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「AIが米中を協調させる」シナリオが現実に 競争の一方でリスク対話を制度化

「AIが米中を協調させる」シナリオが現実に 競争の一方でリスク対話を制度化

「共通の利益を追求することで、第二次世界大戦ではわれわれは同盟国にさえなった」

トランプ米大統領は9月24日、国賓として米国を訪れた中国の習近平国家主席をホワイトハウスに迎え、こう語った。

トランプ大統領が現在の中国を米国の「同盟国」と呼んだわけではない。第二次世界大戦時の米中協力について述べたものだ。

むしろ注目すべきなのは、トランプ大統領が「共通の利益に集中すれば、多くのことを成し遂げられる」と続け、その具体的なテーマの一つとしてAIが首脳会談で取り上げられたことだ。

会談後、米政府は「米中超知能(Super Intelligence)対話」を設置すると発表した。AIのリスクと利益について意見を交わし、次回の協議を11月までに開く。さらに、AIに関連する重大な事故が起きた際に両国が直接連絡を取るための専用チャンネルも設ける。中国政府も「米中AI対話」の設置とAI事故に関する連絡チャンネルの設置を発表している。

AI開発で世界の主導権を争う米国と中国が、AIのリスクについては政府間で話し合う仕組みを作り始めた。

これは、AI新聞が約1カ月前に取り上げたシナリオに近い。

「同じものを恐れる」ことから協力が始まる

AI新聞は8月26日の記事「AIは米中を対立させるのか 超知能を前に『競争から協調へ』のシナリオの可能性」で、スタンフォード大学人間中心AI研究所デジタル・フェローのAlvin Wang Graylin氏の議論を紹介した。

AI開発競争は米中対立をさらに激しくするという見方が一般的だ。先に圧倒的に強力なAIを手にした国が経済、安全保障の両面で優位に立つと考えれば、相手国より開発を急ぐのは当然だからだ。

しかしGraylin氏は、別の可能性を指摘していた。

米中とも、制御不能な超知能が突然出現し、現在の政治・経済システムを破壊する事態は望んでいない。そこには両国に共通する利害があるという。

同氏は、こう語っている。

「どちらも、ASIが突然どこからともなく現れて、現在のシステムを破壊することを望んでいません。ですから、そこには共通の利害があります。そして通常、協力に向けた対話は、そうした共通の利害から始まるのです」

相手を信頼しているから協力するのではない。同じリスクを避けたいから協力する。

8月の記事を書いた時点では、こうした米中協調はまだ可能性として論じられていた。それが今回、首脳間の合意として具体的な仕組みになった。

習近平国家主席「競争しているが、協力すべき理由はさらに多い」

今回の米中首脳会談で、この構図を最も端的に表したのは習近平国家主席だった。

中国政府によると、習近平国家主席はトランプ大統領との会談で「中国と米国はAIで競争しているが、協力すべき理由はさらに多い」との考えを示した。

さらに両国がAIのリスクと利益について対話を続け、AIの悪用を共同で防ぐ必要があると主張。AIを常に人間の管理下に置くべきだとも訴えた。

ただし、これは米中がAIで手を組んだという意味ではない。首脳会談から5日後の9月29日、トランプ大統領は中国とAIの統治を共同で進める考えを否定した。

Reutersによると、トランプ大統領は中国と協力すれば「われわれが知っていて、彼らが知らないことに、すぐアクセスできるようになる」と述べ、「われわれは現在、中国やほかの国々をリードしている。その状態を維持したい」と語った。

つまり米国は、AIの技術や競争力を中国と共有するつもりはない。一方で、リスクについて話し合い、事故の際に直接連絡できる仕組みは作る。

今回始まったのは、激しい競争を続けながら、重大なリスクについては最低限の対話を維持する関係だ。

AIが米中関係に新しい層を加えた

今回の合意で特に注目すべきなのは、AI事故専用の政府間連絡チャンネルが設けられることだ。

何を「重大なAI事故」とみなすのか、どのような場合に相手国へ連絡するのかなど、具体的な運用方法はまだ明らかになっていない。

それでも、AIをめぐる問題の一部について、企業や一国内だけではなく、米中政府が直接連絡を取る必要があると両国が認めた意味は大きい。

AIはこれまで、半導体の輸出規制やモデル開発競争など、米中対立を象徴する技術だった。今回、そのAIが両国に新しい対話の窓口を作った。

もちろん、これを米中関係の融和と見るのは早い。半導体、貿易、安全保障などをめぐる対立は続いており、AIでも両国は主導権を争い続ける。

それでも、8月の記事で紹介した「AIの共通リスクが米中を協調させる」というシナリオの一部は、わずか約1カ月で現実の外交に姿を現した。

AIが米中を友好国に変えるわけではない。しかしAIが強力になるほど、最大の競争相手とも話さなければならない問題が増えていく可能性がある。AI時代の米中関係は、「対立か協調か」という二択では捉えにくくなり始めている。

著者
湯川鶴章

AI新聞 編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『生成AIで心が折れた』(2025年)、『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。