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AI時代の必須スキル NVIDIA Huang氏が説く「システム思考」とは

AI時代の必須スキル NVIDIA Huang氏が説く「システム思考」とは

「学校には通い続けてほしい」。米半導体大手NVIDIAの創業者兼CEO、Jensen Huang氏は、米スタートアップ支援団体Y Combinatorが開いた「Startup School 2026」で、起業を志す若者たちにこう呼びかけた。

AIがコードを書き、さまざまな作業を自動化するようになれば、学校で専門知識を学ぶ必要は薄れていくようにも思える。ところが、同氏の見方は逆だ。

「基礎知識が役に立たなくなることはない。むしろ、これからますます重要になる」

同氏は、AI時代にはシステム全体を設計する力が必要になる。そのために、いろいろな基礎知識が必要になるのだという。

コードを書く人から、システムを設計する人へ

Huang氏は、AI時代には人間の仕事の重心が、個々の作業を自分でこなすことから、作業全体の仕組みを設計することへ移るとみている。

「ソフトウェアの大半はいずれAIエージェントによって作られるようになる。だからこそ、人間にはシステムを抽象的に考える力が、これまで以上に必要になる」

AIエージェントとは、人間から目標を与えられると、必要な情報を集め、外部のツールを使いながら、複数の作業を自律的に進めるAIを指す。ソフトウェア開発では、これまで技術者が一行ずつ書いていたコードも、AIエージェントがまとめて生成するようになる。

ただし、AIエージェントがコードを書けるようになっても、ソフトウェアを作る仕事がすべてAIに移るわけではない。何の問題を解くのか。どのような機能が必要なのか。複数のAIやデータ、外部ツールをどのようにつなぐのか。どこまでをAIに任せ、どこで人間が確認するのか。こうした全体の設計は、引き続き人間が担わなければならない。

同じ変化は、半導体の開発ではすでに起きているという。かつて技術者は、トランジスタや論理回路などの細部を一つずつ設計していた。現在では、そうした作業の多くが専用の設計ソフトによって自動化され、NVIDIAの設計者の多くは、個々の回路ではなくシステム全体を考える仕事に移っているという。

システム思考とは何か

では、Huang氏の言う「システム思考」とは、具体的にどのような能力なのか。単に広い視野を持ち、物事を大きく捉えることではない。達成したい目的を明確にしたうえで、必要な要素とその関係を整理し、全体が一つの仕組みとして機能するように設計することである。

同氏は、システムを考える際の問いを次のように挙げている。

「解こうとしている問題は何か。どのような制約があるのか。入力はどこにあり、出力はどこにあるのか。情報はどこから来るのか。システムに出入りする情報の量はどれくらいなのか」

最初に考えるべきなのは、何を実現したいのかという目的だ。その目的を達成するために、どのような情報を受け取り、どのような処理を加え、どのような結果を出すのかを決める。同時に、使える時間、費用、データ、計算能力などの制約も把握しなければならない。

次に、システムを構成する要素の間を、情報がどのように流れるかを考える。一つの工程から次の工程へ必要な情報が正しく渡らなければ、個々の要素が高性能でも、全体としてはうまく動かない。情報が不足している場所や、処理が滞っている場所を見つけることも、システム思考の一部となる。

Huang氏はコンピューターを例に、処理を遅くしている原因がプロセッサーなのか、メモリーなのか、ネットワークなのかを見極める必要があると説明した。こうした全体の性能を制限している部分を「ボトルネック」と呼ぶ。ある部分だけを高性能にしても、別の部分が詰まっていれば、システム全体の性能は上がらない。

つまりシステム思考とは、個々の要素を別々に最適化することではない。目的、入力、出力、制約、情報の流れ、ボトルネックを整理し、複数の要素が一つの目的に向かって連携するように設計する能力なのである。

 

AIがあるからこそ、基礎知識が必要になる

同氏は、AIが作業を代行するからといって、技術や専門知識を学ぶ必要がなくなるわけではないという。

例えばコンピューターシステムを設計するには、それぞれの構成要素が何をしているのかを理解していなければならない。プロセッサー、メモリー、ネットワークについて何も知らなければ、システムのどこに問題があるのか判断できない。なので物理学、化学、生物学、コンピューター科学、コンピューター工学など、難しい問題を扱う知識はなくならない。特に重要になるのが、複数の分野が交わる領域だという。

 

記事制作で分かった「システム思考」

文章についても同じだ。AIが生成した文章が正しいか、目的に合っているかを判断するには、扱うテーマについての知識に加え、論理構成や情報の信頼性を見極める力が必要になる。私自身、AIを使って記事を書くようになってから、自分の仕事は執筆のシステムを設計することだと実感するようになった。

AIに資料を渡して、「この記事を書いて」と指示するだけでは、読みやすく、信頼できる記事にはなりにくい。もっともらしい文章は出てくるが、重要な論点が抜けていたり、同じ主張を言い換えて繰り返したり、事実と推測が混ざったりする。数字や発言の出典が曖昧なまま、断定的な文章が生成されることもある。

そこで私は、記事制作を複数の工程に分けるようにした。

最初に資料から事実、数字、発言、未確認事項を整理する。次に、記事で使える引用を抜き出す。その上で、読者にとって何が重要なのかを考え、記事の論点を決める。

論点が決まった後にアウトラインを作り、一節ずつ執筆する。文章がそろった段階で、日本語として読みやすいかを確認し、最後に数字、日付、肩書、固有名詞、引用をもう一度点検する。

材料整理、引用整理、論点設計、アウトライン、執筆、校閲、全文統合、最終点検という流れだ。

それぞれの工程ではAIを使える。しかし、すべてを一つのAIに一度に任せるのではなく、工程ごとに役割を与える必要がある。

調査を担当するAIには、一次情報と報道を分けさせる。引用を整理するAIには、原文、タイムスタンプ、日本語訳をセットで出させる。構成を考えるAIには、事実と意見が混ざらないように指示する。校閲を担当するAIには、英語の直訳調や、同じ主張の繰り返しを探させる。

個々の文章を書く能力だけでなく、調査から公開までの流れを設計する能力が、記事の品質を左右するようになった。複数のAIに仕事を割り振り、その結果を次の工程へ正しく渡し、全体を一つの記事として完成させる。これもまた、システム思考なのだと思う。

「AIを使う人」から「AIを指揮する人」へ

記事制作で起きている変化は、営業、人事、マーケティング、経営企画など、ほかの仕事にも広がっていくだろう。AIが個別の作業を担うようになれば、人間には、業務を適切な単位に分け、AIと人間に役割を割り振り、その結果を次の工程へつなぐ仕事が残る。

これまでのAI活用では、上手な指示文、いわゆるプロンプトを書く能力が注目されてきた。しかし、プロンプトは基本的に、一つのAIに一つの仕事を依頼するためのものだ。これから重要になるのは、一回の指示を工夫することより、複数のAI、データ、外部ツール、人間の判断を組み合わせ、業務全体を動かす仕組みを作ることである。

例えば営業では、顧客情報の収集、商談内容の整理、提案書の作成、見込み客への連絡を一連の流れとして設計する必要がある。人事であれば、候補者の探索から選考、面接、評価、配置までのどこをAIに任せ、どこを人間が判断するのかを決めなければならない。個々の作業を自動化するだけでなく、それらを一つの目的に向けてつなぐことが求められる。

Huang氏は、システム思考に長けた人ほど、「何百万ものエージェントを指揮し、自律的に問題を解かせることができる」と表現した。何百万という数は遠い未来の話に聞こえるが、重要なのはエージェントの数そのものではない。自分で作業を抱え込むのではなく、仕事を分解し、それぞれを適切なAIに任せ、全体の進み方を管理するという発想である。

AI時代に仕事ができる人とは、AIより速くコードや文章を作れる人ではない。何を実現するのかを定め、そのためにAI、データ、ツール、人間をどう配置し、どのように動かすのかを設計できる人なのである。そしてAIの力をその場で借りることで、自分に足らない知識やスキルを取得することができる。AIにどのようなデータにアクセスさせ、どう出力させるかというシステムを設計し、結果をレビューするには、人間に一定の知識が必要になるし、そういうシステムを設計し、レビューすることで人間は新しい知識を学んでいくのだろう。システム思考が身につくことで、AIが進化すると同時に人間も進化するのだと思う。

著者
湯川鶴章

AI新聞 編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『生成AIで心が折れた』(2025年)、『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。