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米国でデータセンター建設に「ノー」続出 中国は5分の1の費用で建設

米国でデータセンター建設に「ノー」続出 中国は5分の1の費用で建設

11月3日の米国中間選挙で、AI業界に衝撃が走った。データセンター建設をめぐる41件の地方住民投票のうち、40件で建設制限や反対を支持する結果が出たからだ。

その4日後、米半導体・AI産業調査会社SemiAnalysisが、中国・内モンゴルの巨大データセンターを現地取材した結果を報告した。第1期の120MWを1年以内に完成させ、建設費は米国の約5分の1だったという。

米国では住民の反対がデータセンター建設の新たな壁になりつつある。一方、中国では、発電所からデータセンターまでを一体で整備し、巨大な計算基盤を安く速く増やそうとしている。

AI競争は、優秀なAIモデルや高性能半導体を開発する競争だけではなくなってきた。巨大な計算基盤を、どれだけ安く速く建設できるか。その競争では、中国が思いがけない強みを持っている可能性がある。

なぜ中国は米国の5分の1で建設できるのか

SemiAnalysisが11月7日に公開した現地取材レポートの舞台は、中国・内モンゴル自治区ウランチャブにある「Galaxy」だ。2026年8月に第1期の120MWが完成し、最終的には800MWのIT設備容量を備える計画だ。米OpenAIがテキサス州で進める巨大データセンター「Stargate」に匹敵する規模となる。

SemiAnalysisの取材チームが驚いたのは、その建設速度と費用だった。120MWの施設を1年以内に完成させ、建設費は米国の約5分の1。同社は現地で、巨大な施設を次々と建設する中国の実力を目の当たりにした。

なぜ、これほど安く建設できるのか。

Galaxyを開発するのは、中国の再生可能エネルギー関連企業Envisionだ。同社はデータセンターを建設するだけでなく、電力を供給する風力発電所を持ち、専用の送電線を敷き、蓄電池や電力設備まで自社で手がけている。

最初の2期で使用する電力は240MW。これに対し、Envisionは合計420MWの風力発電設備を整備し、年間消費電力の60%以上を自前の風力で賄う計画だ。風力発電所、送電線、蓄電池、データセンターを一体で整備することで、電力確保と建設を同時に進められる。

建設工程にも工夫がある。例えば変電設備は、工場で組み立てて試験を済ませ、現地に運び込む方式を採用した。SemiAnalysisによると、通常約6カ月かかる工程を3カ月未満に短縮できるという。

中国の建設費が安いことは、別の調査でも裏付けられている。英建設コンサルティング会社Turner & Townsendが発表した2026〜27年版の国際比較では、上海のデータセンター建設費は1MW当たり579万ドルで、調査対象の62市場の中で最も安かった。米国平均の1208万ドルと比べると約半額だ。こちらは標準的な施設の建設費比較で、Galaxyに関する「5分の1」とは条件が異なる。

中国には、安価な労働力に加え、発電設備、建設資材、電気機器などを大量に供給できる産業基盤がある。さらに、電力が豊富な地域にデータセンターを集中させる政策も進めている。

SemiAnalysisによると、Galaxy周辺の工業団地では、22件のデータセンター関連プロジェクトに約3万人の建設作業員が投入されていた。中国では巨大なAIインフラを建設するための体制が形成されつつあるわけだ。

米国では住民がデータセンター建設に反対

中国が巨大データセンターの建設を急ぐ一方、米国では、その建設を止めようとする住民の動きが広がっている。

米国の選挙情報を専門に調査する非営利団体Ballotpediaが11月6日に公表した集計結果によると、11月3日の中間選挙に合わせて実施された41件の地方住民投票のうち、40件でデータセンター開発を制限する方向の判断が示された。

内訳は、建設制限や反対を支持する提案の可決が27件、建設促進を支持する提案の否決が13件だ。このうち5件では全面的な建設禁止、12件では部分的な禁止が承認された。メーン州では3件の投票で6カ月間の建設停止が決まった。

全米の世論を直接示す数字ではないものの、データセンターに対する地域住民の反発が、実際の建設規制につながり始めたことを示している。

反対の背景には、電力や水資源への負担がある。巨大データセンターは大量の電気を消費する。新たな発電所や送電設備が必要になれば、その費用が地域住民の電気料金に転嫁されるのではないかという懸念が生まれる。冷却に使う水や騒音なども問題になっている。

こうした状況を象徴するのが、OpenAIの動きだ。

OpenAIは、データセンターの電力・インフラ整備にかかる費用を自社で負担し、地域住民に追加の負担が及ばないようにすると約束した。水の使用量や騒音についても情報を公開し、住民の意見を建設計画に反映させるという。

OpenAIは今後、自社が所有・運営する施設について、電力設備の費用を自ら負担し、地域住民に追加の負担が及ばないようにすると約束。水の使用量や騒音についても情報を公開し、建設計画に住民の意見を反映させるという。

米国にデータセンターを速く建設する能力がないわけではない。米AIインフラ開発企業Crusoeは、テキサス州で100MW級の施設2棟を1年以内に建設し、通電させている。同社は2026年3月の発表で、この実績を紹介している。

しかし、どれほど優れた建設技術や巨額の資金があっても、電力を確保できず、地元住民の理解を得られなければ、施設を増やすことは難しい。

データセンター建設をめぐる住民との合意形成が、米国のAI開発競争にとって重要な課題になってきた。

中国の建設力は、半導体不足を補えるのか

こうした米中の違いは、今後のAI競争にどのような影響を与えるのだろうか。

これまで米中AI競争では、最先端のAIモデルを開発する能力や、NVIDIA製GPUなど高性能半導体の確保が重要な争点だった。

この分野では米国が先行している。中国は米国の輸出規制などによって最先端半導体の確保に制約を抱えており、データセンターを安く大量に建設できても、それだけで最先端AIの開発競争に勝てるわけではない。

しかし、AIの利用が社会全体に広がれば、競争の条件も変わってくる。

これまでは、いかに優秀なAIモデルを開発するかが注目されてきた。今後は、開発したモデルをどれだけ安く、大量の利用者に提供できるかも重要になる。

AIが質問に答えたり、文章やプログラムを生成したりする処理を「推論」と呼ぶ。AIエージェントが普及し、膨大な量の仕事を自動的に処理するようになれば、その推論を支える計算設備も大量に必要になる。

ここで中国の建設力が意味を持つ。

データセンターの建設費が安く、電力も低コストで確保できれば、AIサービスの運用費用を抑えられる。中国製AIチップの性能や運用効率が向上すれば、最先端GPUで米国に劣っていても、大量のAI推論を安く提供する分野で競争力を高められる可能性がある。

もっとも、実際のAIサービスの費用は、施設の建設費だけでなく、半導体の価格や性能、稼働率などにも左右される。中国の建設コストの優位性が、半導体の性能差をどこまで補えるかは、まだ明らかではない。

それでも、今回の二つのニュースは重要な変化を示している。

米国では、データセンターを建設するために地域住民の理解を得ることが大きな課題になり始めた。同じ時期に中国では、発電所からデータセンターまでを一体で整備し、巨大な計算基盤を安く速く増やす取り組みが進んでいる。

AI競争は、どの国が最も優秀なAIモデルを開発できるかという競争から、AIを社会全体で利用するための巨大な計算基盤を、どの国が安く大量に整備できるかという競争へも広がっている。

その新たな競争で、中国のデータセンター建設力が重要な武器になり始めている。

 

著者
湯川鶴章

AI新聞 編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『生成AIで心が折れた』(2025年)、『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。