第3次AIブームと呼ばれる現在、多くの業界でAIを用いてこれまで出来なかった業務効率化や問題解決を行う事が求められています。
本記事では、DX推進担当者や新規事業担当者としてAIをビジネスに活用したいと思っている方向けに、AIでできることやできないこと、業界や技術別の活用事例などをまとめておりますので、ぜひご参考にしてください。
とりあえず事例を沢山見たいという方は後半の「AI(人工知能)の業界別活用事例」からお読みください。
AI(人工知能)とは?
AI(人工知能)とは、人間の知能をコンピュータープログラムによって再現したり、人間の知能を超える情報の処理をしたりする技術をさします。ただし、専門家によって解釈が異なるため明確な定義はありません。
総務省では
人間の思考プロセスと同じような形で動作するプログラム、あるいは人間が知的と感じる情報処理・技術
と、AIを定義しています。
出典:『令和元年版 情報通信白書 AIに関する基本的な仕組み』 総務省
AIは、2006年頃から機械学習とディープラーニング(深層学習)により急速な発展を遂げており、あらゆる業界の仕組みやビジネスモデルに変革をもたらしています。
2025年のAI活用状況
2025年のAI技術は、企業の業務効率化だけでなく、社会構造を変える重要な役割を担っています。製造業や医療、金融分野ではAIによる自動化と予測分析が標準的な技術として定着する可能性が高いです。
業界別に見ると、製造業では予知保全システムの高度化が進んでいます。医療分野では診断支援の精度が向上し、金融分野では与信判断の自動化が一般的です。
企業はAIを「バーチャル同僚」や「秘書」として活用し、人材不足の解消と生産性向上を実現しています。
AI(人工知能)の活用でできること・得意なこと
AIは人間の能力を補完し、作業の効率化と精度向上を実現する技術です。大量のデータを高速で処理し、パターンを認識することで、人間では困難な分析や予測が可能です。
AIの活用でできることをまとめると、以下のとおりです。
- 画像・動画認識
- 自然言語処理
- 音声認識
- データ分析・予測
- 最適化
- 異常検知
- 最適な情報やサービスの提供
詳しく解説します。
画像・動画認識
画像認識技術は、物体検出から顔認証まで幅広い用途で実用化が進んでいます。カメラで撮影した画像をAIが解析し、対象物の特徴を瞬時に識別して判断を行うことが可能です。
製造業での品質検査や医療分野での画像診断支援など、専門性の高い分野での活用が広がっています。セキュリティ分野では、不正検知や入退室管理への応用が一般的です。
自然言語処理
自然言語処理は、人間の言葉をAIが理解し、適切な応答や処理を行う技術です。文章の生成や翻訳、感情分析など、言語に関する様々な処理が実現できます。
企業では、カスタマーサポートの自動化やドキュメント分析に活用されています。教育分野では、個別学習支援や採点業務の効率化が進んでいるのが現状です。
音声認識
音声認識技術は、人間の声を正確にテキストに変換し、意図を理解して処理を行えます。スマートスピーカーや音声アシスタントなど、日常生活での活用が一般的です。
ビジネスでは、会議の議事録作成や電話応対の自動化が実現されています。医療分野では、診療記録の作成支援が進んでいます。
データ分析・予測
AIを使って過去のデータを分析することで、将来の予測をすることができます。来期の会社の売上予測、来月の商品の需要予測、交通渋滞の予測など多くの場面で活用されています。
例えば、製造業においては需要を予測することで、最適な生産量を決め、余剰在庫などの機会損失を避けることが可能になります。
最適化
最適化とは、様々な制約がある特定のタスクを実行する際に、最良の選択肢を見つけるアルゴリズムを活用したAIの技術を指します。
例えば、店舗に陳列している商品の棚割りを最適化したり、従業員のシフト組を最適化したり、電車のダイヤを最適化したりといった例があります。
異常検知
異常検知とは、与えられたデータから「正常」の範囲を超えるものを抽出する技術です。
変化点検知と外れ値検知の2種類があり、変化点検知は時系列データから急な変化の地点を検出し、早期に異常の兆候を検知する技術です。外れ値検知は統計パターンから極端に外れた値を検知する技術です。
製品の不良品を検知したり、医療現場で病変部位を検知したり、防犯カメラで異常行動を検知したりする活用例があります。
上記のように、AIでできることは多様で非常に有益なため、今後ますます活用の場面も増えてくると想定されます。それにともない、AI技術を導入・活用する私たち人間のAIへの理解やAIを扱うスキルの向上も、ますます求められていくでしょう。
最適な情報やサービスの提供
AIは個人の行動パターンや嗜好を分析し、最適な情報やサービスを提供できます。ECサイトでの商品レコメンドや、動画配信サービスでのコンテンツ推薦が代表的な例です。
金融分野では、顧客の取引履歴から最適な金融商品の提案が可能です。医療分野では患者の状態に合わせた治療法の提示、教育分野では学習者の理解度に応じた教材の提供が実現されています。
AI(人工知能)でできないこと・苦手なこと
AIは、過去のデータを学習することでデータの統計やパターンを学び、新たなデータを予測するといった特徴があります。その特徴が故にできないことや、できるけれど苦手なことがいくつかあります。
感情を理解・経験・共感する
AI自体は感情を持っているわけではなく、人間の感情を理解したり、経験したり、共感したりすることはできないとされています。
例えば、お笑い番組を見て「面白い」という感情は生まれません。しかし、感情を持っているかのような反応をすることはできます。
例えば「宝くじが当たった」とAIに言えば「おめでとう」と返してくれるかもしれません。その場合はAIが「おめでたい」と思っているわけではなく、過去のデータを学習して「宝くじが当たった」という人には「おめでとう」と返すことが多いと学習しているのです。
学習に使われたデータ領域での活用に限定される
AIは学習に使われたデータを基に様々なタスクを実行していくため、学習に使ったデータから推論できない領域には応用が効きません。
例えば、日本人の身長や体重のデータを学習させて、欧米人の体格を予測することはできませんし、リーマンショックのような過去に経験のない事態の予知はできません。
また、学習に使われたデータが偏っていると、偏った結果を出力することがあります。
例えば、アメリカで履歴書を判定するAIを作った際、過去のデータから白人男性が優遇されたり、女性が冷遇されたりするといった偏った結果を出すことが話題になりました。
AIのモデルを作る時は、目的に合ったデータを学習させているか、偏ったデータを学習させていないかという点に注意しましょう。
特定の指令(プロンプト)無しの自発的な会話やタスクの実行
何かしらの働きかけがあって初めてAIはタスクを実行するため、何の指令もなしにAIが動くことはありません。
例えば、人間は話したいことがある時に自ら話し出しますが、AIは自ら話したいと思うことはないため勝手にタスクを実行することはありません。
指令無しで、自分で考えて動くAIを汎用型AI(強いAI)と言います。これはまだ実現できておらず、汎用型AIの開発に取り組んでいる大学や研究所もありますが、実現するまではまだしばらくかかりそうです。
細かい運動制御や物理的な操作を必要とするタスク
AIができるけれどまだ苦手なこととして、細かい運動制御や物理的な操作があります。柔らかいものや小さなものを掴んだり、動かしたりといった人間が無意識に力の加減を加えて行う作業は、AIはまだ苦手です。
動物の動きは多くの筋肉や骨・関節などの部位が高度に連携して実現しているため、制御が難しい(学習が難しい)領域であるためです。
動物の動きを再現するロボットや技術の開発は進んでいますが、誰でも気軽に使える・目にするレベルまで普及するのはもう少し時間がかかるでしょう。
以上のように、AIにはできないことや苦手なこともあるため、AIをビジネスに活用したいと考えている人はそこも理解した上でAIを正しく扱えるように意識しましょう。
では、AIにできること・できないことがわかったところでAIの活用事例について紹介します。
生成AIの全社導入はすでに約6割に拡大!生成AIの利用実態調査レポート〜2024年12月版〜
2022年、Chat GPTが一般リリースして2年が経ち、生成AIの業務における活用レベルや組織における利用率は確実に向上してきています。
組織としての生成AIの利用が本格化し、これまで以上に成功事例を聞くようになった今、企業の生成AI活用はどう変化しているのでしょうか。
本レポートは2023年4月から継続的に実施しており、5回目となる調査レポートです。262社310人を対象におこなった最新の「生成AIの利用実態調査」を大公開しているため、ぜひご参考にください。
- 企業全体での活用からRAG(データ連携)の取り組み状況
- 社員がどの程度生成AIを活用しているのか、その実態
- さらに注目が集まる「AIエージェント」に関する関心や活用状況 など
AI(人工知能)の業界別活用事例
ここでは、8つの業界におけるAIの活用事例を紹介します。
まずは自社でAIを活用しビジネスを進化・変革させた事例を紹介します。
【金融業界の事例】ウェルスナビ(ウェルスナビ)
金融業界では様々な分野でAI活用が進んでいます。クレジットカードや住宅ローンの審査をAIで自動化したり、カードの不正利用を検知したり、M&Aのマッチングに使われたりといった事例が日々増えてきています。
金融業界はビジネスモデルや商品が同じで他社と差別化がしづらい業界でもあります。そこでAIを活用して競合優位性を確立している事例が生まれてきています。
ここでは、「ウェルスナビ」が導入しているAIの活用事例について紹介します。
実施内容・成果
ウェルスナビは、スマートフォンやパソコンから利用できる全自動資産運用ツールです。ロボアドバイザーが金融商品の決定から発注、積立、リバランス、税金の最適化までを自動で行ってくれるサービスで、投資家は提案されたプランを確認するだけというシンプルなシステムとなっています。
参考にしたいポイント・アクション
- 自身で資産運用をする場合、知識や経験がないと損をしたり、金融商品の選定から税金の計算まで手間がかかったりするなどのハードルがありました。それらの手間をAIが代替し簡単に資産運用ができるようにしています。消費者のニーズや無意識に感じていた課題に対して、上手くAIを使って解消している点は参考にしたいポイントです。
【エネルギー業界の事例】電力需要予測(日本気象協会)
エネルギー業界においてもAIの活用は広がっており、例えば最適化AIを活かして、エネルギーの供給量の最適化を可能にしています。具体的には、事前に各エリアの需要を予測することで、必要な場所に効率的にエネルギーを届けられます。現状は、コストの面で導入ハードルが高いですが、開発が進めばコストダウンが見込めるでしょう。
ここでは、「日本気象協会」電力需要予測の事例について紹介します。電力は貯蓄することが難しいため、生産と消費を同量で行うことが求められます。そのため需要を予測し、無駄のない電力の供給が必要になります。
実施内容・成果
日本気象協会は、気象予報士のノウハウとAIを組み合わせて「電力需要予測サービス」の提供を始めました。
電力需要予測サービスは、気温、湿度、日射量などの気象要素に基づいて、電力エリアごとに正確な予測を行います。これにより電力事業者は電力の需給を管理し、最適な電力の調達が実現できます。
参考にしたいポイント・アクション
- 自社の強みである気象予報士の豊富なノウハウを活かすことでより高性能なAIを構築し、競争力のある新たなビジネスを生み出しています。
【物流業界の事例】MLOps導入(ヤマト運輸)
物流業界では、長時間労働や再配達率の高騰、ドライバーの高齢化、荷物の受け取り拒否問題、積載率の低下といった多くの課題があります。それをAIで解決していく事例が増えています。
例えば、物流のAI予測、需要予測を用いた在庫の最適化、配送計画やそれに伴う人員配置計画の最適化、検品作業の自動化、AIロボットを活用した倉庫の自動化などが挙げられます。
物流業界大手のヤマト運輸の事例を紹介します。
実施内容・成果
ヤマト運輸は、コロナ禍を期にした需要の増大に、従来手法の貨物量予測では限界を迎えようとしており、AIを支える分析手法の一つである機械学習を用いた貨物量の予測に取り組んでいました。その中でAIモデルの開発と運用との連携に時間がかかるという課題がありました。
そこでエクサウィザーズとMLOps(Machine Learning Operations)と呼ぶ、機械学習モデルの継続運用を効率化することを目的とした、モデルの開発・実装・運用までのサイクルを導入することで、機械学習モデルの開発・実装・運用のサイクルを、継続的に改良できるようになりました。
参考にしたいポイント・アクション
- MLOpsという手段を用いてAIを継続的に進化させ、長期スパンで時代の変化にもついていける体制を構築しました。
- 経営層が、MLOpsがもたらすビジネスメリットについて理解していたことでMLOpsの導入がスムーズに進みました。
参考:『ヤマト運輸、MLOpsで経営リソースの最適配置を実現』エクサウィザーズ 2022年8月3日
【不動産業界の事例】リハウスAI査定 (三井不動産リアルティ)
不動産業界においてAIは、人手不足に対応する効率化ツールとしての活用が進んでいます。具体的には、予測技術を用いて不動産査定をサポートしたり、不動産投資対象となる物件と自分に合った物件を求めている消費者とのマッチングをしたりする事例が見られます。
では、三井不動産リアルティがエクサウィザーズと共同で開発した「リハウスAI査定」の事例をみていきましょう。
実施内容・成果
「リハウスAI査定」は所有するマンション名と部屋番号をWeb上で入力することで、お客さま専用ページ上で、実際に取引された成約事例をもとに自動で推定成約価格を提示、さらには周辺で購入を検討されている人数などの情報を即時に提供するシステムです。
三井不動産リアルティで実際に取引された膨大な成約事例をAIが学習し、立地・グレード・階数・向きなど住戸の特徴に応じて推定成約価格を算出することで、首都圏1都4県で誤差率中央値が4.89 %、首都圏エリア以外を含む全国では誤差率中央値が5.34%という高水準の精度を達成しました。また、首都圏だけでなく「三井のリハウス」の展開エリアである全国18都道府県の約30,000棟のマンションを対象とした推定成約価格の算出を実現しました。
参考にしたいポイント・アクション
- 三井不動産リアルティグループは’86年度~’21年度の36年連続で全国売買仲介取扱件数がNo.1であり、そのビッグデータを活用することで精度の高いAIモデルの構築を実現しました。
参考:『AIによりマンションの推定成約価格を即時に算出する「リハウスAI査定」をエクサウィザーズと三井不動産リアルティで共同開発』エクサウィザーズ 2019年12月16日
【製造業界の事例】exaBase ロボティクス粉体秤量 for NEXTAGE(エクサウィザーズ)
製造業では人材不足や後継者不足による技術の消滅などの課題があり、その解決にAIが用いられています。AIにより熟練技術を再現・伝承や、不良品の検知、製造物の生産数の予測などが行われています。
ここではエクサウィザーズがカワダロボティクスと共同開発した「exaBase ロボティクス 粉体秤量 for NEXTAGE」について紹介します。
実施内容・成果
エクサウィザーズはカワダロボティクスとヒト型双腕ロボット「NEXTAGE」を用いて製造業における粉体秤量工程の高速自動化を実現する「exaBase ロボティクス 粉体秤量 for NEXTAGE」を共同開発しました。
化粧品、医薬品、食品業界や化学業界では、製造~品質検査工程において粉体を秤量する業務が多数存在しており自動化に取り組んでいましたが、特性の異なる複数種類の粉体や、瓶やバケツといった多様な容器を用いた秤量工程においては自動化することが難しいといった課題がありました。
また、従来の1本のAIロボットアームを用いた自動化だと、人手の1.5倍程度の時間がかかっていました。
そこで、エクサウィザーズが提供するマルチモーダルなロボットAIソリューション「exaBase ロボティクス」と、双腕を用いることでボトルの把持と秤量を同時に行うことを可能にするカワダロボティクスのヒト型双腕ロボット「NEXTAGE」により、ボトル搬送、秤量、秤量後のボトル搬送までの工程全体にかかる所要時間を従来のAIロボットアームを用いた方法と比較して約30%短縮、よりスピーディーかつ高精度な秤量を自動で行うことが可能になりました。
参考にしたいポイント・アクション
- 対象物の画像データ、現場機器・ロボット制御データやシミュレータ生成データ等、様々なマルチモーダルデータ(画像・動画・音声・構造化データなどの多様なデータ種別を扱うこと)を活用しています。マルチモーダルAIは実装難易度が高いものの、高い技術力でこれを実現しました。
- 粉体秤量の課題は、いわゆる三品産業と呼ばれる化粧品、医薬品、食品業界で横展開のしやすい汎用性の高い課題であり、その課題を発見した点がポイントです。
【アパレル業界の事例】AI生成モデルによる多様性のある商品表示(Levi’s × Lalaland.ai)
米国の大手アパレルブランドLevi’sは、オランダのスタートアップLalaland.aiと提携し、生成AIを活用したバーチャルモデルを導入しました。これにより、オンラインストア上で多様な体型や人種のモデルを表示し、顧客が自身に近いモデルを選択して商品を閲覧できるようになりました。この取り組みは、顧客体験の向上とともに、撮影コストの削減やサステナビリティの推進にも寄与しています。
実施内容・成果
- 生成AIを用いて、様々な体型・年齢・肌の色を持つバーチャルモデルを作成。
- オンラインストア上で、顧客が自身に近いモデルを選択し、商品を閲覧可能に。
- 撮影コストの削減と、商品の多様な見せ方による顧客満足度の向上を実現。
参考にしたいポイント・アクション
- 生成AIを活用することで、多様性のあるモデル表示が可能となり、顧客の共感を得やすくなります。
- 撮影やモデル手配のコストを削減しつつ、より多様な顧客層へのアプローチが可能です。
- サステナビリティの観点からも、デジタルモデルの活用は有効な手段となります。
参考:I Make AI Fashion Models to Sell Real People Clothes, Wired
AI(人工知能)の技術別活用事例
次に、9つの技術別にAIの活用事例を紹介します。
【画像認識の事例】ダイナミックワールド(Google)
Googleの最新のマップツール「ダイナミックワールド」は画像認識技術を用いて世界中の土地の表面のデータをほぼリアルタイムに詳細に把握することが可能になりました。
実施内容・成果
Google は世界資源研究所(WRI)と共同で Dynamic World を開発しました。Google Earth Engine と AI Platform を採用した Dynamic World は、全世界の土地被覆データを 10 メートルの解像度でほぼリアルタイムに提供し、アマゾンの森林、アジアの農業、ヨーロッパの都市開発、北米の季節水資源など、土地に何があり、それがどう使われているかをこれまでにないレベルで詳細に把握することができます。
この情報があれば、科学者や政策立案者などの人々は、土地や生態系を監視・理解し、将来の地球を守るために、より正確な予測や効果的な計画を立てることができるようになります。
参考にしたいポイント・アクション
- 森林破壊、水管理、持続可能な土地利用などの重要な社会課題に取り組む開発者や研究者のデータプラットフォームになり得ます。プラットフォームになると継続的に利益を生むビジネスモデルにも繋がる可能性があるため競合が少ないプラットフォームを早期に創ることはメリットの大きい戦略と言えるでしょう。
参考:『Land cover data just got real-time』2022年6月9日
【動画解析の事例】CareWizトルト(エクサウィザーズ)
エクサウィザーズが提供する「CareWizトルト」はAIによる動画解析を活用しています。
実施内容・成果
「CareWizトルト」は介護サービス事業者、医療機関、福祉用具供給事業者などがおこなう高齢者の自立支援をサポートするアプリです。
高齢者の自立支援をする事業者の課題として「自身の評価、判断に自信がない。」「言葉や文章だけでは相手にうまく伝わらない。」などの課題がありました。「CareWizトルト」はスマホで5mの歩行の動画を「撮って」アップロードするだけで、2分後にはAIが解析結果を分かりやすいコミュニケーションシートにして教えてくれます。歩行速度、およびリズムと左右差の指標の元となるステップ時間について、高い精度を有していると証明されています。
参考にしたいポイント
- 「撮る」だけで「2分」で解析ができるという手軽さは、忙しい介護やリハビリの現場で非常に重宝されるでしょう。
参考:『CareWiz(ケアウィズ) トルト | 動画を「撮る」だけ、歩行分析AIサービス。』
【音声認識の事例】LINE AI Call(LINE)
LINEが提供する「LINE AI Call」は音声認識技術を活用しています。
実施内容・成果
「LINE AI Call」は、音声認識と音声合成、自然言語処理技術を組み合わせることで、自然な対話を実現するAI音声応対サービスです。従来の決められたルールに沿ってヒアリングする汎用型のボイスボットとは異なり、人間のオペレータと会話するのに近いため今まで以上にスムーズでストレスの少ない応対が可能になります。
参考にしたいポイント
- LINEの公式アカウントやLINEの無料通話とも連携が可能になり、CXを高めるマーケティング施策も可能です
- AIやロボットを通じたコミュニケーションは、やりとりの自然さが課題です。音声認識と自然言語処理をうまく組み合わせれば、業務の負担を軽減しながら、顧客満足度も高く保つことができるでしょう。
【自然言語処理の事例】 ZETA VOICE(ZETA)
自然言語処理の技術を応用することで感情分析をする技術も生まれています。人間が書いた文章や、音声データを音声認識技術でテキストにしたテキストデータから「楽しい」「好き」などのポジティブワード、「悲しい」「嫌い」といったポジティブワード、その他文章内のワードや言葉遣いなどを解析しどのような感情を抱いているのかを判定します。
ZETAが提供する感情分析技術を紹介します。
実施内容・成果
ZETAが提供するレビュー・口コミ・Q&Aエンジン「ZETA VOICE」はサイト内にレビューコンテンツを実装できるサービスです。自然言語処理を活用した感情分析機能が拡張機能として追加されました。本機能は投稿されるレビューや口コミのテキストをAIで解析し、ポジティブ・ネガティブなどの感情をスコア化する機能です。
これにより、不満を持つユーザーのレビューを早期に発見し改善策を講じたり、開発者側が知らないサービスの良いポイントなどを発見してマーケティングに活用したり、カスタマーサクセスの満足度向上施策に活かしたりすることができるでしょう。
参考にしたいポイント・アクション
- 「ZETA VOICE」には点数評価、フリーコメント、スタッフへのレスポンス、ABテストなどの機能が多くあり、機械学習に応用しやすいデータを日頃から多く収集できていました。これがスムーズなAI導入に繋がったと想定されます。
参考:『投稿されたレビューテキストをAIで解析 「ZETA VOICE」の拡張機能として『感情分析機能』を提供開始』2022年8月2日
【異常検知の事例】マルチモーダル学習を取り入れた異常検知(エクサウィザーズ)
AIによる異常検知は製造業や金融業など様々な業界で活用されています。
今回はエクサウィザーズが提供している異常検知技術を紹介します。
実施内容・成果
エクサウィザーズは従来の画像検査だと難しい不良品の検知を、光学技術やマルチモーダル学習を組み合わせることでより精度高く検知することに成功しました。
製造物の不良品を検知したい時に、従来型のルールベースでの画像検査では傷と汚れの違いがわかりづらかったり、検査対象がばらついたり変更になった際に都度ルール設定をする必要がありました。
しかし、光学的技術を用いて撮影した画像を適応することで視認性が悪く人の目でも判定困難な異物や異常を撮影可能になりました。
また、画像データだけでなく動画データやその他関連する構造化データ、音声データ、それらを学習することで抽出した特徴量(輪郭や色)なども併せて学習させる、マルチモーダル学習を取り入れることで、より人の五感による検知に近い状態で精度高く判断できるようになりました。
参考にしたいポイント・アクション
- 光学技術というAI以外の技術と組み合わせることで精度を高めることができました。AIを活用する時はAI以外の技術を組み合わせることで効果が最大化できないか考えることも重要です。
- マルチモーダルAI(構造化データ・画像・動画・テキスト・音声など複数のデータ種別を組み合わせて、もしくは関連付けて処理するAI)を活用し精度を上げることができました。今後技術の進歩によってマルチモーダルAIの活用はどんどん増えていくことでしょう。
【需要予測の事例】サキミル(ソフトバンク・日本気象協会)
AIにおける需要予測の例として「ソフトバンク」と「日本気象協会」が開発したサービスの事例を紹介します。
実施内容・成果
ソフトバンクと日本気象協会は、小売・飲食業界向けに、AIによる需要予測サービス「サキミル」を開発しました。サキミルは、ソフトバンクの位置情報を基にした「人流統計データ」や、日本気象協会による「気象データ」、導入企業が保有する「来客データ」をAIアルゴリズムで分析することで需要予測を行うツールです。実証実験における来店客数の平均予測精度は、93%と高い有効性を示しています。
参考にしたいポイント・アクション
- ソフトバンクの人流統計と日本気象協会の気象統計という異業種の情報を学習データとしてまとめることによって、高精度な分析を実現しています。
- 異業種間では保有するデータの種類が大きく異なるため、組み合わせることで新しい価値を持つことがあります。提携先を検討する際は、保有データの種類も基準として考えてみましょう。
参考:『人流・気象データなどを活用した小売り・飲食業界向けAI需要予測サービス「サキミル」を提供開始』2022年1月31日
【最適化の事例】品揃え最適化AI(スギ薬局)
AIによる最適化の事例としてスギ薬局がエクサウィザーズと取り組んだ店頭の品揃えを最適化するAIについて紹介します。
実施内容・成果
リアル店舗において最適な品揃えの追求は売り上げを最大化するのに非常に重要です。スギ薬局はエクサウィザーズと売場生産性の向上および、より良い顧客体験の提供を支援する「品揃え最適化AI」を共同開発しました。
「品揃え最適化AI」は、下記2つの機能を備えています。
- 数理最適化技術を用いることで膨大な商品から売上を最大化する最適な組み合わせを自動算出する機能
- 過去の商品の購買情報を学習し、商品の代替可能性を分析することで、カット(棚から降ろすこと)しても売上に影響しづらい商品を決定する機能
スギ薬局においてこのAIの導入成果をシミュレーションした結果、一定の売り上げ増加が期待できることがわかりました。
参考にしたいポイント・アクション
- 今まで人の手で実施していた作業であり且つ、AIが得意な最適化技術を組み合わせています。これを参考に自社でも「属人的な作業」×「AIが得意なタスク」の組み合わせで、AIが活用できないかを検討してみると良いでしょう。
参考:『小売業に向けた「品揃え最適化AI」をエクサウィザーズとスギ薬局が共同開発』2022年1月5日
【ロボティクスの事例】 AutoStore(ソフトバンク)
ロボティクスとはロボット工学のことで、ロボットの設計・製作・制御に関して研究する分野です。従来は、産業用ロボットを中心に限定的な機能しか付与できませんでしたが、現在はロボットにAIを搭載することにより、複雑な処理が可能になっています。
「ソフトバンク・ロボティクス」の事例を紹介しましょう。
実施内容・成果
ソフトバンク・ロボティクスは、物流ロボット「AutoStore」を導入しました。「AutoStore」は、あらゆる倉庫形状にフィットし、無駄なスペースを排除することにより、4倍の補完効率を実現しています。また、商品の自動区分け機能により出荷数とピッキング数を大幅に伸ばし、人件費を50%削減することにも成功しています。
参考にしたいポイント・アクション
- 構成するシステムがモジュール化されているため、導入後であってもキャパシティの拡張を臨機応変に行えます。
- AIのロボティクスサービスは、事業変革や技術革新を前提とした設計が重要です。細かいシステムごとにモジュール化するなど、開発・導入後のアップデートに備えましょう。
【個人向け】AI(人工知能)の身近な活用事例一覧
ここでは、AIの身近な活用事例を5つ紹介します。
スマート家電の連携制御
たとえば、シャープのAIoT家電は、AI(人工知能)とIoT(モノのインターネット)を融合させ、冷蔵庫・エアコン・空気清浄機などをネットワーク化。AIスピーカーやスマートフォンと連携し、家電がユーザーの生活習慣や好みに応じて自動で最適な動作を提案・実行します。
たとえば、外出先から冷房をオンにしたり、冷蔵庫が食材の状態に応じてレシピを提案したりと、利便性と快適性を両立。天候や在宅状況をもとにした自動制御により、エネルギー効率の向上にも貢献します。シャープならではの「気づき」と「提案」で、暮らしを一歩先へ導きます。
料理・献立支援
AIによる献立支援は、冷蔵庫の食材から最適なレシピを提案する機能を持っています。栄養バランスと個人の好みを考慮した献立作成により、健康的な食生活を実現します。
食材の在庫管理や買い物リストの作成機能により、食材の無駄を削減が可能です。季節や体調に合わせたメニュー提案で、バラエティ豊かな食事を楽しめます。
学習支援・スキル開発
AIを活用した学習支援は、個人の理解度に合わせた教材を提供することが特徴です。リアルタイムのフィードバックにより、効率的な学習進度の管理を実現します。
学習履歴の分析により、苦手分野の克服に焦点を当てた学習計画を立案してくれる点が強みです。生成AIによる質問対応で、24時間の学習サポートを受けられます。
写真・動画編集
生成AIを活用した編集ツールでは、写真や動画の内容を解析し、構図や光のバランスを自動で最適化したり、背景や人物を自然に生成・補完することが可能です。
直感的な操作で高品質なビジュアルを生成できるため、専門的なスキルがなくてもプロ並みの仕上がりが実現できます。さらに、動画の自動要約やナレーション生成機能により、視聴価値の高いコンテンツを短時間で制作できます。
移動・ナビゲーション
AIナビゲーションは、リアルタイムの交通情報を分析し、最適なルートを提案する優れたツールです。天候や道路工事の情報を考慮した経路選択により、安全で効率的な移動を実現します。
公共交通機関との連携により、複数の移動手段を組み合わせた最適な行程を作成することが可能です。個人の移動履歴から学習し、よく行く場所への効率的なルートを提示します。
AI活用における具体的な導入ステップ
AI導入は、段階的なアプローチで確実に進めることが重要です。企業の現状分析から始まり、実証実験を経て本格導入へと進みます。
具体的なステップをまとめると、以下のとおりです。
- 目的・課題の明確化
- データと予算の確認
- 実証実験(PoC)の実施
- 本番環境の構築
- 運用体制の確立
詳しく解説します。
目的・課題の明確化
AI導入の目的と解決すべき課題を、具体的に文書化することが最初にやるべきことです。現場の業務分析を通じて、人手不足や作業効率など具体的な課題を特定しましょう。
経営層と現場の双方から課題を抽出し、数値目標を設定することが重要です。達成目標は四半期ごとに見直しを行い、必要に応じて修正を加えます。
データと予算の確認
AI導入に必要なデータの種類と量を特定し、収集方法を確立することが基盤となります。社内の既存データの質と量を評価し、追加で必要なデータを明確にしましょう。
予算は、初期費用と運用費用を分けて計画を立てることが重要です。
実証実験(PoC)の実施
実証実験は3か月を目安に小規模な範囲で実施することが望ましいです。実験では具体的な評価指標を設定し、定期的に結果を測定しましょう。
実験結果は定量的な数値と定性的な評価を組み合わせて判断します。本番導入の判断基準は事前に設定した目標値の達成度で決定します。
本番環境の構築
本番環境の構築は段階的に行い、各段階で正しく動作するか確認します。既存システムとの連携部分は特に慎重にテストを行い、問題点を早期に発見しましょう。
システムの安定性と性能を確保するため、負荷テストと障害対応訓練を行います。本稼働前に利用者向けのマニュアルを整備し、研修を実施します。
運用体制の確立
運用チームは、技術担当とビジネス担当の両方を含む構成が必要です。日常的な監視体制を確立し、問題発生時の対応手順を明確にしましょう。
定期的な運用報告会を開催し、システムの性能評価と改善点の洗い出しを行います。利用者からのフィードバックを収集し、継続的な改善活動に活かします。
AI活用の課題と解決策
AI活用を進める際には、以下の課題と向き合う必要があります。
- 情報漏えいとセキュリティリスク
- AIの意思決定の根拠が見えにくい
- AI導入・運用をリードできる人材の不足
詳しく解説します。
情報漏えいとセキュリティリスク
AIシステムへの不正アクセスや情報漏えいを防ぐため、多層的なセキュリティ対策が必要です。データの暗号化やアクセス権限の設定、定期的なセキュリティ監査を実施しましょう。
企業の機密情報や個人情報を保護するため、データの取り扱いルールを明確化し、従業員への教育を徹底することが大切です。クラウドサービスの利用時には、データの保管場所や転送経路の安全性を確認します。
AIの意思決定の根拠が見えにくい
AI判断の透明性を確保するため、意思決定の根拠を可視化する仕組みを導入しなくてはいけません。判断結果に対する説明機能を実装し、人間が理解できる形で提示する必要があります。
重要な判断には必ず人間による確認を組み込み、AIの判断を補完する体制を整えることが大切です。定期的な精度評価と改善サイクルを確立し、判断基準の妥当性を検証しましょう。
AI導入・運用をリードできる人材の不足
AI人材の育成には、技術研修とビジネス研修を組み合わせた体系的なプログラムが必要です。社内での勉強会や外部研修を活用し、実践的なスキルを習得します。
即戦力となる人材の確保には、外部ベンダーやコンサルタントとの協業が効果的です。段階的な知識移転を計画し、社内での自走体制を構築していきます。
まとめ
AIの活用範囲は急速に拡大しており、多くの企業で導入が進んでいます。今回、AIの活用事例として紹介した事例は、ごく一部です。紹介した事例を踏まえて、業界の特性や課題、各技術のメリットなどを把握し、自社にどのようなAI技術が必要で、どのように導入すべきかを検討してみてください。ぜひ本記事を参考に、AIのビジネス利用を成功させましょう。