Astar Network 渡辺創太氏が語る 「Web3がビジネスに与えるインパクト」
Web3はどのように進化し、ビジネスや社会をどう変えようとしているのか。
Web3時代にAIで未来を切り開く──。2022年10月19日に開催された「ExaWizards Forum 2022」では、「Web3がビジネスに与えるインパクト」をテーマに、日本発のパブリックブロックチェーンを開発するAstar Networkファウンダーの渡辺創太氏と、エクサウィザーズCEOの石山洸が対談を行いました。
Astar Network ファウンダー 渡辺 創太氏
日本発のパブリックブロックチェーンAstar Networkファウンダー。Stake Technologies Pte Ltd CEO。日本ブロックチェーン協会理事や丸井グループ、電通 Web3 Clubなどのアドバイザーを務める。2022年、Forbes誌の選出するテクノロジー部門アジアの30歳以下の30人に選出。
日本発のパブリックブロックチェーンを開発するAstar Networkとは
石山:まずはAstar Networkのご紹介をお願いします。
渡辺:Astar Networkは約300種類ある世界のブロックチェーンを繋ぎ、Web3の基幹インフラとなる日本発のパブリックブロックチェーンです。
マルチチェーン時代のスマートコントラクトプラットフォームとして機能するL1ブロックチェーンとして、世界最先端のVCや個人投資家の方々に投資やサポートをいただいております。
11月にはWeb3のユースケースを作成するための知見共有の場として「Astar Japan Lab」をシンガポールに立ち上げました。日本では大手企業やWeb3のスタートアップ、および政府と一緒に、Web3のイノベーションを起こすべく、本格稼働を進めています。
グローバルにおいて、Web3は社会をどう変えていくのか?
石山:渡辺さんはグローバルにおいて、Web3が社会をどう変えていくとお考えでしょうか。
渡辺:そもそもWeb3とは何か。その定義には諸説ありますが、我々はパブリックブロックチェーン上に載せるアプリケーションやインフラストラクチャサービス群を、Web3と呼んでいます。
Web3というコンセプトは、2014年にイーサリアムの初代CTO、Polkadot(ポルカドット)のファウンダーであるギャビン・ウッドのブログで、初めて発表されました。彼は、Secure Voting System──つまりプライバシーが担保されたWebやインターネット全体をWeb3と呼んでいます。
近年では、シリコンバレーのベンチャーキャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz)の共同創業者であり、「Mosaic(モザイク)」や「Netscape Navigator」などのブラウザを開発したマーク・アンドリーセンが、Web3について言及したことから急速に注目を集めるようになってきました。
ギャビン・ウッドのブログでは、Web3のWは大文字で「Web3.0」と記されています。一方で、wを小文字で「web3」と書くことでWeb2.0の連続ではない、個人データの管理を取り戻すという思想もあります。
また、Web3によって社会のあり方や既存のシステムも、少しずつ変わっていくでしょう。例えば、インターネットの閲覧・購入履歴から興味関心を把握した企業の広告をみて、私たちは商品を購入している。自分で選択しているようでそうではない現状は、大きな問題であると言えます。
今後どのようなムーブメントで、データの主権を個人に取り戻していくのか。ビットポイントという個人の資産をどう価値化していくか。Web3は新しい社会の解決策の一つになると期待されています。
Web3は自己主権型と言われますが、アメリカのWeb3と中国のWeb3は同じではないし、日本のWeb3もそれとは違っていい。日本ならではのナラティブを創りたいですね。Astar Networkとしても、世界トップ10企業となる実績を出していきたいと思っています。
日本におけるWeb3の現状と課題とは
石山:日本がWeb3を展開していくにあたり、現状の課題は何でしょうか。
渡辺:日本固有の課題は、税制の問題ですね。日本ではトークンをもっているだけで、含み益に対して課税されます。若い世代の起業家にとっては、大きな壁になると思います。
我々はシンガポールで起業したので税金がかかりませんが、日本であれば税金が100億円を超えてしまうトークンを保有しています。それでは破産してしまいますね。
石山:逆に、日本が有利となるポイントについてはいかがでしょう。
渡辺:まず一つは、IP(知的財産)です。ポケモンやスーパーマリオなど、日本のクリエイティブは質の高いIPが多く、NFTで世界を獲れると思います。もう一つは日本の料理が美味しいことですね。日本はクオリティオブライフが高く、海外の起業家や開発者たちにも、日本に行きたいという人は多い。そうした最先端の人たちを集めていくことも、Web3の展開においては重要になるでしょう。
石山:日本の強みであるIPコンテンツや美味しい料理を作る技術は、海外のプレイヤーを獲得しやすい反面、競合の輩出にも繋がる可能性は考えられませんか。
渡辺:Web3には国境がないので、可能性はありますね。日本のプレイヤーの強さと正しい規制は必要になると思います。
渡辺創太は10年後、どうなっているのか
石山:日本の希望になりたいという渡辺創太さんの10年後はどうなっているのか、ぜひ伺ってみたいです。
渡辺:Web3という社会のシステムを変えるかもしれない技術に出会えたのは、とても幸せなことだと思っています。私は今27歳ですが、新しいテクノロジーの波に20代や30代といった時間と体力があるタイミングで接することができるのは運でしかありません。
私にとってWeb3はファーストウェブであり、国際競争上の観点からも経済的な便益を得ることができる、非常に重要なテクノロジーです。その中で、Web3が当たり前に使われるような世界を創っていきたいですね。
3~4年以内には、日本中の人が無意識にWeb3を使っているくらい、社会に浸透させたいです。極論ですけど、おじいちゃんおばあちゃんが気づかないうちにブロックチェーンを使っている世界。10年後も、その最先端技術に携わっていたいと思います。個人的には、環境問題にもチャレンジしていきたいです。
石山:渡辺さんはWeb3がファーストウェブとのことですが、世の中にはそれがWeb2、Web1、さらにWeb以前の方々もいますね。その4世代の人たちは補完的な存在なのか、それとも競合的な存在となるのか。人材の融合という観点でもお話を伺いたいです。
渡辺:Web3は、Web2を代替するものではありません。どちらかといえば、補完するものになります。リセントライゼーションは、日本語に訳すと非中央集権だと言われていますが、辞書では非中央集権ではなく、分権と書かれています。
私自身も、分権的な未来がWeb3によって創られると考えています。あくまで中央集権的なところは許しつつ、そこに依存しない体制、もしくはこの中央集権的な企業や組織が何か悪さをしたら、他の人からもわかる体制になるのではないかと。
歴史を振り返っても、新しい技術が完全に古い技術をリプレースすることはほとんどありません。Web2のサービスも使い続ける人もいれば、データの所有権や自分の行動を委ねることを嫌がる人もいます。Web3の本質的なところは、人間に対してこの選択肢を増やすことだと言えます。
石山:誰もが意識せずにWeb3が使えるサービス、普及するアプリケーションはどのようなものになると思いますか?
渡辺:博報堂とカルビーが実施したブロックチェーンゲーム「アスターファーム(Astar Farm)」が面白い事例になったと思います。アスタートークンをロックするとジャガイモが収穫できたり、NFTを持っている人に抽選でポテトチップスやじゃがりこなどが当たったりするゲームです。
企業がコンビニやスーパーで商品を販売する場合、年代や性別や購入者の行動データを取得することは困難でした。それに対して、わざわざアスタートークンを発行してジャガイモのNFT作ってくれる人は、カルビーのコアユーザーであることはほぼ間違いない。コアユーザーと繋がることができるところがWeb3サービスの面白さです。
石山:渡辺さんが「ジャガイモのNFT」とナチュラルに話す感覚がとても重要だと感じました。Web3はまさに黎明期なので、新しい技術で何ができるようになるのかを純粋に楽しむことは非常に重要ですね。
参加者からの質問にも回答
会場からも質問が寄せられたので、紹介したいと思います。
Q.渡辺さんは普段どのように一日を過ごし、インプットされているのか聞かせください。
渡辺:現在、Astar Networkは17カ国にコアメンバー35人がいます。朝は10時にオフィスに行き、日本の仕事から始めて、ヨーロッパの仕事、アメリカの仕事と、時差に合わせて進めています。終電で帰ることも多いですが、今はノリに乗っている時期なので楽しいし、仕事が苦にはなることはないですね。
インプットは基本的にTwitterを活用しています。Web3関連は、CoinDeskやThe Blockなど、英語の情報サイトをチェックしています。Web3領域は進化が早いので、情報が世に出る前に知っておくことも重要。一番いいのは、Web3領域の起業家や開発者たちと対面で情報収集することですね。
Q.Web3において、個人が進んで個人情報をネット上に上げていくきっかけとなるのは何だと思いますか。
渡辺:Web3のユースケースとしては、ソーシャルメディアである可能性が高いと思います。今後2~3年以内には、プライバシーが担保された上で、情報を提供することに対するインセンティブがトークン設定されるようになっていくでしょう。例えば、自分の個人情報を公開すると、それがどれだけ使われたかによってトークンが配分されるというユースケースは今後様々な検証を重ねる中で出てくるでしょう。
石山:本日は誠にありがとうございました。
渡辺:ありがとうございます。楽しかったです。