非エンジニアが挑む「AIエージェント」構築 ~会議分析が10分で完了。現場の知恵を仕組みに変えるAIワークフロー設計~
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阿久津 勲(あくつ いさお)株式会社エクサウィザーズ 社長室直下 AIエクセレンス推進室
エクサウィザーズの「AIエクセレンス推進室」では、経営層から現場の実務担当者まで、全員でAIを活用する「AIドリブン経営」の実現を推進しています。本連載「AIドリブン経営の舞台裏」では、社内のリアルな実践知を発信しています。
第3回となる今回は、社内ツール「AIフローデザイナー」を活用し、数時間を要していた会議分析を10分まで短縮した人事担当者の事例を紹介します。コードを書けない非エンジニアがいかにしてAIエージェントを実務に組み込み、安定した仕組みを構築したのか。その設計思想とプロセスを紐解きます。
※本記事は、2026年1月30日にエクサウィザーズ HR noteで公開した記事を再編集したものです。
1. 生成AI活用における「チャット型の壁」
生成AIの普及により、ChatGPT等のチャット型生成AIツールは非常に身近な存在になりました。しかし、いざ実務に導入しようとすると、「AI活用が担当者個人の試行錯誤に留まり、組織の仕組みとして定着しない」という壁に、どうしても突き当たってしまいます。
対話(チャット)を繰り返すスタイルは自由度が高い反面、アウトプットの制御や品質の維持がその時々の「個人の感覚」に依存せざるを得ません。結果として、担当者が変われば成果物の質も変わってしまうという「属人化」の問題を解消しきれないのが実情です。
エクサウィザーズのAIエクセレンス推進室では、この問題を「個人の利便性」から「組織の標準化」へ移行する際の大きなハードルと捉えています。
本連載の第1回で紹介した「社内会議の評価レポート作成エージェント」の事例も、単なるツールの導入記録ではありません。目の前の課題を解決するために組み立てたワークフロー型AIが、結果としてチャット型AIの限界を突破し、今まで代替することのできなかった定型作業を効率化しました。成功の要因を紐解く前に、まずはこのエージェントが実際にどのような動きをするのかをご覧ください。
【事例紹介】社内会議の評価レポート作成エージェント
会議の「文字起こし」「目的」「アジェンダ」「注目テーマ」を入力して実行するだけで、以下の工程を自動で行います。
・多角的な分析:アジェンダの整合性、発表内容、ファシリテーションの3つの観点で、対象の会議を分析して評価
・レポート生成:良かった点・改善点・その理由をまとめた評価レポートをWord形式で出力
2. なぜチャット型AIでは「仕組み化」が難しいのか
チャット型AIで業務を運用しようとすると、構造上避けて通れない2つの本質的な課題が発生します。
「指示の干渉」による精度の低下
チャット型で「要約して」「感情も汲み取って」「改善案も出して」とプロンプトを重ねて微調整を加えると、AI内部で指示が競合し、優先順位が混乱する「指示の干渉」が発生しやすくなります。人間が詳細に指示を足せば足すほど出力の焦点がぼやけ、品質が不安定になるというジレンマに陥るのです。
思考プロセスをAIに一任する「一括処理」の限界
チャット型は、入力データ、指示、分析工程が一つにまとまった、いわば「思考のコントロールをAIに委ねた『一括処理』」の状態です。これは、大きな鍋にすべての材料を一度に入れて、味の調整をAIに委ねているようなものです。期待に沿わない回答が出た際、原因の特定と改善が極めて困難な「ブラックボックス」に陥ってしまいます。
3. チャット型AI・RPA等の既存ツールとの「使い分け」
解決策として社内で活用しているワークフロー型AIプロダクトの「AIフローデザイナー」の立ち位置を、既存ツールと比較しながら整理します。重要なのは、各ツールの特性を理解し、適切に使い分けるという視点です。
チャット型AI:「プロトタイプ向き」
1対1の自由な対話を通じてアイデアを広げ、プロンプトの有効性を検証する作業に最適です。一方で、品質の再現性を担保しにくいため、定型業務の仕組み化には不向きな側面があります。
RPA(Robotic Process Automation):「手の代行」
「手順」を完璧に再現することに長けています。定型的なデータの転記や送付など、ルールが明確で「思考」を必要としない定型業務に最適です。
AIフローデザイナー(ワークフロー型AI):「脳の代行」
AIという「脳」を手順の中に組み込み、曖昧なデータに対して「判断」を必要とする業務で真価を発揮します。チャット型でプロンプトの有効性を検証し、AIフローデザイナーで安定した仕組みに落とし込む。この「試行錯誤」から「構造化」への移行をいかにスムーズに行うかが、現場の自動化を一歩先へ進めるための現実的なアプローチとなります。
4. 「AIを設計する」:指示を分散し、主導権を取り戻す
動画で紹介したエージェントを作成した人事の担当者は、1つのプロンプトにすべてを詰め込むのをやめ、3つの「専門ノード(独立した工程)」に役割を分散させました。
・工程A(アジェンダ分析):会議の構成が戦略とズレていないかチェック。
・工程B(プレゼン評価):各登壇者の話し方の分かりやすさを評価。
・工程C(ファシリテーション・レビュー):司会の文脈の繋ぎ方を振り返る。
この設計によって、第2節で挙げた「2つの課題」を次のように解消しています。
解消策1:ノードの分離による「指示の干渉」の回避
1つのノード(工程)に1つの役割だけを持たせることで、AIの中で指示が混ざり合うのを物理的に防ぎます。一度に読み込む情報の範囲(コンテキスト)を切り離すことで、AIは迷うことなく、与えられたタスクだけに集中できるようになります。例えるなら、
- チャット型AI(指示が混ざりやすい):「1つの会議室」に、要約担当・分析担当・評価担当という別々のスタッフが全員押し込められ、全員で1つの成果物を同時に作ろうとしている状態です。指示が飛び交う中で、AIは「どの指示がどの役割に向けたものか」を混同しやすく、アウトプットの内容が曖昧になる原因となります。
- ワークフロー型AI(指示の干渉を防ぐ設計):スタッフ(役割)ごとに「専用の個室(ノード)」が用意されているイメージです。AIはその個室(ノード)に入っている間、その担当スタッフへの指示しか目にしません。他の役割への指示に惑わされることがないため、それぞれのタスクを指示通りに実行しやすくなります。

図:解消策1 ノードの分離による「指示の干渉」の回避のイメージ
解消策2:プロセスの透明化による「品質の主導権」の回復
「一括処理」を「段階的な工程」に分解することで、人間がアウトプットの質をコントロールできるようになり、工程ごとのアウトプット(中間成果物)が独立しているため、万が一結果が期待外れだった際も、「どの工程の、どの指示が原因か」を即座に特定し、手動で調整を加えることができます。つまり、問題箇所の特定と個別修正を独立して行えることが大きなメリットになります。
- 問題箇所の特定:各工程の「中間出力」が目に見えるため、どこでエラーが起きたか瞬時に判断できます。たとえば、工程Aの結果は正しいのに工程Bで内容がおかしくなっていれば、原因は「工程Bの指示(プロンプト)」か「工程Aから渡されたデータ」のどちらかだと即座に絞り込めるからです。
- 個別修正:次の工程へ進む前に、人間が中間結果を確認し、「特定の意見が無視されていないか」「ニュアンスが適切か」を検証できます。必要に応じてその場で人間が修正を加えてから次へ流せるため、AI任せにしない確実な品質管理(検品)が可能になります。

図:解消策2 プロセスの透明化による「品質の主導権」の回復イメージ
5. 設計の第一歩:実務を構造化し「思考の解像度」を上げる
人事の担当者がこの生産ラインを作る際、最初に行ったのはツールの操作ではなく、実務プロセスの可視化でした。
非エンジニアにとって「AIエージェントを自作する」と聞くと難しく感じますが、実はその作業の多くは、実務の手順を「情報の流れ」として整理することに集約されます。いきなりAIへ指示を書き込むのではなく、まずは「入力・処理・出力」の要素を分解して定義することで、「一つの工程に一つの役割を持たせる」というルールが自然と守られ、指示を詰め込みすぎるミスを未然に防げます。
このように定義された一つひとつのステップが、そのままAIエージェントを構成する各ノード(工程)へと展開されます。この「自分の仕事を客観的な設計図として書き起こす」感覚こそが、非エンジニアがテクノロジーを乗りこなすための最も重要な鍵となります。
6. データの「荒さ」と、人間が解放される「時間」の真実
AIドリブン経営を推進する上で避けて通れないのが、「不完全なデータ」との向き合い方です。会議動画から生成された直後のトランスクリプト(文字起こしデータ)には、多くの誤変換や文脈の欠落が含まれます。通常、これらを人間が手作業で修正してからAIに渡さなければなりませんが、それでは自動化の価値が半減してしまいます。
そこで今回の事例では、AIエージェントに「正解の枠組み」を先に教える設計を重視しました。ノイズを含んだトランスクリプトをそのまま入力する一方で、確定情報である「アジェンダ」や「戦略テーマ」をセットで与えます。
AIは「何が話されるべきか」という枠組みを補助線として持つことで、データの荒さに惑わされることなく文脈を正確に補完できるようになります。不完全なデータを人間が直すのではなく、AIが正しい文脈で解釈できるように「情報の与え方」を工夫する。これこそがAIに指示を与える際のポイントであり、人に何かを依頼するときも同じことが言えると思います。
これまで数時間を費やして行っていた「情報の整理・分析」という重労働が、このAIエージェントを実行するだけで、わずか10分で完了するようになりました。大幅な作業時間の短縮は、担当者の心理的・体力的負荷を軽減し、「次はどう組織を動かすか」という人事にしかできない本質的な職務に投資するための貴重なリソースを生み出しています。
7. 「業務が資産になる」:復元性と組織への横展開
一連の取り組みの結果として得られた大きなメリットは、構築したフローがそのまま「組織の資産」になる点にあります。AIフローデザイナー上でプロンプトが可視化された「ノード(工程)」は、それ自体が最新の業務手順書として機能します。また、エクスポート・インポートが容易な特性により、以下の運用が可能になります。
・復元性:設定ミスが起きても、バックアップから数クリックで正常な状態へ復元できます。
・横展開:成功したロジックをテンプレートとして、他部署や後任者へ容易に共有できます。
「誰でも内容を確認できる」透明性と、「いつでも戻せる」復元性。担当者が不在になってもロジックが組織に残り、安全に運用し続けられる仕組みは、継続的な業務改善の基盤となります。
おわりに
本記事では、ツールの特性を踏まえた使い分けと、非エンジニアがAIエージェントを構築するための「設計のポイント」を解説しました。
今回紹介した事例において、10分への作業短縮はあくまで一つの通過点です。本質的な目的は、情報の整理・分析に費やしていたリソースを、「組織をどう動かすか」というような人間にしかできない判断や施策の実行に再配置することにあります。
実務を構造化し、AIに任せる工程を人間が整えることで、主導権を持ってテクノロジーを使いこなす。こうした現場主導の「市民開発」の積み重ねが、全社の意思決定を加速させる「AIドリブン経営」の実現につながります。