近年はDXへの関心の高まりとともに、DXに関して必要なスキルを持った人材の需要が増えています。
しかし、いざDXの知見がある人材を育成あるいは採用したいと考えていても、必要なスキルを具体的に定義できておらず、育成・採用・振り返りに活用できていないケースが多いのではないでしょうか。
ここで役立つのが、経済産業省と独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が定めた「デジタルスキル標準」です。
上記は公表された資料のボリュームが大きいため、本記事ではデジタルスキル標準の要点を知りたいという方に向けて、内容をまとめています。
なお、当社、株式会社エクサウィザーズが提供する「exaBase DXアセスメント&ラーニング」では、DXアセスメントで現状の人材を可視化し、その人の適正に沿ったeラーニングを受講してもらうことで最適なDX人材育成を支援しています。
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目次
デジタルスキル標準とは
デジタルスキル標準はDX推進に必要な人材の確保と育成方針について、経済産業省が「デジタル時代の人材政策に関する検討会」において定めた基準です。
デジタルスキル標準で定義された知識やスキルは、業種を問わない汎用的な指標として活用しやすいように工夫されていることが特徴です。
そのため、IT業界に限らず広い分野で活用できる一方、正しく活用するためには自社の業務やビジネスの方向性に合わせて、適切に解釈する必要があることに注意しましょう。
デジタルスキル標準が策定された背景
コロナ禍をきっかけに、リモートワークなどが余儀なくされる会社が増えました。「全員出社」ではなくなったことで、多くのデジタルツールを利用する必要性が増え、デジタル化の遅れとデジタル人材の不足が顕在化した会社も多かったのではないでしょうか。
しかし、DXの必要性については認知が進んでいるものの、具体的に何に取り組めばよいか、DXを推進するにあたって、どのような人材が必要かまで浸透していないのが現状だと考えられます。
まずはデジタルスキル標準を始め、既存のガイドラインを参考にDXの定義、必要なスキルについて正しく理解することが必要だといえるでしょう。
デジタルスキル標準の構成
デジタルスキル標準は、以下の2つから構成されています。
- DXリテラシー標準
- DX推進スキル標準
DXリテラシー標準は、業界・業種を問わず全てのビジネスパーソンが身に着けるべきスキルについて定義したものです。これは、自社内でDXのスキルを持つ人材を育成する際に役立つ指針となるでしょう。
一方で、DX推進スキル標準はDXを推進する人材が果たすべき役割や、習得すべきスキルの標準について定めています。こちらは、DX推進に役立つ専門的なスキルを持った人材を育成・採用する際の参考になるでしょう。
参照:デジタルスキル標準ver1.0
DX推進スキル標準(DSS-P)概要
DXリテラシー標準
まずは、DXリテラシー標準が策定された目的やその中の具体的な項目などについて、確認していきましょう。
DXリテラシー標準の必要性
DXが進展する社会において、顧客のニーズ、ビジネスの競争環境、社会課題は大きく変化しているといえるでしょう。また、デジタル技術の発達により国境という垣根を超えたビジネス及び競争の環境が生まれ、グローバル化が進んでいます。
そのため、一人一人のビジネスパーソンが環境の変化に適応しつつも、充実したキャリアを送るためのスキルや学びを体系化する必要がありました。このような背景から整備されたのがDXリテラシー標準です。
DXリテラシー標準策定のねらい
DXリテラシー標準策定のねらいは、個々のビジネスパーソンがDXを推進する上で求められる知識やスキルを身に着け、当事者意識を持ってDXに取り組めるようになることです。
DXリテラシー標準には、一人ひとりのビジネスパーソンがDXに求められるスキルを継続的に磨き、仕事で成果を出す上での指針になることが期待されています。
DXリテラシー標準の全体像
DXリテラシー標準は、標準策定のねらいを達成するために基本的なマインド・スタンスとして、社会変化の中で成果を出すために必要な意識、姿勢、行動、知識について示しています。知識については、学習を進める上での指標を明確にするために詳細な学習項目に分けられていることが特徴です。
スキル・学習項目の概要
DXリテラシー標準では、Why、What、Howの各テーマとマインド・スタンスにおいて、それぞれ学習項目が示されています。
図表1
テーマ | 学習項目 | 詳細な学習項目 |
---|---|---|
DXの背景(Why) | 社会の変化 | - |
顧客価値の変化 | - | |
競争環境の変化 | - | |
DXで活用されるデータ・技術(What) | データ | 社会におけるデータ |
データを読む・説明する | ||
データを扱う | ||
データによって判断する | ||
デジタル技術 | AI | |
クラウド | ||
ハードウェア・ソフトウェア | ||
ネットワーク | ||
データ・技術の利活用(How) | 活用事例・利用方法 | データ・デジタル技術の活用事例 |
ツール利用 | ||
セキュリティ | ||
モラル | ||
コンプライアンス | ||
マインド・スタンス | 顧客・ユーザーへの共感 | - |
常識にとらわれない発想 | - | |
反復的なアプローチ | - | |
変化への適応 | - | |
柔軟な意思決定 | - | |
事実に基づく判断 | - |
DXリテラシー標準に沿った学びによる効果
DXリテラシー標準に則った学習を行うことで、個人と企業の両者に様々なメリットが期待できます。
まず、個人に対する効果は社会におけるDXやデジタル技術の進歩に対する感度を高められることが挙げられるでしょう。また、日々登場する新たな技術や用語、概念について主体的に調べる姿勢を身につけることできます。
一方、企業や組織については、DXの知見を持つ人材が増えて組織全体の柔軟性が高まることが期待されます。例えば、経営層がDXに関する理解を深めた場合、組織としてのDX方針を示すことができ、適材適所に必要な人材を配置することで企業全体のDXを推進しやすくなるでしょう。
DX推進スキル標準
次に、DXを推進する人材が果たすべき役割や、習得すべきスキルの標準について定めた「DX推進スキル標準」の具体的な項目や策定のポイントについて解説します。
DX推進スキル標準の必要性
DX推進スキル標準は、日本企業がDXの知見を持つ人材を十分に確保できていない現状を背景に策定されました。DXリテラシー標準の具体的な項目でもご紹介したように、DXと一口に言っても求められるスキルは非常に多岐にわたります。
ITスキルのみに特化していても、社内の推進をすることはできず、会社の中期経営計画から求められるDX化を定義し、社内の現状や組織の環境に合わせて正しく適用、そして浸透を促さなければなりません。
このように様々な部署、関係者の間をブリッジしながら、高度なスキルが求められることから適した人材が不足しているといえます。
また、DX人材が不足するもう1つの原因としては、自社のDXの方向性や必要な人材像が不明確になっていることも挙げられます。
上述したようなスキルは何も1人の人材で担うわけではありません。各パートを担当できる専門家をうまく活用し、その統括ができれば実現できる例もあります。しかし、自社の全体像を見渡したうえで、現状を整理し、どういった人材が必要かを定義できないことから推進が進んでいないという現状があることも事実です。
そのため、DX推進スキル標準をもとに自社の現状と照らし合わせることで、着実にDXを推進するきっかけとなります。
DX推進スキル標準策定のねらい
DX推進スキル標準が対象とするのは、企業・組織と個人の2つです。企業については企業の規模、DXの進展度合いに関わらず、デジタル技術を活用して競争力向上を目指す企業が対象とされています。一方、個人については企業や組織においてDX推進の担い手となる個人を想定しています。
DX推進スキル標準は、企業・組織及び個人に対してDX人材として持つべきスキル、能力を明確化しています。これが育成システムに組み込まれることで、リスキリングを始めとした学びの場を創出されることがDX推進スキル標準のねらいといえるでしょう。
DX推進スキル標準の策定方針
DX推進スキル標準は、後述する5つのポイントから成り立っています。
ポイント1:DXの推進において必要な人材を5類型に区分して定義
DX推進に必要な人材像を「5つの人材類型」(ビジネスアーキテクト、デザイナー、データサイエンティスト、ソフトウェアエンジニア、サイバーセキュリティ)に分類しています。
ポイント2:活躍する場面や違いにより、2~4つのロールを定義
ポイント1で定義した5つの人材類型のそれぞれに対して、必要とされる場面や役割に応じ、2~4の「ロール」を定義しています。
これは、一人の人材が複数の役割を担う、あるいは一つの役割を複数の人材が担うといった場面に対して柔軟に対応することを想定したものです。
ポイント3:各ロールに求められるスキル・知識を大括りに定義
ポイント2で定めたロールに対して、全人材類型に共通の「共通スキルリスト」として大まかに定義しています。デジタル技術の急速な進歩を見越して、柔軟に人材の定義ができることを目指しています。
ポイント4:育成に必要な教育・研修を把握するための学習項目例を記載
「共通スキルリスト」には、「学習項目例」が記載されています。DX人材の育成あるいは自ら学習を進めるための指針として活用されることが想定されているのです。
ポイント5:独力で業務が遂行でき、後進育成も可能なレベルを想定
DX推進スキル標準としては、人材のスキルや能力に関する詳細な評価指標は定めていません。その代わり、独力で業務を進めることができで後進の育成も可能なレベル(ITSS+「レベル4」相当)が目標として設定されています。
DX推進スキル標準の構成
DX推進スキル標準は、人材類型、ロール、共通スキルリストから構成されています。
出典:『デジタルスキル標準ver1.0』 独立行政法人情報処理推進機構、経済産業省 2022年12月
人材類型とロール
DX推進スキル標準では、企業・組織のDXにおいて必要な人材を5つの人材類型として、包括的に定義しています。また、それぞれの人材類型で求められる役割について、複数のロールを定義しています。ここでは、DX推進スキル標準で定義された人材類型とスキルについて解説します。
ビジネスアーキテクト
ビジネスアーキテクトはDXの取り組みにおいて、目標設定からソリューションの導入、そして効果検証までの全体をあらゆる関係者を巻き込んで推進する役割です。DXの取り組み全体をコーディネートするのがビジネスアーキテクトの使命といえるでしょう。
ビジネスアーキテクトは、新規あるいは既存に関わらず多くの関係者を巻き込んだ業務の変革を担うため、「変革マネジメント」のスキルが特に求められます。
デザイナー
デザイナーは、顧客やユーザーの視点に沿って、製品やサービスのありかたを設計する人材です。
デザイナーの中でもサービスデザイナー、UI/UXデザイナーのロールには、「ビジネス変革」に分類される広いスキルが求められます。一方、グラフィックデザイナーには企画されたデザインを実装するためのデザイン技術が必須です。
データサイエンティスト
データサイエンティストは、データ利活用を通した業務変革や新規ビジネス創出を目指し、データの収集や解析する仕組みを設計、導入、運用する人材とされています。
データサイエンティストのロールには、「データ・AIの戦略的活用」、「AI・データサイエンス」、「データエンジニアリング」に分類されるスキルが求められます。
ソフトウェアエンジニア
ソフトウェアエンジニアは、クラウドを含めた幅広いソフトウェアの分野において設計から導入、運用までを担う人材です。
ソフトウェアエンジニアのロールは多岐に渡り、「ソフトウェア開発」に分類される広いスキルが求められます。
サイバーセキュリティ
サイバーセキュリティのロールには、「セキュリティマネジメント」、「セキュリティ技術」に分類されるスキルが求められます。
デジタルスキル標準の活用
続いて、デジタルスキル標準を何に活用していくべきかについて、見ていきましょう。
DX人材の定義に活用
何もない状態から自社独自でDX人材のありかたを定義することは非常に難しいでしょう。
デジタルスキル標準を活用すればDX人材を定義する際の参考にできるため、比較的スムーズに検討を進めることができます。
デジタルスキル標準を活用してDX人材の定義を行うことで、デジタル技術の発展によるビジネス環境の変化を捉えた経営戦略の立案や組織力強化に役立つでしょう。
DX人材の育成計画・評価に活用
社内でDX人材の育成計画を作る場合にも、デジタルスキル標準が役立ちます。デジタルスキル標準を通して、自社のDXに必要な人材像を定義することにより、獲得すべきスキルやマインドセットが明らかになります。
例えば、これまでの勘・経験・度胸(KKD)から脱却し、データに基づいた判断ができることをDX人材の要件として定めたケースを考えてみましょう。
この場合、デジタルスキル標準のDXリテラシー標準に含まれる、「データを読む・説明する」という学習項目を指標にできます。学習項目が明確になることで、OJTの中でどのような経験を積むべきか、どのような資格を取得すべきかといった具体的な育成計画に落とし込むことが可能です。
また、DX人材のあるべき姿が明らかになっていれば、研修、資格補助、人事評価などの制度設計もしやすくなります。
DX人材の採用に活用
外部からDX人材を採用する際にも、デジタルスキル標準が役立ちます。DX推進を目的とした人材採用を行う場合、面接官の個人的な見解に左右されず、自社で定めたDX人材の定義と照らし合わせて判断を行うことができます。
求められるスキルによっては、自社でDX人材を育成するよりも外部から採用した方が時間とコストの面で合理的なケースがあります。DX人材の定義を明確にすることで、効率的かつ質の高い採用活動が展開できるでしょう。
まとめ
本記事では、DX人材の求められるスキル、能力について定義したデジタルスキル標準について解説しました。
デジタルスキル標準は業界や業種にとらわれずに活用できるように柔軟に設計されていますが、これからゼロベースでDXに取り組む企業にとっては活用が難しい部分もあるでしょう。
そのため、「exaBase DXアセスメント&ラーニング」といった育成プログラムを活用することも一つの手段です。この機会にぜひ検討されてみてはいかがでしょうか。