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「自分より賢いAIをつくるAI」、2027年にも Anthropic上場書類に映る開発現場

「自分より賢いAIをつくるAI」、2027年にも Anthropic上場書類に映る開発現場

米Anthropicでは2026年9月、コードベースに追加されたコードの9割超を、自社のAI「Claude」が書いていた。10月26日に米証券取引委員会(SEC)へ提出した上場申請書類「S-1」は、AIを使って次のAIを開発する取り組みが、社内でどこまで広がっているかを示している。

これに先立つ10月12日、Anthropic共同創業者のJack Clark氏は、個人のニュースレターで、AIが自律的に後継AIを開発する「再帰的自己改良」が可能になる時期の予測を、2028年から2027年へ前倒しした。開発作業を担うAIは、研究の進め方まで判断できるようになりつつあるのか。上場書類と同氏が注目する研究から、その現在地が見えてくる。

ClaudeがClaudeをつくる開発現場

S-1の該当箇所を引用した報道によると、Claudeの役割はプログラムを書くことにとどまらない。次世代モデルの研究、学習、検証に関わり、実験の実行、学習データの生成や加工、評価や安全性監査の自動化、コードの点検などを担っている。

2026年7~9月の技術者1人当たりの日次コード追加量は、2024年平均の45倍超に増えた。コード量の増加がそのまま生産性の伸びを表すわけではないが、S-1が描くのは、Claudeにコード作成を任せ、人間が指示と成果の確認に回る開発現場だ。

社内でのClaude利用を定価で換算した金額も、1月から9月に250倍超へ増加した。4月には、その月額が株式報酬を除く月間人件費を初めて上回った。これは社内利用に定価を当てはめた金額で、実際に支出した費用ではない。それでも、社内でAIを使う規模が急拡大していることは分かる。

予測を前倒しさせた「研究の判断力」

こうした開発の先にあるのが、再帰的自己改良だ。AIが自分より高い能力を持つ後継AIをつくり、その後継AIがさらに次のAIを開発する。世代交代のたびに、開発する側の能力も高まる仕組みを指す。

同氏は5月4日のニュースレターで、最先端のAIが自律的に後継モデルを学習させられるようになる確率を、2028年末までなら約60%、2027年なら30%と見積もっていた。2027年の実現に慎重だった理由は、研究に必要な創造性や、既存の発想にとらわれない着想をAIが十分に示していなかったことだ。

その判断が変わった。同氏は10月12日のニュースレターで、創造性をうかがわせる数学分野の進展に加え、AI研究そのものを進める能力が高まっている兆候を挙げた。「完全な再帰的自己改良が2027年に可能になる公算が大きいと、今は考えている」と記している。

同氏が取り上げたのが、研究チームP-Zero Researchによる評価「TasteVal」だ。研究チームの説明によると、与えられた研究課題に対してAIが実験を考え、結果を読み取り、次の実験を選ぶ能力を測る。コードの実装と実行は共通の別のAIに任せ、評価対象のAIが持つ、実験を進める判断力をできるだけ切り分けた。

評価には、学習データの選別やモデルの追加学習など8種類の課題を用意した。比較相手は24人の専門家で、各課題で最もよかった専門家の試行を基準にした。同じ成績を得るために実験で使った計算量を比べ、専門家を基準に効率を数値化すると、最も成績のよかったOpus 5.5は2.30倍だった。この結果は、AIが実験結果を読み取り、次に何を試すかを判断する仕事でも力を発揮できることを示している。同氏は、こうした研究能力の向上を、自己改良AIの到来が近づく兆候と捉えた。

研究の方針までAIに任せられるか

今回の評価で確認できたのは、与えられた課題で実験を進める力だ。次の焦点は、取り組む価値のある研究テーマを自ら選び、新しい手法を生み出す力までAIが備えられるかにある。

TasteValの論文によると、評価したのはGPU1基で実行でき、結果を短時間で確かめやすい課題だ。研究テーマを選ぶ力は測っておらず、今回の好成績も主に既存の手法の調整や応用によるものだった。新しい着想を必要とする研究でも同じように進歩が続くかは、今後の検証にかかっている。

実際、Anthropicが別途公表した社内調査でも、2026年8月時点で、測定対象となったAI研究開発の仕事のうち、Claudeが人間の関与なしに完全自律で遂行していたものはなかった。

それでも、研究の判断をAIに任せられる範囲が広がれば、次のAIを生み出すまでの時間も変わる。より高い能力を持つAIが研究を速め、その成果で生まれたAIが、さらに研究を速める。その循環が続くなら、人類は、AIの進化が加速する未来を前提に、働き方や教育、社会制度を考え直す必要があるだろう。われわれは大きな社会変化の直前にいるのかもしれない。

著者
湯川鶴章

AI新聞 編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『生成AIで心が折れた』(2025年)、『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。