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業務担当者とエンジニアがペアを組み2週間で業務をAI化=UberのAI組織化事例

公開日
2026.07.11
更新日
2026.07.14
業務担当者とエンジニアがペアを組み2週間で業務をAI化=UberのAI組織化事例

「変わるのはエンジニアリングだけではない。会社全体の仕事の進め方が変わる」。米配車大手UberのCTO、Praveen Neppalli氏は自身の投稿でこう述べた。

Uberが取り組むのは、エンジニアがAIでコードを書く、そのさらに先の領域である。AIに精通したエンジニアを各部門の業務担当者と組ませ、担当者のすぐ隣で日々の仕事ぶりを観察させる。そこから問題点を洗い出し、現場に染みついた暗黙知をAIエージェントに落とし込み、わずか2週間で本番投入までこぎ着けたという。

この手法を、同社は「Agentic Pods」と呼ぶ。狙いは、財務や法務、運用、マーケティング、人事といったエンジニアリング以外の部門にまでAIエージェントを広げることにある。効果はすでに一部で表れている。150都市に及ぶ事業予算の配分は15時間から30分に、財務の予算進捗レポート作成は2日から10分に、マーケティングのWeb品質保証は2週間から50分に、それぞれ短縮できたとしている。

もっとも、こうした成果は2週間の集中プログラムだけで突如生まれたわけではない。Uberはそれ以前から、AIエージェントを安全に動かすための認証基盤、設計仕様を自動で生成する仕組み、製品企画を担うプロダクトマネジャー向けのAI試作環境など、周辺の技術基盤を着々と整えてきた。Agentic Podsの本質を理解するには、その進め方だけでなく、それを支える土台にまで目を向ける必要がある。

Agentic Podsとは何か

Agentic Podsとは、AIを現場業務に持ち込むための小さな実装部隊だ。Uberはまず、AIに強いエンジニアを約30人選び、各部門の業務に精通した担当者と一対一で組ませた。業務を知る人と、AIエージェントを作れる人。この二者を最初から一組にして動かそうという発想である。

進め方は徹底して実務的だ。最初の1〜2日、エンジニアは業務担当者の仕事を隣で観察する。手順書や会議資料に目を通すだけではない。どこで作業が滞り、どこで人が判断を下し、どこで手戻りが生じるのか。実際の流れの中でそれをつかんでいく。

3日目には、業務の規模や繰り返しの頻度、事業へのインパクト、使えるデータの有無といった観点から、AI化する業務を絞り込む。4〜5日目に、担当者と二人三脚でエージェントを作り上げる。6〜9日目には、同じ業務を受け持つ別の社員にも使ってもらい、ほかの人にも通用するのか、本当に仕事が楽になるのかを検証する。そして10日目、本番に投入する。ここでいう「2週間」とは、実質10営業日の集中プログラムを指す。

この手法の肝は、AI活用の糸口を会議室や業務マニュアルの中だけで探さない点にある。複雑な業務は、業務フロー図や文書を眺めるだけではうまく自動化できない。仕事が実際どう進んでいるかを理解しなければならない、とNeppalli氏は強調する。担当者がどこでつまずき、どこで待たされ、どこで同じ確認を何度も繰り返しているのか。それは隣で仕事を見て初めて見えてくることが多い。

Agentic Podsが狙うのも、請求書を1枚読み取る、文章を1本要約するといった単発の作業ではない。その前後にある情報収集、確認、判断、修正、引き継ぎまで含めて、仕事の流れ全体をAIで組み直そうとしている。

15時間の作業を30分に

Uberはこの2カ月で、16の業務部門で16のAgentic Podsを実施した。そのうちNeppalli氏が公表したのが、事業予算の配分、財務レポート、マーケティング、顧客サポートという4つの成果だ。

最も劇的に時間が縮んだのは、150都市への事業予算の配分である。従来は15時間を要した作業が、AIエージェント導入後はわずか30分で済むようになったという。詳細は明かされていないが、Uberの別の公式技術記事では、ドライバー向けの報奨金などを地域や事業ごとに振り分ける作業を「資本配分(capital allocation)」と表現しており、今回もこれと同種の予算配分を指すとみられる。

財務部門で予算の消化状況などをまとめるレポートは2日から10分に、マーケティング部門でWebサイトの表示や中身を点検する品質保証は2週間から50分に短縮された。顧客サポートのワークフロー作成については、「9000件の手作業によるワークフローから、セルフサービス型の自動化へ移行した」とNeppalli氏は説明している。

Neppalli氏によれば、対象となった部門の業務は、手作業が多いうえに細かな判断を伴い、しかも複数のシステムにまたがっていた。AIツールを一つ導入した程度では片づかない仕事だったわけだ。

同氏がとりわけ意外だったと振り返るのは、他部門に入ったエンジニアが、現場では当たり前になって「目の前にありながら見過ごされていた」改善の余地を、短期間で次々と掘り起こしたことだった。

「大きな成果は、個別の作業を一つ自動化するだけでは得られない。ワークフロー全体を見直して初めて手に入る」

ワークフローをAI中心に組み替えれば、部門間の引き継ぎや不要な承認を減らし、老朽化した業務ツールを置き換え、外部業者への支出まで抑えられる可能性がある。個々の作業ではなく、ワークフロー全体を自動化の対象として捉えるべきだ、というわけだ。

ただし、今回明らかにされたのは導入前後の作業時間などに限られる。生成物の正確性、人による確認がどの程度残っているのか、開発や運用にどれほどの費用がかかったのかは公表されていない。数字はあくまでUber側の説明に基づくものであり、第三者による検証を経た効果測定ではない点には留意が必要だ。実際、UberではAIコーディングツールの利用が急拡大し、2026年のAI予算を年初から4カ月で使い切ったと報じられるなど、投資対効果をめぐる社内の議論も表面化している。

なぜ2週間で本番投入できるのか

現場の仕事を観察してから、たった10営業日でAIエージェントを本番に乗せる。それが可能なのは、Agentic Podsに加わるエンジニアが、案件ごとにゼロからシステムを組んでいるわけではないからだ。

Uberは2025年初め、社内の各チームがAIエージェントを開発し、本番環境に配備・運用するための共通基盤を築いた。エンジニアは社内向けの開発キットを使ってPythonでエージェントを作れるうえ、非エンジニアでも画面上の操作だけで作成できる。社内に数千あるサービスのAPIについても、AIエージェントがツールやデータを利用するための共通規格「MCP」への対応を進めてきた。事実、全社で2500を超えるエージェント用スキルが開発ライフサイクルの各所で作られているという。

AIエージェントを業務に組み込むには、チャットで質問に答えさせるだけでは足りない。社内データを読み、必要ならシステムを操作する権限がいる。ところが人間の社員と違い、AIエージェントには通常、社員番号や所属部署に当たる明確な身元がない。誰の指示で、どのエージェントが、どのデータにアクセスし、何をしたのか。これを追跡できなければ、重要な業務は任せられない。

そこでUberは、AIエージェントを登録する仕組み(Agent Registry)や、アクセスのたびに有効期間と利用範囲を絞った認証情報を発行する仕組みを整えた。社内システムへの接続は「MCP Gateway」が仲介し、そのエージェントに操作を許してよいかを確認する。OpenAIやAnthropicといった外部AIモデルへの接続は「AI Gateway」に集約し、プロンプトインジェクションや脱獄、個人情報の流出などを検知する安全策を組み込んだ。

おかげでAgentic Podsのエンジニアは、認証やアクセス管理、安全対策を案件ごとに作り直さずに済む。どのデータを読み、どのシステムを操作し、どこに人の確認を残すのか。そうした業務設計そのものに専念できる。2週間という速さを支えているのは、AIモデルの性能だけではない。この共通基盤の存在が大きい。

業務知識をエージェントに組み込む手法にも、すでに実例がある。Uberのデザイン部門が公開した「uSpec」は、デザインツールのFigmaとAIエージェントをMCPでつなぎ、従来は数週間かかっていた設計仕様書を数分で生成する仕組みだ。アクセシビリティー基準やデータ形式、参照資料などを「スキル」としてまとめ、現場の専門知識や確認基準を何度でも使い回せるようにしている。実際、iOS・Android・Webの3プラットフォーム分のスクリーンリーダー仕様が、単一のプロンプトから2分足らずで生成できるようになったという。

製品開発の上流でもAIの活用が進む。製品の企画や開発方針を担うプロダクトマネジャーは、Figma MakeやClaude Code、Cursorといったツールを用いて、企画の早い段階で実際に触れる試作品を作る。文章の説明だけで議論するのではなく、画面や操作の流れを具体的に見せ、関係者の認識を早々にそろえるためだ。あるチームでは4週間も停滞していた議論が2時間の試作で動き出し、別のプロダクトマネジャーはおよそ20分で6通りの案を比較したという。

「PRD Evaluator」と呼ばれる仕組みは、製品要求仕様書の一次審査をAIで支援する。関連資料や過去の実験、会議の記録、社内の評価基準を集め、抜け落ちている論点や他部門への影響を指摘する。最終判断をAIに委ねるのではなく、人が加わる本格的な審査に入る前に、企画の完成度を高める役どころだ。

こうした仕組みが今回のAgentic Podsでそのまま使われたかどうかを、Uberは明らかにしていない。それでも公式技術ブログをたどれば、AIエージェントの作成から、社内システムとの接続、権限管理、業務知識の組み込み、人による確認まで、必要な機能をあらかじめ共通化してきたことが読み取れる。現場観察から本番投入までを2週間でやり遂げられたのは、この土台があったからにほかならない。

Agentic Podsが示すAI導入の条件

Agentic Podsのやり方は、ありがちなAI導入プロジェクトとは順序が逆だ。まずAI製品を選び、その使い道を探すのではない。先に現場の仕事を観察し、時間を食っている箇所や繰り返される判断、部門間の引き継ぎを洗い出す。そのうえで、必要なデータやツールをAIエージェントにつないでいく。

エンジニアだけで業務を自動化しようとすれば、例外処理や暗黙の判断を取りこぼしやすい。逆に業務担当者だけでは、どの部分をAIエージェントとして実装できるのかが見えにくい。Agentic Podsは、この両者を一組にすることで、現場の知識をその場で動く仕組みへと変えていく。

とはいえ、Uberの手法を他社がそっくり再現できるとは限らない。AIに強いエンジニアを約30人集め、各部門の担当者を2週間も拘束するには、それなりの人材と経営判断がいる。認証やアクセス管理、社内システムとの接続といった共通基盤も欠かせない。工程だけを真似て本番投入を急げば、情報管理や品質確認が後回しになりかねない。

成果にしても、費用対効果や正確性まで含めた検証はこれからだ。それでも、業務担当者とエンジニアが短期間、同じ目標に向かって集中し、試作で終わらせず、別の担当者による検証を経て本番投入まで進める。この一連の流れには学ぶべき点が多い。UberのAgentic Podsは、AIを全社に広げるための一つの実践モデルといえるだろう。

注目すべきは、10営業日という数字だけではない。現場観察、業務知識の組み込み、共通基盤、権限管理、本番での検証を、一続きの仕組みとしてつなげたことだ。2週間という速さは、その仕組みが生んだ結果なのである。