【AI Innovators Forum 2026レポート】
AIを使う企業から、AIで稼ぐ企業へ ~AI収益進化論~
2026年10月14日、株式会社エクサウィザーズ主催の「AI Innovators Forum 2026」が、浜松町コンベンションホールにて開催されました。テーマは「覚悟と熱意」。産官学のトップリーダー40名以上が3会場に登壇し、申込者数は4,000名を超え、現地とオンラインのハイブリッド形式で行われました。
本レポートでは、ホールBで行われたトップリーダーセッション「AIを使う企業から、AIで稼ぐ企業へ ~AI収益進化論~」の模様をお届けします。登壇したのは、『新規事業の実践論』『AI収益進化論』の著者であり、アルファドライブ 代表取締役社長 兼 CEO/CAXOの麻生要一氏と、東京ガス 常務執行役員 CDO ソリューション共創本部長の清水精太氏。モデレーターはExa Enterprise AI 取締役の前川知也が務めました。多くの企業が「AIを使う」段階にとどまる中、「AIで稼ぐ」へといかにジャンプするのか──実践者2人の議論から、その道筋を探ります。
AI活用のモメンタムを生むもの──トップの「問い」とミドルの巻き込み
東京ガスは、ChatGPT登場からわずか数カ月後の2023年にエクサウィザーズの「エクサベース AI」を導入し、全社的なAI活用をスタートしました。現在ではオフィスワーカーの大半が週次でAIを利用する状況に至っています。導入から3年が経過しても熱量が落ちるどころか高まり続けている背景として、清水氏が挙げたのが「トップの存在」です。
「経営会議で各カンパニーに『今のAIの取り組みについて報告せよ』、次に『データマネジメントについて報告せよ』、3巡目は『究極のAIの姿について報告せよ』『トランスフォーメーションの目指す姿について報告せよ』と、どんどんプレッシャーがかかるんですね。東京ガスはお客様に”いい湯加減”をご提供している会社ですが、社内的には全く緩まない。ぬるま湯に浸からせず、常に進化を求めることを、トップがすぐ下の人間に自分の言葉で語らせる。それを定期的にやっていることが、緩みのなさを生んでいると思います」(清水氏)
さらに清水氏は、全社活用のカギは現場よりも「ミドルマネジメント」にあると指摘します。若手は新技術への抵抗感が薄い一方、ミドルには成果とスピードが問われ、トップと現場をつなぐ役割がある。そこで部長クラスを定期的にDX推進会議に集め、直接モチベートしているといいます。

差別化の源泉は「固有データ」──分散型アーキテクチャという選択
数多くの企業のAX(AIトランスフォーメーション)を支援する麻生氏は、東京ガスの取り組みの先進性を「導入時期」と「問いの順番」にあると分析しました。
「誰が使っても最高レベルのAIが5秒で使える状況では、AIを使う技術ではもう差別化できないんです。差別化ポイントは、インターネット上に落ちていない固有データをどれだけ整備して、AIに食べさせられるようにマネジメントしているか。データ化されていないものをデータ化し、整形する作業には相当な時間がかかる。それに2023年から取り組まれているのは相当早い」(麻生氏)
東京ガスでは、カンパニーごとにデータの質と量が大きく異なることから、中央集権型ではなく「分散型」のデータアーキテクチャを選択。各カンパニーでデータを収集しつつ、横串でデータの統合・融合が起こる仕組みとして「ハブドメイン」を構築し、組織構造とデータアーキテクチャを整合させながら整備を進めているといいます。一方で清水氏は、顧客接点などフロント業務の非構造データは、収集のモチベーション設計自体に工夫が必要であり、構造データが自然に蓄積される市場取引系の業務との濃淡は現実として存在すると率直に語りました。また、動的なデータの蓄積が差別化につながることから、継続的な顧客接点やデータ取得を前提とした(例えばサブスクリプション型のような)ビジネスモデルへの転換が重要になるとの考えを示しました。
AIで稼ぐ2つの型──業態変革とマーケティング探索の民主化
後半のテーマは「AIで稼ぐ」。日本企業の現在地について麻生氏は「マクロ的にはほとんどやれていない」としつつ、売上につながる取り組みには2つのパターンが見えてきたと整理します。
- 自社にしかない現場の固有データを活用し、メンテナンス自動化や予測AIサービスなどへ業態を変える「ビジネスモデルトランスフォーメーション」
- 商品自体は変えずに売り方を変える「マーケティング上のイノベーション」
「今まではマーケティングの戦略とマテリアルを作るのが大変すぎて、考え抜いた上で2つか3つのセグメントにしかアプローチできなかった。ところがAIを使えば全部一瞬でできるので、探索できるマーケティングカテゴリーが100倍くらいになるんです。100パターンのマーケティングを一発でトライして、『意外とこの層に3倍の単価で売れる』という発見によって売上が上がる。特許技術をAIに渡して『売れているかのようなチラシにして』と頼み、100パターン出してもらうと、技術者自身が『自分の技術にこんな可能性があったのか』と驚いて、事業開発が開けていくことも起きています」(麻生氏)
麻生氏は「プロンプトは2行で十分。できると知っているかどうかの差でしかない」と述べ、技術的ハードルはすでに消失していることを強調しました。

「それでは稼げない」──4象限フレームワークと”体積”の戦い方
東京ガス社内での「稼ぐAI」への挑戦について、清水氏は自社に定着したフレームワークを紹介しました。縦軸に創造的業務/単純業務、横軸に定型業務/非定型業務を置いた4象限で自社のAI活用をマッピングし直すという整理です。
「マッピングし直すと、AI活用が『単純かつ定型業務』に集中していたんですね。それでは稼げないだろうと。非定型×単純の領域はフィジカルAIで取り組む部分。難しいのは創造的×非定型で、AIが選択肢を出してくれても、最後は企業の価値観や判断軸が絡んでくる。『判断ではなく決断』ができる文化や価値観が会社にないと、いくらAIがオプションを出しても決められないんです」(清水氏)
さらに清水氏は、グローバルのLLM・SaaS企業が水平(ホリゾンタル)に面を取りに来るのに対し、東京ガスはドメイン特化の深さにフィジカルな事業を掛け合わせる「体積の勝負」で戦うという独自の戦略観を提示しました。AIをフックに深さを取り、人間系・設備系のフィジカルな部分で全体のボリュームを獲得していくアプローチです。
新規事業への投資判断については、Go-to-Market機能の担保を重視する姿勢を説明。加えて、ディープテック企業への出資の際には、技術への感動を言語化して社長に伝聞するのではなく社長を現地へ連れて行ったというエピソードを明かし、「AIの時代だからこそ、ウェットで人間臭い部分にレバレッジが効く」と語りました。これを受けて麻生氏は、新規事業投資の環境変化を指摘します。
「今年に入ってから新規事業の投資金額が下がっています。これはすごい朗報で、初期投資の大半を占めていたソフトウェアエンジニアの人件費がほぼゼロになった。かつて5,000万円くらいかかっていた立ち上げが今は200万円くらい、1年かかっていた開発が2週間くらいでできる。金額は小さくなったが、案件数はむしろ増えています」(麻生氏)

必要なのは突き抜けた「欲望」──覚悟と熱意への帰結
セッションの最後、これからAI活用に挑む参加者へのメッセージとして、清水氏が挙げたキーワードは「欲望」でした。
「AI時代に必要な人間の能力は『問いを立てる力』だと言われますが、あえて率直な言い方をすれば『欲望』かなと。学生の時にイリジウム計画のようなものを研究テーマに選ぼうとしたことがあって、当時の技術では無理だった。でも欲望さえ持ち続ければ──結局それは今、実現されているじゃないですか。AI時代は道具立てがしっかりしているので、突き抜けた欲望がないと、こぢんまりとしたAI活用にとどまってしまう」(清水氏)
麻生氏もこれに深く同意し、次のように締めくくりました。
「最近のAIは本当にすごくて、『AIをどう使ったらいいの』とAIに聞けば全部教えてくれる。手の中に魔法の箱があると思って使い倒してほしい。ただ結論は一緒で、何がしたいのかという強い欲求や目的設定がないと、AIを使う話にならないんです」(麻生氏)
モデレーターの前川は「フォーラムのテーマである『覚悟と熱意』にまさにぴったりの言葉をいただいた」と述べ、セッションを締めくくりました。
まとめ
「AIで稼ぐ」への跳躍に必要なのは、特別な技術ではなく、固有データの整備、トップの問いが生む組織のモメンタム、そして突き抜けた「欲望」である──本セッションはそのことを実践者の言葉で示しました。技術的ハードルが消失した今、問われているのはまさに「覚悟と熱意」です。エクサウィザーズは今後も、AI活用の定着から収益化への跳躍まで、企業の挑戦を伴走支援してまいります。
ご案内
- AI Innovators Forum 2026アーカイブ配信のお申込みはこちらhttps://event-lp.exawizards.com/hybrid
- プレスリリース(2023年7月18日)
東京ガスが「exaBase 生成AI powered by GPT-4」を導入し、グループ全体で高機能な生成AIの利用を開始 https://exawizards.com/archives/25017/ - イベントレポート(2026年3月2日)
東京ガス 清水CDO登壇「AX戦略出版記念イベント」~AI前提時代における戦略再定義~ https://note.tokyo-gas-dx.com/n/n19dd91edfffb - 書籍『AI収益進化論』(麻生要一 著)https://axfr.ai/book
- エクサウィザーズ「エクサベース AI」https://exawizards.com/exabase/gpt/
- 東京ガス、エクサベース AI導入事例 https://exawizards.com/exabase/gpt/case/27132/