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SBT⑤組織の分散化を計測する

公開日
2022.07.07
更新日
2026.06.17
SBT⑤組織の分散化を計測する

この原稿は、一般公開用の原稿の草稿のようなものです。一般公開用の原稿にする際に、多くの情報を削ぎ落とします。会員の皆様にはできるだけ多くの情報を提供したいと思いますので、草稿の段階で共有いたします。ですので、この原稿の一般公開はお控えください。

▼コミュニティの活性化にソウルドロップ

ドイツの哲学者ゲオルク・ジンメルは、個人は社会のサブグループが交差するところに出現し、社会は個人が交差するところに出現する、と論じている。つまりどんなグループに属しているのかが、その人がどんな人なのかを定義する。一方で、そのグループにどんな人が集まっているのかがそのグループを定義する。そんな話だ。

SBTは、このジンメルの考え方がベースに考案されているという。なので人格(ソウル)を、他の人や企業、学校、組織との関係性(SBT)で表現しようとしている。

そして逆に、社会のサブグループであるDAO(分散型自律組織)は、そこに所属する人(ソウル)で定義できるはず。つまりDAO運営にソウルの中のSBTを活用できるのではないか、という提案だ。

これまでのWeb3プロジェクトでは、早い段階からプロジェクトを支援してくれた人たちへの返礼として、ある時期にトークンを無償で配布するエアドロップと呼ばれる手法が取られることがある。ただこの手法だと、配布されるトークンの数は、保有するトークンに単純に比例するので、トークンを多く持つ人がさらに多くのトークンを持つことになる。Web3の哲学は非中央集権なのだが、こうしたエアドロップだと権力が一部の人に集中する可能性がある。

またプロジェクトを応援しているわけではないのに、エアドロップ目当てでコミュニティに入ってくる人がいたり、エアドロップを獲得するために複数のボットに参加させる人なども出てきている。

このホワイトペーパーでは、エアドロップに代わるコミュニティ活性化施策として、SBTなどのトークンに重みをつけて計算し、その結果に応じてトークンを配布するソウルドロップと呼ばれる手法を提案している。

例えばブロックチェーンの関連技術を開発することを目的としたDAOでは、そのDAOが主催した過去5回の勉強会のうち3回に参加したことがSBTや、参加証明機能のついたNFTであるPOAPで分かるので、そうしたメンバーにより多くのトークンを配布することが可能だとしている。

また環境保全のDAOでは、メンバーのソウルには植林活動に関するSBTや、環境保全活動に関するSBT、炭素隔離関連トークンなど、いろいろなトークンが格納されていることだろう。それらのトークンの種類ごとに異なる重み付けをして計算し、それをDAOへの貢献度として、それに従ってトークンを配布することもできる。こうすることでDAOメンバーの活動の活性化を図れるという。

ソウルドロップするトークンは、SBTでもNFTでも暗号通貨でもいい。また配布直後は譲渡できないSBTだったものが、時間が経つと売買可能なNFTや暗号通貨に変わるというように設計することも可能。反対に最初は譲渡可能なNFTとして配布しておいて、時間が経てば投票権を持つSBTに変わるというトークンにしておくことも可能だという。

▼若者の意志が無視されない政治

分散型自律組織(DAO)とは、共通の目的のために集まったオンラインコミュニティで、運営のための投票がブロックチェーン上に記録されるスマートコントラクトをベースに行われる組織だ。

遠く離れたバックグラウンドの異なる人たちが集まるグローバルなコミュニティとして大きな可能性を持っているが、一方で成りすましによる投票結果の操作や、一人一票の単純な多数決による少数意見の軽視などの問題を抱えている。

一人のユーザーが複数のウォレットを持って投票権を不当に増やそうとする行為をsybil attackと呼ぶが、SBTを使うことで幾つかの方法でsybil attackに対抗できるという。

・sybil attack目的のソウルはSBTの数が極端に少ないなど、見分けがつきやすい

・職歴や学歴、修了証書など本人認証として価値のあるSBTを持っているソウルの票の重さを重くできる。

・ある程度の歴史があり、社会から信頼されているDAOが、新興DAOのために、信頼できるメンバーに対してボットではないことを証明するSBTを発行する。

・特定の案件で同じ選択肢に投票した複数のソウルの中身を確認し相関関係を調べ、同じようなSBTを持っているソウルの票の重さを軽くする。

最後の相関関係を調べる手法は新しい考え方で、いろいろと可能性があるやり方だ。相関関係が高いソウルのグループが、たとえsybil attackでなかったとしても、同じような偏見を持つグループである可能性が高い。そういうグループの票の重さを軽くし、バックグラウンドは異なるが(つまり性質の異なるSBTを持っているものの)同じ意見になっている人(ソウル)の票を重くすることで、多様性のある組織を維持できる。

この相関関係をベースにした票の重さ付けに関する数学的な計算方法については、このホワイトペーパーの巻頭部分で詳しく解説されているので、興味のある方は原文に当たっていただきたい。

その中で「相関スコア」という新しい指標も提案されている。投票の中で、相関スコアの高いソウルの票の重さを軽くし、相関スコアの低い票の重さを重くしたりできる。議論の中でも相関スコアの低いソウルの意見を目立つ形で表示させることで、少数派の意見が無視されることのない運営が可能になるという。

日本はこれからますます高齢化が進む。今のように単純に一人一票の制度が続けば、若者の意見が政治に反映されない傾向がより顕著になっていくことだろう。自分たちの意見がどうせ通らない。そう思えば、若者はますます投票しなくなるだろう。

ところが一人一人の有権者の票の重みが「相関スコア」に基づいて自動的に変動するようになれば、若者の意見が通りやすくなり、若者の政治への参加が活発になるかもしれない。

▼バンパイアアタック防止策

Web3のプロジェクトの多くは、非中央集権という価値観に基づいて、プログラムのコードがオープンソースになっている。自分たちだけが豊かになるのではなく社会課題を解決するのが目的なので、プログラムをコピーし合って互いに助け合うのをよしとする価値観だ。

ところがこの相互補助の価値観を悪用する者たちも出てくる。2020年に業界最大手の分散型取引所UniswapのコードをほとんどそのままコピーしたSushiSwapという分散型取引所が立ち上がったのだ。SushiSwapは、Uniswapのユーザーに独自トークンを配布するなどして多数のユーザーを引き抜いた。こうした行為は、バンパイアアタックと呼ばれる。

こうしたバンパイアアタックに対抗するためにもSBTは使えるという。例えばDAOは引き抜きに応じなかったソウルに対してソウルドロップするという方針を内外に告知し、一定期間売却できないという制限付きのSBTを配布することができる。

同様のことはウォレットに対するエアドロップという形ではできない。なぜならユーザーは複数のウォレットを保持し、ウォレット間で自由に資金を移動させることができるので、新しいDAOに乗り移ったのかどうかの判断が難しいからだ。

▼DAOのリーダーをSBTで決める

新規加入者が増えれば、DAOを構成するメンバーの属性が変化していくことがある。女性メンバーが増えてきたのに、幹部を男性メンバーが独占していれば、参加メンバーの意志を正確に反映できないことになる。

そこでSBTを使って、メンバーの属性の変化に伴って推薦幹部の顔ぶれが変化するようにプロトコルであらかじめ設定しておくことが可能だ。

組織が大きくなれば、サブグループのようなものが自然に誕生するが、多くのサブグループに属しているメンバーを推薦するようなプロトコルにもできるし、同様に特定の地域や、関心領域、性別などを重視するようなプロトコルにすることも可能だ。

▼多様性を計測する

多様性という言葉がちょっとした流行語のようになり、多様性が何を意味するのか分かっているという人も多いことだろう。だがこのホワイトペーパーが言うところの多様性とは、女性や性的マイノリティ、外国人のことだけではなく、いろいろなバックグラウンドや主義主張、異なる意見のの人が十分に多く存在し、権力が一つのグループに集中することのない状態というような意味で使われている。

最近は多様性の重要さを説く企業や組織が多いが、このホワイトペーパーが言うような多様なメンバーで構成されているのだろうか。権力が一部の人間に集中してはいないだろうか。

多様性を計測する手法としてはナカモト係数やハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)などがある。

ナカモト係数は、明らかに独立した存在が幾つあれば、過半数の票を獲得できるのかという数値。筆頭株主が51%の株を持っていれば、その人一人で過半数を勝ち取れる。なのでナカモト係数は1。30%の株を持つ人と 21%の株を持つ人で過半数となるので、ナカモト係数は2。100人の株主全員が同じ株数を均等に持っていたら、51人が必要になるので、ナカモト係数は51になる。最も多様性のある組織ということになる。簡単に言うとこのような計算の仕方だ。

一方HHIは独禁法の調査の際に使われる指数で、市場シェアを2乗したものが10000にどれくらい近い数字かというもの。近ければ近いほど、市場を独占しているということになる。

しかしこのホワイトペーパーによると、この2つの指標には、具体的にどの数値を計算すればいいのか、カジュアルな横のつながりにどう判断すればいいのか、「明らかに独立した存在」とは何を意味するのか、などといった問題がある。

例えば同じ業界内に、直接的な資本関係のない会社が2つあったとしよう。ところが両方の会社の株を持つ株主が大多数で、双方の会社の経営者同士が仲良しだった場合、この2社は「明らかに独立した存在」と呼べるだろうか。どちらの社も市場シェアが1社だけで過半数を超えていないので、十分に権力が分散している。そう言えるだろうか。

同様に特定のDAOのガバナンストークン(株のように投票権を持っているトークン)を持っているウォレット数を調べるだけで、多様性を計ることができるだろうか。中には複数のウォレットを持っている人もいるし、反対に取引所のウォレットのように1つのウォレットの中に非常に多くの人が含まれているウォレットもある。

それにウォレットではなく個人を特定できて、個人の数を数えることに成功したとしても、その個人が示し合わせて投票する可能性がないとは言えない。業界カンファレンスなどで出会って、意気投合することがあるかもしれない。

多様性や、権力の分散具合を本当に正確に計測しようと思えば、社会的依存関係の存在や、弱いつながりと、逆に強い孤立などといった状態まで、正確に計測する必要があるのだ。もちろん、仮想通貨やNFT、それらを格納するウォレットでは、こうした計測は不可能だ。しかしSBTとそれを格納するソウルといった新しい技術でそれが可能になるかもしれない。

またDAOや株式会社といった組織内での多様性や非中央集権性が確保されたいたとしても、それらの組織を包み込む大きなエコシステムのようなものが中央集権であれば、やはり権力者の影響から逃れることはできない。

例えばこの写真は、ある業界イベントに登壇したビットコインの大手マイナー(取引の承認作業をする人)たちだ。この7人だけで、ビットコインの取引承認作業に必要なコンピューティングパワーの約90%を持っているという。この7人が結託すれば、取引内容を改ざんすることが理論上は可能なわけだ。ビットコインのネットワーク上で運営されているDAOの多様性が保たれているからと言って、権力層の影響から自由になれているとは言えないわけだ。

出典「Decentralized Society」P10

ところがSBTが広く普及すれば、DAOだけでなく、プロトコル、ネットワークといったWeb3のエコシステム全体の多様性を測る新しい測定方法を作り出し、より非中央集権的な体制を作ることが可能になる。

具体的には、まず第一段階として、十分な数のSBTを持っていて、成りすましソウルである可能性が低いソウルにのみ投票権を認める。

次に第2段階として、異なるソウル間のSBTの相関具合を計算し、相関性の高いソウルの票の重さを自動的に低くする仕組みにする。この計算方法については巻末の二次関数ファンディングのところで詳しく述べている。同じようなバックグラウンドの人の票を軽くすることで、多数派の意見が数の論理で少数派の意見を抑え込むことがないようにするわけだ。

第三段階として、少し視点を後ろに引いて、ネットワークスタックの異なるレイヤーのソウルのSBTの相関性を計測する。投票履歴の相関性や、トークン所有数、ガバナンス関連のコミュニケーション件数、コンピューティング資源などの相関性を計測することで、レイヤーを超えてネットワーク全体の多様性を確認できる。

SBTを使うことで、このようにこれまで計測が非常に難しいとされていた相互連携ネットワークや、レイヤーに分かれたエコシステムの多様性を計測できる可能性があるわけだ。

もちろんこれで、一部の権力者が世の中を支配する危険から完全に自由になれるわけではない。何をどのように計測し、票の重さをどう決めるのか、NFTをどう計算に組み込むのかなど、答えが出ていない問いまだまだ多い。

しかしソウルとSBTの仕組みに加え、計算に必要なデータが大量に取れるようになれば、社会の非中央集権化がかなり進むのではないだろうか。

著者
湯川鶴章

AI新聞 編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。