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Web3時代のAI戦略、活用事例総まくり

2022年8月に出版された書籍「Web3時代のAI戦略」の中から、経営者としてWeb3時代にどうDXと向き合うべきか、企業の本質的なAI戦略とは何か、Web3やAIの活用事例や「BASICsフレームワーク」の解説を交えながらお伝えいたします。

 

Web3時代、経営者はどうDXと向き合えばいいのか

まず、Web3と何か。Web3はブロックチェーンやスマートコントラクトといった技術のイノベーションであるとともに、本質的には価値観の変化だと考えています。社会のあり方を大きく変える可能性のあるパラダイムシフトであり、イノベーションはこれからどんどん起きていくでしょう。

大植の登壇画像

ただし現時点では、まだ全体の1%くらいしか起きていない状況。経営者や新規事業を検討されている方は、継続的にアンテナを張って動向を注視することが重要です。また、AIのポテンシャルは変わらず大きく、むしろこれから取れるデータの質や量は高まっていくでしょう。Web3時代におけるAIの重要性もさらに増してくると思われます。そして、ビジネスで起こってきたDXと公共領域でのDX、つまりビジネスとソーシャルの境界線がどんどんなくなり、ソーシャルビジネスという新しい領域が生まれつつあります。

Web3やメタバースが台頭してきた中で、AIはグローバル規模でも圧倒的な成長が期待されており、これからユースケースがどんどん増えていくと考えられます。では、どのように使えば本質的な使い方と言えるのでしょうか。

Web3時代のAI戦略
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以下の図の左側は、日本企業の多くがDXやデータ分析をする際に用いている「旧来型データ分析モデル」。様々なシステムからデータを蓄積し、手動でデータ分析を行い、そこで得られた結果を手動でサービスに反映するモデルです。AIの活用については、非常に局所的な領域でのみ使われているのが現状といえるでしょう。

それに対して右側は、Web2.0時代から発展し、より効果が出る価値創造モデルとして採用が広がっている「AIぐるぐるモデル」です。Web2.0の勝者と言われるGAFAM(Google,Amazon,Facebook(現Meta),Apple,Microsoft)では、このぐるぐるモデルを採用し、価値を飛躍的に非線形に伸ばしています。

AIぐるぐるモデルではデータをどんどん貯めて、そのデータに基づいてアルゴリズムが自動で改善していきます。改善によって、サービスの品質がどんどん良くなるので、また利用者が増えて、データも増える。この自動という点がポイントとなります。

以下の図は、横軸がスケールや規模、縦軸が価値を示したチャートです。アナログな業務プロセスで運営している企業は、規模が大きくなるにつれて事業の複雑性も増してくるため、人材獲得が難しくなり、価値情報が停滞します。

一部のオペレーションをデジタル化などで業務改善を図ると多少は上向きますが、大きな価値創造には繋がっていないというのが現状です。

一方、ぐるぐるモデルを採用しているデジタル・AI中心の企業は、企業規模が増すと取得できるデータも増えるため、全く逆のカーブを描いています。つまり、AIを活用することで、企業がスケールすればするほど、より価値が非線形で加速していくというわけです。

参考:『金融保険業界はペロトン化するか?』2020年5月26日

参考『ペロトン公式サイト』

フィットネスバイクを自宅に届けるサービスを提供しているペロトンという企業は、まさにデータとAIを活用し、ぐるぐるモデルによって事業を拡大していった実例となります。

ペロトンはユーザーがフィットネスバイクをどの時間に、どの運動メニューを、どんな音楽を聴きながら運動しているといったデータを全てデータ化します。使えば使うほどユーザーのデータが蓄積され、AIによって個別最適なサービスを提供するというサービスを展開しているのです。

例えば、カリスマのインストラクターや他のフィットネスサービス利用者とSNS機能で直接コミュニケーションを取れるサービスなどですね。そのログを蓄積し、ユーザーの嗜好性データを分析することで、健康食品やスポーツウェア、保険商品などのビジネスに展開していくといったことが挙げられます。

Web3時代のAI戦略の考え方、戦い方とは

従来のアナログなプロセスを強みにしている企業とAI中心の企業では、企業のあり方が異なります。これまでの企業の勝ち筋は、選択と集中型。売上や利益が出る事業にフォーカスし、強い経営陣のリーダーシップによって、絞られたKPIを見ながら業務改善していく戦い方でした。

しかしAI中心の企業では、蓄積したデータを基盤にAIを活用して、事業領域を再定義することをコアの戦略としています。AI駆動型の意思決定をすることで、より顧客中心的なサービスを提供する戦い方なのです。

また、ぐるぐるモデルを回すには、なるべくオペレーションに人を介在させずに、デジタルで完結させていく方がより生産性が高くなります。Web2.0時代に飛躍的に価値を伸ばしてきた企業の戦い方は、まさにデジタルでオペレーションし、データとAIをうまくミックスしたモデルでした。GAFAをはじめとするWeb2.0時代のテック企業はこのモデル活用で巨額の収益を得てきましたが、ユーザーは個人情報が収集されることを好ましくは思っていません。

しかしWeb3時代では、個人のデータは個人が管理するようになると言われています。トークン、特にSBTというブロックチェーン技術を使うことで、多様な情報が共有されるようになるからです。これからはメタバースなど、生活におけるほとんどのデータがデジタルデータに変わっていきます。その結果、データの量や質が高まり、多様な情報をAIが分析できるようになるというわけです。

なぜ、ユーザーが積極的に個人データを共有するようになるのか。実はWeb3と親和性の高い前提がいくつかあります。

一つは情報セキュリティをしっかり守りながら共有できるブロックチェーン技術の親和性、二つ目が情報を出したときに見返りがあるという、トークンによる報酬。三つ目は、世の中のためになるならデータを提供していいという考え方、社会貢献です。

これまで距離が遠かったビジネスと公共領域が、市民の意識変化とWeb3技術の活用で境目がなくなっていくだろうと予測されます。エクサウィザーズではその重要な要素を表したフレームワークとして「BASICs」を提唱しています。

書籍「Web3時代のAI戦略」では、「BASICs」の詳細な解説や様々なビジネスシーンにおける10個の社会課題領域に対する30事例についても紹介しているので、ぜひ参考にしていただけたらと思います。

ここでは、その中から3つの事例をご紹介させていただきます。

BASICsの適用事例①:AIによる医療診断・マッチングサービス(バビロンヘルス)

出典:『Building Babylon; An Overview / Dr. Ali Parsa, Founder & CEO』(バビロンヘルス社 IR資料)

1つ目は、バビロンヘルスという企業のAIによる医療診断・マッチングサービスの事例です。患者の状態をまずAIが初期的に評価をし、その結果をもとに人間が連携してオンライン診断を行うというサービスです。ルワンダでもう2割ぐらい使われており、医療の効率化や患者側の行動変容、データ取得によるAI精度の向上などに繋がっています。

BASICsの適用事例②Web3でCO2排出権取引を透明化(ノリ)

参考:Quartz メールマガジン「Startup:透明化のグリーンテック」

2017年創業のスタートアップであるノリは、CO2削減プラットフォームを運営している企業。これまでカーボンオフセット市場と結構ダブルカウントされていたことで、CO2排出権において正当な取引が行われているのかが見えていなかったのですが、Web3技術によって、透明性を持つことができるようになりました。

そのNFTに基づくCO2排出権取引の仕組みをプラットフォーム化したのがノリ。オンライン台帳を共有するブロックチェーン技術を活用した、典型的なWeb3のサービスです。

BASICsの適用事例③:地域課題解決のためのDAOを設立(岩手県紫波町)

参考:『旧山古志村がNFTを発行した理由と熱量が素晴らしかった』xDx 2022年8月3日

自治体の活用例では、岩手県の紫波町では、DAOの組織を作って、投票によって決まったプロジェクトに売り上げを配分するという実例もあります。

先行事例として、新潟県の山古志地域(旧山古志村)では地域特産品である「錦鯉」のアートをNFTで販売し、山古志DAOというDAO組織でプロジェクトの売上配分を決めるといった取り組みもあります。

今回はWeb3時代のAI戦略についてダイジェストな形でお届けしましたが、書籍ではより詳しい解説や事例を紹介していますので、ぜひご活用ください。

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