AIエージェントが株を売買する時代へ 20万人が口座開設、取引額16億ドル
AIに株式の売買を任せる個人投資家が急増している。米ネット証券Robinhoodは10月27日の決算発表で、AIエージェントに売買を任せられる専用口座を開設した顧客が約20万人に達し、累計取引額が16億ドル(約2400億円)を超えたと明らかにした。
同社の共同創業者兼CEO、Vlad Tenev氏は、11月5日公開のインタビューで、AIによる取引への関心が急速に高まっていると語った。すでにAI取引口座には、顧客が合計2億5000万ドル以上の資金を移しているという。
AIは投資の相談相手から、実際に株を売買する存在へと変わり始めた。この変化は個人投資家の能力を高めるだけでなく、金融市場そのものを変える可能性がある。
ヘッジファンドの能力を個人の手に
Robinhoodが提供する「Robinhood Agents」は、AIに売買戦略を指示し、実行させるサービスだ。
例えば「ある株価が1日で2%下がったら100ドル分購入する」「保有株式の割合を定期的に調整する」と指示すれば、AIが株価を監視し、条件に従って注文を出す。ニュースや企業の財務情報を調べ、投資戦略を検討させることもできる。
従来も株式の自動売買は存在した。しかし、投資家が自分でプログラムを作ったり、専門的な取引システムを利用したりする必要があった。AIエージェントを使えば、普段の言葉で指示するだけで済む。
Tenev氏はインタビューの中で、製品開発の目標を「ヘッジファンドや高度なアルゴリズム取引会社の能力を、普通の個人の手に届けることだ」と説明した。
これまで大規模な投資会社が多額の資金を投じて実現してきた市場分析や取引の自動化を、普通の個人投資家にも使えるようにするという構想だ。
大手証券会社も参入、日本でもサービス開始
こうした動きはRobinhoodだけではない。
米証券会社Interactive Brokersも10月21日、AIによる自律売買サービス「IBKR Autonomous Trading」を発表した。
顧客はAIに売買条件を指示し、世界の7万5000を超える株式やオプションなどを対象に、取引を実行させることができる。
日本でも同様のサービスが始まっている。米国株投資アプリを運営するWoodstockは6月、AIと証券口座を接続する「Woodstock MCP」を発表した。自然な言葉で投資情報を調べ、株式の売買を指示できる。
証券会社の競争も変わり始めた。これまでは取引手数料の安さや投資情報の充実が重要だった。今後は、どれだけ使いやすく高性能なAIエージェントを提供できるかも、顧客獲得を左右する可能性がある。
AIが間違えたら、誰が責任を負うのか
AIに株式売買を任せる際に問題となるのが、注文ミスや想定外の取引だ。
Robinhoodは、AIが売買できる資金を通常の証券口座から分離している。利用者は専用口座に資金を移し、その範囲でAIに取引させる仕組みだ。
AIの注文を毎回確認する設定もできるが、承認を省略して自動売買させることも可能だ。
では、AIが誤った判断で株式を購入したり、大きな損失を出したりした場合はどうなるのか。
Robinhoodは公式説明で、AIによる取引の結果について、利用者自身が責任を負うと明記している。
AIが投資家に代わって売買できるようになっても、その損失を引き受けるのは人間というわけだ。
AIによる売買が広がると、金融市場そのものが変わる
さらに大きな変化が起こる可能性があるのは、金融市場そのものだ。
第一に、売買の回数が増える可能性がある。人間は24時間、市場を監視し続けることはできない。AIなら株価やニュースを絶えず確認し、条件が整えば自動的に売買できる。
第二に、多くのAIが同じ方向に売買する恐れがある。
例えば、ある企業の業績悪化を示すニュースが流れたとする。多数のAIが同じニュースを分析し、一斉に売却を始めれば、株価の下落が加速する可能性がある。
金融庁も2026年3月のAIディスカッションペーパーで、この問題を取り上げている。AIが似たような判断を下すことで、売買が同じ方向に集中し、市場の値動きを大きくする可能性があるという。
残る大きな疑問は、AIに売買を任せた個人投資家が本当に利益を増やせるのかということだ。仮にAIが優れた投資判断をできるようになっても、同じAIを誰もが使えば、その優位性は薄れるかもしれない。
AIが高度な市場分析や自動売買をできるようになれば、確かに個人投資家もヘッジファンド並みの分析能力を手に入れられるかもしれない。しかし、誰もが同じ能力を手に入れたら、何が投資家の優位性を生むのだろうか。
競争の焦点は、AIの分析能力そのものから、AIに何を分析させ、どのような投資戦略を実行させるかへと移っていくのかもしれない。