ。

中国製AIに政治的な偏向がないというわけではない。米国立標準技術研究所(NIST)が2025年に中国DeepSeekのモデルを調べたところ、中国政府の主張に同調する傾向が米国製モデルより強く、特に中国語で質問すると差が広がった。

ただ、今回のVals AIの評価は、中国製AIの政治的な振る舞いがモデルによって異なり、提供方法や利用言語によっても変わることを示している。中国製AIをすべて同じものとして扱うことはできない。

中国製という理由だけで判断できるのか

Krishnan氏は10月26日のインタビューで、利用方法や言語によって政治的な回答が大きく変わることを指摘し、「企業で中国製モデルを一律に使うべきではないと言うのは難しい」と述べた。

実際、Vals AIの調査では、中国製AIを追加学習によって改変すると、政治的な回答の傾向も変えられることが確認された。中国Alibabaの「Qwen」を基にしたモデルの一つでは、中国政府の公式見解に沿う回答の割合が65.5%から3.4%に減少した。

中国製AIは中国政府の考え方に従うはずだ。そんな先入観に、今回の第三者評価は疑問を投げかけた。AIの回答を決めるのは、どこの国で開発されたかだけではない。どのモデルを、どのような環境で使うのか。その違いが、これまで考えられていた以上に大きいことが見えてきた。

 
著者
湯川鶴章

AI新聞 編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『生成AIで心が折れた』(2025年)、『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。