DX(デジタルトランスフォーメーション)推進に、本格的に取り組む企業が増えている一方、具体的な進め方について悩んでいる企業も多いのではないでしょうか。そこで、今回は優れた取り組みを行っている企業に認められる「DX銘柄2022」、また「DX注目企業2022」に選定された企業、国から優秀と認められた事例についてご紹介します。
日本のDX推進企業「DX銘柄」とは?
DX銘柄とは、経済産業省が東京証券取引所に上場している企業の中から、DX推進のための仕組みを構築し、優れたデジタル活用の実績のある企業を選定するものです。選定は業種区分ごとになります。DX銘柄の選定は、例年10月ごろから評価項目や応募フォーマットなどの情報が公開され、翌年の5~8月の間に発表されます。2022年の発表は6月7日でした。
経済産業省はDX銘柄の目的について、3点を挙げています。
- 目標となる企業モデルを広く波及させる
- IT利活用の重要性に関する経営者の意識変革を促す
- 企業によるDXの更なる促進を図る
DX銘柄に選定される企業の取り組みには、下記の特徴があります。
- デジタル技術の利用によってビジネスモデルそのものを変革させている
- その変革が経営にまで及んでいる
優れた情報システムの導入や、それによって導き出されたデータの利活用ももちろん重要ですが、それらは手段に過ぎません。それらを使ってビジネスをどう変革したか、という点が重視されます。
DX銘柄の選定プロセスと評価のポイント
DX銘柄の選定プロセス
1.DX銘柄に応募する
DX銘柄に選定されるには、国が認定する「DX認定」の取得が必須です。そのため「DX調査」に必要項目の回答、およびその根拠となる資料を用意します。
2.一次評価
DX調査の「選択式回答」(ビジョン・ビジネスモデル、戦略、組織・制度、デジタル技術の活用・情報システム、成果と成果指標の共有、ガバナンスの取り組み6項目)と、直近3年平均のROE(自己資本利益率)を基にスコアリングが行われ、一定基準をクリアした企業が候補企業として選定されます。
3.二次評価
DX調査の「記述回答」(企業価値貢献、DX実現能力の2点)について、DX銘柄評価委員が評価を行います。
4.最終選考
DX銘柄評価委員会が二次評価の結果を基に最終審査を実施し、業種ごとに「DX銘柄」を選定します。
出典:『デジタルトランスフォーメーション(DX銘柄)』経済産業省2022
DX銘柄の評価のポイント
DX銘柄の評価で大きな役割を果たすのが、経済産業省がまとめた「デジタルガバナンス・コード」です。
※「デジタルガバナンス・コード」とは経済産業省がまとめた「経営者に求められる企業価値向上に向け実践すべき事柄」で、企業のDXを促すためにビジョン、ビジネスモデル、戦略、組織づくり、人材、企業文化、システム、成果指標について整理されています。
出典:「デジタルガバナンス・コード」経済産業省 2020年11月9日
一次評価では、デジタルガバナンス・コードにある「取り組み6項目」が、また二次評価では「企業価値貢献」「DX実現能力」の2点が評価の基準となっています。企業価値貢献はさらに「既存ビジネスモデルの深化」と「業態変革・新規ビジネスモデルの創出」に分けて評価され、後者のほうがより重視されます。
では、実際に「DX銘柄2022」「DX注目企業2022」に選ばれた企業をご紹介します。
DXグランプリ2022
2022年にDXグランプリに選ばれたのは下記2社です。どちらも単なるデジタル活用にとどまらないビジネスの革新や、文化・人材の変革などが総合的に評価されています。
- 中外製薬株式会社(医薬品)【証券コード:4519】
- 日本瓦斯株式会社(小売業)【証券コード:8174】
DX銘柄2022
DX銘柄に選ばれた企業は下記31社です。様々な業界から先進的な取り組みをしている企業が選定されました。
- 清水建設株式会社(建設業)【証券コード:1803】
- サントリー食品インターナショナル株式会社(食料品)【証券コード:2587】
- 味の素株式会社(食料品)【証券コード:2802】
- 旭化成株式会社(化学)【証券コード:3407】
- 富士フイルムホールディングス株式会社(化学)【証券コード:4901】
- ENEOSホールディングス株式会社(石油・石炭製品)【証券コード:5020】
- 株式会社ブリヂストン(ゴム製品)【証券コード:5108】
- AGC株式会社(ガラス・土石製品)【証券コード:5201】
- 株式会社LIXIL(金属製品)【証券コード:5938】
- 株式会社小松製作所(機械)【証券コード:6301】
- 株式会社IHI(機械)【証券コード:7013】
- 株式会社日立製作所(電気機器)【証券コード:6501】
- 株式会社リコー(電気機器)【証券コード:7752】
- 株式会社トプコン(精密機器)【証券コード:7732】
- 凸版印刷株式会社(その他製品)【証券コード:7911】
- 株式会社アシックス(その他製品)【証券コード:7936】
- 株式会社日立物流(陸運業)【証券コード:9086】
- SGホールディングス株式会社(陸運業)【証券コード:9143】
- 株式会社商船三井(海運業)【証券コード:9104】
- ANAホールディングス株式会社(空運業)【証券コード:9202】
- KDDI株式会社(情報・通信業)【証券コード:9433】
- ソフトバンク株式会社(情報・通信業)【証券コード:9434】
- トラスコ中山株式会社(卸売業)【証券コード:9830】
- 株式会社ふくおかフィナンシャルグループ(銀行業)【証券コード:8354】
- 東海東京フィナンシャル・ホールディングス株式会社(証券、商品先物取引業)【証券コード:8616】
- SBIインシュアランスグループ株式会社(保険業)【証券コード:7326】
- 東京海上ホールディングス株式会社(保険業)【証券コード:8766】
- 東京センチュリー株式会社(その他金融業)【証券コード:8439】
- 株式会社GA technologies(不動産業)【証券コード:3491】
- 三井不動産株式会社(不動産業)【証券コード:8801】
- 応用地質株式会社(サービス業)【証券コード:9755】
DX注目企業2022
DX銘柄には選ばれませんでしたが、特に企業価値貢献部分において、注目されるべき取組を実施している企業が「DX注目企業2022」として15社選出されました。
- 株式会社ミライト・ホールディングス(建設業)【証券コード:1417】
- キリンホールディングス株式会社(食料品)【証券コード:2503】
- 株式会社ワコールホールディングス(繊維製品)【証券コード:3591】
- 日立建機株式会社(機械)【証券コード:6305】
- 株式会社荏原製作所(機械)【証券コード:6361】
- 日本電気株式会社(電気機器)【証券コード:6701】
- 横河電機株式会社(電気機器)【証券コード:6841】
- 大日本印刷株式会社(その他製品)【証券コード:7912】
- 日本郵船株式会社(海運業)【証券コード:9101】
- アジア航測株式会社(空運業)【証券コード:9233】
- BIPROGY株式会社(情報・通信業)【証券コード:8056】
- 株式会社エヌ・ティ・ティ・データ(情報・通信業)【証券コード:9613】
- アスクル株式会社(小売業)【証券コード:2678】
- プレミアグループ株式会社(その他金融業)【証券コード:7199】
- トランス・コスモス株式会社(サービス業)【証券コード:9715】
DX推進企業の事例紹介
DX銘柄、DX注目企業に選定された企業の中からいくつか取り組みをピックアップして紹介します。
中外製薬株式会社の事例
取り組み内容・成果
- AIやロボティクスを活用し、①創薬プロセスの革新②創薬の成功確率向上③プロセス全体の効率化を目指しています。
- 抗体創薬プロセスに機械学習を用いることで最適な分子配列を得るAI創薬支援技術「MALEXA®」を自社開発しました。他にも画像解析技術を活用した細胞判定など様々な技術の開発導入に取り組んでいます。
- データの活用やAIの活用によって、営業プロセスの改革、治験のデジタル化、デジタルプラントの実現、定型業務の自動化などを実現しました。
参考にしたいポイント・アクション
- 創薬、生産、医療関係者・患者まで網羅した取り組みがなされています。
- トップのコミットメント、CDOやデジタル専門組織の設置、デジタルリテラシー底上げの取り組み、スタートアップとの協業などの体制に加え、トライ&エラーやアジャイル文化の明確化など、施策に抜けがありません。
日本瓦斯株式会社の事例
取り組み内容・成果
- 最適なエネルギー利用を実現するスマートシティを推進しています。
- 「LPG託送」へ挑戦するなどプラットフォーム事業の拡大を行っています。
参考にしたいポイント・アクション
- インフラ領域が大きく変わる中、プラットフォーマーへの転身を目指す試みにおいて、IoTやマイクロサービスによるアプリケーション開発、ブロックチェーンなどのテクノロジー活用を行っていまする。
- DXを軸にエネルギーの最適利用を提案する事業への取り組みを行っています。
- 早い時期からのクラウドやIoTを活用し、競合や異業種との連携を行っています。
清水建設株式会社の事例
取り組み内容・成果
- ネットワーク型ワークフィールド「SHIMZ Creative Field®」を提案しています。
- 規事業の経営ビジョンでは「デジタルでつながる」ことを掲げています。
参考にしたいポイント・アクション
- 構造や性能をシミュレートする「コンピュテーショナルデザイン」を設計段階から活用しています。
- AR技術を活用した施工管理を開発・実用化しています。
- 独自に開発した建物運用のデジタルプラットフォーム「DX-Core」で、エレベーターや監視カメラなどの建物設備や各種IoTデバイスと連携し、施設利用やマネジメントを効率化しています。
株式会社ブリヂストンの事例
取り組み内容・成果
- 熟練技能員がもつ「匠の技」を伝える技能伝承システムを開発しました。
- 航空機タイヤの交換時期を予測し、オペレーションの経済価値を最大化する航空機ソリューションを創出しました。
参考にしたいポイント・アクション
- リアルとデジタルの融合により、バリューチェーン全体で値を創出しています。
- 優れたデータベースで、正確なシミュレーションを実現するブリヂストンのように、培ってきた強い「リアル」にDXを組み合わせることで、他社にはない強みを創出しています。
サントリー食品インターナショナル株式会社の事例
取り組み内容・成果
- 高度情報化モデルを構築・導入した「サントリー天然水北アルプス信濃の森工場」で高度情報化モデルを構築・導入したしています。
- 業務を効率化しつつ顧客に喜んでもらえる新しい品揃えのモデルを確立した、自動販売機事業におけるAIコラミングを開発しました。
参考にしたいポイント・アクション
- 「サントリー天然水北アルプス信濃の森工場」の竣工、自動販売機事業におけるAIコラミングの取り組みにおいて、収益貢献などの成果が明快です。
- 「サントリー天然水北アルプス信濃の森工場」で採用されている設備保全統合管理システムの活用をしています。これにより高品質・高効率な製品製造が実現しています。
競争優位を確立した企業に学ぶDX成功のチェックリスト
DXを実施するにあたっては、単に既存業務の効率化をおこなうだけでなく、どのように競合優位性を確立するかという経営観点にもとづいた推進が必要です。
先行してDX推進を成功させた企業は何を取り組んだのか?
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デジタルトランスフォーメーション調査2022 分析結果
DX調査2022から、DX銘柄・注目企業などはDX認定未取得企業に比べて回答スコアが高く、「デジタルガバナンス・コード」 をより実践している企業であることがわかります。スコアを前年と比べてみても、全体平均は一次評価の全項目において10%前後のスコア改善が見られ、このことからDX推進が促進されていると考えられます。スコアの改善は注目企業やDX認定取得企業においても見られました。
また、DX銘柄企業とDX認定未取得企業を比較すると、「組織・制度」「成果と成果指標の共有」において大きな差があり、それらの差が「戦略(新規ビジネス創出)」「デジタル技術の活用・情報システム」の差にもつながっている可能性があります。
そのような取り組みが積極的に行われている一方で、DX銘柄に選定された企業でも、まだ不十分な面もあります。それが、高度なセキュリティ知識を用いたシステム設計や開発の支援、サイバー攻撃の調査・分析などを行う国家資格「情報処理安全確保支援士」 (通称「登録セキュリティスペシャリスト」)を取得した人材の確保です。今後、同資格を取得した人材の確保が他のDX銘柄企業との差別化につながると考えられます。
まとめ
「DX銘柄2022」「DX注目企業2022」などを中心に、選定された企業の取り組みや評価のポイントなどについてご紹介してきました。
2020年にスタートしたDX銘柄は、デジタル技術を前提としてビジネスモデルを抜本的に変革し、新たな成長・競争力強化につなげる企業を選定しています。目標となる企業モデルを広めるとともに、DXの重要性を企業に認知させ、企業の自律的な変革を促す目的で毎年選定されています。
まだDXに取り組めていない企業や、取り組み始めているもののスムーズに進まず、どんな施策をとるべきかわからないなどで悩んでいる企業にとって参考となるDX事例はたくさんあります。自社に合った事例を研究し、本格的にDX推進に踏み出してみてはいかがでしょうか。