【AI Innovators Forum 2026レポート】
超高齢化社会における社会課題とAI活用への課題と展望
2026年10月14日(水)、株式会社エクサウィザーズ主催のカンファレンス「AI Innovators Forum 2026」が開催されました。テーマは「覚悟と熱意」。産官学のトップリーダー40名以上が3会場に登壇し、申込者数は4,000名を超え、浜松町コンベンションホールでの現地開催とオンライン配信のハイブリッド形式で行われました。
本稿では、ホールBで行われたトップリーダーセッション「超高齢化社会における社会課題とAI活用への課題と展望」の模様をお届けします。登壇したのは、アルツハイマー型認知症に関する予防、医療課題解決を目指す議員連盟 会長を務める衆議院議員の加藤勝信氏、リハビリテーション医療の第一人者であるねりま健育会病院 病院長の酒向正春氏、そしてエクサウィザーズ グループ執行役員 兼 ExaMD代表取締役の羽間康至の3名。「国の政策」「医療現場」「AI開発」というそれぞれの立場から、認知症をはじめとする超高齢化社会の課題と、その解決に向けたAIの役割を立体的に議論しました。
音声と歩行のAIで「知る」をつくる──エクサウィザーズグループの挑戦
セッションの冒頭、モデレーターを務めた羽間が、エクサウィザーズグループの医療系グループ会社・ExaMD(エクサムディ)の取り組みを紹介しました。同社は2年前に設立され、医療機器の製造販売に関する業許可を取得。音声から認知機能の状態を推定するAIを開発しており、厚生労働省によるプログラム医療機器(SaMD:Software as Medical Device)の優先審査対象品目へ指定*1されていると説明しました。
AIは患者の音声データから独自に開発した特化型モデルで、スマートフォン内で動作するため、クラウドにデータを送らずに個人情報へ配慮できる設計であることも紹介。従来の問診ベースの認知機能検査は負担や時間の問題があり、医療機関の経営面でも課題があったなかで、「AIでより簡単に、誰でもできる形にすることで、社会課題の入り口である『まず気づく』きっかけをつくりたい」と羽間は語ります。
さらに、医療機関の中だけでなく在宅でAIを使えるようにする国内初*2のチャレンジや、医療領域で培った技術を医療以外の産業へ転用する独自音声AI「CogniTalk(コグニトーク)*3」というプロダクト名で医療以外の産業に転用する取り組み、体重計に乗るような手軽さで筋力や歩行能力の衰えを計測するAIを搭載したSaMDにも言及。高齢者の金融資産凍結のような社会課題に対しても、金融・不動産・自動車など多様な産業のパートナーと連携し、「知る」「保つ」「支える」の各段階でAIを届けていく構想が示されました。
「心配するけど恐れない」──国の政策から見た認知症対策の転換点
続いて加藤氏が、国の視点から認知症を取り巻く現状を解説しました。
「厚生労働省の発表では、2022年時点で65歳以上の認知症の方が、軽度認知障害(MCI)の方が約560万人。合わせると約1,000万人、65歳以上の4分の1が認知症ないし軽度認知障害とされています*4」(加藤氏)
高齢化の進行によりこの数はさらに増えることが見込まれるほか、子育て世代で発症する若年性認知症への支援も大きな課題だと指摘します。一方で、認知症への対応は大きく変わってきたとも語りました。かつては「なってからのケア」が議論の中心でしたが、進行を抑える薬や血液中のバイオマーカーを活用した検査など新しい技術が登場し、早期に気づいて対応することが求められる時代になっているといいます。
「検査の入り口が低い、簡単にチェックできるということは非常に大事です。そこで気づくことによって、いろんな手当てにつながっていく。認知症がどういうものかを理解して、『心配するけど恐れない』という対応が求められてきたのではないかと思います」(加藤氏)
そのうえで加藤氏は、共生社会の実現を推進するための認知症基本法(2024年1月施行)に触れ、議員連盟として掲げる3つの柱を紹介しました。
- 早期診断・早期対応の推進
- 専門病院に行かずともアクセスしやすい環境づくり
- 研究開発から社会実装までのプロセスの加速
「認知症になっても安心して暮らせる社会づくり」と「早期に気づき、予防し、進行を遅らせる取り組み」を両輪で回していく時代に来ていると述べ、そのなかでAIの役割に期待を寄せました。

認知症回復は軽症期まで──医療現場が示す「攻めのリハ」と筋肉革命
酒向氏は、脳神経外科・脳卒中・リハビリテーション・認知症の専門医、そして病院・施設経営者としての視点から「認知症予防に向けた課題と対策」を講演しました。
酒向氏はまず、寝たきりとなった46歳の術後患者が8ヶ月の「攻めのリハ」で復職まで回復した事例や、脚を切断した91歳の患者が3ヶ月のリハビリで義足歩行を獲得し、認知機能検査(MMSE)のスコアが21点から29点まで回復した事例を紹介しました。
「病気をすると認知機能が落ちてしまう。治療することによって上がる可能性がある。認知機能が回復する診断を科学的に行い治療していくことが大事です」(酒向氏)
一方で、アルツハイマー型認知症は発症までに約20年かけて脳が変化していくこと、リハビリの効果が見込めるのは予防期と軽症期までであることを指摘。「脳が変化する20年間の放置が問題。だからこそ50歳からの対策が必要」と訴えました。
その鍵となるのが「筋肉」です。筋肉は多種類のホルモン様物質を放出する臓器であり*5、筋肉運動が骨や脳を活性化させると解説。毎日5,000歩以上の歩行がアルツハイマー予防に寄与するという海外論文*6にも言及しました。酒向氏は「95歳で非介護、80歳で8割就労」を目指す「健康寿命95」の考え方を掲げ、人口約1万7,000人の自治体で約1%にあたる160人が参加している運動施設の社会実験や、まちぐるみで社会参加環境を整える「健康医療福祉都市構想」「タウンリハビリテーション」の取り組みを紹介しました。
「高齢なので仕方がないというのは科学ではありません。高齢でも筋肉は増強できます。90歳でも筋肉は増えます」(酒向氏)
AI活用の具体像としては、朗読を通じて脳を活性化しコミュニケーション能力を高める「朗読AI」と、立ち座り(スクワット)の回数・バランス・姿勢を指導して、筋力と体力を増強する「立ち座りAI」の2つを提案。「連続30回を1日3回で転倒予防、連続50回を1日3回で屋外歩行が安定する」と具体的な目安を示し、こうしたAIがヒューマノイドとして全国の人々をサポートする未来は近いと展望を語りました。

パネルディスカッション:予防を阻むハードルと産業連携の可能性
後半のパネルディスカッションでは、まず「予防を推し進めるうえでのハードル」が論点となりました。加藤氏は、認知症への先入観や誤った認識が検査へのためらいにつながっていると指摘し、「正確な理解」と「どこに相談すればよいかという地域の仕組みづくり」の2点を挙げました。専門病院の数が限られるなか、誰もが持つスマートフォンを活用したアクセスのしやすさが重要だといいます。
酒向氏は、地域の相談ネットワークを最低条件としたうえで、遺伝的要因よりも生活習慣に起因する認知症が大半であり、それは筋肉革命で変えられると強調しました。
「筋肉を維持できた方は、認知症になる率が明らかに低い。企業の方が定年を迎えるときに、福利厚生として筋肉を鍛える生活習慣をきちんと身につけて定年になるという流れができれば、認知症になる方は少なくなるのではないか。国の流れとしてやっていただければありがたい」(酒向氏)
続く産業連携のテーマでは、加藤氏が金融機関の窓口での「気づき」が詐欺被害の防止などにつながる可能性や、小売業のちょっとした工夫で認知症があっても普通に買い物ができることに言及。「それぞれの産業が認知症を理解し、役割を果たすことが共生社会につながる。共生社会であれば外に出ていける。外出は歩行となり、そもそもの健康にもつながる」と述べ、認知症への理解を広げる普及啓発活動への参加も呼びかけました。酒向氏も、不動産オーナーの認知機能低下をめぐる資産管理の相談が増えている実情を紹介し、地方の農業従事者が80歳を超えても元気に働いて現役を続けている例を挙げながら、「80歳で8割就労、95歳で非介護」は実際に実現可能だと語りました。

AI実装への期待──「評価の仕組み」と「楽しめるAI」
セッションの最後は、健康・医療領域でAIを社会実装していくための期待が語られました。加藤氏は、人手不足の日本において「AIに任せられるものは任せ、人対人でやるべき部分に人を回す」ことが基本だとしたうえで、AI医療機器の評価のあり方に言及しました。
「QOLがどう上がるのかだけでなく、医療現場の負荷がどれだけ低下するのか、生産性がどう上がるのかも含めてしっかり評価していく。そして、AIは使いながらどんどん発展していくもの。医療機器は少し変えると再申請が必要になりますが、そういう性格のものだと理解しながら、仕組みをさらに加速化していきたい」(加藤氏)
酒向氏は、医療AIのなかでも診断や手術支援には圧倒的なクオリティが求められる一方、認知症領域のAIには「楽しんでとりくめるAI」が向いているのではないかと指摘しました。
「認知症に使うAI機器は、簡単に使えるということと、ちょっと楽しめるということが大事。人間らしいヒューマノイドのような形で届けるほうが効果が出るのではないかと思います」(酒向氏)
最後に羽間が「認知症予防は国家的にも・医療の現場的にも非常に重要なテーマであり、AIが活躍できる余地はこれからどんどん広がっていく」と総括し、セッションは大きな拍手のなか幕を閉じました。
まとめ
認知症対策は「なってからのケア」から「50代になれば、予防する」フェーズへと大きく転換しつつあり、その入り口を広げる手段としてAIへの期待が高まっています。政策・医療現場・産業界が連携し、検知・検査への容易なアクセスと生活習慣の改善を社会全体で支える仕組みづくりが急務であることが、本セッションを通じて浮き彫りになりました。エクサウィザーズは今後も、音声・歩行をはじめとするAI技術と多様な産業パートナーとの共創を通じて、超高齢化社会の課題解決と「誰もが早く気づき、予防できる社会」の実現を支援してまいります。
*1:2025.02.10、エクサウィザーズ100%子会社ExaMD、自由会話音声で認知症を診断するAI医療機器(SaMD)が、革新的プログラム医療機器指定制度の優先審査対象へ指定 https://exawizards.com/archives/29512/
*2:自社調べ2026年6月時点、診断支援を目的とした音声AI SaMD(プログラム医療機器)において、在宅利用を視野に入れた開発に取り組む事例として
*3:2026.04.23、エクサウィザーズグループのExaMD、30秒の自由会話から認知症の前段階を可視化する高精度な独自音声AI「CogniTalk」を提供開始 https://exawizards.com/archives/31798/
*4:厚生労働省は2024年5月「認知症施策推進関係者会議」において、新たな研究結果として、『認知症及び軽度認知障がい(MCI)の有病率調査ならびに将来統計に関する研究』の報告書を公表 https://www.mhlw.go.jp/content/001279920.pdf
*5:筋肉由来の生理活性物質は総称して「マイオカイン」と言い、約650種類以上のマイオカインが特定されている
*6:2025年11月に国際的なトップ医学誌『Nature Medicine』に掲載された、米国ハーバード大学医学部およびマス・ジェネラル・ブリガム(MGB)の研究チームによる論文 (Physical activity as a modifiable risk factor in preclinical Alzheimer’s disease)https://www.nature.com/articles/s41591-025-03955-6
ご案内
- AI Innovators Forum 2026アーカイブ配信のお申込みはこちら https://event-lp.exawizards.com/hybrid
- CogniTalkプロダクトページはこちら https://examd.com/dementia/
- ねりま健育会病院 https://nerima-k.gr.jp/hospital/
- 加藤勝信衆議院議員 https://www.jimin.jp/member/100378.html