企業活動をする上で、AIの活用は欠かせないものになりつつあります。とはいえ、具体的にAIがどのような技術に活用されているか、私たちの生活にどのような変化をもたらしているのか、ご存じない方も多いのではないでしょうか。
本記事では、企業のDX推進担当者や新規事業担当者、AIに興味を持っているがまだ詳しくないという方向けに、AIの概要から仕組みや論点、活用事例やAIの未来まで解説しています。
「AIについて知っておきたい」「ビジネスにおいて、将来的にAIの活用・導入を検討している」「AIの最新情報を知りたい」という方に必見の内容をまとめましたので、ぜひ参考にしてみてください。
途中に出てくる機械学習やディープラーニングについて詳細を知りたい方は別の記事でより詳細に解説しているのであわせてご覧ください。
AI(人工知能)とは?定義と歴史を紹介
まずはAIの定義と歴史について解説します。
AI(人工知能)とは
AI(人工知能)とは、「人間のような知能を持ったコンピューター」などと言われており、明確な定義を持っていないため、国内では企業などの各機関や研究者によってAIの定義・表現が異なっているのが現状です。
総務省では
『知性』や『知能』自体の定義が無いことから、人工的な知能を定義することもまた困難である」と言及しながら、「人間の思考プロセスと同じような形で動作するプログラム、あるいは人間が知的と感じる情報処理・技術
と、AIを定義しています。
出典:『令和元年版 情報通信白書 AIに関する基本的な仕組み』 総務省
AI(人工知能)の歴史
AIの歴史を捉える上で重要なのが、「3度のブーム」です。
第1次AIブームは、1956年のダートマス会議で初めてAIという言葉が登場したことを契機に発生しました。コンピューターによる推論や探索が可能になったことで、パズルなどの「決まったルールがある問題」の処理が実現しましたが、複雑な問題が絡み合う現実社会の課題には対処できず、一時的な流行にとどまりました。
その後、1980年代に起こったのが第2次AIブームです。コンピューターに専門知識を与えた「エキスパートシステム」の開発により、AIは以前より実用的な側面を持つようになりました。しかし、当時はコンピューターが大量の情報を収集・蓄積できなかったため、人的負担が膨大になり、一般化には至りませんでした。
そして、2006年頃から現在まで続いているのが第3次AIブームで、機械学習とディープラーニング(深層学習)により、AIは大きく可能性を広げました。
AI(人工知能)の種類
AIにはいくつかレベルや種類があります。AIの基礎の部分ですのでしっかりと理解しましょう。
AI(人工知能)の3つのレベル
AIには技術的難易度によって大きく3つのレベルがあります。AIに含まない制御プログラムも、違いをわかりやすくするために紹介します。
レベル1はAIではなく、ごく単純な制御プログラムをさします。温度の変化に応じて機能を自動調整するエアコンなどが該当します。裏で人間が設定した通りに動くものです。
レベル2はルールベースの人工知能です。人が設定した一定のルールに基づいて自律して動くため、レベル1に比べて人間らしい動きをします。掃除ロボットや質問に回答してくれるFAQなどです。
レベル3は機械学習を用いてデータからルールやパターンを学習する人工知能です。検索ワードに対するリコメンドなどが当たります。
レベル4はディープラーニングにより特徴量を自ら設計して学習します。画像認識や自動運転技術など近年活用されるシーンが増えています。
機械学習と、ディープラーニングについてはこの後詳しく紹介します。
このように、AIといっても技術的難易度や活用パターンによって数種類あることを認識しておきましょう。
特化型AI
AIを「特化型AI」と「汎用型AI」の大きく2つに分ける見方もあります。特化型AIとは特定の領域に特化したAIのことです。決まった範囲の中で決まったタスクを処理します。現在世の中にあるAIは全て特化型AIの組み合わせでできています。例えば人の言葉を喋るロボットは、音声合成技術や自然言語処理、ロボットの動きを制御するAIなど複数のAIの組み合わせでできています。
汎用型AI
汎用型AIとは特定の範囲に限定されず、様々なタスクを処理することができるAIです。人間に非常に似たコンピューターになります。自分がどんな状況に置かれていて何をすべきなのか、それをどう実行すればいいのかがわかります。よくSF映画などで、自分で考えて動くAIやロボットが出てきますがそれが汎用型AIにあたります。
AI(人工知能)と機械学習・ディープラーニング(深層学習)の違い
よく、AI(人工知能)と機械学習、ディープラーニングの3つの違いがわからないという声があります。これら3つは全く別々のものではなく、AI > 機械学習 > ディープラーニングというように階層構造になっています。また、ディープラーニングを説明するためにニューラルネットワークについても紹介します。
機械学習とは
「機械学習」とは、AI技術の一つであり、与えられたデータをコンピューターが解析し、ルールやパターンを学習することで特定のタスクを実行できる機械学習モデルを構築する技術です。その際、出力に影響を与える変数(特徴量)は人が設定します。機械学習は「教師あり学習」「教師なし学習」「半教師あり学習」「強化学習」の大きく4つにわけられます。
機械学習については「機械学習とは?定義や種類、活用事例を紹介」の記事で詳細に解説をしています。
特徴量とは
機械学習を理解するためには特徴量の理解が重要です。特徴量とは、AIが読み込むデータの特徴を表現したものです。例えば自動車なら「タイヤが4つある」「フロントガラスがある」「ヘッドライトがある」などの特徴があります。
従来の機械学習においては、人間が表計算ソフトなどを使ってデータを整え、特徴量を用意する必要がありましたが、ディープラーニングではこれをコンピューターが自動で定義するようになりました。
教師あり学習とは
「教師あり学習」とは、あらかじめ正解(教師データ)が付与されているデータを使って学習を行い、機械学習モデルを構築する手法です。例えば、画像に写る乗り物の種類を判別したい場合に、画像に対して「自動車」「バイク」「自転車」といった正解が付与されているデータを使ってモデルを学習します。
教師あり学習は「回帰」や「分類」といったタスクを実行するモデル作成に用いられます。
回帰とは数値を予測するタスクであり、売上の予測などが当てはまります。
例えば、アイスの売上を予測したい場合、「日付」「気温」「湿度」などの特徴量に対し、正解として「売上」が与えられているデータで学習を行います。学習によって作成されたモデルで、未来の日付の売上を予測します。
分類とはカテゴリを予測するタスクであり、写真を「自動車」「バイク」「自転車」とカテゴライズする場合などが当てはまります。乗り物の種類が付与された画像を多く学習させることで、新しく与えられた写真が何なのかを判断できるようになります。
このように教師あり学習では、データの統計的分布から特徴の組み合わせパターンや法則を見出し「推論モデル」を構築する「学習」フェーズと、未知のデータから特徴を抽出し学習フェーズで構築された推論モデルに照合することにより正否の判断が可能になる「推論」フェーズがあります。
教師なし学習とは
「教師なし学習」とは、教師あり学習のように正解のデータを与えません。AIにデータのみを与え、それをもとにAIが自己で反復学習し、データの構造や分布をモデル化していく手法のことです。
手法としては混合ガウスモデルや隠れマルコフモデル、自己組織化マップなどがあります。
例えば、データのカテゴリ間にある関係性を可視化したい場合や、マーケティングキャンペーンに反応した顧客層はどういったものか把握したい場合などに用います。
半教師あり学習とは
「半教師あり学習」とは、「教師あり学習」と「教師なし学習」を組み合わせた手法のことで、データの一部に教師ラベルがついているようなデータから学習します。教師データを大量に用意するのが難しい場合、少ない教師データのみで学習するよりは、精度が高くなることを狙います。
教師データを大量に集めることが難しい専門領域(医療など)での活用が考えられます。
強化学習とは
「強化学習」とは、AIが自ら試行錯誤しながら、最適なモデルを構築する手法のことです。ある環境下で報酬を最大化するためにはどのような行動を選択すれば良いのかを学習していきます。
例えば自動運転技術では、周りの環境(信号や車、人、白線はどうなっているか)に対してどのような行動(走る、止まるなど)をとるべきかを判断し行動します。行動することで更に周りの環境が変わるので再度判断し行動し、それを繰り返します。
ニューラルネットワークとは
ニューラルネットワークとは機械学習の一つで人間の脳の神経回路を模して学習しようとする手法です。
一番シンプルな構造を単純パーセプトロンといい、入力層、出力層に分けられます。より複雑な処理に対応できるように中間層を追加し、入力層、中間(隠れ)層、出力層の3つの階層を用いたモデルを多層パーセプトロンと言います。
また、ニューラルネットワークを多層構造に階層化(隠れ層を何層にも深く)した機械学習モデルをディープニューラルネットワークと言います。層が深くなったことでAIの表現力が増し、より高度で抽象的な問題に回答可能になりました。
ディープラーニング(深層学習)とは
ディープラーニング(深層学習)とは、前述したディープニューラルネットワークを用いた、機械学習モデルの構築を行うプロセス全体を指します。機械学習と違う点として特徴量をコンピューターが自動で学習することができる点があり、自動運転技術や音声合成、自動翻訳、不正検知などで使われます。
ニューラルネットワークでは隠れ層が1層だけでしたが、隠れ層が2層以上の多層構造になったディープラーニングでは、様々な入力に対して様々な出力ができるようになり、複雑なタスクを処理できるようになりました。
ディープラーニングについては「ディープラーニングとは?ニューラルネットワークや機械学習との関係性、仕組みや実装する際の注意点を解説」の記事で詳しく解説しています。
AI(人工知能)にまつわる論点
AIにまつわる主要な論点を4つ紹介します。
シンギュラリティ
シンギュラリティ(技術的特異点)とは、AI研究の権威レイ・カーツワイル博士らが提唱した未来予測で、AIが人間の知能を超える時点及び、それにより人間の生活に起こりうる変化の総称です。
2029年にAIが人間並みの知能を備え、2045年に技術的特異点が到来することが予測されており、一連の現象は2045年問題とも呼ばれています。
AIが人間の知能を超えて「超知能」となった瞬間に、人間の想像がAIの意思決定レベルに及ばなくなり、AI自身はより優れたAIを発明するため、超知能は人類最後の発明とも呼ばれています。
参考:『シンギュラリティとは~2045年問題~』リコージャパン株式会社
AIが人の仕事を奪う?
事務や軽作業などのルーティンワークがAI主導に置き換わることは以前から懸念されていましたが、アートやファッションなど、クリエイティブな分野にもAIの代替可能性が指摘されています。
例えば、「Midjourney」や「Stable Diffusion」などのコンテンツ自動生成AIが2022年に入って急速に普及し、話題になりました。イラストレーターが描いた絵とAIが描いた絵の見分けもほとんどつかず、イラストレーターの仕事を奪うのではないかと懸念されています。
しかし、英オックスフォード大学の教授であり、エクサウィザーズのアドバイザーも務めるマイケル・オズボーン教授は当分の間機械が入ってこられない領域があると言います。
以下は、2022年11月30日に開催されたExaWizards Collaboration Day でオズボーン氏がビデオメッセージで述べた内容を一部抜粋したものです。
しばらくの間、機械が入れない領域は大きく2つあります。
1つはソーシャルインテリジェンス(社会的知性)です。人を理解し、人と一緒に働くためのスキルを指します。例えば、交渉や説得、指導、メンタリング、チューター、リーダーシップなどのスキルがこれにあたります。これらのスキルに投資すれば当分の間は競争力を維持できる可能性が高いでしょう。
もう一つはクリエイティブインテリジェンスやオリジナリティに関するものです。勿論AIが近年進歩している領域でもありますが、依然として創造性に代わるものではなく、創造性をより発揮できるためのツールとして考えられています。クリエイティブを発揮することがあなたの仕事なら、クリエイティビティを高める努力と同時に新しい技術を学ぶことはとても重要になるでしょう。
この考えはここから何十年にもわたってすべての領域に有効だと思います。そのため新しい技術、新しいテクノロジープラットフォーム、新しいデバイスの使い方などを学ぶ必要があります。
以上のように、AIに完全に代替されない領域はあり、その領域のスキルアップが重要になるとオズボーン氏は述べています。今後自分は何のスキルを身に付けるのかはAIの得意領域・不得意領域を把握しながら取捨選択していくことがいいでしょう。
不具合が起こった場合の責任の所在
現在の法律は、あらゆるトラブルに人間の意思が介在することを前提としています。そのため、AIの判断により起こった不具合に対しても、責任の所在は人間に求めなければなりません。
実際に想定し得るケースとしては、AIが送信した誹謗中傷メッセージにより他人の名誉が毀損された場合や、AIによる自動運転を搭載した車両が物損事故を起こした場合などがあります。このとき、責任の所在として考えられる対象は「AIの所有者」「AIの製造者」「AIの利用者」など複数に当てはまり、一概に決められません。
このように非常に難しい判断を伴うため、「不具合の際に誰がどのような条件下で責任を負うのか」を事前に明らかにしておく必要があります。
権利の侵害
前述した「Midjourney」や「Stable Diffusion」などのコンテンツ自動生成AIは、ヒントになる文章を入力したり、特定の描き手のイラストを学習したりすることにより、既存の画像やイラストデータを収束し、新たなコンテンツを生み出します。
気軽に触れられるAIとして人気を博した一方で、イラストレーターなどから自身の作成したイラストが勝手にAIに学習されることに対して「権利侵害ではないか?」という声も上がりました。
通常、コンテンツには著作権が発生し、著作者の同意のない複製・利用は禁止されていますが、日本の著作権法三十条の四では情報解析を目的とした利用はできるとしています。
第三十条の四
著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
一 著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合
二 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。)の用に供する場合
三 前二号に掲げる場合のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあつては、当該著作物の電子計算機における実行を除く。)に供する場合
これにより、AIに学習をさせるために他人の著作物を利用することは著作権法上自由にできると考えられています。しかしながら、同条で利用できるのはあくまで「情報解析」のみであり、AIからコンテンツを出力する行為はカバーされていません。
したがって、AIから出力されたコンテンツが他人の著作物に類似していた場合には、当該コンテンツは権利侵害の責任を問われる可能性があります。
AIのスペシャリストが語る、新時代に求められるスキルとは?
AIやWEB3という言葉は耳にするものの、それが実際に仕事にどのような変化をもたらすのでしょうか。
「Web3時代のAI戦略」を執筆したエクサウィザーズ取締役の大植択真が、テクノロジーの現在地と今後の展望について解説しています。
アーカイブ動画を無料で公開中のため、ぜひご視聴ください。
\こんな方におすすめの動画です/
- DX人材育成やDX組織構築に関わっているが今後の方向性や具体的な方法論にお悩みの方
- ChatGPTなどの基盤モデルの登場で今後求められるスキルがどのように変化するのかを知りたい方
- これからの時代を先読みし、それに対応したスキルをどのように身に着けるべきかについてお悩みの方
AI(人工知能)実装のエクサウィザーズの事例
活用事例の多いAIの機能として大きく
- 可視化
- 検出・分類
- 予測・生成
- 最適化
- レコメンド・マッチング
- 異常検知
このうち、エクサウィザーズで社会実装した事例を3つご紹介します。
【可視化】AIで熟練技能の可視化・継承を支援
製造業では少子高齢化に伴う人手不足や技能継承の課題があり、産業基盤のDXによる「遠隔化・自動化」の推進が進められています。その中で装置導入およびオペレーションの変更が必至となるため導入までに時間を要し、費用対効果が見えづらいため経営が意思決定しづらいという課題も見えてきました。
このような背景からエクサウィザーズは、現状のオペレーションにどの程度時間を要しているか、またそれがどの程度属人的なものになっているかを可視化。オペレーション変革やマシンガイダンス作成、制御条件の最適化・自動化などによって経営課題の円滑な解決を支援する「exaBase スキルトランスファー」の提供を開始しました。
具体的には
- 分析を行う上で扱いやすいセンサーの選定支援と取得すべきデータ形式について定義
- 目的と評価過程を協議の上で必要となるアルゴリズムを選定し、熟練技能に紐づくデータを可視化
- 自動化を行うか、管理幅を厳格化するなどの打ち手の検討
などを行います。
参考:『AIで熟練技能の可視化・継承を支援する「exaBase スキルトランスファー」提供開始』エクサウィザーズ 2022年8月31日
【検出・分類】AIモデルの検出精度の向上を実現
AIモデルの学習においては、多くのデータが必要になりますが、実データの収集コストは非常に高くなるため、開発や実装に時間がかかる一因となります。そのため、シミュレーション技術を使って大量のデータを自動的に作る試みが多く行われています。しかし、従来のシミュレーションで作られたCG画像はリアルさに欠け、学習させた認識AIモデルの精度が課題となっていました。
エクサウィザーズが提供を開始した「exaBase ビジョンシミュレーター」は、よりリアルなCG画像、より高精度なAIモデルを開発できるようになるため、認識AIモデルの開発に不可欠である画像データ収集コストを大幅に削減します。
これにより今AIの導入の障害になっていた下記の課題が解消されます。
- 認識AIモデルを活用する際、実データの取得が難しくAI実装が進まないケースにおいて、シミュレーションを用いて短時間でデータを作成することが可能になる。
- データをAIモデル学習に使用する際、ライセンスやプライバシーが障壁となるケースにおいて、シミュレーションでデータを作成することにより、特定個人のプライバシーを含まないデータを作成したり、商用利用可能なデータを作成することが可能になる。
- 外観検査のAIモデルを作成する際、異常データの量が少なすぎることで十分な精度を出すことが難しいケースにおいて、シミュレーションで異常データを作成し、AIモデルの精度を改善可能になる。
想定されるユースケースとしては、
- ピースピッキングや梱包などロボットにおける認識を伴う作業の自動化
- 農機や自動車の自動運転
- AIカメラ
- 外観検査
- 企業や大学における研究開発業務の支援
など、様々な分野への応用が可能です。
参考:『認識AIモデル作成支援サービス「exaBase ビジョンシミュレーター」の提供を開始』2022年9月2日
【最適化】小売業に向けた「品揃え最適化AI」
小売業において「最適な品揃えの追求」は売上の拡大や顧客の体験価値向上において非常に重要です。そのためには、日々変化する顧客のニーズや購買行動の変化などに対応した棚割りの作成が必要不可欠となります。
しかし、どの商品を、どのくらいの量、どこに配置するのかを売れ行きから判断するのは難しく、棚割りの商品の決め方が属人的になるといった課題がありました。
そこでスギ薬局とエクサウィザーズは小売業に向けた「品揃え最適化AI」を共同開発し、今まで人で行っていた業務を本AIにより標準化することで、一定の売上増加が期待できることがわかりました。
具体的な品揃え最適化AIシステムの概要
- 数理最適化技術を用いて、対象商品リストや売上情報などを元に、売上効率を上げる商品の組み合わせを自動で算出
- 対象商品の過去の購買傾向をAIが解析し、類似した商品を特定。ある商品に対して別の商品を購入する可能性を算出
品揃え最適化AIは薬局に限らず他の業界のリアル店舗でも活用が見込まれており、小売業における最適な品揃えの追求および売場生産性の向上の実現が期待されています。
参考:『小売業に向けた「品揃え最適化AI」をエクサウィザーズとスギ薬局が共同開発』エクサウィザーズ 2022年1月5日
AI(人工知能)の未来
AIが進化・普及する未来に関しては様々ありますが、3つの観点を紹介します。
AIを助けるAI
英オックスフォード大学の教授であり、エクサウィザーズのアドバイザーも務めるマイケル・オズボーン教授は2022年6月に上梓した「Probabilistic Numerics」という本の中で新しいAIのあり方について述べています。
これまでのAIには、大量のデータが必要でした。例えば、猫の種類を判別するために何万枚という猫の写真を読み込み、共通パターンを見つける必要がありました。そのためには「髭の長さ」「尖った耳」などの幾つかの変数を組み合わせたアルゴリズムを幾つか用意して、それぞれのアルゴリズムの予測精度を比較し、予測精度の高いアルゴリズムを選ぶことになります。
こうした「最適化」にこれまで多くのエンジニアが頭を悩ませてきましたが、その最適化もAIの得意分野です。AIの決定能力を活用して最適なアルゴリズムの選択も効率的に実施できるようになります。
このようにAIを助けるAIによって今後AIの大きな進化が期待できるとオズボーン教授は指摘しています。
参考:『AIがAIをサポート オズボーン教授に聞く最新AI研究事情』AI新聞 2022年12月6日
予測の確率を提示するAI
オズボーン教授は「今日のAIの問題点は予測が当たらないことではない。自信を持って予測を外すことができないこと。大事なのは正確さだけではなく、間違っていることを認識することである。」と指摘します。
AIは過去のデータを基に推論するため、未来を100%予測することはできません。とくに正確性が求められる自動運転などの人の生死に関わるケースでは予測精度の高さが非常に重要視され、そうした重要な用途向けのAIをハイステークAIと言います。
オズボーン教授が経営するAIベンチャーMindFactory社では、ハイステークAIの開発を手がけており、予測精度を上げるだけではなく、予測通りの結果になる確率を提示するAIを開発しています。
例えば「この写真に写っているのは猫だと思うが、あまり自信はない」というように、予測が外れる確率も計算して提示することで、人間側で予測に従って行動すべきかどうかは判断できるようになるといいます。
MindFactory社ではこのAIを保険会社などに提供し、事故や故障が起こる可能性を検知し、その確率までも提供しているそうです。
参考:『AIがAIをサポート オズボーン教授に聞く最新AI研究事情』AI新聞 2022年12月6日
マルチモーダルAI
Googleの新技術などが多く発表される年次カンファレンスGoogle I/Oでの基調講演で「マルチモーダル」という言葉が多く用いられました。マルチモーダルとは複数のモード(文字情報、画像情報、音声情報など)を同時に扱えるアルゴリズムを持つAIのことをさします。
例えば人間は相手の言っていることが聞こえづらい時、口元の動きも見て相手が何を言っているかを正確に把握できます。同様にAIも複数の情報を同時に処理することで精度を上げることができるようになってきているのです。
例えば、2022年現在のGoogleのスマートスピーカーは話しかける前に「OK,Google」と言わないと内容を認識してくれません。しかし、Look and Talk機能の搭載されたGoogle Nest Hub Max(スマートホームディスプレイ)では、画面を見るだけで音声アシスタントが起動するため「OK Google」という呼びかけは不要になりました。6つの機械学習モデルで、近接度や、頭の向き、視線、口の動き、コンテクスト理解などのデータからユーザーの意図や適切なタイミングをリアルタイムで理解できるようになったためです。
こうしたマルチモーダルAIの活用が普及すれば今後AIを活用した体験が更に向上していくことでしょう。
参考:『マルチモーダルでAIが進化』AI新聞 2022年9月30日
まとめ
AIは、機械学習とディープラーニングの開発によって急速な進化を遂げました。権利問題などの課題が見られる一方で、医療や接客など身近なところにも活用領域が広がり、私たちの仕事・生活に欠かせないものになりつつあります。
AIを導入することで工数の削減や作業の標準化を実現でき、人間はクリエイティビティの高い仕事や意思決定に集中することができます。
まずは、AIの特性を理解することで、代替される分野や起こりうる変化を把握し、AIを有効に活用できるスキルとリテラシーを身につけていくと良いでしょう。
そうすることで企業においてはより顧客に選ばれるサービスを作ることができ、個人においてはAIを扱える人材として今後の市場価値を高めることにも繋がります。