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【地銀Meetup番外編】全行一丸となってデータドリブンな企業文化を目指す 山梨中央銀行のデータ利活用民主化

金融業界のデータ活用を推進する目的で設立された「一般社団法人金融データ活用推進協会」。その取り組みの一つとして、協会員の横のつながりを作る交流や情報交換の場として、さまざまな分野において「Meetup(ミートアップ)」が開催されています。2023年3月には、地域金融機関のデータ活用事例を共有する「第二回地銀信金Meetup」が開催され、盛況を博しました。

本記事では、Meetup当日に「データ利活用の取り組み事例」を発表された山梨中央銀行 経営企画部 DX・イノベーション推進室 餌取 宏太氏に、講演では語られなかったより詳細な内容を対談形式で伺った様子をお届けします。対談相手は、「地銀信金Meetup WG」の副ワーキンググループ長を務め、自身もみずほコーポレート銀行や福岡銀行での勤務経験を持つエクサウィザーズ FinTech事業部 銀行グループ グループリーダーの小山 貴大が務めました。

山梨中央銀行
経営企画部 DX・イノベーション推進室
餌取 宏太氏

2013年に山梨中央銀行に入行し、上野原支店・みなみ野シティ支店にて法人・個人営業に従事。2019年よりJapan Digital Designに出向し、主に金融業界の抱える課題をAIやデータ分析で解決する業務を担当。出向期間を終えた2021年からは、経営企画部 DX・イノベーション推進室に所属。現在は、データ利活用プロジェクトや人財育成プログラムの企画にも携わる。

株式会社エクサウィザーズ
FinTech事業部 銀行グループ グループリーダー
小山 貴大

早稲田大学政治経済学部卒業。みずほコーポレート銀行にて法人営業、海外拠点立ち上げ・PMIに従事。ATカーニーにて金融・製造・IT業界等における新規事業戦略・事業戦略立案・ビジネスデューデリジェンス等に従事。福岡銀行にて新規事業開発・全社DX推進に従事。サービス開発チームのプロダクトオーナー等も担当。

山梨中央銀行が目指す「データドリブンな体制」

小山:Meetupでの発表で、山梨中央銀行様におけるデータ活用のゴールは、社員一人ひとりがデータから課題を発見し、解決していく「データドリブンな体制」の実現だと教えていただきました。このロードマップを実現するにあたっての課題や打ち手について改めて教えていただけませんか。

資料_山梨中央銀行(出典:山梨中央銀行)

餌取氏:当行のデータ利活用において組織の壁による情報共有の分断が課題の一つであると感じておりました。取り組みをスタートした2021年時点では、それぞれの部署ごとにデータ活用のノウハウが蓄積し、他部署に共有されることが少ない状態でした。

そこで、経営企画部と営業統括部、システム統括部の三つの部署でデータ利活用プロジェクトチームを立ち上げ、課題解決に取り組むスモールウインの活動に取り組みました。その後、さらなる事例の積み上げとその事例を共有するための組織として「データ利活用ワーキンググループ」を組成しました。

資料_山梨中央銀行(出典:山梨中央銀行)

このワーキンググループは、情報やナレッジの共有をする場で、何か共通の課題を解決していこうという組織ではありません。他部署の分析結果などから得た気づきやノウハウを、各部署に戻ってそれぞれの課題に繋げてもらう形です。これまでは、他の部署のノウハウなどを共有する場がなかったので、これだけでもある程度の変化が起きていると感じています。

データ分析の民主化を目指したワーキンググループ

小山:ワーキンググループによって、各部署がフラットにデータ活用への取り組みや、データ分析のノウハウを共有できる仕組みが整ったのですね。効果にはどのようなものがありますか?

餌取氏:例えば、このワーキンググループで「カードローンのDM施策」を共有し、他業務に活用する事例も出てきています。これまで、DMを送る対象の選定基準は担当者の「勘」と「経験」の要素が多くありました。

そこで、直近3~6カ月の間に当行のカードローンを申し込んだ方の特徴量をAIで分析し、類似する顧客をDM対象として抽出するようにしました。他部署にも同様に「勘」や「経験」の要素が多いものについては、この事例を参考にデータドリブンで施策を検討する事例が増え、データドリブンな文化が組織に徐々に浸透しつつあると感じています。

資料_山梨中央銀行(出典:山梨中央銀行)

そのほか、BIツール「Tableau(タブロー)」を導入し、経営指標をダッシュボード化する取り組みなども行っています。意思決定に必要なデータを可視化することで、経営会議の運営を報告型ではなく、対話型へと変えていこうとしています。

資料_山梨中央銀行(出典:山梨中央銀行)

ワーキンググループ自体は、月に1回の開催で、始めてから1年ほどが経ちますが、徐々にデータ利活用の取り組みが組織へ浸透していると感じます。

小山:1年も継続しているのは素晴らしいですね。こうした取り組みは、最初は盛り上がるものの、段々と縮小してしまうものも多くあります。継続させる上で、何か工夫をされているのでしょうか?

餌取氏:部長や課長など、上の役職の方にこの活動を理解してもらうような取り組みを心がけています。具体的には、部長会等でデータ活用の取り組みを定期的に発信するなどしています。

小山:活動内容の共有をメンバー間だけにとどめずに、役職者層へも共有し、理解を得る活動はとても重要ですね。今後はワーキンググループをどのように発展させていきたいですか?

餌取氏:今はまだ、各部署の業務課題のようなスモールスタートでやっていますが、次の段階では、経営の課題を捉えた上で、業務改善へつなげる取り組みに進化させ、必要に応じた体制を整備していきたいと考えています。

また、データ分析を“特別なスキル”や“特定の部署だけに必要なスキル”にしたくないという思いがあります。データ利活用を民主化して、それぞれの部署が自分たちで課題を解決に取り組み続けられるようにしていきたいと考えています。

3つのスキルレベルで育成プログラムを構築

小山:データ分析のスキル習得について、餌取氏は、外部に出向した際に学ばれたとのことですが、今後の人財育成についてはどういった取り組みを考えていますか?

餌取氏:出向も育成の選択肢の一つではありますが、今力を入れているのは、内部人財の育成です。「DXプランナー」「DXマネージャー」「DXプロフェッショナル人財」の3つの定義を決めて、育成プログラムを順次開発しているところです。ITの基礎的なスキルから、課題を発見してデータ分析で解決まで繋げられるようなスキルまで、幅広く育成していきたいと考えています。

山梨中央銀行_資料(出典:山梨中央銀行)

小山:「DXプランナー」「DXマネージャー」「DXプロフェッショナル人財」はそれぞれどのように育成をされていますか?

餌取氏:「DXプランナー」はITパスポートの試験に合格した上で、基礎的なeラーニングを受講してもらっています。理解度確認テストに合格すればこのポジションを得られます。2025年3月までに、500名の育成を目指す計画です。

「DXマネージャー」は、実際にお客様の課題を解決できるスキルが求められます。座学とワークショップを2日間かけて受講し、その後、実業務の課題解決に取り組みます。

「DXプロフェショナル人財」は、ビジネスに変革を起こしていく高度なスキルを持つ人財を想定しています。こうした人財を育成するためには、より高度な研修が求められるだろうと思っています。こちらは現在、育成プログラムに関する情報を収集しているところです。

資料_山梨中央銀行(出典:山梨中央銀行)

小山:DXに関する高度なスキルを持った人材の育成に関しては、当社がご支援しているSBI新生銀行グループ様の事例が参考になるかもしれません。

SBI新生銀行グループ様では、当社が提供するDX人材発掘・育成サービス「exaBase DXアセスメント&ラーニング」をご利用いただいています。具体的には、アセスメントを用いて、デジタルイノベーターに必要なスキルと素養をWeb上で見える化し、その上で、DXの現場でコンサルティングやAIのモデル開発、プロダクト開発などを行っている講師のeラーニングコンテンツを受講いただいています。

より高度なスキルを持つ人材の育成に向けた取り組みでは、約6500名のグループ社員の方々に対してDXアイディアを募集し、有力なDXアイディアをエクサウィザーズのコンサルタントが、(1)クリティカルな課題設定ができているか、(2)実現可能性、(3)インパクト、の3つの軸で評価しました。

そこから、有力な案を起案したメンバーとアセスメントの結果に基づいて約30名のメンバーを選抜し、アイディアを具現化していくワークショップを実施しました。エクサウィザーズのコンサルタントが伴走してブラッシュアップし、PoCの実施検討や、社長含めた役員へのプレゼンを行うという取り組みを実施しました。ここで決まった複数のアイディアは、実際に現場部署にて推進されることが決まっています。

ご参考:SBI新生銀行グループが、DX人材発掘・育成サービス「exaBase DXアセスメント&ラーニング」を実施

内部人材に実践的かつ高度なスキルを身につけてもらうためには、当社に限らず、DX推進のプロの伴走支援を受けることも一つの手としてあるかと思います。

餌取氏:プロの手を借りるのも一つの有効な手立てですね。

小山:実際に育成プログラムを始められて、どのようなことを感じていらっしゃいますか?

餌取氏:個人ごとにDXに関する興味関心に温度差があるかもしれません。DXのコンテンツについては、一度決めたら終わりではなく、その効果を検証しながらプログラムはブラッシュアップしていきたいと思います。

ただ、難しいのはインセンティブをいかにして設計するか。金銭面で応えるのは難しい部分もあります。現状では参加したい公募研修や出向などの選考に活用していきたいと考えています。

また、研修を受ければ、将来的にどんな活躍ができるのかなど、DXを学ぶメリットを社内報などでどんどん発信をしていく必要があると思っています。

小山:インセンティブ設計は重要ですね。やはり最終的には、人事部を巻き込んで、人事制度と紐付けていくことも重要だと思います。

将来的にはデータ利活用基盤をクラウドに構築

小山:データドリブンに向けたロードマップでは、現在ステップ2に取り組まれているとMeetupの中で教えていただきました。現在はどのような状況でしょうか。

資料_山梨中央銀行(出典:山梨中央銀行)

餌取氏:「データ利活用の浸透」は、ワーキンググループのメンバーだけでなく、各部署全体から、取り組みたい課題について改めて情報収集をしているところです。

「企業文化の変革」は、ワーキンググループを中心に、全社的なフラットなコミュニケーションを引き続き推進していっています。

「データ利活用基盤の構築」は、これから検討を進めていきます。

小山:こうしたインフラの構築は、外部のパートナー企業などにお願いしているのでしょうか。

餌取氏:データ利活用基盤に関してはクラウドを活用して内製する方針で検討していきたいと考えているため、外部のパートナー企業へ依頼する予定はありません。 

小山:先ほど、カードローンのDMの改善など、具体的な取り組みも教えていただきましたが、今後はどのようなテーマを重点的に取り組みたいとお考えですか?

餌取氏:ターゲティングの高度化は引き続き取り組んでいくべきテーマだと思っています。カードローンに限らず、個人の住宅ローンなど、いろいろな分野に応用できるからです。施策があって、検証できるものに、まずは取り組んでいるところです。

小山:法人向けには、何か検討されていることはありますか?例えば、ビジネスマッチングやM&Aなどで、データ分析を活用しようという動きはあるのでしょうか。

餌取氏:法人向けのところは金融データ活用推進協会でも情報交換したいところです。

小山:最後に、ロードマップのさらにその先の目標について、何か考えていらっしゃることがあれば教えてください。

餌取氏:今のデータ活用は、社内のデータにとどまっていますが、将来的には、お客さまのデータを分析するサービスの提供も考えられるでしょう。ただ、データ分析は、お客さまの課題を解決する一つの手段でしかありません。データ分析が目的にならないよう気をつけたいと思っています。